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蕎麦王

 翌日の昼過ぎに廣尾 卓(ひろおすぐる)が道場に行くと、道場主で師範の本郷(つよし)から、いきなり

「廣尾君、昨夜はお手柄だったね。警察からお礼の連絡があったよ。」

と言われた。

 本郷の横には師範代の野上(たける)官田将暉(かんだまさき)もいた。

 官田は笑いながら一言、

「お疲れ。」

とだけ言い、野上は

「武術をやっているとは言っても道場名を言わなかったのは正解だ。売名行為に思われる。」

と言った。卓が三人に昨夜の様子を喋っていると女子少年部師範代の羽川(れい)がやって来た。

お卓(オタク)、またしでかしたの。どうせ最後は仮面ヒーローって名乗ったんでしょ。」

 と言い、官田も

「廣尾さんは仮面ヒーロー1号ですからね。」

と笑って言った。すると、羽川は官田に

「余り乗せちゃダメでしよ。今の時代、危ないヤツが多いから怪我どころか殺されかねないよ。」

と真顔になった。本郷も

「程々にだ。」

と念を押す。

 野上は

「とにかくウチに蕎麦食べに来いよ。褒美と羽川の説経だ。」

と言った。

 野上は師範代だが本業は蕎麦処〔蕎麦王〕の店主である。店は道場のすぐ近くにあり蕎麦屋なのにスペインのバルのような造りで、奥に和風のボックス席もある。野上の手打ち蕎麦を食べに来る客の殆どはこの席を利用する。

 官田将暉はここの給仕、羽川はシェフで洋食全般を担当している。

 野上・官田・羽川の三人は週に二回づつ交代で店の午後休みに道場に顔を出す。

 野上は格闘コースで本格的な総合格闘技を教え、官田は健康コースで高齢者や女子担当。羽川は護身コースで女子限定、他に入門コースで中学生以下を指導する。


 今日は健康コースの日なので担当は官田将暉。このコースが一番人気で道場はいっぱいになる。健康志向の高齢者が圧倒的だが年齢を問わずに官田ファンの女性も多い。更に若い女性ファン目当てのオジサマ族も多い。そのため若い女性ファンの過度な露出を抑制するためにウェアは〔腹部の露出は20cm以下、ボトムは大腿部まで隠れるモノ。〕と規定がある。

 官田はレッスン前にコインを二枚投げる。二枚共表なら女性陣が前で男性陣が後ろ、二枚共裏なら男性が前で女性が後ろになる。

 コインは赤と青に塗られていて赤が表で青が裏なら右が女性、左が男性。青が表で赤が裏な当然左が女性で右が男性となる。

 時折、冗談で

「男女平等だから何処でもいいだろ。」

とか、

「差別だ。」

と言われると、官田は

「楽しくトレーニングするための前菜です。」

と答える。

 そして何故かこのコースに廣尾卓がいる。卓は規則通りのウェアで仮面ヒーローのようなシックスパックの腹筋を見せつけていた。健康コースには卓の隠れファンも多い。


 野上と羽川が夕方の仕度のために蕎麦王に戻る時刻になった。二人は〈お疲れ様です。〉と言い出入り口へと向かう。羽川怜は卓とすれ違う瞬間に右後回し蹴りを卓の腹に放った。サンドバッグを叩いたような鈍い音が道場に響く。卓は何事のなかったように平然としていた。

「どうして()けないの。」

 怜は悔しそうな表情で言った。

「避けたらお返しできないもんな。」

 卓は怜に言い返すと怜は怒った口調で、

「やってみなさいよ。続きは格闘コースの日ね。」

と負けん気剥き出しの口調で言う。

「利息はサブミッションだ。」

 卓は笑いながら返す。

 二人を見て本郷は

「程々にな。」

と呆れた表情をしている。

「お(たく)は動体視力も反射神経もいいし打たれ強いんだから本気でそっちに進みなよ。」

 怜はそう言うとは出て行った。野上も本郷と準備中の官田に

「失礼します。」

と言って道場を出た。

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