92:ぷるぷるスライム争奪戦!!開始前
私は朝の日課を終えると、ブレイクヒーローズにログインしました。場所はそのまま落ちたので、ウェスト港の管理事務所前ですね。
解放クエストを終えたためか、事務所の中は町の住人が詰めかけてきており、活気がありますね。まだプレイヤーの姿はありませんが、弱体化したオーガビーストなら倒せるかもと掲示板でPT募集が行われていましたし、ゲーム内時間だとそれなりに時間がたっていますからね、そろそろ人がやってくるかもしれません。
そんな事を考えながら辺りを見ていると、イベントの告知がポップアップしてきました。書かれている内容は公式の発表と同じですね。たぶんそういう物を見ない人に向けてなのか、最終確認といった感じなのでしょう。私は内容を一読して変わりがない事を確認すると、出て来たウィンドウを消しておきます。
イベントは現実時間の9時から24時までで、9時からアルバボッシュで開会式とグループ分けが行われるそうです。かなり緩い感じのイベントなのか、この開会式への参加については自由との事で、その時点でログインしていなかった人やアルバボッシュに居なかった人も随時グループ分けが行われるとの事で、特に集まらないといけないと言う訳でもないようですね。
私の場合色々と不安があるのですが、折角のイベントなので出来たら開会式に参加したいのですよね……まあまだ時間にも余裕がありますし、その事は準備をしながら考えましょう。最悪遠くから眺めるだけでもいいですし、アルバボッシュの様子を見てから考えましょう。
問題は棚上げする事にして、早速【テイミング】にSPを振って……と言いたいのですが、昨日の時点でスコルさんとはPTを解散していますからね、何かあった時の事を考えて、先にアイテムの補充を済ませておきましょう。
買い物をするにあたって、最初に買うのは体をすっぽり覆うようなマントですね。体が隠れれば何でもいいので、適当に売っていた潮風よけのフード付き防水マントを購入しました。
分厚い深緑色の生地は足元まで長さがあり、体をすっぽりと隠せる形状をしているのが良いですね。私がこういう体型を隠すようなマントを着ると、胸に押されてドラム缶のような体型に見えてしまうのですが……まあ仕方がないですね。少し動きづらいのと、生地を触った時と比べると着心地が悪く、何かムズムズするような感じがするのですが、人前に出る時に着るだけですからね、多少の着心地は我慢しましょう。
それにしても、マントの布地と肌が擦れるたびに違和感を覚えるといいますか、肌が泡立つような感じがあるのですが、布地と肌の相性なのでしょうか?まるでザラザラした舌に包まれているような不快感があって、落ち着きません。
何とか我慢して投げナイフを10本、『N』ランクのHPとMPとスタミナの回復ポーションを3本ずつ、携帯食料を4つ購入したのですが……そこで違和感に耐えきれず、マントがおかしいのかと【看破】を使ってみたり、情報を改めて見てみたのですが、特にこれと言った効果は見当たりません。
そもそも私はこのマントの特性を引き出せるようなスキルを取得していない……というより、取得できませんから、何がどうなっているのかよくわかりません。
落ち着かずモジモジしていると周囲の視線も気になりますし、声をかけられる前に姿勢を正そうとすると……。
「くぅ…っ……まっ…っ」
胸を張ると、ザラリとした不快感が先端に引っかかって、声が漏れました。私の精神状態を表す様にドレスの蔦が不安定に蠢いたのですが、すべてはマントの下で行われている事なので、どうやらまだ周囲の人には気づかれていないようですね。
何が起きているかまったく理解できなかったのですが、クニクニと責め続ける蔦の動きに、余裕が徐々に削られて行きました。このままだといくら人間形態でいるといっても人の目を集めてしまうので、私はとりあえず人気の無い路地に向かって足を動かしたのですが……尻尾を出していない筈なのに、尾てい骨側からゾワゾワした感触が背筋を這い上り、足元がふらつきます。
「すぅー…はぁー……」
少し歩いただけなのですが、火照って【高揚】が入った時のように敏感になっているのがわかります。私は一度大きく深呼吸をして、気持ちを静めながら頬を触ってみると、かなり熱くなっているようですね。風邪、でしょうか?逃げ込んだ路地に人が居ない事を確かめてから、私がマントの下を確かめてみると……お腹の少し下に、ハートマークを意匠化したような光が浮かび上がっていました。
何故?
