ードライツェンの森ー
「しかしドライツェン王国の森は、ロワイシュバリー王国の森とは少し違うね。
魔物の数もこの辺はいないし、木もなんか整って生えてるような」
〈この国はあの国とは違い、森の管理もちゃんとしてるのじゃろう。
魔物の間引きもちゃんとできてるようじゃ。木々も間引いてるようじゃのう〉
「へぇー、そうなんだ。じゃあ奥へ行く?」
〈そうじゃのう、ここでは狩りもできんからのう。
魔力操作だけの鍛錬じゃなく、魔物を狩る鍛錬もせんとな。
もう少し奥へ行ってから、北東に行こうか〉
北の辺境都市は、第1分隊と別れた町からは北東の位置にあった。そのためユーグたちは森の中を北東に移動していけば着くと考えていたのであった。
・
・
・
・
・
「よし、ここら辺だと魔力感知に魔物の反応あるね。こっちの方だね」
ユーグは魔物の魔力反応がある方に移動して行き、そこにいたのは2体の鶏形の魔物であった。
〈あれはビックハーンにビックヘンヌだな。
オスメスで名前が違う魔物じゃよ。ビックハーンはあの鶏冠がある方じゃ〉
ビックハーンは雄鶏形の魔物で、ビックヘンヌは雌鶏形の魔物である。鳥形の魔物の中では低位であり、比較的狩りやすい魔物で、肉と羽と魔石が素材として収穫できる。特に肉は人気で低位の魔物でありながら、そこそこの値段で取引される。
肉の味もビックハーンとビックヘンヌで違い、ビックヘンヌは脂肪がありジューシーでビックハーンは筋肉があるため歯ごたえがある肉質であった。
そのため若干ビックヘンヌの方が高値で取引されるがそこまでの値段の差はない。攻撃方法は体を使った攻撃しかない。
〈まぁそんな強い魔物じゃないから、すぐ倒せるじゃろ。ユーグ1人でやってみい〉
「うん、わかった。ウォーターバインド×2」
ユーグの元から水の輪が飛び、ビックハーンとビックヘンヌに当たり、その体を拘束する。
「それでこのまま拘束を維持したまま、魔力操作を解除して。
ウォーターアロ―×2」
水の矢が2本、ユーグの持つ木の枝の先に現れ、その矢がビックハーンとビックヘンヌに当たる。
「コケ―!」 「コケ!」
その一矢の攻撃で、ビックハーンとビックヘンヌは息絶えた。
〈まぁこれくらいなら、一撃で倒せるじゃろうな。
さぁ早く解体をしてしまおう。この魔物の肉は、低位の魔物の割に美味しいのじゃ〉
「ぐるぅ!」
「ブリュー、落ち着ついて。解体するから、邪魔だよ」
ユーグはブリューを抑えながら解体を進めていく。
「お肉以外だと何が素材になるの?」
〈うむ、主な素材は肉と魔石じゃが、羽も売ろうと思えば売れるのじゃ。
まぁ売買価格は動物の鳥の羽と変わらないのじゃが〉
「じゃあ回収するのは肉だけでいいか。
……よしこれで終わりかな。このお肉は今日の夜に出すからね。まだ魔力の反応はあるのかな。
うん、あるね。じゃあ次の魔物のところに行こう!」
「ぐるぅー」 「ゴブ!」
解体を終えたユーグはビックハーンとビックヘンヌの肉を保管庫に仕舞って、また次の反応があった魔物の元へ移動した。
・・・
「あれ?ここに反応あるのに魔物が見つからない?」
〈うむ、よく見るのじゃ。ほらあの木の枝じゃ〉
ユーグが目を凝らして枝を見ると、そこには梟形の魔物がいた。
〈あれはフォレストオウルじゃな。擬態が得意な梟形の魔物のじゃな〉
フォレストオウルは、梟形の魔物である。低位の魔物で、そこまでの能力は持っていないが、自分を狙う魔物から隠れるための擬態能力が高い。その姿は木々の葉に隠れられるよう緑の羽を持つ。
素材は肉と羽と魔石が獲れるがビックハーンたちと違い高値はつかない。攻撃方法は獲物の頭上から爪を使った攻撃が主である。
「1体だけだね、それに、うんまだ僕らに気づいてないね。
これはブラブにやってもらおうか」
「ゴブ!……ゴブブブ!」
