89:オーガービースト戦(後編)
私は散乱したアイテムの中から、比較的無事な木の枝を拾って立ち上がりました。属性的なものなのか、木の枝で電撃球を迎撃すれば腕に伝わる衝撃はかなり少ないですね。やはりこれが攻略法なのでしょう。ただ一つ二つ電撃球を落とせば木の棒は駄目になってしまい、そのたびに手近な木の枝を折って新しく入手しなければならないのですが、ギリギリの体ではそれもままなりません。
「ふっくぅっ…」
飛んでくる電撃球を回避しつつ、残り香のような静電気に肌が泡立ちます。掠めそこねた電撃球がパチパチとした衝撃を残すたびに、体がキュッと縮こまり、反応が少し遅れます。
これなら石か何かを【投擲】した方が良いのかもしれませんが、この辺りは湿地帯なので投げるのにちょうどいい石というのは余りないのですよね。泥の中から探すというのも現状難しいですし、大人しく木の枝で迎撃していきましょう。もしかしたら泥や土を蹴りあげるのが最適解かもしれませんが、今の足腰では不可能ですね。まあそれでも、対処法がわかれば追加の電撃球がきても何とか叩き落としていけるのですが、問題はスコルさんが引き付けてくれているオーガービーストの方です。
何故かその動きが鈍ってきているような気がするのですが、流石の長期戦に、オーガビーストも疲れてきたのでしょうか?電気の膜が途絶え途絶えになり、時折たたらを踏むようによろめき、スコルさんへの追撃が鈍る時があります。チラチラとこちらを見て唸る時があるのですが、あまり迫力がありませんね。
「ユリちー!!ごめん、そっちに行った!!」
周囲の電撃球を一通り落とした時、何時までも逃げ回るスコルさんを追いかけるのを諦めたのか、オーガービーストの標的が私に戻ってきたようですね。
「GUUUUOOOOxx!!!」
突進は、速いですね。ただ動きが単調になったような気がするので、合わせる事は出来そうです。とは言え、いっぱいいっぱいなのは私も同じです。
流石に本体は木の棒では迎撃できませんから、右手に魔光剣、左手にルドラの火のナイフ、折角電撃球を落としながら手にした木の棒ですからね、捨てるのも勿体ないので木の枝は尻尾にでも持たせておきましょう。こういうちょっとした時に尻尾が使えるようになったのは本当に良いですね。
疑似的な3刀流。まあ尻尾で攻撃するには対象が速すぎるので殆ど意味はないですが、賑やかしにはなるでしょう。こんなゴミを捨てずに持っておこうとするところが、石や木の棒を拾い集めていたスコルさんと重なってちょっと面白かったのですが、まあそのおかげで対処法に気づけた訳ですし、後で撫でてあげないといけないかもしれません。
スコルさんは逃げ回るだけではなく、しっかりとオーガビーストに手傷を負わせていたようですね。その体には浅い傷が出来ていたのですが、ダメージは殆ど無いようです。
基本的な防御力が高いと言うのもあると思うのですが、あの纏っている電気の膜がこちらの攻撃を軽減するようですね。その防御力を突破するためにはいかに高火力のルドラの火のナイフを当てるかという事にかかってくると思うのですが、どうやら相手もルドラの火のナイフを脅威だと感じているようで、私の左手を確認して軽く目を細めたような気がします。
いくら動きが単調になりつつあると言っても、そう簡単には当たってくれないでしょう。つまり罠を張る必要があるのですが、まあ右側を狙ってくるでしょうね。私は覚悟を決めて、迎撃の態勢を取ります。
突撃してきたオーガビーストがフェイントをかける前に、こちらから踏み込んで、魔光剣でオーガビーストの右目を狙います。まあ相手の右側であれば突く場所はどこでもよかったのですが、当たれば大ダメージが期待できる場所を狙いました。
右攻撃からの左手側への誘い込み……と言うのは読まれたのか、オーガビーストは私から見て右側にサイドステップしました。繰り出される電撃の爪に、咄嗟に魔光剣で頭部だけは守ります。
「ぁゥッ、ああぁッぅッ!!?」
右脇腹辺りに突き立てられた爪。衝撃で体が流れ、迸る電撃に内臓がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような衝撃が体中に広がります。流れる電気にビクンッビクンッと体が痙攣するのですが、麻痺の効果は『サルースのドレス』が受け持ってくれました。だから体は動きます。だから、止めを刺させてもらいましょう。
「GUx!?」
何かおかしいとオーガビーストが腕を引いた時、貫いた訳でもない私の体が引っ付いてくる事に、オーガビーストは動揺の呻き声を上げました。ここで初めて、オーガビーストは自分の爪に絡まる無数の蔦に気づいたのかもしれません。
体に爪を突き立てさせてからの反撃、なんていうやぶれかぶれな攻撃ではありません。そんな事をすれば倒しきる前にこちらのHPが無くなりますからね。問題は足を狙われないかと、蔦の強度がもってくれるかでしたが、なんとかなったようです。
まあ単調な動きをしている今、足払いからの追加攻撃と言う搦め手が来る可能性は低かったですし、電気と麻痺対策をすれば、直接的な攻撃力は思ったより無いのかもしれません。
