仮面ヒーロー
「君が強いのは解りますが、あまり危険な真似はしないようにしてください。」
廣尾 卓は警官にそう言われた。卓はたった今、若いカップルが絡まれているのを助けたばかりだ。
近道で公園を通っているとカップルの男が突然が近付いて来た男に突き跳ばされて動けなくなり、女の方は抱きつかれそうになった。卓はそこを助けたのだった。夏場で女性が薄着をしたり露出の多い服装だと起こる頻度も高い。こんな場面に遭遇すると卓はチーター並みの速さ、豹の如き敏捷さで加害者を締め上げ警察に通報する。
卓がアルバイト先のコンビニからアパートに帰る最短距離はこの大きな公園を通るのが一番だ。そして土日祭日はこの公園の芝生はカップルでいっぱいになり、時折こんな事態に遭遇する。
警官は傷害の現行犯で加害者を連行して、カップルには被害届の提出を依頼した。
一段落してカップル覗きの常連が話し掛けてきた。
「いつもの事たが、兄さん強い。空手やってると違うね。」
「空手っ言うか、打撃系の格闘技だよ。組み技の方も任せてくれ、だな。」
卓がそう答えると今度は野次馬の一人が話し掛けてきた。
「それにしても人間離れした動きだ。暗いからそう見えたのかもしれんが、目はネコみたいに光ってた。」
野次馬はまだ興奮冷めやらぬままだ。
「見られましたか。実はオレ、仮面ヒーローなんだ。」
卓が答えると野次馬は面白い冗談だと言わんばかりに頼み込む。
「そうなのか。ここで変身してくれ。」
「ここで変身したらオレが仮面ヒーローだとバレちまう。勘弁してよ。」
卓は野次馬に言った。
「だね。ヒーローは正体を知られちゃいけねぇ。皆んなが知ってる公然の秘密ってヤツか。で、警察には何て言うんだい。」
野次馬も卓の冗談に乗って喋った。
「署まで一緒に行って定番通り。国の特務機関から〈その方を家まで送り届けるように。〉と連絡が来るんだ。」
卓が返すと野次馬は
「面白い兄ちゃんだ。怪我するなよ。」
と笑って言った。
「ありがとう。」
卓は答えた。