ーグリムフォアー
「中に入るには身分証の提示をお願いする、これはこの町の法なので提示しなければ中に入れないぞ!」
ユーグとニルスたちが柵の門に近づくと、そこに待機していた衛兵らしき兵士の内1人が声をかけてきた。
「よう!ルイス元気だったか?」
「なんだ、ニルスたちかよ。
見知らぬ従魔もいるから知らん奴らかと思ったわ」
「なんだよー、俺たちで悪いかよ」
ニルスたち[熊の腕]は、仲良さげに門番に返答する。
「別に悪かねーよ、ただ若干緊張しただけだよ。従魔連れは軍の関係者がそれなりにいるからな。
あれでもお前たちの中に従魔持ちはいなかったよな?」
「この子たちは、ユーグくんの従魔よ。
ユーグくんはこの子」
「あっはじめまして、ユーグって言います。
モモンガ形の従魔はソタで、熊形がブリューそしてゴブリンのブラブです!」
「ぐるぅ!」 「ゴブ!」
ニーナから紹介を促されたユーグは門番に挨拶をした。
「ああ!こちらこそはじめまして!俺はルイスだ。辺境伯領で兵士をやっている。
だいたいここグリムフォアの門番をやってるから、町の外に出る際はよろしくな!」
「よろしくお願いします!
でもグリムフォアってなんですか?ここはグリムノーデンじゃないんですか?」
「それな、よく言われるんだが、ここは行政区分的に辺境伯領内でもグリムノーデンとは違う区分になっているんだ。
まぁ簡単に言えばグリムノーデンと違う町っていうことだな。
それでグリムノーデンとは違う名前がついててそれがグリムフォアって名前なんだ」
ユーグの疑問にルイスと名乗った門番は答えた。
「へぇー、ここにも名前があったんですね」
「ああ、そうだぞ。どうせこいつら[熊の腕]もここの名前のことなんて何も言ってなかったんだろ?
だいたいのやつらは外の町や外壁の町って呼ぶからな。名前を気にするのなんて俺たち門番か役人くらいだろ」
「そうそう。そういえばここにも名前があったんだったな。
あまり使わんから忘れてたわ」
「私たち冒険者は、だいたい壁外の町や外壁の町としか言わないしね」
今ユーグたちのいるグリムフォアが、整備されその名がつくようになったのは近年のことであった。
外壁前は街になる前は貧民街として広がっていた。それより以前は農地とそれを管理するものの住む家がまばらにあるくらいであった。それはその頃のドライツェン王国内はまだ街道の整備もできてなく、今のロワイシュバリー王国と同じレベルの荒れ具合で街道内にも魔物が現れるためそこに住もうとするものはほとんどいなかったのである。
しかし今代の王の代になると街道の整備も進み、魔物の定期の討伐も行うようになり、人が住める余地ができるようになった。また農業改革や輸送の技術なども上がり人口も増え、既存の住居だけでは足りずドライツェン王国の開拓も進み、その余波でグリムノーデンにも人が集まるようになる。
「まぁユーグもグリムフォアって名前使っても、どこかわからん奴の方が多いから壁外の町や外壁の町って言った方が良いぞ。
少なくとも俺たちのような冒険者には通じんからな。じゃあそろそろ中に入るか、じゃあなルイスまた今度飲みに行こうぜ!」
「おう、そうだなユーグもクラウスが言ったようにこの町の名前は頭の片隅にでも入れといてくれ。
飲みは今度非番の時にでも行こうか。それじゃあまたな!」
「はい!わかりました。それじゃあルイスさんもまた!」
門番をしていたルイスに別れを告げ、ユーグたちはグリムフォアの中にはいるのであった。
・・・・・
「よし、ちょっと門のとこで時間かけちまったな。ちょっと急ぎで外壁内まで行かんと門が閉まってしまうかもな。
ユーグには申し訳ないが外壁の町の見物はまた今度にしてもらってもいいか?」
「あっ、大丈夫です!
