ー国境の町2ー
21時にも投稿します。
「おはようっす!ユーグ君、もう起きてるかな?
朝食の準備は出来ているから、食堂に来てくれー」
「おはようございます、フランツさんもう起きてますよ。
今、行きます。ほらみんなご飯食べに行くよ!」
「ぐるぅ!」
「ゴブ!」
〈うむ、わかったのじゃ〉
ユーグたちがフランツに言われ、朝食を食べに食堂に行くとそこにはすでに第1分隊の面々がいた。
「おはようございます、ソタ様。
ユーグ君もおはよう。今日はよろしく。
さて食べながら今日の予定を話すとしよう」
「おはようございます、ユルゲンさん。
はい、お願いします」
〈うむ、おはようじゃ〉
「さて今日は朝食を食べてから近くの町に行くんだけど。
まぁそんなに時間はかからずに着くし、街道を使って行くから道中は安全だよ」
「はい、わかりました。
そういえば皆さんの従魔も一緒に行くんですか?」
「うん?そうだが、それがどうしたのかい?」
「いやー、従魔が町に入っても大丈夫なのかと思って。
ロワイシュバリー王国では従魔が町に入るのは難しくて」
「ああ、そういうことか。
一応従魔の証を付けている従魔は特に制限なく町の中に入れる。
今、ユーグ君たちは従魔の証を持っていないが、今回は我々が保証をして町に入る形になるな。
従魔が法律に違反することをすればその責任は主にかかってくるぞ。そこだけは気を付けてくれ」
「はい、了解です」
「ああ、それとこれを渡すのを忘れていたよ」
ユルゲンはユーグに1枚の書類を手渡した。
「これは?」
「これは仮の身分証書だ。町に入るときに掲示を求められることもあるからな。
また冒険者ギルドで登録するときに提出すればギルドカードと呼ばれる、身分証の代わりになる魔道具がもらえる。
それがあれば冒険者として法を守っている限り、最低限の市民としての地位が認められるぞ」
冒険者ギルドとは各国が、冒険者を管理するために作られている国営団体である。
ドライツェン王国での冒険者ギルドも国営団体ではあるが、冒険者協定という冒険者のための協定もあり、比較的自由に運営されていた。
またドライツェン王国と同盟を結び、冒険者協定を締結している国とは国を飛び越えての連携もされていた。もちろんロワイシュバリー王国とは同盟や冒険者協定を結んでいないため冒険者ギルドの連携もない。
ユーグはもらった書類を空間魔法の保管庫に仕舞う。
「ギルドカード?初めて聞きました。
なんですか、それは?」
「うん、そうだと思ったよ。
まぁそれは登録した時のお楽しみかな。これを活用してるのは僕らの国とその同盟国か西の帝国くらいだからな。ロワイシュバリー王国ではまだないんじゃないかな」
「よし、これで我々から渡したり、話さなきゃいけないことも終わったな。
ユーグ君も朝食が終わったなら出発の準備をして来てくれ。それが終わり次第出発しよう」
「わかりました!」
*****
「一晩だけですがお世話になりました!」
「この子が噂の坊主か!
