88:オーガービースト戦(中編)
※本当なら『前編』『後編』にしたかったのですが、ちょっと文字数が増えてしましたので3部構成となりました。
※前回、どういう場所で戦っているのかわかりづらかったので描写が足され『少し開けた花の咲いている場所』みたいな所で戦っている事になりました。流石に樹木生い茂る場所をオーガビーストがトップスピードで突き進んでくるのは絵面的にも不自然ですし、たぶん対処がかなり難しくなると思います。なのでボス戦によくあるちょっと開けたフィールドみたいな所だと思ってくれたら幸いです。
オーガビーストが纏った電気の膜と、傍らに浮かぶ数十個の電気の球体。オーガービーストが嘶くように唸り声をあげれば、威嚇するようにパリパリと電気が舞いました。第2ラウンド開始と言うところですが、これはちょっと、不味そうな予感がしますね。
「ユリちー、これって…」
「ええ……来ます!」
私とスコルさんが直感的に嫌な予感を抱いた瞬間、オーガビーストの周囲に浮いていた電球が私達目掛けて動き始めました。
電撃球の大きさはだいたい拳大で、飛んでくる速度も子供がボールを投げた程度の速さなのですが、それが数十個、同時に緩くホーミングしてくるという地味にどうしようもない攻撃ですね。
「こなくそっ!」
反射的に距離をとった私とは違い、スコルさんは突撃する事を選んだようですね。飛んできた数十個の電撃球を掻い潜りながら、オーガビーストに肉薄していきます。それを横目で確認しながら、私は電撃球から逃げ回るのですが、なかなか厳しいですね。全力で移動し続ければ攻撃を片方だけからに絞れるので回避も余裕なのですが、どうやらそう簡単にはいかないようですね。
「【ウィンドクロ…ッ!?ってそりゃないんじゃないっ!!」
無数の電撃球を避け、何とか苦労して肉薄したスコルさんを無視して、オーガビーストは雷光を纏って私に突撃してきました。
「GUUOOOUUUxx!!!」
放電しながら私に突っ込んでくるオーガビーストの速度は、魅了が入る前のトップスピードに近いですね。たぶんあの光の膜はある程度の精神攻撃を防ぐ効果もあるのでしょう。雷のような速度で突進してくる相手に小細工を弄してもしょうがないので、私は【ルドラの火】を乗せた短剣で破れかぶれ気味のカウンターを狙いますが……直前で直角に曲がったかと思うと、左側面から爪が振るわれます。
私は空振った剣を補正の力で引き戻し、側面からの襲撃に合わせようとするのですが、それすらも空振ります。
オーガビーストのした事はバックステップ。たぶん一連の動きはフェイントだったのでしょう、カウンターを狙い、足を止めた私に電撃球の群れが襲い掛かります。回避……と一言で言っても、飛んでくる数十個の球体を何時までも回避する事は出来ません。一波二波と避けると、取り囲まれ、逃げる方向すらなくなります。
仕方なく電撃球を剣で払えばバチリとした痺れが剣を持つ腕を襲い、魔光剣でなければその衝撃だけで剣を取り落としていたかもしれません。左手の【ルドラの火】を纏った短剣の方が衝撃は少なかったのですが、ずっと持っていたせいか、数個斬り払った所で耐久度が無くなり燃え尽きました。ここからはルドラの火のナイフですね。これなら問題なく電撃球を斬り払えるのですが、燃費が悪いですし、ある程度電撃球が減るとオーガビーストが再度数十個生み出してくるのできりがありません。MP消費も馬鹿に出来ないので、ナイフを消して回避に専念する事にしました。
いっその事樹木が生い茂る場所に逃げ込んで、電撃球を木にぶつけるという手段をとった方がいいのかもしれませんが、一番の脅威であるオーガービーストからあまり目を離さない方が良いと思います。アレが木々や茂み等の死角からいきなり襲い掛かってくるとなるとそれこそ対処のしようがなくなりますからね、やはりある程度の視界と足場が確保されているこの場所で戦った方が良いとは思うのですが、じり貧気味なのは拭えない事実ですね。
「あちょーーおっさん見て!おっさん!!」
「GOU!?」
