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運営者Side(鈴木主任視点):オーガビースト戦とイベント開始前の裏側

 明日はとうとう第一回目のイベントだ。初のイベントという事で多少の緊張感はあるものの、テストサーバーでの動作は問題なく、すでにプログラムは実装済み。後は開始時間を待つだけと言う所までこぎつけ、俺達は最後の調整と追い込みをかけているところだった。


 イベント期間は明日の9時から24時までの15時間。ゲーム内は4倍速されているので、フルで参加すれば実質60時間の長丁場だ。

 時間をかけたぶん、有利になるというのがあっても良いのかもしれないが、今回は初心者向けの緩めのイベントだ。あまりに不公平にならないように、チャージタイムと言う、イベントモンスターを倒さないでいると一定時間(30分間)倍率が増える仕様を盛り込んだ。まあこれは、長時間のプレイでぶっ倒れる奴が出てきても困るからと言うクールタイム(休憩時間)だな。

 後は各所に、ポイントが多く貰えるレアスライムを配置した。計算上は、短時間のプレイでも、この2つの仕様を上手く利用すれば上位陣に食い込める筈だ。勿論抜かされた奴からは不平不満が出るだろうが、詳細は告知しているのだ、その仕様を利用しなかった方が悪い。

 とまあそういうイベントを実装していた訳なんだが、特に難しい事をしている訳ではなく、特別なフィールドを用意している訳でもない。

 俺達がやったのは、イベント用のスライムのデータを既存のデータの上に追加して、ポイント集計用のプログラムや、PTの組み分け用のプログラムを追加したくらいだ。

 勿論色々とサプライズを用意しては居るのだが、データ的には誤差の範囲、それくらいの冗長性は最初から持たせてあるので問題はない。


 お目当ての交換アイテムを手に入れるだけなら数十分、ある程度のアイテムと交換する場合でも数時間あれば十分だろう。勿論上位に食い込むのならやり込む必要があるが、上位にランクインしても貰えるのは称号やガチャ要素の強いアイテムボックスくらいなもので、正直記念品の配布に近い。

 やり込む必要がないというのはやる気をそぐ原因になりうるのだが、もとからこのイベントはオリエンテーション的な意味が強い事や、皆で仲良くという事を前面に出しているおかげか、プレイヤー達にもこちらの意図はちゃんと伝わっているようだった。というより『ぷるぷるスライム争奪戦!!』なんていう名前で、ガチイベントだと思う奴はいないだろう。


 そういう訳で、イベントについては問題なく、今俺が頭を抱えているのはどちらかと言うと、その後に控えているアップデートや調整の方だった。


「あら~ユリエルちゃん達、オーガビーストを倒しちゃったわねぇー」


「ぐぅぅっ…」

 人手が足りないからと一緒にモニタリングしていた井上の呑気な報告に、俺は自分のデスクに突っ伏した。いや、なんだよ、何故倒せる、攻略法(周囲の物を使う)がわかったとしても、反射神経的にどう考えても無理だろ?内部データを確認したいところなのだが、それが()()()()というのが目下一番の悩みだ。


 そう、ユリエルの事を本社に報告した結果、データ(ユリエルに関する事)は本社預かりとなってしまった。それはまあいい。むしろあのデータ(映像等)を他の社員に見せるのはどうかと思っていたので助かったまであるのだが、どうやら本社に確保されたユリエルのデータを起点に、ゲームのデータが書き換えられているようだった。


 その事に気づいたのは『イビルストラ(偽)』が制作された時だ。そんなアイテムの実装予定はないと、バグかと思って調べてみた結果……本社のAIが、仕様の範囲を超えて勝手にデータを書き換えていたのだ。

 ユリエルの取得しているスキルも本国仕様に近く、日本ではオミット(除外)していた機能がそのまま実装されている状態だ。レッサーリリム?あんな危険な種族を実装する予定はなかったよチクショウ!

 報告を受けた時、俺は怒鳴りかけたのだが、流石に役職持ちがそんな怒鳴り散らす訳にもいかず、歯ぎしりと貧乏ゆすりをするにとどめ、調整に乗り出したのだが……こういう時の本社の動きは速く、ユリエルのデータがセキュリティホールとなり、かなり広範囲のデータが書き換えられている事実が判明した。


 何で本社からサイバー攻撃を受けなければならないのかわからないのだが……とにかくプログラミング担当の中村と高橋が潜って必死に書き換えてくれてはいるのだが、肝心のユリエルのデータはロックされており、ブラックボックス化していて手が付けられないらしい。


 めちゃくちゃに書き換えておきながら問題なくゲームが動くのは流石だと思うのだが、本社が実装しようとしているのは勿論アッチの(エロイ)方面で、感心している場合ではなかった。このままだと大変な事になるぞと色々と手を打っているのだが、イベントと大規模アップデート前と言うこのくそ忙しいタイミングで、修正と調整に時間が取られていた。


 正直放置しておいて、後々修正といきたいところなのだが、実際問題として、幾つかのモンスターが異常な行動をとっていたり、NPCにエッチな事を強要されかけたとか、ナンパされて云々というクレームが頻繁に上がるようになっていた。