おう、もうここには来ないと思うけどまたな!」
「はい、また来る機会があったらよろしくお願いします!」
「では第1分隊も休暇での外出許可が下りていますので、そのまま出発してください」
「了解っす、また戻ってくるのは何事もなければ今日の夕方になると思うっす」
「わかりました。休暇、楽しんでください」
ユーグたちと第1分隊の面々は門番をしている兵士と挨拶を交わし、砦から出発した。
砦の周りは森で囲まれており、ロワイシュバリー王国側には向こうの砦へとドライツェン王国側には町へと向かう開けた街道があった。
「この街道を進んで行けば近くの町に着くんだよ。
今は周りも森に囲まれているけど、もう少ししたら森からも出るからね」
「この辺りの森には毎日砦の兵士が哨戒任務とともに魔物の間引きもしているから、この街道は比較的安全だから、そんなに緊張しなくても大丈夫だ」
「緊張しているわけではないんですけど、ただ森の中なので警戒するくせが抜けなくて」
「ロワイシュバリー王国の森に住んでいたなら、そうなるっすよね。
この国では治めている領主にはよるっすけど比較的街道周辺は安全なんだよ。
まぁおいおいそれに慣れてくれればいいか」
「はい!」 「ぐる!」 「ゴブ!」
・・・
しばらく歩くと森が途切れ、辺りには草原が広がり始める。
「ここは森と町との境界部分だよ。もう少し歩くと町の農地が見えるよ」
多くのドライツェン王国の町では草原を森との境界としている。ロワイシュバリー王国とは違い、ドライツェン王国では森の開拓が進んでいた。
町レベルになると万が一森から魔物が出てきたときにすぐわかるよう、森と町の農地との間に草原地帯を設けて視線が通りやすくしていたのであった。
「ここまで来ればこの辺ではもう魔物心配はいらないな。
ああ、そうだった、この町は近くに我々の砦があるから心配はいらないが、治安が悪い場所では盗賊もいる。
だから魔物だけ気を付けるんじゃなくて、人にも気を付けるんだぞ」
「そういえば、ユーグ君はロワイシュバリー王国の森では盗賊に遭わなかったのかい?
こんな風に言うのは悪いけど、ロワイシュバリー王国全体はこの国に比べて治安はあんまりよくないでしょ?」
「ああ、そうですね。何故か不思議と遭わなかったですね?なんでだろう?」
〈うん?気づいてなかったのか?
お主がいたところは森の中でもけっこうな奥地じゃ、人が襲うような人里もないところに盗賊が来るはずもなかろう。
それにロワイシュバリー王国の盗賊はだいたい食い詰めものがなるものじゃ。そんな奴らがスモールリザードやロックリザードが住む山近くに来ることもないのじゃ〉
「へぇー、そうだったんだ。だそうです。
だから遭わなかったんだなー」
(……たぶんそれだけではないはずだ、冒険者崩れの奴らならスモールリザードくらいなら倒せる。
確かユーグ君に聞いた話だと3年住んでロックリザードに遭ったのは1回だったはず、それなら無法者たちも来る余地はある。
たぶん干支様が何かしたのだろう。それほどまでこの少年を大事にしているということか……)
ユルゲンは意味深な視線を、ソタに向けているが、ソタはどこ吹く風である。
そうこうしているうちに、草原地帯を抜け、農地が見え始めた。
「ここら辺は主に町で消費している分を育てているんだよ。
あと22年前にあの砦ができたからね、停戦してから15年かけて砦の分も消費できるように広げたみたい。
あっ、ほらあれが町だよ」
フランツが指さした先には、周囲を壁に囲われた町があった。
「あれが国境の町リンツスタウトだ。
まぁそこまで大きな町でもないし、冒険者ギルドもないっすけど。
ここは近くに僕らがいるから冒険者と普段の仕事が被るんだ。未開の地でもないし。
申し訳ないんだけど、ギルドへの登録はどこか別の場所で行ってくれる。従魔の証はこの町でも手に入るから大丈夫だよ」
「じゃあ、入るとするか。
まずは商会に行って素材を売りに行こう。ユーグ君はお金を持ってなかったしな。
今日は我々といるから仮の身分証も出せなくていいが、だいたいの町では門番に掲示しないといけないから失くしちゃダメだぞ」
「はい!わかりました」
そうしてユーグたちは門を通り、町の中に入っていった。
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「ここが商会?何か倉庫のように見えるんですけど……」
「そうだよ、ここは主に軍が使ってる商会の倉庫なんだ。
僕らの普段の買い物もだいたいここでしてるんだ」
「倉庫で買い物ですか?」
「ここの商会は基本的には軍などに卸すのが目的だからね、個々の商売には手を出してないんだよ。
でもこの町で買える商品をここで仕入れて砦に持ってきてくれてるんだ。軍人にはそれを特別にここでも売ってくれるわけ、あと休暇中に狩った素材なども買い取ってくれるんだ。
売り物も基本的には町の中では買えないものをここで販売してくれるから、町の商売ともすみ分けは一応できているんだよ。
だから今日はユーグ君も僕らと一緒にここを利用してもらうわけ、主に素材の売買でね」




