表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/527

93:ぷるぷるスライム争奪戦!!開会式前

 装備制限を受けた時の疲労が残ったままだったので、ウェスト港から少し離れた所でスタミナ回復ポーションを1本、アルバボッシュの近くまで【腰翼】を使い全力移動した後に2本目のスタミナ回復ポーションを飲む事になりました。


 余裕をもってログインしていた筈なのですが、色々あったせいで結構ギリギリの時間になってしまいましたね。


 アルバボッシュの外壁と時間を見比べながら、ここからならもう歩いても間に合う事を確認すると、私は一旦足を止めました。


「ふー……」

 人目もあるのでレッサーリリムを【収納】して、イビルストラのフードを被っておきましょう。私は気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸して、一度辺りを見回します。とりあえず間に合うように走ってきたのですが、ここからどうしましょう?


 ウェスト港の塀は高くなかったので屋根の上から飛び移れたのですが、アルバボッシュの外壁は流石に無理そうですね。そうなると門をくぐらないといけないのですが……イベントの為か何時もよりログインしている人が多く、時間まで近くのフィールドで暇を潰していたらしいプレイヤーでごったがえしているのですよね。私もその流れに乗ればいいだけかもしれませんが、スキル(魅了)の事があるのでどうしても人混みを警戒してしまいます。


「あら、貴女……?」

 そんな事を考えながら立ち止まっていると、私の事を知っていると思わしきボロボロの(戦闘後と思われる)3人組に声をかけられました。


 話しかけてきたのは先頭を歩く女性で、長めの金髪をサイドに流したお嬢様然としたプレイヤーさんですね。話しかけておきながら「どなたでしたっけ?」みたいな顔で首を傾げていたのですが……確かロックゴーレム戦で全体の指揮を執っていた人ですよね。モモさん、でしたっけ?


「お久しぶりです」

 魅了の件もあるので少し警戒して距離をとったのですが、どうやら別の意味(胡散臭がっている)でとられてしまったようですね、隣にいた金髪碧眼の、どこか狐顔の男性がフォローを入れてきました。


「ほら、モモさん、ロックゴーレムの時の……すみません、知った顔だったのでいきなり話しかけてしまいました…少し姿が変わられましたか?」

 こちらも確か、ロックゴーレム戦の時に一緒にいた人ですね。確か名前はレミカさん、でしたか……あの時は普通に魔人の姿で参加していましたし、人間形態の私が珍しいのでしょう。


「あの格好だと人前では目立ちますので」

 私の言葉に「ですよね」みたいな納得顔で頷くレミカさんの横で、モモさんはやっと私の事を思い出したのか、ワタワタと慌てていました。


「わ、わ、わかっていましてよ!ちょっと思い出せなかっただけで…」


「はいはい、そういうのは本人の前で口にしない方がいいですよ」

 2人の軽いノリの(魅了のかかっ)やり取り(ていない様子)に胸をなでおろしたのですが、最後の1人はおもいっきり私の事を凝視してきていました。


「………」

 こちらは……誰でしょう?スポーツ刈りのようなサッパリした黒髪に、どこかぼんやりした糸目の男性ですね。縦にも横にも大きなガッシリした体型の人で、ブレイクヒーローズでは珍しいフルプレートの鎧を着て、大盾を持っているタンク風の人ですね。

 勿論スキルの補助はあるのでしょうが、種族が人間という事は基本補正はない(オールD)筈です。それなのに楽々とそんな重量物(鎧や盾)を装備できているという事は、現実の方でもかなり体を鍛えている人なのでしょう。


 最初は思い出せなかったのですが、大盾を持っている事と、モモさんやレミカさんと一緒にいる事で記憶が刺激され、思い出しました。確かロックゴーレム戦の時に居たタンクの1人ですね。装備が変わっているので少し自信がありませんし、直接話した事が無いので流石に名前まではわかりませんが、確かこの人もいた筈です。


「ほら、ダンも…警戒されていますよ」

 私が思い出そうとその姿を見ていると、視線を逸らされてしまったのですが、ダンと呼ばれた男性はレミカさんの言葉にハッとしたような顔をして、赤面しながら辺りをキョロキョロと見回し……。


「申し訳、ない…」

 ペコリと頭を下げました。


「あら」「へぇ」


「……?」

 そんなダンさんの反応が珍しいのか、何故かモモさんとレミカさんは驚いたというか、興味深そうな声を上げました。自然と私達3人の視線がダンさんに集中する事になったのですが、ダンさんは汗をかきながら後ずさりしました。


「……遅れる」

 不審な動きを誤魔化す様にポツリと呟いたかと思うと、ダンさんはのしのしとした速足で、人ごみをかき分けながらアルバボッシュの中に入っていってしまいました。


「凄いわね、ダンが女性に興味を持ったのって初めてじゃないかしら?」

 モモさんは感心するように言ったのですが、それを本人()に直接聞かせるのはどうなのでしょう?それにスキルの効果が出ているだけだと思うのですが、その事を説明するタイミングを逃しました。


