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76:戻るか進むか

 私達は無事に安全な場所まで避難する事が出来たのですが、そこでお互いの準備のために、一度ばらける事となりました。いえ、勿論こんな所(魔物の居るフィールド)でばらける危険性は重々承知していたのですが、グレースさんはソワソワと落ち着きなく、猫目の人……どうやらウィルチェさんと言うらしいのですが、ウィルチェさんも前屈みで股間を押さえていてと、ちょっと1人になる時間が必要だという事ですね。まあ何をするのかはあまり詮索しないようにしておいて、とにかく私達は一度休憩をとる事となり、その時間を利用して、私はイビルローパーに襲われた場所に戻ってみる事にしました。

 危険である事は承知していたのですが、ドレスの【修復】は出来たものの、それ以外の装備品は燃えるか置いてきてしまい、今の私達は完全に丸腰です。無理やり進むにしても、町に戻るにしても、武器がなければ何かと不便ですし、それに出来たらイビルローパーの剥ぎ取りをおこないたいのですよね。

 倒した後にもたれ掛かった(触れた)ので死骸は残っていると思うのですが、どうでしょう?とにかく確認のために恐る恐る引き返したのですが、どうやら通常のローパー達はイビルローパーを倒した影響なのか、森の奥に引き返しているようですね。私達が落とした装備もいくつか落ちていたので、早速回収しておきました。


 回収できた装備はグレースさんの杖と盾、解体用に持っていた品質『B』の鉄の短剣と、投げナイフが2本ですね。ナップサックは背中側にあったので無事だったのですが、肩紐の部分は燃え尽きてただの袋になって落ちていました。中身の下着や大きな袋、猫耳帽子は無事だったのですが、腰につけていたポーチ類は燃えてしまい、回復ポーションの瓶も割れて使い物にならず、残っていたのは砕けた携帯食料だけですね。とりあえず空腹ゲージもそれなりに減っていたので携帯食料を食べ、残り3箱はナップサックの中に入れておき、尻尾で固定しておきます。


 そして一番の目的であったイビルローパーですが、ちゃんと死骸が残っていました。内部は焼き切れ大きな穴が空いていたのですが、外観はそのままですね。解体用の短剣も無事だったので、早速解体していきましょう。


 イビルローパーは死んでもねちゃねちゃとした粘液を纏っており、かなり切り取りづらかったのですが、なんとか【解体】のガイドラインに従って切り分けます。私の体に絡みついてきた触手もそのままの形で残っており、プニプニでコリコリだったのですが……これも回収しておきましょう。


 袋の大きさに限界があるので、イビルローパーの素材をメインに、隙間に通常種のローパー素材を詰めていきます。勿論ヨーコさんに頼まれていた『ローパーの樹皮』も回収したのですが、この部分はイビルローパーの素材で代用できないでしょうか?代用する事が出来たらかなり良い装備が出来るような気がするのですが、どうでしょうね。その辺りは納品の際に相談する事にして、私は改めて自分のステータスを見ていたのですが、イビルローパーの討伐で2レベルも上がっていますね。レベルは14になり、ユニークモンスター初撃破のSP3ポイントも足して、残りSPは7と、かなり潤沢です。早速新しいスキルをと言いたいところですが、【高揚】(感度暴走)の時のような事があったら大変ですからね、安全な町に戻ってから改めて割り振る事にしましょう。


(さて……)

 素材を剥ぎ取っている最中に襲ってきたローパーを退治していると、もう少しでレベルが15になりそうだったのですが、どうやらレベルが上がる前にこの付近のローパーは一掃したようですね。回収できる素材の量もそろそろ限界なので、時間も潰せたと思いますし、一度グレースさん達と合流しておきましょう。


 私が袋を担いで合流地点に戻ると、妙にツヤツヤした顔のグレースさんとウィルチェさんがいました。お互い何か気まずそうにソワソワと視線を逸らしていたり、ウィルチェさんは誤魔化すように口笛を吹いていたりしたのですが、私が戻ると2人の視線がこちらに向きます。


「落ちていた物を拾ってきたのですが、えっと…」


「あ、ありがとうございます」

 私はグレースさんに装備を返してから、改めてウィルチェさんを見ました。上半身裸に短パンと、よくよく見ると凄い恰好ですね。特に恥ずかしがる必要もなく肌を晒しているのは流石男の人といった感じなのでしょう。

 私がそんな風に眺めていると、ウィルチェさんは口笛を吹くのをやめて、ニコリと人懐っこい笑みを浮かべました。その口元からは少し犬歯が飛び出してきていたので、もしかしたらウィルチェさんは何かしらの亜人種なのかもしれません。

