足して割って、ちょうど。
私たちってお酒みたいだよね、って先輩はウイスキーのロックを飲みながら言ってた。かわいい顔してかわいくなものを飲んでいた。お酒が弱かった僕はロックなんて飲めなくて、いつも炭酸割だった。
「お酒はツー・フィンガーが基本なんだよ」
って教えてくれた貴方は先月自殺してしまった。葬式は家族でやったらしいから、僕は参列出来なかった。そしたら先輩たちが僕を気の毒に思って家族に手を合わせにだけでも、と言ってくれたのが今日だった。
家族――遺族にどういう顔をしたらいいんだろう。別に僕は貴方の恋人ではなかったわけで、ただのサークルの後輩という立場上、なんで僕だけが先輩に固執しているのだろうと思われても仕方ない。
仏壇の前で手を合わせて「先輩、そちらの居心地はどうですか」と尋ねてみるけど返事はない。そりゃそうだな。
「生前、先輩は僕によく家でお酒を飲もうと誘ってくれました、それはギターを弾いてばかりで人と関わりを持たなかった僕を見かねてだったかと思います」
ぽつりぽつりと僕は先輩のお母さんに背を向けたまま話を始めた。
「先輩はウイスキーが好きでした。ロックで飲むのが好きな先輩は、二十歳になったばかりでお酒の飲み方が分からない僕によくハイボールを作ってくれました。一晩でいっぱいハイボールを飲まされてくらくらになった僕はよく床で寝ていました」
「朝になって起きたら大抵先輩もわざわざ床で寝ていたんです。僕の横で」
「そこらへんから僕の中で先輩がトクベツになったんです」
「先輩は僕の事をどう思っていたかわからないけど、僕は先輩の事好きでした」
「私たちって、足して割ったらちょうどいいと思わない?」なんてよくわからないことをよく言っていた。どう考えても僕の陰気臭いほうが勝つだろ、と思っていたけど、それを全部打ち消すくらい先輩の笑顔も明るかったなあなんて。
すみません、そんな話して。と僕は立ち上がって帰ろうとすると。先輩のお母さんはハンカチで顔を覆ったままグスグスと泣いていたから、それがなんだかある日先輩がひどく落ち込んで泣いていた日に重なってしまって、あの日と同じように背中をさすりながら「大丈夫、大丈夫」としか言えなかった。
ちょっと待ってね、あの子が遺したものがあって、と先輩のお母さんは手紙を僕にくれた。僕の名前がかいてあるその封筒はちょっと分厚くて、中身は数十枚の僕との写真と数枚の手紙だった。
そういえば先輩は古いデジカメを持っていたし、それで一緒に写真を撮ったりしたなと思い出す。死んだはずの先輩との記憶が蓋をしていたはずなのに、ぶわっと蓋を破って溢れてきたら、僕の目からも涙が溢れてきた。
手紙には、僕といた時間が楽しかったことや、一緒に飲んだお酒の話とか、写真についての話とかいろいろだった。やっぱりそこにも
「私たちって、やっぱり足して割ったらちょうどいいと思わない?」と書いてあった。
僕にお酒の飲み方を教えてくれたのは、先輩、貴方でした。