79:レッサーリリム
『レッサーリリムへの進化条件を満たしました、進化しますか?<YES><NO>』
何度見ても、目の前に表示されている文字に変わりはありません。こんな簡単に進化条件を満たせるとは思っていなかったで逆に困惑してしまったのですが、タイミングを考えると条件の1つはレベル15以上というものがあるのでしょう。他は取得しているスキルや行動といったものが条件に入っているような気がしますが、何はともあれ『進化』するかどうかですね。
『レッサー』という所が少し気になりますが、15レベルで進化して終わりとも思えませんので、レベルが上がれば別の上級種族に進化していくという感じなのでしょうか?
それにしても、普通のゲームならもう少し詳細に進化先の情報が出るものなのですが、流石HCP社のゲームというか、不親切極まりないですね。時間がたてば説明が始まるという訳でも、クリックで次のページに移るというタイプでもないようです。
ともあれ、こういう説明不足の場合は大抵碌でもない事の方が多いとは思うのですが、ゲーマーとしては<NO>を選択する理由がないですね。勿論私は<YES>を選びます。
『それでは進化を始めます。身体及び一部のスキルがレッサーリリムに合わせて変化いたしますので、ご了承ください』
出来ればそういう説明は選択する前にして欲しかったのですが、種族の進化ですからね、多少の変化くらいは覚悟しておきましょう。そしてそのアナウンスが終わった後に光が溢れ、進化が始まったのですが……。
「ひゃぅっ、んあ…んん……」
蛹が羽化して蝶に進化する時のような解放感。体が作り替えられていく感覚に、声が漏れました。体が作り替えられる時に感じる痛いとか気持ち悪いとかいった感覚すべてが快感に変わったような快楽の濁流に理性が押し潰されて、何度も絶頂してしまったように体が跳ね、パチパチと意識が弾けました。
「ん゙ん゙ッ、ッーーっ!!?あ゙っあぁッ…ん゙う………ぁ……」
痛い方が良いのかと言われたら困るのですが、気持ちいいのは物凄く困ります。とにかくその抗えない濁流がやっと収まると、無事に進化が終わったようですね。体が再構築された瞬間、力が入らず私はその場にへたりこみました。
全身から噴き出した汗や、垂れる涎、痙攣する体、喘ぐように呼吸をすると肺を満たす空気はまるで初めて空気を吸った時のような新鮮な味わいで、頭が澄み渡るようですね。
意識がしっかりしてくると太ももを伝うぬるりとした感触が恥ずかしくなってきたのですが、それは先ほど倒したローパーの粘液だと思う事にしておきます。進化の余韻なのかもしれませんが、乳首が立っているのも気になりますね。いえ、ちょっと感覚が鋭くなっているせいか蔦の感触が意外と新鮮で……です。
産毛が逆立ち、ピリピリした感覚に少しモジモジしてしまったのですが、気持ちを切り替えて、改めて進化した自分を確認していく事にしましょう。
見た目が最初からそれっぽかったと言われたらそうなのですが、それほど大きく変わっていないようですね。
角はゴツゴツした部分が取れて丸みを帯び、真っ黒い蝙蝠の羽のような質感だった【腰翼】と【尻尾】は紫がかった女性的なデザインに変わっていました。全体的にスラリと華奢になったようなのですが、性能自体は変わっていないようですね。
そして肝心のステータス倍率は、『魔人』がHP:B、MP:B、空腹:F、STR:B、VIT:C、INT:C、DEX:C、AGI:D、LUK:Dだったのですが、『レッサーリリム』はHP:B、MP:A、空腹:E、STR:C、VIT:C、INT:B、DEX:B、AGI:D、LUK:Dと、魔法寄りに変化した感じです。
魔法的な適正が高く感覚が研ぎ澄まされているような感じがするのですが、反面筋力は下がってしまいました。まあそれでも常人より一つ上の『C』ですし、前がボディービルダー並みの筋力だったとすれば、今は普通の成人男性並みの力になってしまったという感じですね。まあもとの筋力からすればどちらも強化されている事には変わりはないので、筋力に関してはそういうものだと諦める事にしましょう。
それより空腹度が『F』から『E』に上がっているのが嬉しいですね。そして他のステータスは器用さがUPした他は軒並み維持と、順当進化といった感じです。
まとめると、筋力は下がったものの、その分魔法適性が高くなり、感覚が鋭く器用になって、空腹度の減りがマシになったといった感じです。そしてオマケなのか、種族固有のスキルを2つ、SP消費なく覚えているようですね。
その2つと言うのが【ドレイン】と【テンプテーション】で、【ドレイン】についてはアクティブスキルで、対象に触れながら使用する事で効果が発動し、スキルレベルに応じたものを吸い取る事が出来るようになるスキルのようですね。レベル1だとHPを吸い取る事が出来る【ライフドレイン】が使えるようです。
【テンプテーション】の方は、何でしょう?説明文には『セクシーポーズをとる事により相手に様々な状態異常をかける』と言った説明が書かれているのですが、セクシーポーズの概念がちょっとよくわかりませんね。技名を言わなくても発動するパッシブスキルに分類されているのですが、HCP社らしいジョークスキルなのかもしれませんね。どういう効果があるのかは後で試してみる事にしましょう。
そしてスキルを見ていて気づいたのですが、どうやら種族的な制限が増え、習得できないスキルが増えているようですね。
新たに制限がかかったのは主に防具系で、【軽鎧】と【服】が取得できなくなっていました。レッサーリリムの服装は【ランジェリー】一択という事でしょうか?取得できる状態になっていなかったので表示されていなかったのですが、この様子ですと【重鎧】スキルも取得不可になっている感じがしますね。
とにかく、そんな感じで進化の結果を色々と確かめていると、ガサガサと何かが近づいてくる足音がしまいた。一瞬人かとビクリと警戒したのですが、「GYAGYAT」と騒がしい声が2体、近づいてきていました。
どうやらゴブリンのようですね。まあそれなりに長い時間ここにいますし、様子を見に来たといった感じなのでしょう。丁度いいですし、私は色々と試してみる事にしました。
「っと…」
私は戦闘に備えて短剣を構えるのですが、筋力がワンランク落ちているので短剣ですら微かに重さを感じますね。ただ細かな動作は『レッサーリリム』の方が補正が上ですし、軽く振った感じでは調整できる範囲なので、鍔迫り合いになったり、長時間の戦闘で武器を保持し続けたりしなければ問題なさそうです。
ガサガサと茂みを抜けてくるゴブリンに投げナイフで先手を……と言いたいところなのですが、新スキルも取得した事ですし、色々と試してみましょう。とはいえ、せ、セクシーポーズをとれと改めて言われるとちょっと恥ずかしいのですが、どういうポーズをとればいいのでしょう?
