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69:問題のある材料

 ちょっとぎこちないと思ったヨーコさんとナタリアさんだったのですが、少しすれば何事もなかったように元通りになりました。表面上そう取り繕っているだけのような気もするのですが、ナタリアさんが気にかけてくれているようなので、お任せする事にしましょう。


 とにかく、清算なのですが、私のナップサックに入る程度の荷物でしたらその辺りの路上で広げる事もできたのですが、マジックバッグ(収納効率の良い鞄)を持っているナタリアさんのリュックにはスノーベアの部位(腕や足)が入っていたり、ヨーコさんの収納力に至ってはグレーアウルやウルフが数匹丸々入っていたりと、ちょっとその辺りで気軽に出せる量ではありません。なので私達3人は、はぐれの里の工房棟(生産施設)の1室を借りてまずは荷物を広げてみる事になりました。


 私は生産をしないので中に入った事は無かったのですが、見た目は3階建てのシンプルな木造建築で、内部はビジネスホテルのように廊下の左右に部屋が並んでいるような構造ですね。

 ヨーコさんが言うには安い物になると掘っ立て小屋に近い物や、タープのように屋根だけある場所と言うのもあるらしいのですが、今回利用したのは中の上くらいの施設だそうですね。こういう施設では家具や生産用機材の貸し出しも行っているようで、受付でどういう物が欲しいか頼めば用意してくれるそうです。

 ヨーコさんはこのあと生産作業に入るとの事でいくつか自腹で機材をレンタルしており、良い物をレンタルすればするほど費用は高額になるのですが、持ち運びが容易な道具のレアリティは『UC(アンコモン)』か『C(コモン)』が精々で、施設だと『N(ノーマル)』や『R(レア)』の物が使えるとの事で、良い物を作ろうと思えば必要な出費との事でした。

 そしてどの施設でも言える事なのですが、借りた部屋や場所には劣化防止の魔法がかかっており、この部屋の中に置いている間はアイテムが勝手に消える事はなく、品質の劣化も抑えられるそうです。そんな場所で一旦必要なアイテムを選り分けた後、いらないアイテムを清算する事になったのですが、その辺りは慣れているヨーコさんとナタリアさんが率先して行ってくれました。


「それじゃあここからは商談なんだけどぉ、いいかしらぁ~?」

 アイテムの清算やお金のやり取りを行った後、ヨーコさんはそう言いながらポンと手を合わせました。


「よろしくお願いします」

 ナタリアさんも「素材で必要な物があったら協力するわ」と言ってくれたので、この際すべての要求を入れてみようと結構無茶苦茶な依頼を出していたのですが、ヨーコさんは真剣に検討してくれていたみたいですね。


 ちなみに私がヨーコさんに依頼した内容は、【ルドラの火】に耐えられる素材で作られた露出を抑えられる物でありつつ、【腰翼】に干渉しない、出来たらマジックバッグのような収納力がある物というとんでもない物ですね。そして肝心のスキルの分類は……【ランジェリー】で装備できるものを頼んでいます。

 将来的な防御力を考えるとそろそろ【軽鎧】スキルでも取得しなければいけないのかもしれませんが、私の戦闘スタイル(高機動戦闘)を考えると装備は軽ければ軽いほどいいのですよね。それにここまでこの装備(【ランジェリー】)でやってきていると、縛りプレイと言いますか、挑戦としてどこまで行けるか試してみたくなったのですよね。そういうゲーマーとしての血が騒いだだけで、【ランジェリー】統一に他意はないです。


 とはいえ自分でもちょっと詰めすぎたと思うので、【ルドラの火】に耐える事を第1条件に、後はヨーコさんの判断で緩めていっていいとは伝えたのですが、どういう物が完成するのでしょうね。というよりも、素材での支払いでもいいとは言ってくれたのですが、これだけの物だと価格がどうなるかがわかりませんね。法外な値段が出される事は無いと思うのですが、金策漬けの毎日くらいは覚悟したほうがいいかもしれません。


「作る物によるんだけどぉ、ユリエルちゃんの求める装備ならぁ、2つ、候補があるわ~どちらを作るにしても、どーしても必要な素材があるのだけど、それが両方とも問題のある素材なのよね~」

 「困ったわ~」と頬に手を当てるヨーコさん。ちなみにネットで公開されている耐性装備の作り方は2つあって、一つは元から耐性のある素材を加工するというもので、これは魔力(特殊な効果)を秘めた魔獣の皮や何かしらの素材をそのまま加工する感じの物ですね。

 もう一つはアイテムや素材に属性を付与するような形で耐性を持たせた物で、前者の方が効果が高く、後者はどちらかというと鍛えるとかレベルアップさせるという感じのようですね。そして【ルドラの火】に耐えられるレベルの物となると必要なのは前者、最初から魔力の高い素材が必要になるようです。