ドレスを固定していた蔦をすべて右側に集めていたので、麻痺耐性を発揮してくれた後、ドレスが解けました。まあ蔦が本体みたいなところがあるので、蔦が残っていたら麻痺耐性はあったのかもしれませんが、その辺りはどうでもいいですね。
もしオーガビーストが左に避けていたら、ナイフで刺しました。もし腕を引いたりせず反対の手で攻撃してきたら、その腕をナイフで刺しました。噛みついて来ても同じです。つまり……。
「終わりです」
私は蔦で絡み取ったオーガビーストの首筋に、ルドラの火のナイフを突き立てます。
「GUGUYUUUUOOOOO!!!!??」
ほぼ純粋な火力の塊を叩き込まれ、オーガビーストは悲痛な絶叫を上げました。電気の膜はダメージを一定以上受けると解除されるのか、パンッと弾けるように消えてなくなります。その衝撃がほぼ無防備な体に直撃したのですが、その程度で攻撃の手を緩める訳にはいきません。
「くぅぅっっ!!」
蔦越しに伝わる電撃と衝撃に耐え、ルドラの火のナイフをオーガビーストの首の奥深くに突き刺していきます。相手も最後の反撃なのでしょう、暴れるようにオーガビーストは腕を振るうのですが、密着する事でその攻撃を受け流しました。
電気を纏った2本の長い鬣が触手のように蠢き、無理やり振り払うような動きをするのですが、これを受けるのはちょっとダメージ的にもきついですね。右側は魔光剣で防いだものの、左からくる鬣は……尻尾の木の枝で払います。パンッと軽い音を立てて木の枝が砕け散ったのですが、一瞬稼いだ時間で左手に力をこめます。メリメリと耐久度を削っている感触はあるのですが、流石にボスらしくしぶとく、なかなか倒れてくれません。
「GUUURUUUUUOOOUUUUXx!!!」
「…ッ!?」
もみくちゃになっていると、体格差を活かして押し倒され、息が詰まります。力では圧倒的にオーガビーストの方が上で、馬乗り体勢になられました。私の右脇腹辺りと相手の左手が蔦で絡まり、私の左手と相手の右首筋はルドラのナイフで繋がっている状態です。この状態では満足な行動が出来ません。
どちらかを一旦離す?でもその後攻撃するチャンスはある?振りほどかれない根拠は?決断がつかぬままの私に、オーガビーストの巨大な顎が迫ります。
「ユリちーー!!!」
迫るオーガビースト顔、その首筋に再びスコルさんが喰らいつき……その攻撃が止めになったのか、オーガビーストの赤く爛々と輝いていた瞳が生気を失い、その体が重力に従い落ちてきました。
「え?」
勿論オーガビーストに組み伏せられていた私の上に降ってくる訳なのですが、助けを求めようにもスコルさんはオーガビーストの首筋に喰らいつき、一緒に落ちてきているのでどうしようもないのですよね。
私はオーガビーストの巨体と、スコルさんと、泥だらけの湿地帯に挟まれ、ぐちゃぐちゃになります。
『ウェスト地方に出現していたエリアボス、オーガビーストが退治されました。これが初めての討伐のため、ワールド全体にアナウンスが流れています。初回討伐者にはSP3ポイントが進呈され、『オーガビーストの討伐者』の称号が授与されます。オーガビーストと浄罪の花は初期位置に戻された後、弱体化されたのち再出現いたしますので、未討伐の方は是非チャレンジしてください。オーガビーストの情報については最寄りのブレイカーズギルドにてご確認ください』
何か色々な物に押しつぶされながらワールドアナウンスを聞く事になったのですが、とにかくなんとか、スコルさんと2人でオーガビーストを倒したようですね。私は大きく息を吐いてから、体の力を抜きました。
※ちょっと予想していたより難敵でしたが、何とか倒しきる事が出来ました。きりが良いのでちょっと描写が足りなかったと思われる所に補足を入れていこうと思います。
Q:結局スコルさんのレベル上げは上手く行ったの?
A:実はローパー倒している間にレベルが上がっているので、SPの問題は解決していました。面白そうだからとスコルさんが黙っていました。
Q:狼耳の女性が襲われている辺りで、スコルさんが離れた理由は?
A:特定条件下で魅了効果が強くなるので、危なくなったので離れていました。やむにやまれぬ事情があったとだけお伝えしておきます。
Q:散乱したアイテムが電撃球にぶつかるのは時間的におかしくない?
A:あの頃になると【高揚】の効果で実際の時間と思考速度があっていないので、スローモーションになっていると思ってくれたら助かります。
Q:何でオーガビーストが途中で失速したの?本当にバテたの?
A:セクシーポーズの条件の1つに肌面積というのがあって、ドレスが破けた事により効果が激増していました。実は脱げば脱ぐほど強くかかります。なのでその辺りのタイミングでターゲットがユリエルに移りました。
Q:そんな魅力効果が高まっていたのなら、なんで最後スコルさんは動けたの?
A:気合です。と言うのは半分冗談で、噛みついた距離だと流石のスコルさんにも魅了がかかっているので、あの後ユリエルを襲って少し美味しい目をしました。そして調子にのっておもいっきり殴られています。
※誤字報告ありがとうございます。11/4訂正しました。




