ー買い物ー
明日も19時と21時に投稿します。
「じゃあ、そういうわけで中に入ろうか。
従魔も中に入って大丈夫だから」
中へと進む第1分隊の面々に、続いてユーグも入る。
その倉庫の中には広い空間にキレイに商品らしきものが置いてあった。
「お待ちしておりました。
第1分隊の皆様、何やら今日は特別なお客様もいるようで」
「世話になるな、支店長。
まぁそうだな、こちらの少年はユーグ君だ。最近ドライツェン王国に越してきたものだ。
今はドライツェンの貨幣の持ち合わせがないみたいで、何か素材を売りたいらしい」
「そうですか、ではこちらにどうぞ。
もう少し広いとこで見させてもらいます」
「そうだな、ロベルトお前がついて行ってやれ。
商取引はこの中ではお前が一番だろう」
「かしこまりました、ユルゲン様。
ではユーグ君たちは私に続いてください」
「はい!」
ユーグは、ロベルトに続いて倉庫の奥に入っていった。
・・・
「では、ユーグ様、お売りいただけるものはこちらにだしてもらえますか?」
そう言って支店長は少し大きめなかごを出した。
「えっーと、その前にどんなものが売れますか?」
「ユーグ様、こちらの商会は魔物の素材なら普段から我々が任務で狩ったものも買い取ってくれているので大丈夫ですよ。
それ以外ですと少し別の商会を挟む必要があるので時間がかかるみたいです」
「あっそれなら大丈夫です。
……えっと、じゃあこれとかもう使わないからいいかな」
ユーグは保管庫から魔石やスモールリザードの皮を取り出した。
「……!保管庫ですか、ユーグ様は空間魔法もお使いになられるのですね……。
しかもこの数を仕舞えるほどとは……」
「……!そのお歳で……、もしや長命種の方ですか?」
「長命種?いや、僕は違いますけど。
保管庫はけっこう便利なんで重宝してます」
ユーグが出した皮や魔石は100は超えていた。
空間魔法の保管庫はその空間を作り出すときに魔力を必要とし繊細な魔力操作も求められることから、ユーグの歳で扱えることは稀であった。
実は初めてユーグが保管庫の魔法を使ったときはソタが手助けしており、幼い時から使えたのであった。
また保管庫の空間を拡張する際にも魔力が必要で、それは通常の魔法で必要とする魔力より多かった。
そのためロベルトはその歳で保管庫を使えまた仕舞える量に驚き、商会長は長命種の人と勘違いしたのであった。
長命種は人の中でも長く生きるものたちの事で、主にエルフやドワーフ、竜人などがそうであった。
エルフはユーグたち人族より長身痩躯で、ドワーフは筋骨隆々で短身、竜人は人族の体に角や尻尾が生えている。
「この数は少々お時間をいただきますと助かりますが、どうしましょうか?」
「今日中にできるならお願いします。
それが難しいのであれば少し安くてもかまわないので大雑把に換金をお願いします」
「だいたい1時間でできると思いますので、それまではこの倉庫内にいてください」
「わかりました」
ユーグがそう言うと、支店長は魔石と皮をそのかごごと倉庫のさらに奥へと持って行った。
「ユーグ君、少しいいですか?」
「はい?何でしょうか?」
「その保管庫の魔法、お使いになられる分には問題ないのですか、その仕舞える量は少しお隠しになられた方がよろしいかと。
その歳でその量はお騒ぎになる可能性が」
「えっ、でも、まだまだはいっ
〈うん、そうじゃのう。それが良いのう。
うんわしも久しぶりに人里に来て常識を忘れておったわ。はは〉
て」
「ソタ様……」
〈とりあえずユーグよ、人前で保管庫使うのは小さいものや魔石だけにしよう。
魔石の大きさならそこまで幅をとらんからのう〉
「うん?ソタがそう言うならそうするけど……」
「それが良いと思います。
では商品を見にユルゲン様やフランツの元へと戻りましょう」
「はい!」
ユーグとロベルトは倉庫に行き、ユルゲンとフランツの元に戻った。
ユルゲンとフランツは共に食物の置かれているコーナーにいた。
「ユルゲン様、ただいま戻りました。
ユーグ様の出した素材の量が少々多かったみたいで、少し時間がかかるそうです」
「量が多い?まぁそれならここで商品を見ていよう。
ああ、そういえば従魔の証が必要だったな。それは確かこちらの方だった気が」
「隊長、こっちっすよ!」
フランツがいる方には色々な長さや種類の紐、革ベルト、などがあり、その先には魔石らしきものがついていた。
「これが従魔の証だよ。
この先に付いてる魔石っぽいのに主の情報を登録することができるんだ。
ギルドカードなどの身分証がないと登録はできないけど、この革のベルト等を着けて、仮の身分証があれば一応は大丈夫だから」
「おおう、凄い!
