ーストームパンサーー
すみません、少し遅れました。
〈うむ、そうじゃのう。清潔感もあって良い部屋じゃな〉
「くぅう!」 「ゴブブ!」
部屋に入り、中の様子を確認するユーグたちは自分たちの想像以上の部屋に感嘆の声をあげる。この中で一般的な人の部屋に入ったことあるのはユーグだけなのだが、ユーグ自身も町で暮らしていたときは男爵家にいたときなので、あまり良い部屋を知らなかった。
そのためスラムなどで暮らす人たち以外であれば、自分の部屋よりキレイにされている部屋と思う程度のものでもすごく良い部屋に見えたのであった。実は『嵐豹』の部屋は調度品自体はそこまでのものではないが、部屋自体は一般的な宿屋の部屋よりキレイに清潔感があふれる部屋としても有名であったため、ユーグの感想もあながち間違いではなかったのである。
〈部屋の確認はここまでにして、そろそろ食堂に行くかの。
わしらには置いておく荷物とかも特にないしのう〉
「うん、そうだね。じゃあ食堂に行こうか!」
ユーグは空間魔法の保管庫を使えるため、部屋に置いておくような荷物などは全て保管庫に入れていた。部屋の確認を終え、そのまま食堂に向かうのであった。
・・・・・
「あれ?そういえば食堂ってどこにあるんだろう?」
〈おおっ、聞き忘れてしまったのじゃ。
でもブリューがいるから大丈夫じゃろう。ブリューお主の嗅覚で食堂がどこかわかるか?〉
「くるっ……くるぅ!」
1階に降りたユーグたちは食堂がどこにあるのかを聞き忘れていたことに気づいた。しかしブリューがいたことにより、ブリューが匂いで食堂に案内する。
「ぐわぁ?」
「くぅ?」
ブリューの案内で進んで行くと、向こうの方から1匹のヒョウらしき生物がやってきた。ユーグがその生物から魔力を感知したため、ヒョウ形の魔物であるようであった。
「うん?なんでここにヒョウ形の魔物が、誰かの従魔かな?」
「あっ先に降りちゃってたのね。
食堂の説明するのを忘れてたから一緒に行こうと思ってたんだけど大丈夫だったかな?」
「ロッテさん、それに皆さんも。大丈夫でしたよ。ブリューがいたので、匂いで案内してくれてる途中でした。
それよりこの子のことわかりますか?」
ユーグがヒョウ形の魔物に気づいた時と同じタイミングで、[熊の腕]も1階に降りてきた。
「ああ、もうマリブに会ってしまったのか。
驚かしてあげようと思ったのに」
「この子はマリブって言うんですか?」
「ああ、そうだ。マリブの詳しいことは『嵐豹』の人に聞いた方が良いだろう。
マリブも一緒に食堂に行くのか?」
「がう」
「そうか、じゃあ一緒に行くか」
ヒョウ形の魔物はマリブという名前であった。マリブのことは宿の人に聞いた方がいいというニルスはそのままマリブにも一緒に食堂に行くか聞き、マリブはそれに頷きながら答える。ユーグたちは[熊の腕]とマリブというヒョウ形の魔物と一緒に食堂に向かうのであった。
・・・・・
「マスター、マリーさん、こんばんは!」
「あら、[熊の腕]の皆さんじゃない。依頼は無事に終えられたの?」
「……いらっしゃい……」
ユーグたちが食堂に入ると、そこでは壮年の男女が働いていた。ニルスはその二人に声をかける。
「ええ、無事に終えましたよ。それにこの子のおかげで早く達成もできましたし」
「あら、新しいお客さんね。アンネに聞いたわよ。確か、ユーグ君だったわね。それに従魔のソタ君にブリュー君、ブラブ君ね。私はマリーよ、よろしくね」
「よろしくお願いします、マリーさん!」
「はい、よろしくね。そしてこっちが旦那でここ『嵐豹』の店主のマゼルよ」
「……よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
女性の名はマリーで男性の方はマゼルという。2人は『嵐豹』の店主夫婦であり、すでにアンネよりユーグたちのことを知らされていた。
