愛せるなら愛してみろ
年齢にそった適切な恋愛ってなんだろう。25歳になる私はきっと第一次結婚ウェーブに乗らなきゃいけなかったのかも、そう思うと3年半付き合った彼を手放したのはもったいなかったのかな?なんて。
ある程度の年齢で適切な恋愛のルートを辿れないと、変にこじらせてしまうと思う。これは大学に入って卒業して社会人になってしばらくして私なりに導き出した「答え」だった。それは自分含め、あまりにも周りの人間が歪んでいたからだった。類は友を呼ぶというから、もしかしたら私が一番歪んでしまっているのかもしれないが、生憎その自覚は今のところ、ない。
恋人が欲しいのか、都合のいいサンドバッグが欲しいのかもうわからなくなってしまった。3年半付き合った恋人と半年前に別れてから、私はまたマッチング・アプリの沼の中に居た。半年の間に何人かの男と付き合う手前まではいくのだが、どうしてもあと一歩私は踏み出せないままだった。
「あーあ、私って一生恋人できないのかな」
私がそう零す相手は、今日で会うのは何回目かの一つ下の男の子だった。前回は海に行って、今日も海に行こうと誘われた。私達はきっとお互いの事を「イイ」と思っているのだけどそれ止まりで、前進も後退もしない関係になってしまっていた。彼が運転する車の中で、私の好きなバンドばかりが流れるこの車で、少しだけ座席を倒して窓の外の規則的に並んだ高速の光を眺めていた。都市高速から見える奥の船は一体どこからきて、何を積んでどこに行ってしまうのだろう。私もその船に乗れたらな、と思う。
「きっとできるよ」
私がいくら嫌いだからやめてと言っても彼は電子タバコを吸う。臭いから少しだけ窓を開ける。冷房の効いた車内の涼しい風が外に逃げる代わりにぬるい夏の空気が入ってくる。電子タバコの匂いは夏の空気に溶けていくので、吸い終わったらすぐに窓を閉めた。
「愛されるのって難しいよね」
ふと、右手を握られる。相手の手はひんやりと冷たい。暑がりの私のために車の冷房を強くしているのを示すかのように冷たい。彼の方を向くと、なに?と訊かれる。なんでもないよと返すと、そっか、と言われた。
数分の沈黙。破ったのは向こうだった。
「菜々ちゃんは、さ、俺の事どう思ってる?」
「……うう~ん……トモダチ?いい子だと思ってるよ」
「そうじゃなくてさ」
あーあー、はじまった、これがメンドクサイんだ。どこかでみたけど、最近の男女は3回目のデートで付き合うかどうか決めるらしい。私たちはとうの昔に3回のデートなんて済ませている。向こうが私に好意を寄せていることも気付いている。私だって彼のことはいい人だと思っているけど、思っているけれど!!難しいんだ。
「それって、関係を変えたいってこと?」
付き合いたいってこと?と直接的な表現は出来なかった。こういえば、なんて返ってくるだろう。
「そうかもね」
ドキン、と心臓が跳ねる。ここまで言われてしまっては、断って関係が終わるか、付き合うしかないのだ。もう何度もこれで失敗してきている。かれこれ3か月ほどこの彼とは会っているけど、一度もそういうことを言わない気楽さが好きだったのに――――好きだった?
私は高校時代も大学時代も、学内のコミュニティで恋人ができたことがなかった。きっと適切な恋愛をしてこなかった類だと思う。だから所謂マッチング・アプリで相手を探すことに夢中になってしまったんだと思う。さっき言った3年半付き合った彼も、このマッチング・アプリで出会った人だった。それはきっと、本来巡り合わせない縁を無理やり結んだんだろうな。
そこから彼は堰を切ったように「大事にするから」「幸せにするから」「好きだから」「気が合うと思うから」とべらべら喋り始めた。やめてくれ、やめておくれよ!!
彼が次の言葉を選ぶ前にこちらが牽制しようと思い、私も口を開いた「愛せるなら、愛してみろよ」と言った。彼は黙った。「今」愛せたとしても、「未来永劫」愛せる自信はきっとないんじゃないかな。
もうすぐ都市高速を降りて私の家に着く。私と彼の関係がここで切れてしまうのと同じように、高速道路の電灯が一つ切れかかっていることに気付いてしまった。