「ひとつはー、ウェスト港の近くで採れる魔物の素材が必要なんだけどー……」

 その場合作れるのは水属性の布……というより殆ど水に近い特殊素材で、強い『火耐性』があるそうです。作る為にはオタマジャクシとウナギを掛け合わせたようなアンギーフロッグというモンスターの皮膚が必要なのですが、その素材の名前を聞いた瞬間、ナタリアさんは難しい顔をしました。


「うーん、そっちは難しいわね、もう一つは?」

 ウェスト港はアルバボッシュから西、ミキュシバ森林を抜けた先にある港町の事で、β時代では強力なモンスターもおらず簡単に行き来できたそうなのですが、今はまだ到達すらできていません。港町の開放から始めないといけませんからね、ナタリアさんは早々に諦めたようです。


「もう一つっていうのが~……『ローパーの樹皮』、なのよねぇ」

 なんでもこちらは加工すれば強い魔法防御力のある布が出来るそうなのですが、ヨーコさんが困ったように眉を下げながら素材名を言った瞬間、ナタリアさんは嫌な思い出があるのか息を飲んでいました。私はここでローパーの名前が出てきた事にドキっとしたのですが、2人の顔色を窺い、心を静めました。


「え、えーそれは……それ以外に何か使えるのは無いの?ほら、アイシクルの欠片とか…他に代用できそうなのとか」

 氷結の大地で手に入れた新素材がテーブルの上に乗っているのですが、ヨーコさんは肩をすくめます。


「どうかしらねー…作れるかもしれないけど、これからだから……それに私の勘だとぉ、武器とかぁ、攻撃用アイテムに向いていそうなのよね~」

 ヨーコさんが言うには防具に転用できなくもないとの事ですが、氷属性が強すぎて『冷気』に対する対策をしないとちょっと装着するのは難しいかもしれないとの事でした。


「でもアレは~……ねぇ…」

 手伝うと言った手前自分も行く事を考えているようなのですが、ナタリアさんは渋い顔です。


「そんなに手ごわい相手なのですか?」

 私も話でしか聞いた事がなく、あまり人に聞いていいのかわからない話題でしたので、ここぞとばかりに聞いてみましょう。頬が熱くなっていて、ちょっと食い気味に聞いてしまったような気がするのですが、2人に気づかれないように深呼吸をして心を落ち着かせておきました。


「手ごわいというより……厄介?」

 ナタリアさんが言うには、ローパーの表面はアイテム名に『樹皮』とつくように植物っぽい質感をしているらしいのですが、意外と弾力に富んでいて打撃を軽減するそうです。何より表面は常にローションのようなヌメヌメの粘液に守られており、そのヌメリが斬撃や刺突に対する耐性を持っているとの事でした。手軽に用意できる属性攻撃……松明の火や熱もこのヌメリが無効化し、魔法攻撃も効果が薄いと、実はなかなか厄介なモンスターのようですね。まあ動かないので遠距離から攻撃をすれば何の問題もないのですが、弓の場合だと本当に中心に当たらなければヌメヌメと逸れていき、ナタリアさんは正確に狙うために近づこうとしたら危うく掴まりかけた事があるらしく、あまりいい思い出がないとの事でした。

 戦いに行く人はいるのですが敢えて素材として狩る人は少なく、素材の流通量もしれているので高額で取引されているらしいのですが、ローパーを大量に狩っていると知られると色々と勘違いされるとの事で、ナタリアさんは何度か金策に行った以外は行かなかったので、詳しい攻略法はわからないとの事でした。


「そうなのよね~『アンギーフロッグの皮膚』は今の時期(港町解放前)難しいし、『ローパーの樹皮』は納品を頼む訳にもいかないし、どちらも貴重な素材なので取って来てくれたら助かりはするのだけど~…」


「……わかりました」

 その2つしか取りに行ける素材がないのでしたら、仕方がないですね。まずはウェスト港を目指してみて、無理そうなら……ローパー狩りですね。考えると武者震いで下腹部がキュっとなったのですが、私は息を吐いて、熱くなった頬を押さえます。


「無理はしなくていいのよ~」


「そうそう、素材なんてなんとかなるって、氷結の大地の素材もこれから調べるんだし、そっちで良いの作れるかもしれないわ」

 2人は暗に「行かない方がいい」と言ってくれたのですが、私は「ありがとうございます」とお礼を言ってから、これからの(素材回収の)予定を考える事にしました。

※誤字報告ありがとうございます。11/3訂正しました。

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[良い点] 触手に服ひんむかれるんだつたら 最初から服着ないで行けはいいよね [一言] しかしこのゲーム作っている国は 未来に生きてるな…
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