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91:報告とウェスト港の解放

 ウェスト港のポータルを開放した私達は、続いてオーガビースト討伐の報告をするために港の管理組合に向かう事にしました。


 スキル(【隠陰】)を使いフードを目深に被れば、大半の人は私の横を歩く大きな狼……スコルさんの方に意識を取られるようですね。それでもある程度の人が居る場所では、私に向く視線が0になるという事はなく、じっとり舐るような視線が揺れる胸に突き刺さります。ただこれは巨乳あるあるというか、いつも通りの反応なので仕方がないですね。魅了をかけてしまう前にサッと通り過ぎれば特に問題ありません。

 そして魅了にかかりやすいのは女性より男性で、反応の違いから推測するに、門の所に居た衛兵さん達のように、何かやっている人は()()()()()()()からかかかりづらく、何もしていない人は()()()()()()()からかかかりやすいようですね。後は私を注視している時間も影響しているような気がするのですが、とにかくそれらの事を踏まえ、自分なりに魅了対策を纏めると、まず顔や体型を隠して肌面積を減らす事、声をかけない事、人間形態で変な動きをせず、注意が逸れるモノが近くにあれば良いという結論に至りました。


 何度も燃やしてしまいそろそろ諦めかけていたのですが、またマント(肌面積を減らす物)の購入を検討しないといけないかもしれませんね。そして何時もスコルさん(視線誘導の囮)が居てくれる訳ではないですから、自前で人の気が引けるモノを用意しないといけないのですが……そうなると【テイミング(魔物を仲間にする)】に挑戦してみるのも良いかもしれません。


 いつの間にか……というより、たぶん角兎にもみくちゃにされた時に習得可能になったのだと思いますが、このスキルを利用してモンスターを連れ歩けば、皆の視線がそちら(モンスター)に向くような気がします。


 町の中でモンスターを連れ歩けば、また何か別の問題が出てくるかもしれませんが、そもそもこの世界の住人(NPC)的に、テイマー(魔物使い)はどういう扱いなのでしょう?

 少なからずスコルさんに対しての反応を見る限りでは、モンスターが歩いている事にギョッとする人はいるのですが、首から下げているギルドカードを見て「ああ、ブレイカーか」と胸をなでおろすという反応なのですよね。

 私の格好も実は結構奇妙というか、フードつきの黒いストラに、白緑色のホルターネックのドレスに左腕だけロンググローブというちょっと可笑しな(露出の多い)恰好なのですが、意外と「ブレイカーの格好は奇妙だなー」くらいの視線なのですよね。つまり多少変な事をしていても、ブレイカーだから仕方がないかと許してくれるような世界観なのだと思います。そういう世界観なのでしたら【テイミング】を試してみても良いのかもしれませんが……とりあえずクエストが落ち着いてからですね。


 【テイミング】だけではなく、他にも色々と取得したいスキルはあるのですが、流石にそろそろ意識せず覚えられるスキルは頭打ちのようですね。

 ここからは「こういうスキルが欲しい」と狙った行動をするか、ブレイカーズギルドの講習を受けて習得していかなければならないかもしません。そんな事を考えていると、町の端、海に面した港の管理事務所が見えてきました。


 長年潮風を浴びて年季の入った建物には、デフォルメされた魚と錨が描かれた『ウェスト港発着場』という看板がかかっていました。一瞬首を傾げたのですが、スコルさんが言うにはこの建物の中に組合事務所もあるとの事ですね。


 何でも昔は船の発着場も兼ねていたのですが、その船便が途絶えた事により管理事務所だけが残って今の形になったそうです。

 ゲーム的なわかりやすさを優先するのなら『管理組合』とか『管理事務所』という看板にしておけばいいのですが、しぶとく“発着場”と書かれている事から、「イベントをこなせば船便が出るのでは?」みたいな考察がβプレイヤーの間でされていたようですね。


「じゃ、まあ…行きましょうか」

 この建物(ウェスト港発着場)にはドアというドアは無く、開口部のような開けっ放しの入り口があり、私は軽く深呼吸をしてからフードを目深に被り、スコルさんの先導で中に入ります。


 中はフェリー乗り場のような感じで、半分はチケット売り場兼各種受付事務所といったカウンターが並んでおり、残り半分は待合所のような椅子が並んでいました。

 壁には古ぼけた運航表がかけられているのですが、船便が途絶えてから久しいのかここ数年かけ変えられた様子はなく、色褪せてボロボロですね。

 小規模なギルド(クエスト受注のみ)も兼ねているとの事ですが、プレイヤーは私達以外おらず、船便の利用客もいないので見事に閑古鳥が鳴いていました。

 何かあった時のためとか、念のため程度に受付カウンターに女性事務員が1人座っていたのですが、今は船長っぽい白いスーツを着た筋骨隆々の男性と何か話しているようですね。


「…ありゃ~組合長(白服船長)じゃない、何かあったのかしら?」

 相変わらずフードを咥えたまま、モゴモゴと器用にスコルさんが呟きました。


「知っている人ですか?」


「知ってるーというか、あっちの白いスーツ着た人がこの組合の組合長。所謂ここのギルマス(ギルドのトップ)ね。クエスト関連でβ時代は何度かお世話になったけど、どうしたのかしら?」