 とにかく、ウィルチェさんは別にPTを組んでいるという訳でもなく、イビルローパーの襲撃を一緒に乗り越えたというだけで行動を共にしていたのですが、これからどうするのでしょう?完全に丸腰ですし、一緒に安全な所まで移動した方がいいのかと思ったのですが……。


「え、なになに?僕に見惚れちゃった?いやーやっぱり僕の可愛さは罪だよねーまあそれも仕方ないかもしれないけど~」


「…私達はこれで行きますので、お疲れさまでした」

 面倒くさい人でしたね。関わり合いにならないでおこうとグレースさんの背を押してその場を離れます。


「ちょちょちょ、待って!こんな状態(丸腰)で置いて行かないで!一緒に連れてって!何でもするからさー!!」


「ぐっ…」

 タックル気味に腰に抱きつかれ、息が漏れます。ぐいぐいくるところは誰か(スコル)さんを思い出しそうですが、それよりウィルチェさんが抱きついてきた事でグレースさんの顔から表情が抜け落ちました。


「……す」

 据わった目でウィルチェさんを見据え、杖を強く握りしめます。流石にいきなり暴力を振るう事はなかったのですが、「うひひ」と笑うウィルチェさんへの殺意だけは上がっていっているようですね。


「あ、ちょ、ちょっと待って、また…」

 その怒りを受けてという訳ではないのですが、急にウィルチェさんは真顔になり、ストンと座り込み、正座をしました。


「どうしたのですか?」

 流石にその不可解な行動の理由を訊ねてみたのですが、ウィルチェさんは照れたように笑います。


()()()から、たてない!」

 にこーっと言い放つウィルチェさんに、キレたグレースさんの手が出ました。


「ずみまぜんでじだ…」

 ボコボコにされて瀕死状態のウィルチェさんは土下座をしていたのですが、グレースさんの怒りはまだ収まらないのかプンプンしていますね。若干グレースさんはこんなキャラでしたっけ?と思わなくもないのですが、素が出て来たというか、それだけ親しくなったのだと思う事にしておきましょう。


「何回ユリエルさんに抱きついたら気がすむんですか!そんなの私だって、抱き、ったいですよ!!」

 怒り方も若干おかしい気がするのですが、まあそれは良いとして、これからどうしましょう?素材(『ローパーの樹皮』)が手に入ったのでこれ以上進む必要はないのですが、経験値的にはもう少し敵を狩っておきたいのですよね。無理をするべきではないとは思うのですが、通常種のローパー程度なら特に問題なく狩れそうですし、デスペナも軽いので様子見がてらに進んでみるのも良いかもしれませんが……。


「2人ともそれくらいにして…私はもう少しでレベルが上がるので進もうと思うのですが、どうしますか?」

 どうやらローパー達は森の奥の方に移動したようなので、それを追おうと思ったのですが、グレースさんは「ユリエルさんが行くのなら」と、私に判断を委ねてきました。ではそのお言葉に甘えて進む事にしましょう。


「あ、待って待って、僕も一緒に行くー」

 とりあえず森の奥に歩き始めた私達の後ろで、よっこいしょと立ち上がるウィルチェさんなのですが、どうしても先ほどの発言(「立った」)から股間に視線がいってしまいますね。別に興味津々という訳ではありませんが、何となくという感じで股間をチラ見したのですが……よくわかりませんね。膨らんでいると言われればそう見えますし、そうじゃないと言われればそうとも見えますので、もしかしたらウィルチェさんなりの場を和ます冗談だったのでしょうか?


「……?」

 グレースさんも同じように思ったのか、股間を見つめながら首を傾げます。


「2人とも酷いっ!?小さいけどちゃんとついてるよ!?」


「そんな事大声で叫ばないでください!!」

 叫ぶウィルチェさんと、グレースさん。とにかくそんな賑やかな2人と共に、私は森の奥へ(ウェスト港方面)向けて歩き始めました。

※Q:なんでグレースさんはキレたの?

 A:罪状「抱きしめられた」「おっぱいの間に挟まった」「抱きついた」「欲情した」他色々→死刑。


※誤字報告ありがとうございます(2/5)訂正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローパーの素材 ぬるぬる これで作る防具は…あっ [気になる点] ケフィアってローパーから出たやつじゃなかったのか… 気が付かなかった どこから出たんだ [一言] よくこれ審査通ったな 一…
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