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72:ミキュシバ森林へ

 私達はPTを組んでから、アルバボッシュの西に向けて出発しました。目的地は一応、ミキュシバ森林を抜けた先にあるウェスト港ですね。一応と言うのはこちら側にはオーガビーストというボスが居て、まだウェスト港に到着したプレイヤーがいないからです。色々な理由(ミキュシバ森林のせい)でこちら側の情報は出づらいのでよくわからないのですが、なかなか手強い相手らしく、とりあえずは様子見と言う感じですね。

 他の(プレイヤー)も大体そういう感じなのか、こちら(西)側は他の場所(東南北)と比べると人は疎らで、オーガービーストに挑むと思われる重武装なプレイヤー達をチラホラと見かけるくらいで、初心者プレイヤーとかは殆どいませんね。これはミキュシバ森林の厄介さもあるのかもしれませんが、β時代にウェスト港に行けた(何があるかわかってる)というのも攻略のしがいがないと思われている要因かもしれません。しかもアルバボッシュの近くに広がる草原に出るモンスターはゴブリンだけと、決して実入りがいいとは言えず、起伏も激しく歩き辛いと、旨味の無い狩場だと嫌厭されているのでしょう。唯一の救いはゴブリン達が隠れるようなスキルは使ってこないので、気配がバレバレで倒すのが楽な事くらいです。


「GOBUUU!?」

 投げナイフを当てたあと踏み込み蹴り倒すと、それだけで大体倒す事が出来ました。アルバボッシュ(最初の町)に近いから殆ど単独で出てきますし、それほど脅威を感じる事なく3匹目のゴブリンを倒す事が出来たところで、私は大きく息を吐きました。蹴るとどうしても大股になり、蔦が食い込みます。1匹目あたりはまあいいのですが、3匹目ともなると、ちょっとだけ滑りが良くなり、少し体を動かせばいやらしく擦りあげられて声が出そうになります。

 本来ならただただ不快なだけなのですが、蔦の肌ざわりと硬さが絶妙すぎると言いますか、たぶんこの辺りは本国(フランス)仕様のままというか、そちらでは大人の玩具メーカーが協賛していた筈なので、その結果が出ているのでしょう。

 今着ているドレスの蔦部分は、ザックリと編まれたオフショルダーのスーパーハイレグを少し広げたような形をしているのですが、大事な所を隠すという名目で細い蔦が先端を摘み食い込んで、支えると見せかけて広がった蔦は動きや振動が全身に伝わるような構造になっています。刺激に反応して体が跳ねると尻尾を通して前と後ろから責められて……集中力はガンガン削られるのですが、【高揚】スキルのおかげで感覚が研ぎ澄まされ、ゾーンに入ったように認識力が上昇し……物凄く、開放的です。


「GYA!!」

 もう一匹、今度は隠れていたゴブリンに投げナイフを直撃させると、ナイフはゴブリンの頭部を貫通しました。とりあえずこれでこの辺りの敵は一掃したようですね。私は上気した熱を逃がすようにゆっくりと息を吐くと、グレースさんのどこかぼんやりした視線に気づき、何か急に恥ずかしくなってきました。


「どうしました?」

 恥ずかしさと高揚感の入り混じった感情を誤魔化すように微笑むと、グレースさんはゆでだこのように真っ赤な顔で首をブンブンと振りました。


「ひゃ!んでも、ない、ですっ!」

 グレースさんは内股気味にモジモジしていますし、おトイレでしょうか?


「呪い、大変そう、ですねッ!」


「……はい」

 口から出まかせに「呪いの装備」と言ってしまったのですが、どうやら信じてくれたようですね。いえ、ある意味本当に『呪いの装備』ではあるのですが、グレースさんのその騙されやすさは社会人としてどうなのかとちょっと心配になりますね……と、ここで改めてグレースさんを見てみたのですが、その身長(168cm)見た目(大人びた顔立ち)で勝手に成人していると思っていたのですが、もしかしてアバターを弄っているだけで、意外と若い方なのでしょうか?そう考えると無理やり身長を伸ばした人特有の空間の把握力の無さみたいな、動きの悪さが見え隠れしているような気がするのですが……。


「……?」

 私がグレースさんを見つめていると、不思議そうに見返されました。


「いえ、もうすぐですね、大丈夫ですか?」

 リアルの事情を詮索しても仕方がないですし、私は話題を変えようと目の前に広がるミキュシバ森林に目を向けました。


 昔はアルバボッシュからウェスト港に続くちゃんとした街道があったらしいのですが、魔王軍の襲撃とともに街道は閉鎖、今は迂回路であるミキュシバ森林を突破するのだけが唯一の道となっているという設定のようですね。色々と気になる事はあるのですが、ここ(迂回路)から魔王軍がやってくる事はないのでしょうか?ゲーム的な理由(ご都合主義)と言われればそうなのかもしれませんが、何かのフラグ(前振り)だと思ってしまいますね。とにかく、森林は人が通るように整備された場所ではなく、広がっているのは靄のかかったような鬱蒼とした森と、常に饐えたようなにおいが漂う湿地帯という、ゲーム的に考えると悪路や自然環境の中を移動するのに慣れる為のチュートリアルといった感じの場所のようですね。移動チュートリアルのためか、出てくるモンスターもゴブリンとローパーだけと、それほど強力なモンスターが居る訳でもありません。油断したら大変な事になってしまうのですが、気を付けていれば大丈夫でしょう。


