ー別れー
21時にも投稿します。
ユルゲンに連れられ、食堂に来たユーグたち。
しばらくするとロベルトも合流し全員そろって食事をすることに。
「ここはこの町で唯一従魔も連れて食事がとれる食堂だよ。
だからほぼ全ての砦勤めの従魔部隊の面々が来ている場所なんだよ」
「へぇー、従魔が入っていけないところもあるんですね」
「まぁご飯を食べる場所なら仕方がないことだけどね。外で食べるなら問題ないんだけど中はね。
従魔部隊の従魔はそれなりに強面な魔物もいるからね。外で過ごすと住民に迷惑かかっちゃうこともあるんだよ」
「そういうこともあるんですね」
「そう。だからこういう食堂はありがたいんだよ。
ユーグ君も北の辺境都市に行ったらそういう食堂を見つけた方がいいよ」
「なるほどー!わかりました、探してみます!」
「それじゃあ、何食べようか?
ここのは何でも美味しいからね。今日は隊長のおごりっすよね?」
「うん、ああ。
ユーグ君ともこれでお別れだからな、それくらいは出してやるさ」
「あっありがとうございます!」
そのあと食堂のおススメをユーグは食べ、ブリューたちも魔物用の食事をいただいた。
*****
「本当にユーグ君ももうこの町から出るのかい?
今日はこの町に泊まり、明日の朝に出発してもいい気がするけど」
昼ごはんを食べたユーグたちは、砦に戻る第1分隊の面々の見送るするため、町の出口に来ていた。
そこでユーグは自分たちもこれからこの町を出て、北の辺境都市に向かうことを告げるのだった。
「いや、まだ日があるんでこれから出発したいと思います。
色々やっぱり冒険者になるために、足りないものとかあったのでしばらくまた森の中で、鍛錬しながら北の辺境都市に向かいたいと思います」
「そうかい?
その歳でそれだけ魔法も使えれば十分だとおもうけどな。まぁ無理には止めないけど」
「お別れをする前に、これをユーグ君に」
そう言ってロベルトはユーグに手紙を手渡した。
「これは先ほどの商会の支店長からユーグ君にと頼まれた紹介状です。
これをリーゲル商会という商会で見せてください」
「えっと、ありがとうございます?」
「我々とはここでお別れだが、君がこの国にいる限りまた会う機会もあるだろう。
君が良き冒険者になれるよう祈ってるよ!」
「がう!」 「ピューイ!」
「ユーグ君、元気で頑張るだよ!」
「くるっく!」
「はい!皆さんもお元気で!」
「ぐるぅ!」 「ゴブ!」
〈世話になったな。達者でな!〉
ユーグたちは第1分隊の面々と逆側に歩き始め、再びユーグたちだけの冒険が始まった。
*****
ユーグと別れた後の砦方面にて
「それでロベルト、ユーグ君はどうだったんだ?」
「はい、倉庫で素材を売るとき、彼は空間魔法の保管庫から素材を出していました。
あの量を全て、しかもまだ余力があるみたいで」
「それは……凄まじい魔力操作と膨大な魔力がないとむずかしいな。
あの歳でそれができるとは」
「はい、たぶんあの干支様は子様だと思われます」
「だろうな、空間魔法を扱うなら子様だろう。
あの感じなら保管庫を習得したのも最近ではないだろうし、人の子に教えられるほどの空間魔法の使い手なんて子様しか考えられない。
しかし伝承の姿とはだいぶ違うように感じられたが」
「眷属の可能性はないでしょうか?
