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87:オーガービースト戦(前編)

 私が夢見心地で放心していると、タイミングを見計らったようにスコルさんが戻ってきました。ちゃんと近づいてきた気配があったので違うと思いますが、これはたまたまですよね?密かに遠くから眺めていて、終わったタイミングを見計らって戻って来たという事は無いですよね?気恥ずかしさもあって、私は少し混乱してしまいました。

 急いで指先やスカートの中のぬめりを【ルドラの火】で焼いて、湿ったドレスを【修復(証拠隠滅)】してから、私はホテホテと近づいてきたスコルさんと合流します。


 スコルさんは一度何かを嗅ぐような動作をしたので、緊張と恥ずかしさで少し汗ばみます。気づかれたかもとか、色々なものがこみ上げてきて頬が熱くなるのですが、その事を指摘しても怪しいですし、私は誤魔化す様にローパー達がウネウネしている方を視線で示しながら、別の話題を振る事にしました。


「私達は何も見なかった…いいですね?」


「ん、りょ~かーい」

 ローパーにもみくちゃにされ続けてリスポーンしていった女性の事や、万が一私がやっていた事の一部始終を見ていた場合も黙っているようにという意味を込めて釘を刺すと、スコルさんはどこか気まずそうに了承しました。


 何かスコルさんにしては珍しく「やってしまった」みたいな顔をしているのですが、もしかしてスコルさんもその……ローパーと狼耳の女性の絡みを見て、欲情してしまったのでしょうか?

 勿論スコルさんも男性ですし、そういう感情を抱くのは仕方がないかもしれませんが、何故かちょっと意外に思っている自分が居る事に驚きました。どうやら常日頃の言動とは裏腹に、スコルさんは自制心が強い方だと思っていたようですね。

 目の前にいるのが性欲の有る男性だという危機感とか不快感とかも無くはないのですが、私も変な気持ちになってしまいましたからね、あまり人の事をとやかく言うのも変な気がします。

 というより冷静になり考えてみると、(レッサーリリム)が近くにいましたからね、単純にスキル(魅了)の効果範囲から離れていただけなのかもしれません。なので余り深く考える必要はないのかもしれませんが、何が真実なのかわからないのでちょっとモヤモヤしますね。


 そして冷静になると、先ほどの狼耳の女性に既視感があるような気がするのですが、気のせいでしょうか?あれほど特徴的な見た目をしている人を忘れる事は無いとは思うのですが、思い出せません。顔というより“声”に聞き覚えがあるような気がするのですが……殆ど嬌声だったのでよくわからないのですよね。


「…どうったのユリちー?」

 スコルさんが平静を装いつつ聞いてきたのですが、私は一呼吸を置いてから、軽く頭を振ります。


「…いえ、きっと気のせいです。ここから先はモンスターも多くなりますから、気を引き締めてください」

 今は目の前の問題に集中しましょう。そう私が気持ちを切り替えると、スコルさんはブルリと体を震わせて、ピンと尻尾を立てました。


「あいあいまむ!」

 緊張感のない敬礼の素振りをみせるスコルさんに呆れながら、私達は森の奥に進む事にしました。


 最初はお互いどこかぎこちなく、それでいて一仕事終えた後なので体力的にもきつかったのですが、休憩がてらに1本ずつスタミナ回復ポーションを飲んだり、ローパーを倒したりしながら進んでいるうちに、調子を取り戻してきました。「スタミナ回復ポーションって、こういう時の疲れも取れるのですね」そんな感想を抱いているうちに、例の光る花がぽつぽつと咲いているのを発見しました。


「おーこれが例の花?」


「はい、この辺りからオーガビーストが出るので気を付けてください」

 私は魔光剣を右手に持ち、一度辺りを見回します。花の咲いている場所は少し開けていて、見晴らしが良いのですが、あの速度で奇襲を受けたらたまったものではありませんからね、注意するに越した事はありません。


「了……ユリちー左回避!」

 流石にスコルさんも心持ち真剣な顔で返事をしかけた所で、警告が飛びます。その言葉に従い左に飛び込むように回避をすると、バチリとした気配が猛スピードで後方を通過していきました。


「GUOOOOUUU!!」

 ザッザーっと砂煙を上げながら急停止した、体高2メートル半の鬣をもつ太った狼は、パリパリとした静電気を纏った鬣と尻尾を揺らめかせ、獲物が避けた事を悔しがるように咆哮をあげました。


「これがオーガビスト!?」


「そうです、気を付けてください!」

 反時計回り、オーガビーストの後方を塞ぐような形で駆け出していたスコルさんに声をかけると2~3歩よろめいたのですが、そこから態勢を立て直すと一気に加速しました。私もそれに合わせて時計回りに回り込みながら、相手の様子を観察します。


 光る花を食べたり食べなかったりするらしいのですが、今回は私達が即行動に移ったため、食べないパターンのようですね。アピールの効果は出ているのか、オーガビーストの視線は私の姿を追ってきているのですが、魅了が強くかかっている様子はないですね。軽く首を傾げてから、オーガビーストは私に飛び掛かって来ました。