とりあえず私は胸を強調するように腕を組んで屈んでみたりと、女優である母を参考にポーズをとってみたのですが、なんて言いますか、茂みから出てくるゴブリンに向けてセクシーポーズをとっている状況はなかなかシュールなものがありますね。
「GYAT…!?」
飛び出してきたゴブリンも驚いたように私の体を眺めてきたのですが、この絶妙な間が何をやっているのだろうという奇妙な恥ずかしさとなって襲い掛かってきます。まあ一応そういうスキルですし、ちゃんと効果が発動したのか、ゴブリンがボンヤリした表情でノロノロと2~3歩不用心に近づいてきました。『魅了』でも入ったのか、その下半身に巻かれた布の下からギンギンにそそり立つモノがあるのですが、それは見ない事にして、私はおもいっきり踏み込みゴブリンAの胴体に蹴りを入れます。
「GYAHUUT!!!?」
驚き吹き飛んでいくゴブリンAと、その攻撃で我に返ったゴブリンBがワタワタと反撃してくるのですが、いつもよりその動きが緩慢ですね。何かしらのデバフが乗っているのでしょう。とりあえず私はゴブリンが振り回す短剣を弾き飛ばし、その頭に右手を乗せます。
「【ライフドレイン】」
ズッと何か吸ったような感触があるのですが、私のHPが満タンだからかそれ以上は流れてこないようですね。ただこの攻撃を受けると何かしらの快感が伴うのか、吸われているゴブリンは頬を赤らめ腰をカクカク振っていて、ちょっと気持ち悪いですね。スキルの効果を確かめるとさっさと首を刎ねておいたのですが、【テンプテーション】の効果が入っているからなのか、反撃といった反撃もなかったですね。
流石にすべてのモンスターがこうなるとヌルゲーまったなしですし、精神対抗みたいな隠しパラメーターがあるのかもしれません。そう考えると、欲望に忠実なゴブリンは抵抗力が低そうですし、最大でかかるとこれくらいの効果があると言う事なのでしょう。
「GOBU……」
ゴブリンBを倒したところで、蹴り飛ばされていたゴブリンAがのそのそと起き上がります。『魔人』であればおもいっきり蹴ればそれで即死だったのですが、この辺りに筋力低下の影響が出ているようですね。
(まあ…)
私は起き上がるゴブリンAに投げナイフを投擲しておき、止めを刺しておきます。崩れ落ちるゴブリンを見ながら、私は軽く嘆息しました。これくらいの相手なら特に問題ないですね。ただ微妙な感覚の違いと言うか、勝手が違う所もあるようですし、これは色々と検証や確認が必要そうですね。
※Q:なんで魔法型になると察知する能力が上がるの? A:周囲の魔力の探知能力があがったり、微量な魔力を発して周囲の物を認識するといったソナー能力が上がったりするからです。ユリエルの場合は他にもスキルの効果が上がって周囲の把握能力が上がっています。
※『レッサーリリム』への進化条件は、レベル15以上かつ20以内である事(このレベルの範囲内で以下の条件を満たせなかった場合は別の進化ルートに入ります)。
魔族性持ちの人型である事。防具スキルのうち取得しているのが【ランジェリー】もしくは該当するスキルを取得していない事。角、羽、尻尾のうち2つ以上取得している事。魔法的なスキルを取得している事。他者の精神に影響を与えるようなスキルを取得している事。AIの基準で一定以上の美貌を持っていると判断された人。そして何よりエッチな気分になった事がある人という、かなり条件が厳しい限定的な進化先です。
勿論HCP社の事なので結構優遇されている進化ルートであり、神格へ至れるルートのうちの1つでもあります。
※誤字報告ありがとうございます(2/5)訂正しました。