ー砦ー
今日からしばらくは2話ずつです。
〈うむ、砦に行った後の目的地もこれでできたのじゃ。
それで砦に行ってからはどうすればいいんじゃ?〉
「はい、このまま砦に向かいますと夕方近くになりますので、砦で正式な入国の手続きを行った後はそのまま1泊してもらいたいと思います。
明日は我々も休みとなっていますので、近くの町まで案内します。それでどうでしょうか?」
「えっ、そこまでしてくれなくても大丈夫ですよ。
砦の外でも寝れますし、明日も町まで案内しなくても問題ないですよ」
「いや、実は砦の近くで泊まられるとこちらが困るんだよ、警備してる兵士も余計警戒しちゃうし、だから泊まってもらうのは問題ないんだ。
町に行くのも明日は元々休みだから町行く予定だったんだ。行く町は大きい町ではないが、砦にはない商店はあるからな。
そこで個人のものを買いに行く予定なんだよ。そういえば、ユーグ君はお金とかは持っているのかな?」
「あっ、忘れてました。お金は持ってないです。今まで必要としてなかったので。
そういえば人の生活にはお金が必要だったんだ」
「だと思っていたよ、3年も森で生活してたらお金なんて使わないからな」
ユーグは当然この3年の森での生活では一切人里と関わりがなかったため、金銭を持っていなかった。
またその存在を忘れていたのは男爵家にいた頃から金銭を見たことがなかったためである。
「まぁそこら辺の常識は砦に着いてからと町で説明すればいいっすよ。
ほらユーグ君もうすぐ砦に着くよ」
そう話しながら森を進んで行くと、森が開け、その先には大きな建物が見えた。
「あれが我々が駐在している国境の砦だよ。
ここら辺はガオグランズって呼ばれているからあの砦もそのままガオグランズ砦っていう名前になってるよ」
「おおー、初めて砦を見ました!大きいですね!」
「一応ここは砦の中でも小さい方なんだよ、周りが森で大軍での攻略は向いてないからね。
西の方にある要塞はもっと大きいからね。もし行く機会があれば見てみるといいよ」
「これよりも大きいのか……、それは見てみたいです!」
「じゃあそろそろ砦に入ろうか。おーい、魔獣部隊第1分隊だ、開けてくれ」
「第1分隊か、哨戒任務から帰ってきたのか。
うん?同行者か、それにその魔物たちは?」
「ああ、久しぶりの森からの入国者っすね。魔物たちも同じっすよ」
「詳しくは私の方から将軍に報告を入れるから、とりあえず中に入れてくれないか?
一応入国の手続きと今日はもう夜が遅いからな泊まる準備もしなければならん」
「はい、わかりました」
砦の門が開き、第1分隊が中へと進み、そのあとをユーグたちがついていく。
砦の中は開かれた空間になっていて、その周りを巨大な塀で覆っており、開かれた空間の端の方にいくつかの建物があった。
「まずは入国の手続きを取ろう。
まぁ簡単な質問をして書類にサインをしてもらうくらいだから、そんなに心配はいらないよ」
そう言ってユルゲンは建物の中に入っていった。
「じゃあ僕はここでお別れっすね、この子たちのご飯の準備があるから。
また夕飯のときに合流するから、またあとでね!」
「はい、フランツさんありがとうございました!」
フランツは別の建物の方に向かって行き、ユーグたちはユルゲンに続き建物の中に入っていった。
・・・
「よし、こんなものでいいだろう。これで入国の手続きは完了だ」
「入国の手続きってこんな簡単でいいんですか?