「【ウィンドクロー】って」


「GOU!?」

 完全に効いていないとは言え、それでも若干の効果は入っているのか、幾分躊躇ったような動きのオーガビーストの後ろ足に、スコルさんの風の爪が命中します。

 速度重視で紙防御と言うのであれば楽だったのですが、どうやらそうでもないようですね。スコルさんの風の爪は浅く傷を入れただけで弾かれます。それでもオーガビーストの注意が後ろに向き、それに合わせて私も踏み込んだのですが、この追撃は気づかれてバックステップで距離を取られます。


 魅了下にあるオーガビーストは、だいたいスコルさんと同速くらいのようですね。追撃代わりに投げつけた私のナイフは、首を傾げる様な動作で簡単に回避されました。


「GYUUOOOXX!!」

 ある程度距離を取ったところで電圧の上がるような音が響き渡り、オーガビーストの周囲にパチパチとした放電現象がおきました。


「スコルさん!」

 私が警告を出すと、スコルさんはウィンクをしながら回避行動をとり始めます。直撃したら耐性の無いスコルさんは一発でアウトなのですが、こんな時ですら余裕をみせるスコルさんに呆れてしまいますね。


「【アピール】!んっふぅッ」

 スキルでヘイトをこちらに向けつつ私も回避動作を取ったのですが、それでも掠めた電撃に、一瞬体が痺れます。

 パチパチとした刺激が体を通り抜け、電気的な刺激に一瞬意識が持って行かれそうになるのですが、麻痺効果は『サルースのドレス』が受け止めてくれたようですね、体は十分動きます。それでも純粋なダメージ分、ピリピリとした甘い刺激に怯んだ私にオーガビーストが飛びかかってきたのですが……。


「させないわよ!っとー、ユリちー大丈夫ー?」

 すかさずスコルさんからのフォローが入ります。再度後ろ足を斬りつけてきた不届き者を振り払う様に尻尾が振られたのですが、スコルさんはちゃんと回避したようですね。オーガビーストは鬱陶しそうに足を止め、離脱していくスコルさんの方を向きました。


「…平気、です!」

 パチパチとした刺激は残っているのですが、動けない程ではありません。


「じゃあ続行という事で!」

 決め手には欠けるのですが、それは相手も同じようですね。私を攻撃しようとすればスコルさんが邪魔をして、スコルさんを追いかければ私の攻撃が、鬱陶しそうに唸るオーガビーストに着実にダメージを与え、徐々にその機動力を削いでいきます。時々麻痺の電撃が放たれ、それは私が受け持つ事になったのですが……。


「ふくっ!?」

 一瞬の放心の隙をつかれ、オーガビーストに距離を詰められます。振りかぶられた電撃の爪を魔光剣で受け止めると、パチパチとした火花が散り、力が拮抗しました。剣の纏った魔力によって電撃の効果は弱められているのですが、それでも纏った蔦がブルブルと震え、剣を取り落としそうになります。


 前回はいたぶるように強弱をつけられたのですが、今回はそれ程オーガビーストにも余裕はないようですね、さっさと止めを刺そうと反対の手が振りかぶられます。回避しようにも上から押さえつけられており動けません。私は【ルドラの火】を纏わせた短剣で反撃を試みたのですが、ほんの僅かですが、オーガビーストの攻撃の方が速そうですね。これは不味いと思いながら私がオーガビーストの顔を見上げると……視界外からスコルさんが飛び込んできました。どうやら私が組み伏せられている間に、スコルさんはオーガビーストの背後を取り、隙をみて飛び掛かったようですね。そのままオーガビーストのうなじに鋭い牙を突き立てました。


「GYUOOUUUX!!?」

 流石のオーガビーストもその攻撃には大きくバランスを崩し、藻掻くようにスコルさんを振り落とそうと暴れだしたのですが、スコルさんが振り落とされるよりも速く、私は【ルドラの火】込みの一撃をオーガビーストの胴体に叩き込みます。


「【ダブルアタック】!」

 払い斬り。初めてまともな一撃が入ったのですが、【ルドラの火】込みでもオーガビーストの体は硬く、ガリガリと岩でも削っているような感触ですね。スキルの効果で追撃が入るのですが、致命傷には程遠く、返す刀で2撃目を入れようとしたのですが、急にオーガビーストの纏う電気が広がりました。


「っ!?」

「つぁっ!?」

 広がる電撃に押し返されるように、私達はオーガビーストの周囲から弾き飛ばされます。どうやらHPがある程度減ったので、攻撃パターンが変わったようですね。オーガビーストの周囲に数十個の電気的な球体が浮かびあがり、本体もパチパチとした薄い膜につつまれているような状態になりました。

※ちょっとユリエル達がどんな場所で戦っているのかわかりづらいので『森の少し開けた花の咲いている場所』みたいな描写を付け足しました。

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