ギルドへの報告の方が大事ですもんね」
グリムフォアの中に入るとキョロキョロと辺りを物珍しく見回すユーグに対して申し訳なさそうにニルスは早くグリムノーデンへと行こうと提案した。すでに時間は夕方に入っており、グリムノーデンへの入場門は夜には閉まってしまうため今日中に報告をしたいのならばゆっくりと見物はできない時間であった。
「冒険者の方や住人の方はこちらで、商人の方ならあちらの方で身分証の掲示をお願いします」
グリムフォアの門から約30分のほどの距離にグリムノーデンの外壁に設置された門があった。そこには当たり前だが門番が立っており、ルイスと同じく身分証の掲示を求める。
ここでは冒険者や辺境伯領の住民の列と商人の列とで分かれているようであった。冒険者の方では待っている人はいなかったが、商人の列では幾人かが順番を待っていた。
「おっ、よかった。待機の列がなくて、これならすぐ入れるな。
まぁここの門ならこんなもんか」
「そうなんですか?」
待機の列がなく喜ぶニルスに、疑問を浮かべるユーグ。ユーグは出入り口の門ならどこも混むのではないかと思っていた。
「そうだぞ、ここはあまり冒険者は使わないんだ。多くの冒険者は魔境の森に行くことが多いからな。魔境の森は逆側の方の門に接しているからそっちで出入りしているしな。
それに魔境の森に入れない低ランクの冒険者用にここにもギルドの派出所があるからな」
「えっ、魔境の森に入るのに冒険者のランクが関係あるんですか?」
グリムノーデンの出入りと冒険者の解説をしたクラウスに対して、さらなる疑問を浮かべるユーグ。
「そう思うよな。まぁ正確に言えば魔境の森側の門を利用できないんだ。これはこの町に来たばかりのものが良く勘違いするが、魔境の森には低ランクの魔物もいるし薬草とかも豊富だから経験があまりない低ランクも大丈夫かと思うだろ。
でも実際はそうじゃない。低ランクの魔物もいるが、高ランクの魔物もいるんだ。その高ランクの魔物が絶対に魔境の森の浅いところに出てこないという保証もない」
「そうよ、年に何回かは森の浅部で高ランクの魔物の目撃情報や討伐依頼も出されるんだから。
それに錬金術や薬術に使う素材も、魔境でしか取れない危険なものもあるからある程度のランクの制限が必要なのよ」
魔境の森はその名の通り魔境として正しく危険地帯であった。魔境の森は深奥部にいくほど魔力が多く、高位の魔物は魔力が多いところを好むため基本的には森の奥地にいることが多い。
しかし必ずしも奥地にだけしか出てこないというわけではなかった。縄張り争いに敗れたり、餌を求めて浅部に来ることもあった。また一見普通の薬草や木の実などに見えたりするものも取り扱いに注意の必要がある素材であったりする。その魔境の森と長年隣接しているグリムノーデンの住民や未開の地の調査に慣れている冒険者ギルドはランク制限を設けることで探索での死傷者を抑えようとしていた。
ちなみにグリムノーデンやグリムフォアの住民はこのことをよく知っているため冒険者や辺境伯領の兵士や軍関係者以外が魔境の森に入ることはない。
「うん?そこの少年も同行者か?」
「ああ、そうだ。それに熊形とモモンガ形の魔物とゴブリンはこの子の従魔だ。
ユーグさっきの身分証を出してくれ」
ユーグがクラウスとロッテと会話している間ニルスは門番とやり取りをしていた。その流れでニルスはユーグの身分証を求めた。
「あっ、ニルスさんわかりました。はい、これどうぞ」
「ありがとう。どれどれ書類の身分証は珍しいな。
……なぁ!?これは……(連絡にあったテイマーだ。あとで隊長に伝えなければ)
どうぞお入りください」
「ん?わかりました」
「ハハハ、あの身分証を見ればそうなるよな」
「あの反応はしょうがないわよね。
でも驚いたのに色々聞いてこなかったのはやっぱり発行人があの人だからなのかな」
ユーグは戸惑いながらもやっとグリムノーデンに入るのであった。
明日も21時に投稿します。
しばらくの間は平日の5日間は投稿で、
土日はお休みさせていただきます。