「…確かにそろそろ時間ですね、僕達も急ぎましょう」

 レミカさんは何か言いたそうな顔をしたのですが、何も言わない事にしたようですね。話題を逸らすような言葉だったのですが、確かにそろそろ時間が危ないというのも事実ですし、私達3人はそのまま一緒にアルバボッシュに向かう事になりました。


 ちなみにダンさんを含めた3人がここにいたのは、少し早めにログインしてオーガビーストに挑んでいたからだそうです。その結果は、まあ3人の姿を見ればわかりますね。

 挑んだ時はフルPTだったのですが、次々とやられてしまい、残ったのがモモさんを含めた3人だったとの事です。

 男女混合PTでミキュシバ森林を越えたのかと思ったのですが、どうやら細々とした道ながら、街道側からウェスト港に行けるようになっているらしいですね。


「それで皆さんが何とか足止めをしながら削っていったのですが……くやしいですわ!もう少しでしたのに!!」

 モモさんは熱くオーガビーストとの戦いを語ってくれたのですが、レミカさんは肩を竦めていました。どうやらモモさん達のPTは正統派のPTと言いますか、個の力よりチームプレイで連携するスタイルのようで、スピードと電撃に翻弄されてまともにダメージを与えられなかったそうです。

 2人の話を聞く限りでは、全員で削り切る(囲んで叩く)戦い方か、牽制をしながらモモさんの魔法で止めを刺すという戦闘スタイルのようですし、スピードで撹乱し、陣形や後衛なんていうのを無視して襲ってくるオーガビーストとは相性が悪かったようですね。


「でも対処法もわかりましたし、次はいけますわ!」

 モモさんは力強く握りこぶしを作りながらそう宣言しており、その様子を見てレミカさんは笑っていました。


「そうですね、頑張りましょう」

 励ましているのか茶化しているのかわからないような顔で、レミカさんがニッコリ笑いながら拍手をしているのですが、何となく2人の関係性がわかってきたような気がします。


 たぶんモモさんは全体は見えるけど、細かくは見ないタイプなのかもしれません。殆ど視線が合いませんし、もしかしたら私の事を胸の大きなピンク髪のプレイヤーとしか認識していないのかもしれません。

 逆にレミカさんは色々と見えているようなのですが……この人は確実にモモさんの事を常に意識していますよね?2人は付き合っているのでしょうか?そういうレベルでモモさんの事を見ているので、私の事は眼中にないようですね。


 それが理由なのかわかりませんが、どうやら2人には魅了がかかりづらいようですね。もとから同性(モモさん)にはかかりづらい傾向にありますし、人間形態で【隠陰】を使っている内はこの2人に魅了がかかる事はないでしょう。

 それに何だかんだでモモさんはリアクションや声が大きく、周囲の目を引いてくれるので、これから町の中に入ろうという時にこの2人と出会えたのは幸運でした。


 私は2人の会話に相槌を打ちながら、出来るだけ静かについて行く形でアルバボッシュの門をくぐります。


「おーい、2人ともこっちだー、ダンの野郎が何か慌てて走っていったけど、何かあったのかー?…って、天使ちゃん!?」

 無事アルバボッシュの門を通過し、町の中に入る事が出来てホッと一息入れていると、リスポーンして(先に戻って)いたと思われるPTメンバーさん達がガヤガヤとやってきました。

 中には私の事を知っている人もいるようなのですが、「天使ちゃん」と呼ばれると「私の天使」と呼んでくる母を思い出して不思議な気持ちになりますね。


「…それでは、皆さん来られたようなので、私はこれで」

 少し周囲が賑やかになってきましたし、気づけばあちこちから視線が飛んできているので、この辺りで別れた方が良いかもしれません。


「あら?遠慮しなくていいのよ?」

 レミカさんは私が人を避けようとしている事を察してくれているのですが、モモさんは全く気付いていないようですね。本当にただの親切心でそう言ってくれているのはわかるのですが、何がきっかけで魅了が発動するかわかりませんし、出来たら開会式まで人気のない場所で待機しておきたいのですよね。


「イベント前なので準備があるのでしょう。僕達も失った装備を整えないといけませんし、連れ回すのは酷ですよ」

 レミカさんのそんなフォローに、モモさんは頷きます。


「確かにそうですわね、わかりましたわ……それではまた今度、お互いにイベント頑張りましょう」


「はい、それではまた」

 素直に人の意見を聞きところや、その屈託のない笑顔に、なんとなくレミカさんがモモさんを気に入っている理由が分かったような気がするのですが、とにかくそんな2人に別れを告げて、私は雑踏から離れるようにその場を離れました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