 私とスコルさんがそんな話をしていると、組合長達も私達に気づいたようですね。

 

「おっ…ウルフ?じゃ、ねーな…ブレイカーって事は……フム」

 組合長は事務の女性との話を終え、私達の姿を眺めた後、その視線が私の胸で止まります。


「………」

 私は何か嫌な予感がしてスコルさんを盾にするように持ち上げるのですが……。


「ユリちー……流石にこれはおっさんが困るのだけど……」

 上半身を持ち上げられ、ビヨンと伸びたスコルさんからは不評ですね。ただ組合長に魅了が入っても面倒になりますし、スコルさんには少しの間我慢してもらい、私は喋らない方が良いかもしれませんね。


「あーすまんすまん、そう警戒しないでくれ、ちょっと見かけない胸……いや、ごほん、も、もしかして2人はアルバボッシュからの使者か何かか?」

 組合長は私の突拍子もない行動に呆れたような顔をして、それから状況が状況だからと表情を引き締めました。


「いやー残念ながらそうじゃないのよねーって、何かあったの?」

 何でも組合長の話によると、物資不足の件や、オーガビーストの件でアルバボッシュに救援要請を出していて、その返事がまだとの事ですね。その返信や残りの食料の在庫を確認しに来ていたところに私達が来たとの事です。


「精霊樹を守るために街道を封鎖するのはわかるが……流石にこれ以上は持ちこたえられないからな、せめてオーガビーストだけでも何とかしてくれれば封鎖を解く事も出来るんだが…」

 流石にこの町の兵士や船乗り達だけでは、オーガビーストはどうにもならないとの事ですね。居なくなれば何とかできるのだがと、ほとほと困ったというように肩を落とす組合長なのですが、その言葉に私とスコルさんは顔を見合わせました。


「オーガビーストならおっさん達が倒したから大丈夫よー、オールOK!」


「はっ!!?倒したって、どうやって!?」


「どうやっても何も…こう、バビューン!ガッ、ドカーン、ドドドド!!って?」

 スコルさんの一つも具体性のない説明に組合長は目を丸くすると、頭を抱えました。まあ倒したと言っているのが私に持ち上げられ直立しているスコルさん(大きな狼)ですからね、胡散臭い笑顔を浮かべていますし、信じられないという気持ちもわかります。


「すまんが…何か討伐を証明できる物か、その倒したっていう現場に連れて行ってもってもいいか?」

 私達が2人組だという事を改めて確認した後、到底信じられんというように小さく首を振るのですが、それに関しては問題ないですね。


「ユリちー」

 スコルさんは咥えているオーガビーストの素材が入ったフードを軽く振ってみせた後、床に下ろして欲しそうにモゾモゾと動きました。私は組合長に魅了がかからないよう気を付けながら静かに下ろすと、スコルさんは器用にフードの片方に歯を引っかけて、私に取り出して欲しそうに差し出してきました。

 スコルさんの前足や口では中の物を取り出しづらいのでしょう、私が頷いてからオーガビーストの頭部を取り出すと……今度こそ組合長が固まりました。


「こいつは、本物だな~…マジかぁ…」

 組合長にオーガビーストの素材を見せた事でクエストはクリアした扱いになったようですね、ワールドアナウンスが流れます。


『『オーガビースト討伐隊』によって『ウェスト港』が解放されました。ウェスト港とアルバボッシュ間の街道の封鎖が段階的に解除されていきます。それに伴い地理情報が更新されましたので、詳細を知りたい方はブレイカーズギルドにてご確認ください』

 これでひと段落ですね。わざわざ証明する事を求められた時は少し面倒だと思ったのですが、たぶんこれは、オーガビーストを倒さずウェスト港に到着したプレイヤーかどうかを確認するためのひと手間なのでしょう。


 オーガビーストを討伐せずウェスト港に来た場合は到着しただけの扱いで、オーガビーストを討伐していれば解放と物流の復活といった判定になるのでしょう。まあ内部処理がどうなっているのかなんてプレイヤーの私達からするとわかりませんし、とにかく今日はもう疲れました。ウェスト港の探索はイベントの後ですね。


「へ~い、ユリちー」


「…はい」

 スコルさんが片手を挙げていたので、私達は軽くハイタッチのような真似事をして、2人でクリアをお祝いしました。

※Q:スコルさんはどうやって物を咥えながら喋っているの? A:実は声帯で喋っている訳ではないので、普通に喋れます。ただし咥えていると普通はモゴモゴします。

※アルバボッシュへの連絡に関しては、封鎖されている街道を見に行っていると『手紙の運搬』みたいなクエストが発生するのですが、ユリエル達は見に行っていないのでそのクエストが発生していませんでした。

※組合長とスコルさんの面識ですが、β時代の情報は格差が生まれないように漠然と処理されている事が多く、ちょっと話しただけの個人を覚えているという事はありません。しかも今回の場合は、スコルさんの姿が全く違う姿になっていたので組合長が思い出す事はほぼありません。スコルさんも「まあそういうもんだよね」と思っているのでたぶん指摘する事は無いと思います。


※誤字報告ありがとうございます。11/13訂正しました。

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