電撃球が私の方に流れないように迂回して来たスコルさんが、何とかオーガビーストに再度取りついて本体の動きを妨害してくれたのですが、それがなければ次の突撃でやられていたかもしれません。風の爪で斬られるとオーガービーストが纏っている電気の膜が揺らぎ、電撃球の操作が甘くなるようですね。あまりダメージを与えている様子もなく、攻撃しているスコルさんの方が弾かている場面も多々あるのですが、無理をしてスコルさんは追撃を重ねてくれているようですね。その執拗な攻撃を嫌って、オーガビーストは私から距離を取りました。
離れていく2匹。すれ違う瞬間スコルさんは「球体の方は頑張って」みたいな顔をして通過していくのですが、私は電撃球を避けるので精一杯で、返事を返すのも難しい状態です。
オーガビーストの鬱陶しそうな呻きと、スコルさんの奇声。引きつけ稼いでくれた時間の中、私は電撃球の包囲網が薄くなるタイミングが無いか探ったのですが……なかなか隙がありません。そして電撃球の包囲網を突破する以前の大問題として、こうも動いていると、ちょっと胸が上下左右に跳ねて、重心が狂いそうになるのですよね。
そんな事と思う人がいるのかもしれないのですが、身体的特徴として仕方がないといいますか、私からするとゲームをやる上でも結構重要な問題なのですよね。そもそも現実でこんなに動いたらそれこそ引き千切れるかと言う痛みがあり、【ランジェリー】効果でバストが補正されている今の感覚の方がちょっと変な感じで、ただただ痛みの無い揺れと衝撃、先端に巻き付いた蔦が引き絞られ、強引にもみくちゃにされているような奇妙な感覚に、声が漏れそうになります。
揺れや衝撃は蔦を伝わり、下の食い込みの中に隠れる物も容赦なく押しつぶして、足元がフワフワして回避をしくじりそうになりました。
文字通り命がけで時間を稼いでいるスコルさんには悪いですし、そんな場合ではないのは重々承知なのですが、無理やり与えられる刺激に体が反応してしまうのを止められず、汗が滴ります。
刺激が与えられれば与えられるほど、【高揚】の効果なのか感覚は研ぎ澄まされていき、電撃球の動きがゆっくり見える反面、段々と後のない感覚が体の奥の方から膨れ上がってきました。
「くぅ…ん゙ん゙ッ」
どれだけ感覚が研ぎ澄まされようと、動いているのは長期戦で足元の覚束ない私ですからね、死角から飛んできた電撃球が私の胸の先端を掠め……体中を襲った痺れに、膝をつきます。
よりによって何故そこに、と思わなくもないのですが、投影面積的に人より胸に命中しやすいのは仕方がない事なのかもしれません。強度の無いドレスの薄布が弾け、イビルストラがたまらず千切れました。
迫りくる電撃球の前にポケットの中身が飛散し、ポーションや投げナイフが電撃球により破壊されていきます。勿論その中にはスコルさんから預かっていた『収納のストラ』もあって、弾けてポケットの中身……スコルさんの集めていた木とか石とかのゴミが宙を舞います。
「ふっぁ……」
先端をかすめた刺激に腰が砕け、その場にへたり込んでしまった私に容赦なく電撃球が襲い掛かってくるのですが、そこに落下して来たポケットの中身と電撃球がぶつかり合い、バチバチと弾けていきました。
一瞬の放心の後、不意に「あ、この程度の物でいいのですね」という思いがよぎります。どうやら色々と思考停止してしまっていたようですね。本体ならともかく、電撃球ならこの程度の物で相殺できるようです。
そうですよね、オーガビーストの勢いに呑まれてしまっていたのですが、言ってみればまだ最初のエリアの後半ボスですからね、何かしら対処方があって然るべきでした。
「っ…スコルさん!」
前面から飛んできた電撃球は散乱したアイテムで防げたのですが、上と左右と後ろからの物はまだです。もう足に力が入らなかったので【腰翼】の力で無理やり前に移動した私は残る方向からの電撃球をギリギリで回避しつつ、その事を伝えようとスコルさんに声をかけます。この事にスコルさんが気づいてくれればいいのですがと思いつつ、オーガービーストと戦うスコルさん達の方を見ると……スコルさんは一度木々の多く茂っている場所に入り込んだかと思うと、何か丁度いい大きさの木の枝を咥えて出てきて、ウィンクしました。
大量の電撃球とオーガビーストに追われながらちゃんとこちらの事を確認していた事に驚くべきか、その木を咥えた間抜けな姿に呆れるべきかわかりませんが、私の方もあまり余裕のある状況ではないですね。むしろここからだと、気合をいれました。
※誤字報告ありがとうございます。11/4訂正しました。