「ごめんなさいね。この人あまり喋らないのよ」
「い、いえ、大丈夫です」
「お母さーん、マリブがいないんだけど、どこに行ったか知ってる?」
「アンネ、お客さんの前よ、もうちょっとちゃんとしなさい。
それにマリブはここにいるわよ」
「がう?」
『嵐豹』の店主マゼルの口数少なさに驚いているところ、アンネがマリブを探しにやってきた。
「あっ、いたー」
「マリブはアンネさんの従魔なんですか?」
「うん?違うわよ。この子は主人の従魔よ」
「じゃあ、マゼルさんはテイマーなんですね!」
アンネがマリブを探しに来ている様子から、マリブはアンネの従魔と思ったユーグはそう問いかけるが違い、マリブはマゼルの従魔であった。そのことからユーグはマゼルをテイマーだと思う。
「……違う」
「それよく言われるのよねー。でも違うのよ。
詳しい話は食事のあとにでもしてあげるから、先にご飯食べちゃいなさいな」
マリブはマゼルの従魔であるが、マゼルはテイマーではなかった。詳しい話はあとですると言い、食事を先にするよう促すマリーであった。
・・・・・
「ふぅー、美味しかったな。おなかいっぱいだ」
「ホント、そうね。
ここの食事は何食べても美味しいし、部屋もキレイだし、値段もそれほど高くないからグリムノーデン一の宿じゃないかしら」
「くるぅ!」 「ゴブブ!」
「ホントに美味しいですね!
森の中でも食べてたあの魔物の肉がこんなに美味しくなるなんて!」
『嵐豹』で出された料理は南西の森の中でも何度も遭遇したフォレストオウルを使った料理であった。ユーグたちが作った野営飯とは違い、ちゃんとしたプロの手が入った料理は洗練された味だった。実はユーグがちゃんとした料理を食べるのは男爵家を追い出されて以来のことであり、久々の料理に感動していた。ちなみにブリュー、ブラブもユーグたちが食べている料理をもらっており初めての料理を食べ興奮している。ソタも食べたが、そこまでの興奮や感動はなかった。
「お粗末様でした。そこまで喜んでもらえると作ったかいがあったわね」
「あっマリーさん、凄く美味しかったです!」
「ありがとね。それとはい、これ食後のお茶よ」
食事の後片付けを終えたマリーとマゼルはそう言いながら、お茶を人数分差し出し近くのテーブルに座る。ブリューには水を、ブラブとソタには人と同じお茶を出していた。
「ユーグ君はテイマーだからマリブのことを聞きたいんだよね?」
「はい!そうです。
ヒョウ形の魔物を見るのは初めてだから教えてもらいたいんですけどいいですか?」
「ええ、もちろん。
この子のことはこの宿に来ていると人なら皆知っているから大丈夫わよ」
「マリブはお父さんの従魔でストームパンサーっていう種族なんですよ。
お父さんとお母さんが冒険者をしていたときにテイムして家族になったって私は聞きました」
「ストームパンサーは初めて聞きました!
それにマリーさんとマゼルさんは冒険者だったんですか?」
「ええ、そうよ。もうけっこう昔のことだけどね。
この子が生まれてから引退してこの宿屋を始めたのよ」
ユーグはマリーとアンネからマリブのことを聞く。マリブはストームパンサーという魔物であり、マゼルがマリブをテイムしたのは彼らが冒険者をしていた時であった。
ストームパンサーはヒョウ形の魔物の中でもかなりの高位種で風と水の魔法を扱う。比較的好戦的な魔物であるがマリブはおとなしめであった。素材としては毛皮、牙、爪などがあげられる。
「マスターとマリーさんは現役時代アダマンタイトランクの冒険者だったんだ。
夫婦でパーティーを組んでパーティー名がなんと[嵐豹]だ。けっこう有名だったらしいぞ」
明日も21時に投稿します。
しばらくの間は平日の5日間は投稿で、
土日はお休みさせていただきます。
(ストックがあまりないものですみません)




