80:トレーニングと待ち受ける罠
レッサーリリムになってから数日間、私はミキュシバ森林でレベル上げをしていました。オーガビーストに挑む場合はもう少し鍛えないといけないと思ったというのもありますし、イベントが発表され、日にちが近づくにつれて他のプレイヤー達がイベントに向けての準備に入って各方面の攻略が止まったからですね。
ボスを倒せばいいと言うものなら1人でもなんとかなるのですが、モンスターの討伐数が一定以上とか、アイテムを何個以上集めるとかいう条件をクリアするのはいくらなんでも1人で進めるのは限界がありますし、感覚の違いにも慣れる必要もあったので、折角なのでレベル上げをしようと思った次第です。
その結果、私のレベルは18になりました。前線組のトップ層が今現在16~19レベル辺りなので、私もトップ層の仲間入りをしていると言って差し支えないレベルですね。
そしてスキルの方はというと、レベル5になったスキルが【腰翼】【片手剣】【筋力増強(微)】【魔力操作】【魔力視】で、レベル4が【看破】【魔人の証明】【収納/展開】【解体】【飢餓耐性(微)】【見切り】【投擲】【キック】【隠陰】、レベル3が【鞄】【ランジェリー】【高揚】【尻尾】【アピール】【テンプテーション】で、レベル2が【ルドラの火】【短剣】【ダブルアタック】【ドレイン】です。
反対に上がらなかったのは【暗視(弱)】と【召喚言語】の2つで、この2つはほとんど使う場面がなかったから経験値も殆ど入っていません。
全体的に強くなったというのはあるのですが、その中でも大きく使用感が変わったスキルといえば【収納/展開】と【尻尾】です。
【収納/展開】は【腰翼】を完全に収納する事ができるようになり、【尻尾】は半分、そして角は親指の半分くらいの大きさまで小さくする事が出来るようになりました。
まだちょっとこめかみの辺りから飛び出しているのですが、この大きさだと髪型で何とでも誤魔化せるレベルですね。短くなった尻尾もグルリと腰に巻いておけばちょっと変わった紐ベルトみたいな感じに早変わりと、わざわざ変装グッズを用意する必要がなくなりました。
【尻尾】に関しては、剣を握って振る事や、牽制にナイフを投げる程度の動作を行えるようになり、かなり出来る事が増えました。
流石に手より精度は悪いのですが、牽制やサポートとしては十分ですね。まあ【尻尾】を使いすぎるとお尻の辺りが変な感じになるのですが、色々と活用していきたいところです。
そしてとうとう【ルドラの火】のレベルが上がりました。効果としては単純に火力が上がり燃費が良くなっただけなのですが、種族効果や【魔力操作】のレベルが上がったためか、多少任意の形に整える事が出来るようになり、【ルドラの火】のナイフなんていう物を作れるようになりました。
これは左手から離すと消えてしまうので【投擲】には使えませんし、常時発動させておかないといけないのでMP消費が激しいのですが、作れるようになった事は大きいですね。威力もかなりありますので、接近戦の切り札に使えそうです。
レベルが上がった事で新しく覚えたスキルは【魅惑】【スタミナ増強(微)】【感覚上昇(微)】の3つで、どれも基本性能を上げるようなパッシブスキルですね。この辺りまでレベルを上げると強くなったという実感もあるので、そろそろオーガビーストに挑んでも良いのかもしれませんが、今日はヨーコさんに頼んでいたアイテムを受け取りに行く日なので、適当な所で狩りは切り上げて受け取りに向かう事にしましょう。
私はレッサーリリムの各パーツを【収納】しておき、【隠陰】で気配を消します。角に髪を巻き付けて結べば、どこからどう見ても人間ですね。何か気配が漏れているのかNPCに警戒される事があるのですが、変装しないよりマシだと割り切っておきましょう。
「ん…」
私は人前に出る前に、粘液が染みた『サルースのドレス』を一度【ルドラの火】で燃やし【修復】しておきます。HPが吸われる感覚にはもう慣れたもので、体の中が温かくなるような刺激に、口元が少し緩みました。このままもう少しだけ頑張っても良いのかもしれませんが、最近は森の中に人が増えて来たので自重しておきます。
今も私の感知圏内にはチラホラとプレイヤー達がいて、その人達と出会わないルートで町に向かいます。これはイビルローパーの問題もあるのですが、ウィルチェさんが光る花とオーガビーストの件をギルドに報告すると本格的な調査が始まり、魔物除けの花がだんだんと町の方に近づいている事がわかった事が大きいですね。