「それは……はいっ」

 私が話題を振ると、グレースさんは前回ここに来た時の事を思い出したのか、引きつった表情を浮かべたのですが、チラリと私を見るとまた真っ赤になってしまいました。私はそんなブツブツと呪文のように何か呟いている(おばあちゃんへの祈り)グレースさんから視線を外し、距離を離してついて来ている人達を横目で見ました。


 門の所でこれからミキュシバ森林に行くという話をしてしまいましたからね、女性2人だけでミキュシバ森林に行くとなると……まあついて来ようとする人はいるでしょう。

 勿論同じ方向に歩いているだけの人という可能性もありますが、戦闘をしていれば遠巻きに眺め、投げナイフを回収するために意図的に立ち止まると、向こうは何もないところで立ち止ってと、ストーカー行為なのは確定ですね。

 今のところ見つかっていないと思っているからなのか、かなり距離を空けて尾行してきているのですが、バレている事が分かれば距離を詰めてくるかもしれません。1人ならなんとでもなる(逃げ切れる)のですが、その場合はグレースさんが問題なのですよね。また担いでも良いのですが、流石にその状態で森の中を走るのは難しいかもしれません。とりあえず私は気づいていないフリをしつつ、そのまま何事もなくミキュシバ森林に入りました。


 森の中は薄暗く靄がかかっており、何か奇妙なモンスターが蠢いているような気配といいますか、怪しい場所という感じがぷんぷんしますね。微かにサルースのドレスが淡く発光(胎動)して体が跳ねたのですが、周囲をビクビクと見回していたグレースさんには気づかれなかったようですね。

 散々汗を吸ったぬめる蔦の刺激に耐えながら、私は口を押えながら周囲を見回します。何かしらの環境耐性が発動したようなのですが、特に何かあるような気配はないですね。私は出来るだけ平静な声が出るように気を付けながら、とりあえず目の前の問題(ストーカー達)を先に片付ける事にしました。


「…グレースさん」

 私達は森の中、ストーカー達はまだ森の外という場所で、木々がストーカー達の視線を遮った瞬間、私はグレースさんに声をかけました。ちょっと言葉に詰まってしまったのですが、何とかいつも通りの声ですね。


「ひゃいっ!?え、え?っと……?」

 グレースさんは驚きながらも困惑したような声をあげ、少ししてから私の顔を恐る恐るというように見返してきました。


「後ろを見ないでください、どうやらつけられています。厄介ごとに巻き込まれる前にここから離れたいのですが、いいですか?」

 私がそう説明すると、グレースさんは「ヒュ」と息を飲み、慌てて後ろを確認するようなそぶりを見せたのですが、見ないようにと先に言われていたからか、ちゃんと踏み止まってくれたようですね。その場でちょっとよくわからない足踏みをしながら、視線を左右に揺らしました。


「え…え?なん……あ……」

 グレースさんは少しすると何かに思い至ったような顔で、私の全身を見てきました。


「どうしました?」

 戦闘後なので汗もかいていますし、興奮してツンと蔦を押し上げた場所とか、太ももの湿りとか、あまり凝視されると恥ずかしいのですが……ただおもいっきり顔を真っ赤にして首を振られました。


「い、いえ、いえ…は、はい、もちろん、今すぐに離れましょう!このままではユリエルさんが危険です!」

 妙な理解を示すグレースさんの言葉に首を傾げながらも、ストーカー達の心理なんて考えても仕方がありませんし、とりあえず納得してくれたのならそれでいいかという事にしておきました。


「こっちです」

 ミキュシバ森林の中の道は枝分かれしており、獣道が網の目のように走っています。道を大きく外れて森の中に駆け込めば、流石に追ってはこれないでしょう。もし追ってこられる練度があった場合は……ちょっと面倒な事になりますね。仕様(剥ぎ取り不可)的にP K(プレイヤーキラー)とは考えづらいので、碌でもない目的なのでしょうね。


 地面はべちゃべちゃとした湿地帯で走りづらいのですが、感覚は冴えており、今ならどこに木の根があり、どこに枝が伸びているのかまでわかるような気がします。

 私は装備(杖と盾)で走りづらそうにしているグレースさんに手を貸しながら、出来るだけ平坦な道を選びながら走っているのですが、いつもと違う足元の感触と反動に、ちょっと違う刺激が伝わって来て……癖になりそうですね。今はそういう状況ではないと考えれば考えるほど、駄目になるような気がします。無心で走るようにしましょう。とにかくそれなりに距離をとってから振り返れば、撒かれた事に気づいたストーカー達が慌てて森の中に入ってくる姿が見えたのですが、その姿はすぐに木々や茂みに隠れ見えなくなりました。

※ちょっとした補足です。「呪いの装備」は発言の事を指していて、『呪いの装備』はそういうアイテムだという事を指しているので、変換ミスではありません。


※誤字報告ありがとうございます(2/3)訂正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] グレースさんは色々と妄想できるキャラで 面白いなあ [気になる点] このゲーム作っているところは バカだなァ(褒め言葉) というか最初からエロ特化のゲームとして 売ればいいのに 現実ではで…
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