「ふああぁ…」
理由がわからないままとりあえず軽くその光をなぞってみると、お腹の奥深くから快感が溢れ出してきました。まるで子宮全体が喜んでいるような刺激に恐怖を感じ、私はすぐに手を放したのですが、ぞわぞわとした感覚は抜けません。何かの拍子で状態異常にでもかかってしまったのかとステータス画面を開いてみると、『発情』と表示されていました。
結構本気でどういう事かと首を傾げたのですが、体の奥からの衝動が徐々に高まっていくのがわかります。何とか自制しようとするのですが、私の意識で動く筈のドレスの蔦が動き続けて……。
「ふ…くぅ、ぁ……」
的確に気持ちいいところを刺激され、止められないと言う事実が更に私を追い込むのですが、歯を食いしばり、両手で口を押えます。
「----~~~~!!!!??」
蔦がお腹の光を撫でると、異常な程敏感になった身体はあっさりと限界を迎え、パーンッ!と色々な物が弾けました。どうやら角や腰翼、尻尾が飛び出て来たようですね。つまり【収納】が解除されたという訳なのですが、その衝撃でスキルの乗っていないマントが内側からバラバラに弾け、その下の薄いドレスとストラだけになりました。
滲んだ汗や内股の湿り気が潮風に曝されヒヤリとしたのですが、火照った体には丁度いいですね。
「はぁー……っぁぁあああぁああああ」
放心し、恥ずかしさと気持ちよさでだらしない顔をしながら壁にズルズルともたれかかると、尻尾が壁に擦りあげられて声が漏れます。
声を押さえる事が出来ず、私は少しの間放心していたのですが……時間を置くと、何とか思考が戻ってきました。
もう羞恥心が酷いですね。意識が戻ってきた事でまた蔦が動きかけたのですが、今度はちゃんと止める事が出来ました。呼吸を整え、真っ赤になった両頬を押さえながら何が起きたのか考えるのですが……出したままだったステータス画面から『発情』の表示が無くなっている事に気がつきました。
どういう事でしょう?と首を傾げ、変わった事と言えば、その、スッキリした事と、レッサーリリムに戻った事と、マントが破けた事くらいなのですが……もしかして先ほどの状態異常は、種族的な装備制限なのでしょうか?
こういう制限は普通、『装備できません』という表示が出たり、所定の能力を発揮しなかったりする程度のものが多いような気がしますが……普通でないのがブレイクヒーローズですからね、よくわからない仕様だらけです。少し頭を抱えてしまったのですが、どうやらのんびりしている時間はなさそうですね。
私が路地裏でゴソゴソとしていたせいで「何か物音が」とか「女の声じゃないか?」という話し声が近づいてきているようです。
人の気配が近づいてきた事で羞恥心が戻ってきたのですが、あまり色々な事を考えている余裕はないですね。私は【ルドラの火】で後処理をすると、慌ててその場を後にしました。
ギルドカードを見せればもしかしたら大丈夫だったのかもしれませんが、魅了がかかるとややこしいですし、ナンパやそういう目的での接触はまた別ですからね、ここは逃げる方が良いでしょう。
背後からは町中に魔族でも現れたような悲鳴が聞こえてきたのですが……その叫びは聞かなかった事にして、私は屋根に飛び乗ります。
人間形態でいた時の閉じた感覚と比べると、レッサーリリムの感覚には色々なスキルの効果が乗っています。屋根の上から認識範囲の広がった視界で辺りを見渡せば、世界が広く、綺麗に見えました。
まるでレッサーリリムでいる時に見える世界が本物で、人間である時に見える色褪せた世界が偽物であるような錯覚と、屋根と屋根を飛び移る時の浮遊感に、奇妙な心の高まりを感じます。
私は人混みを避けるように屋根と屋根を飛び移りながら、一度ポータルのある錨の広場を見たのですが……沢山の人がいますね。路地裏での騒動が連鎖しているようですし、一度町の外を目指しましょう。
私は【腰翼】を使い屋根伝いに移動すると、その勢いのままおもいっきりジャンプして……塀の縁に指をかけます。そのまま町の塀を乗り越えると、私はウェスト港外の草原に着地しました。
バタバタと衛兵さん達が駆け寄ってくる気配があるのですが、誰何の声をかけられる前に私はその場を離れる事にしました。
※マントは【服】判定なので、残念ながら装備制限に引っかかりました。罰則は重め。「着せてなるものか」という本国からの圧力を感じられる仕様でもあります。
※光を触った時の反応を付け足しました。(11/8)