ギルドから追加で調査依頼が出て、今は光る花とオーガビーストの関係性の調査を行う人が居たり、ローパーの駆除に来た人が居たりと、ミキュシバ森林にも人が増えており、他のプレイヤーと鉢合わせする確率が高くなりました。
ちなみに問題になっている光る花とオーガビーストの関係性ですが、オーガビーストが光る花を食べる事以外は特にわかっていないようですね。食べる事で力を蓄えているのだという話もあったり、食べなくても力を発揮するのでまた別の問題だと言われていたりと、攻略掲示板が賑わっていました。
とにかく、モンスターを通れないようにしていた花が食べられ続けており、それに応じて強めのモンスターがムドエスベル山脈の内側に入ってきているというワールドイベントが静かに進行しているようですね。
これは単純に光る花を元あった場所に植え替えれば良いという問題でもないようで、花は抜くと枯れてしまい、ズルはできないようです。
β時代には南のウミル砦が陥落した事がありますし、焦燥感に駆られているβプレイヤーも多く、それがミキュシバ森林に人が増えた一因でもありました。
そして勿論、それだけ人が来るという事は、中にはローパーに返り討ちにあう人もていて……ミキュシバ森林では他のプレイヤーを見つけても近づかないという暗黙の了解が出来つつありました。逆に邪な理由で近づいてくる人もいて色々面倒な事は増えたのですが、人が増えた事でローパーの素材がW Mに流れるようになったのは助かりますね。
私も試しに出品してみたところ、即売り切れとなり、なかなか良い金策になっています。皆が狩りだした当初は高騰していた素材もこの数日で適正価格に落ち着いたのですが、それでもまだまだ高値で売れますし、売り出せば即売り切れ状態となかなか良い感じですね。まあこれだけ流通する事がわかっていたら、わざわざ素材を取りに来なくてもよかったのかもしれませんが、それについては経験値効率の良い狩場を見つけられたと思う事にしておきましょう。
とにかくそんな最近の出来事を振り返りながら、私はヨーコさんとの待ち合わせ場所であるはぐれの里の工房に向かいました。
到着の連絡を入れると『今ちょっとお薬作っていてぇ、臭いがきついから外で待っててちょうだい~』との事です。そのヨーコさんの声が酔っぱらっているような感じなのですが、大丈夫でしょうか?まあ工房棟の外でただ立っているとなると、いくら【隠陰】で気配を消していると言っても目立ってしまうので、臭いくらいなら気にしないので中で待たせてもらう事にしました。
「失礼します、アイテムを引き取りに来まし……っ」
教えてもらった部屋のドアをノックしてから入ると、ピンク色の煙が漂ってきました。トロリと甘いような薬品臭に『サルースのドレス』の耐性が反応し、体が跳ねます。確実に体に悪いと思われる気体に慌てて息を止めたのですが、触れているだけで効果があるのか、容赦なく敏感な所が責め立てられ、呼吸を止めようとする行為が邪魔されます。
これを『臭いがきついから』で済ませるヨーコさんもヨーコさんなのですが、もしかしたらずっと部屋にこもっていて感覚が麻痺してるのか、薬の影響下でハイになっているのかもしれませんね。とにかく、そんな部屋の中で作業をしていたヨーコさんは私が姿を変えていたからでしょう、一瞬不思議そうな顔をしたのですが「フフフ」と壊れたように笑います。
その口元には毒を無効化するための布があてられていたのですが、どうやら完全には中和しきれていないようですね。肌には汗が浮かび、もどかしそうに体をくねらせ、服の上からでもわかるくらい乳首がくっきりと浮かび上がっていました。
※β時代にはあまり狩る人が居なかったので流通していなかった反動もあり、優秀な素材アイテムであるローパーは色々試そうとしている生産勢から引っ張りだこの人気素材です。
ゲームが苦手な人でも遠距離攻撃さえ出来れば狩れるとレベル上げや金策としても大人気で、販売面としては特に女性が出品したローパー素材の売れ行きが良く、ユリエル等知名度のあるプレイヤーが出している物は取り合いになっています。裏で高値で取引されたりしているのですが、流石に本人にその事が伝わると不味いからなのか、プレイヤー同士が口裏を合わせて緘口令をしいているので、ユリエルはそんな事になっている事を知りません。
※誤字報告ありがとうございます(2/5)訂正しました。