「ホーー!」
ブラブの元から闇が飛び、フォレストオウルに当たった。
突然目の前が暗くなったフォレストオウルはパニック状態になり、留まっていた木から地面に落ちた。
「ゴブブゴブ!」
その落ちる直前に地面から土の槍が生え、フォレストオウルに突き刺さり、沈黙した。
「おー、凄いね!ブラブ!矢継ぎ早に魔法で攻撃をして」
「ゴブブ!」
〈うむ。
魔力操作もしっかりできておるし、魔法の使い方の発想もうまいのう〉
ブラブはダークフォグという視界を閉ざす闇の霧で、フォレストオウルの視界を閉ざし混乱させることで飛ぶ間もなく地面に落とし、その地面から土魔法で土を操り土の槍を生やし落ちてくるフォレストオウルを仕留めたのであった。
「フォレストオウルの素材は何が獲れるの?」
〈フォレストオウルの素材は肉と羽と魔石じゃな。
肉もさっきのビックハーンとかと違ってそこまでの高値はつかん〉
「それじゃあ、肉と魔石だけ収穫しようか」
こうしてユーグたちは、魔物を狩って行くのだった。
*****
その日ユーグたちが狩った魔物は4体のみだった。元々昼過ぎに森の中に入ったのがあり、狩りに時間が取れなかったのである。フォレストオウルを狩った後に出てきたのはビックハーンだけであった。
「それにしてもこの肉美味しいね!ビックハーンっていうだっけ?」
〈そうじゃ、この魔物のメスであるビックヘンヌもまた違った肉質で美味しいのじゃぞ。
この魔物は地方によっては人の手によって、家畜化されているくらいじゃからな〉
「そうなんだ!
でもこんなに美味しいならわかるな、いつでも食べたいもんね」
「ぐるぅ!」 「ゴブ!」
〈鳥形の魔物と牛形の魔物と豚形の魔物はよく家畜化されて食用にされておる。
まだユーグは鳥以外には出会ってないから。楽しみにしとくのじゃ〉
「うん、他にはどんな魔物が美味しいの?」
「そうじゃのう。
羊形も比較的多く家畜化されておるし、あとは馬形も家畜化されておる地域もあるみたいじゃのう」
「そうなんだ!まだどちらも見たことない!」
〈そうじゃのう、森の中に鳥形以外はあまり出てこないからのう。
まぁこれからこの国を冒険していたら出会うこともあるじゃろう〉
「うん!でもあれだね、ぼくたちってあまり強い魔物とかに会ってないよね?
ユルゲンさんのところにいたような強い魔物ってテイマーのところにしかいないの?」
〈いや、そんなことはないのじゃよ。
わしらがいたところや今いるところは普通の森じゃからのう。
普通の森は魔力の関係でこのくらいの魔物しか自然発生しないのじゃ。
強い魔物は魔力量が豊富なとこに生息してるのじゃよ。じゃから魔境や難度の高いダンジョンにおるのじゃ〉
「そうなんだね。ユルゲンさんの従魔はかなり強そうだったからね。
今の僕らと戦ったらどのくらいなんだろう?」
〈おそらくお主らは瞬殺されるじゃろうな。
ユルゲンの従魔はそれなりの高位の魔物じゃったから。それなりの高位の魔物でも低位の魔物は相手にならんじゃよ〉
「えー!そうなの。
よかった、そんな従魔がいる人たちと争うことにならなくて。ソタが途中で怒っちゃったときは驚いたよ」
〈あの時はわしも少し頭に血が上ってしまったのじゃ。
まぁわしなら逆に連中くらいなら片手間で倒せるのじゃがな〉
「えー、ホントに?
でもソタは小さいじゃん、そんなに強く見えないよ」
〈大きさは関係ないのじゃ、ユーグたちも気を付けるのじゃよ。
一見弱そうに見えても強い魔物などもおるのじゃから〉
「うーん、まぁわかったよ。
じゃあ今日も最後に魔法の鍛錬をして寝ようかな」
「ぐるぅ!」 「ゴブブ!」
〈(ふぅ、うまく誤魔化せたかな。
あの時は怒りで我を忘れそうになるとは俺もまた鍛えなおさないとな)〉
明日も19時と21時に投稿します。




