おいてかないで
君と会ったのは大学の時だった、狭いサークルの中で私と君が近づいて結ばれるのなんて秒読みだったと思う。それから2年半、私とあなたはずっと一緒だった。朝起きても寝る時も、授業の日も休みの日も飽きることはなかった。
そんな君から突然「好きな子」が出来たと言われたのは大学4年の卒業まで残り3か月になるところで、就職するから家を決めようかなんて話している最中だった。
君の相手は結局どんな人だったか知らない。知りたいとも思えなかった。ほとんどの人はきっと君みたいな人の事を死ぬまで恨むんだろうけれど、私はそこまで君に縋りつけなかったよ。
「じゃあ、元気で」
「うん……」
案外あっさりと別れられたことに君は驚いていたね。昔の私だったらきっと泣いて喚いてたんだろうけど、そんなことをしても無駄だと思ったから。でも最後にやっぱり我慢できなくって一言だけ彼の袖をつかんで一言。
「おいてかないで」
そんな私に君は「ごめん」といってドアを閉めた。その後から私の中で何かがすっぽりと抜けてしまって、泣くこともなくて、それでも笑うこととご飯を食べること、友達と関わることはやめなかったから、なんとかうまくやれてたんじゃないかと思う。
それから半年くらいした頃、君のお母さんから連絡があった。
君は病気で死んだらしいと。家で倒れているのを、同僚が見つけたとお母さんは泣きながら教えてくれた。
新しい彼女は?とお母さんに尋ねると「いないわよ、ずうっとあなたの話をしていたもの」と言っていた。きっと、彼なりに予兆があったのかもしれない。
お葬式に行くと、別れるころにはちょっと伸びた襟足が、社会人になったから短くなって、金髪だった髪色も黒髪に戻っていた。それだけで私は付き合っていた頃に戻ったようだった。
「おいてかないでよ」
棺の中を覗いて、まるで眠っているような彼の頬にぽつり、私の涙が落ちた。