こんな小さい魔石にそんなことができるなんて。その魔石も魔道具なんですか?」
「うん、そうみたいだね。
魔石を加工してできたものらしいよ。
何か正式な名前があるけどだいたい従魔の証って言うね」
「へぇー。よし、みんなに似合うのを選ぶぞ!」
「ぐる!」 「ゴブ!」 〈わしは何でもいいぞ〉
・・・
ブリューたちが自分の従魔の証に付けるベルト等を選び終えると、ユーグが出した素材の査定を終えた支店長が奥から出てきた。
「お待たせしました。金額はこちらの方でよろしいでしょうか?
内訳は最低ランクの魔石が125個で金貨1枚と銀貨2枚、銅貨が5枚の計1250ドーラ、スモールリザードの皮は全て状態が良かったので1枚銅貨5枚で101枚ありましたので金貨5枚と銅貨5枚で計5050ドーラです。合わせて6300ドーラですね」
「なっ……!
どこにこんな量が……、これがロベルトが言ってたことか(ロベルト、あとで話を聞くぞ)」
「特に金額に問題はないと思います。
我々がいつも取引してるのと変わりなく(もちろんです)」
「大丈夫です。その金額でお願いします。
それと今選んだこの子たちの従魔の証も買いますのでお願いします」
「わかりました。従魔の証は先に付いてる魔石の魔道具も購入されますか?
それも購入となりますと少しお値段がはりますが」
「はい、お願いします」
「それでは従魔の証とそのベルト3枚で3300ドーラいただきます。
もしよろしければ今回の取引の代金から引く形にしますか?」
「それでお願いします」
「はい、では6300ドーラから3300ドーラ引いた金額の3000ドーラが今回の取引額になりました。
よければ金貨1枚に銀貨15枚、銅貨50枚の小分けにしたものにしましょうか?」
「うーん、どうしよう?」
〈それでいいじゃろう、小分けにしてくれたのは普段使い用じゃ。
銅貨で買えるものを金貨で買ったら釣りが大変になるじゃろう〉
「あっ、そっか。はい!それでお願いします」
「わかりました。ではこれを、今回は良い取引ありがとうございました。
また機会がありましたら私どもの商会をご利用ください」
ブリューが選んだのは青色の染めてある革のベルトであるが大きさが変えられるため、革なのにゴムみたいな伸縮性があるものだった。
ブラブは黒い革で作られた腕輪で、ソタは魔物素材で作られた紐の首輪を選んでいた。
「ありがとうございます!
僕の買い物は終わりましたけど、皆さんはどうですか?」
「ああ私は、いつも通りこの子たちの好物をお願いしたい」
「僕もそれで、木の実ストックはあるっすか?」
「かしこまりましたユルゲン様。
フランツ様もいつも通りご用意しておりますよ」
「じゃあそれで我々の分はいつもの砦への輸送の便に乗せてくれ」
「はい、わかりました」
「これで買い物はもういいか。
それで時間はまだ余ってるみたいだからご飯でも食べようか」
「わかりました」
「ユルゲン様、私は少し支店長に用事がありますので、先にお願いします。
行くのはいつもの場所ですよね?」
「ああ、そうだが。わかった、じゃあ店で合流しよう。ユーグ君こっちだ」
「はい、じゃあロベルトさんまたあとで」
*****
ユーグたちが倉庫を出て行ったあとで、
「支店長、今日見たユーグ様のことはご内密にお願いします」
「わかりました。
ロベルト様、しかし商会長には連絡をしませんと」
「それは我々軍からさせてもらいます。
少々こちらも事情がございまして」
「それでは、こちらをユーグ様にお渡しできますか?
ユーグ様は冒険者になられるようなので冒険者用品を取り扱っている取引先の商会への紹介状です」
「なるほど、そういうことですか。
まぁこのくらいならユーグ様のためにもなりますので大丈夫でしょう。
ではそういうことですのでよろしくお願いします」