干支様の眷属の方なら人に教えられるほどの使い手だとは思うのですが」
「その可能性もあるが、あの最初に浴びた練り上げられた魔力の質は干支様本人としか思えない。
まぁこれは今ここで話しても仕方がないことか。とりあえずあの方は干支様の関係者なのは間違えなく、そしてユーグ君含めてあの一行は比較的善良であることがわかれば問題ない」
「わかりました。
それとドライツェン商会の商会長への連絡はどうしますか?」
「それは私の方からいつもの連絡と一緒にしておく。
それでは砦へ戻るか」
「「はっ!」」
*****
ユーグたちは街道を北西に進み、北の辺境都市を目指していた。
しばらくして草原地帯も超え森も見え始めたので、その森の中に入っていく。
「よし、ここからはいつもみたいに森の中での移動だね」
〈気をつけろのじゃよユーグ、国が変わって森の植生も変化しとる。
魔物も今までとは違った種がおるかもしれん〉
「わかった。
それにしてもユルゲンさんやフランツさんは戦ってるとこ見てないけど、かなり強そうだったよね。やっぱり僕もちゃんと剣術とかやった方がいいのかな」
〈そうじゃのう、我流ではあると思うがそこそこやれてるとわしは思うぞ。
もしこれからちゃんと武術を学ぶとしたら守りの技術を学んだ方がいいじゃろう。
お主の魔法は同世代と比べても頭一つ分は抜けてるはずじゃ、攻撃は魔法に頼り、防御を武術でできるようになれば冒険者として成長できるじゃろう〉
ソタはユーグにそう言ったが、実はユーグは同世代と比べて魔力操作の力量は頭一つ分どころか、二つ三つは抜けてるくらいの力量があり、魔力量では比べられないくらいであった。
そもそも魔力操作は魔法を使う上で重要な要素の一つである。魔力を属性に変えるのも魔力操作が必要で、放出した後に動かすのにも必要であった。
魔力操作が巧みに扱えるようになると、属性に変化する際は迅速に変化させることができ、放出したあとの操作は自分のイメージ通りに動かせるようになる。
生活魔法と呼ばれるものは魔力を属性に変化させ、具現化させるまでのことを言うので、特に魔力操作の力量はいらないのである。
また魔力で物質を操る魔法でもその操作の自由さや操る物質の量も魔力操作が関わっていた。魔力を属性に変化する際の消費する魔力量は、魔力操作が卓越していても変わらないが、物質を操る際は魔力操作の力量に左右される。
魔力の消費は、放出したあとその操作をしている間は消費される。操作されなくなった魔法は土や氷などの個体はその形を保ったままだが、水や風、火などの個体じゃないものは形を保てずに崩れてしまう。
しかし具現化された物質、現象はそのままなので、風はその場に散らされ、火なども延焼物がある場合は燃えたまま残る。操作を手放した際に魔力を込めることで形を残したまま保てることができるが、それは込めた魔力量による。
魔力量は魔力を使い続けることで増える。自分の魔力を使い、魔力を消費することで大気にある魔力の源である魔素を吸収し、自分の魔力を蓄える。
この消費と吸収を繰り返すことで魔力を蓄える器官を鍛えることができるのである。人の場合、特に大人になったら成長が止まるというわけではなく鍛えれば鍛えるほど成長はしていくが、人の器官であるため、成長期に鍛えるのと大人になってからでは成長の幅は違う。
魔法は全ての人が扱えるが、その中でも貴族とよばれる地位にあるものは幼少期から鍛錬を受けることが多い。通常は天職の儀を受けた10歳から受けるのである。
〈ただ武術は今鍛錬できんからの、誰か師についてちゃんとした型を習った方がいいのじゃ。
だから今できることは魔法の鍛錬じゃな〉
「うん、わかってるよ。
だから魔力が失くならないように、歩きながら属性変化を続けてるって」
魔力操作の鍛錬は、基本的に二つある。自分の魔力を属性に変化する速度を速めるため属性変化を行い続ける方法と放出した魔法の操作を行い、自分がイメージしたものに合わせる方法である。
どちらも魔力を消費する方法であるため魔力操作の鍛錬ができると同時に魔力が増えることができるが、魔力の消費が大きいと継続的に魔力を蓄える器官に負荷を与えることが出来ず効率的には鍛錬できない。
後者の魔法の操作をイメージと合わせる方法は、魔力消費が大きく魔力増加には向いておらず、また魔力操作の鍛錬にも継続的には行えず非効率であった。
逆に属性変化を繰り返す方法は魔力の消費が少なく、継続的に鍛錬ができるため魔力操作と魔力増加どちらも効率的に行える。
しかしやってるところは地味であるため鍛錬の方法としては人気ではなく、特に子どもには向いていない鍛錬方法であった。それを5歳から毎日のように魔法を使い、魔力操作の鍛錬も行っていたユーグは当然同世代より魔力操作と魔力量ともに卓越していたのである。