 ミキュシバ森林のローパーなんて、日本版だと本来は拘束するだけだぞ?何故ああなった?社員総出でデータの洗い出しをして、場合によっては本社と交渉してと大忙しだ。

 何て言うか、プレイヤーのノリがいいというか、寛容というか、変人達が多いので何とかなっている節があるのだが、何時大炎上してもおかしくない状況に、俺達の心労が増すばかりだ。


「そういうのも問題なんだけど、私の業務(全体のバランス調整)としてはこっちの方をどうにしかないといけないんだけどー…」

 全体のバランス調整担当の井上が、モニターを俺の前に流してきたのだが、そこに映っていたのは王城を見上げながら撤退していくプレイヤー達だった。たしかシグルドと言ったか?どうやら一部のプレイヤーはすでにセントラルライドに到達したようだった。

 こっちも攻略が早いな……モモというプレイヤーが率いるPTもかなり近いところまで進んでいたし、イベント発表で進行が鈍らなければ王都が開放されていたかもしれない。というより、今まさに撤退していくシグルド達なんて余力が余りまくりで、PTメンバーの1人がやられたので引き返す事にしただけで、シグルド本人は何と無傷、やろうと思えば王都1番乗りが出来ただろうに、そういうゲーム的な攻略にはあまり興味が無いプレイヤーなのだろう。その視線は空を飛行するワイバーンを睨みつけていた。


「困るのよねーこういう1人だけ突出した人が居ると、バランス調整が大変で…どうしたらいいと思う?」

 基本的にこちら(運営)は平均から少し上くらいを想定して調整しているんだが、中にはそのラインを軽々と超える奴がでてきている。ユリエル然り、シグルド然り、まあネットゲームのトップ層なんてだいたいそういう奴らの集まりだが、マニアックなヘビーユーザーが多いHCP社製のゲームに、ライト層の取り込みを計ったブレイクヒーローズではその差が顕著なのが問題だ。


 リアル寄りのゲームなので、プレイヤー間での上手い下手が出てきてしまうのはしかたがないとして、調整する身としてはやりづらい事この上ない。下手にトップ層にデバフをかけたり、下に下駄を履かせたりすれば炎上騒ぎになるだろう。

 本社の判断としては「上手いプレイヤーが上手いのは当然だ」というシビアな物なんだが、こっちを立てればあちらが立たずという状況に、井上も頭を抱えているようだった。


「今のところはゲームが崩れる程でもないから様子見だ。ただ調整に関していい案があったら上げてくれ」


「はいは~い」

 攻略が進みあちこちでワールドクエストのフラグが立てられていっているのだが、その確認がえげつない量になってきている。それとは別にAIが新しいイベントを勝手に実装していっているのだが、確認を怠れば本社からの魔の手が伸びるという状況だ。結果的に仕事だけが山積みになっていっている。増員が必要だろうか?そんな事を考えながら、俺は不意に思い出した事を井上に聞いてみた。


「そう言えば、明日の準備は大丈夫なのか?」

 準備と言うのはイベントでの司会進行の件だ。こういうイベントにはGM(ゲームマスター)として誰か出た方が良いだろうという話になって、真っ先に手を挙げたのが井上で、紅一点として消去法で選ばれたのが高橋だ。


「私は大丈夫よ~ただ高橋ちゃんがちょっとゴネていたんだけど、大丈夫かしらねぇ?」


「それは、まあ……」

 プロ(俳優やアイドル)を雇うという案もあったのだが、現場での裁定や処理をする人員を配置する必要もあって、色々勘案した結果、俺達の中から現場に出る事になったのだ。


「すまんな、業務外なのに」


「いいのいいの、私も久しぶりにゲームに入れるから張り切っちゃって。アバターを弄るのって本当に楽しいわよねーGM権限で好きに弄れるし、明日は楽しむわよ~ウフフ」

 根っからのゲーマーである井上は嬉しそうに準備したアバターのデータを見せてくれたのだが、作業の手が止まるからやめてくれ。そう思ったのだが、水を差すと意気消沈しそうだから俺は「そうか」と生返事するにとどめる事にしておいた。


「でも本当に良いのかしら?あの子(高橋)は最後まで出たくありませんってゴネてて、全身フードにマスク姿とか、物凄い恰好のアバター作っていたわよ?顔も影が入るようにして見えないようにして、折角の明るいイベントなのにどうなのかしらね~?」


「それは……仕方がないだろう」

 高橋に愛嬌を求めるのは酷だろう。


「そうねー、ま、何にしても、明日のイベントが問題なく終わる事を祈っておきましょう。高橋ちゃんがゲームに入っちゃうんだから、残るのは中村ちゃんくらいでしょ?何かあったら、ねぇ」

 俺も薄々考えている最悪の事態を指摘する井上に、肩をすくめて見せる。


「怖い事を言うな、その為にこうしてチェックを繰り返しているんだ、問題はない筈だ」


「そうだといいわね」

 井上はどこか確信犯のようにニヤリと笑い、それから俺達は無駄話は終わりだと作業に戻る事にした。

※頑張る鈴木主任回でした。ちょっとストックに余裕がないので本編の更新はまた明日、安心で安全な第1回目のイベントが始まります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本社あほやろ(誉め言葉) あとスライム うん、安全安心ですね 日本のスライムはマスコット枠ですから…
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