もっと複雑なものを想像してたんですけど」
〈そうじゃのう、入国の手続きのわりにはずいぶんシンプルじゃなのう〉
ユーグがサインした書類にはドライツェン王国の法律を遵守し、明確な利敵行為は行わないという文面が書かれているだけであった。
「これは基本的には形式的なものなんです。それに普通の平民には難しいことは理解できないっていう問題もあるので。
だからこう言う形式にしてるんですよ。国の正式な使節や貴族の場合はもっと正式な入国の手続きを取らせてもらってます」
「そうなんですね。それでこのあと僕らはどうすれば?」
「うん、ああフランツが夕食の準備を食堂にお願いしてるはずだから、それを食べに行こう。
しかしブリュー君の大きさだと食堂には入れないかもしれんな。その場合魔物小屋の方にお願いしてもいいかな?」
「あっ、大丈夫ですよ。ブリューは小型化できるので。
ブリュー小さくなってもらってもいい?」
「ぐるぅうう!」
ブリューは光り輝き、その光が収まりながらブリューの体は小さくなっていった。
「なるほど、ブリュー君はもう小型化スキルを習得していたのか。
うん、優秀な従魔になりそうだ」
「ありがとうございます!」
「くるぅ!」
「じゃあそろそろ食堂の方に行こうか」
・・・
「……!ものすごく美味しいです。こんなに美味しいもの初めて食べました!」
ユーグは久しぶりに人が作ったものを堪能した。むしろ心から人が丹精込めて作った料理は初めてだった。
「そんなに喜んでもらえるとはわざわざ砦に来てもらったかいがあったものだ。
一応の入国の手続きためとはこんな兵士だらけの場所に一泊もさせるのは心苦しかったからな」
「いえ、屋根のある場所に泊めてもらえるだけありがたいです」
「そう言ってもらえるとありがたいな。
もう泊まる場所の準備は出来てるようだからそちらに案内しよう。君の従魔たちも同じ部屋に泊まれるようにしてあるから安心してくれ」
「あっ、ありがとうございます!」
〈同じ部屋に泊めさせてくれるのはありがたいのじゃ、ユーグはこう見えて1人だと社交性がなくなるからのう〉
「いや、あの町の時は久々すぎたからだよ、第1分隊の方たちおかげでもう慣れたよ」
〈そうか?それならいいのじゃが。
じゃあそろそろわしらは部屋に行くとするかのう。案内を頼むのじゃ〉
「わかりました。
ロベルト、ユーグ君たちを部屋に案内してくれ」
「かしこまりました、ユルゲン様。
では行きましょうか、ユーグ君、ソタ様。私に付いて来てください」
「あっはい、ユルゲンさん今日一日ありがとうございました。
また明日からの町への案内お願いします」
ユーグはロベルトに案内されて今夜泊まる部屋へと向かって行った。
*****
ユーグたちが部屋に行き寝静まったあと、砦の一室に魔獣部隊第1分隊隊長のユルゲンともう一人の男がいた。
「それで、新しく来た入国者はユーグと言ったか、そのものは向こうの国と何かつながりはありそうか?」
「今の時点では何とも言えませんが、その可能性は低いかと。
話を聞くと男爵家出で母親は我が国出身のようで昔から虐待を受けてきたみたいで、3年前に天職の儀があり【ジョブ】がテイマーになり家と町から追放を受けたそうで」
「ふむ意外に過酷な過去があるようだな。
それに男爵家か、あの家の血を継いでる可能性もあるのか……。それでこの3年間は何を」
「森で暮らしていたみたいです。
その森もゴブリンの集団が来たことで拠点を壊され逃げ出してきたと」
「ゴブリンの集団か、向こうのゴブリンは人憎しが多いからな。いずれは人里を襲うだろう。
ここからは距離はあるのだろう?」
「出身は西部とのことでしたから大丈夫でしょう」
「一応哨戒の数を増やしておくか。それで従魔は」
「熊形の魔物とモモンガ形の魔物は5歳と8歳の時に出会ったそうです。
ゴブリンの従魔は最近で。あとモモンガ形の魔物の放った魔力は干支様のものでした」
「本当にその魔力は干支様のものだったのか?」
「はい、あの練り上げられた魔力は間違いなくそうでした。
私が以前拝謁した辰様のと同じ威圧感を感じました」
「そうか、辰様のものに……。それに魔物部隊に所属している君が言うには間違いないんだろうな。
でもなぜ我が国に来たのか、それが謎だな」
「あのものたちを見ている限り特に意味はないのかと。
強いて言えば主であるユーグ君が住みやすい場所を求めてやってきたのが目的かと」
「まぁそれでも中央に報告を入れないわけにはいけないな。
さて中央もしくは辰様の眷属は何か行動を起こすかな」
「私からは何も。ただ任務に従うだけです」
「まぁ干支様のどなたかが来られたのだ、丁重に扱うしかないな。
まぁあまり正体をバレたくないみたいなのが幸いかな」
「とりあえず明日は一緒に町まで行こうと思います。
そのあとは北の辺境都市に向かうようなので、そっちに駐留してる部隊に連絡入れときます」
2024/05/25誤字修正しました。




