65:Angel Quest OnlineⅡ
種族は12種類の中から選べるのですが、性能はどれも五十歩百歩なので、一番無難なヒューマンを選択しておきましょう。初期職業は数少ない戦闘職の戦士で、武器はまあ……剣と盾でいいですね。ステータスの割り振りとスキルは無難にまとめておき、プレイヤーネームはいつも通りユリエルです。髪の色は薄いピンクで、瞳の色は青色で後はそのままで登録しておきます。チュートリアルがあるようなのですが、AQOⅠと殆ど変わらないようですし、動画で仕様は把握しているのでパスしましょう。初期ナビもOFFですね。すべての項目を埋めるとキャラメイクは終了し、電子的な空間に白い光が広がりました。
『あなたのこれからにさちあれ』
ブレイクヒーローズと比べると幾分硬い声に送り出され、私はAQOⅡの世界に一歩踏み入れました。
AQOⅡはかなり昔から続いているゲームの2作目で、確かAQOⅠが第3世代FDVRのローンチタイトルの1つだった筈です。アップデートを重ねて長年愛されていたのですが、流石に第4世代FDVRが出る頃にはあちこちシステムにガタがきており、「Ⅱが出るんじゃないか?」と噂されていたタイトルですね。
発売日はたしかブレイクヒーローズのβテストが開始される少し前だったのですが、その頃の私は別のゲームで大会の出場をかけて戦績を上げていたので、AQOⅡは積んでいたのですよね。
そんなゲームをわざわざ引っ張り出してきたのは、ちょっと思うところがあったからなのですが……そんな事を考えていると、最初の地点に移動が完了したようですね。接続人数も多いですし、他のプレイヤーとの同期もあるのでシームレスとはいかないのでしょうけど、少し待たされる感じがしますね。
初期職業が戦士だからか、開始地点は始まりの町のすぐ近くの原っぱですね。稼働してから少したっていますし、そもそもⅠからの継続組も多いですからね、フィールドにはプレイヤー達がひしめき合っていました。といっても殺伐としているという訳でもなく、素材集めがメインのようで、本気でモンスターと戦っている人はあまりいませんね。薬草や何かの果実、素材アイテムの収集をしている人が沢山います。
ある程度の範囲にいるプレイヤーの頭の上にはプレイヤーネームが表示されているので、草原の中を名前がひょこひょこと動いている感じですね。他の人と文字が重なり見えづらくなっている人もいるのですが、まあいいです。
ひとまず深呼吸をすると、無味無臭の空気が肺を満たします。体の動きが少し硬く感じるのは、たぶんセクシャルガードが影響しているのでしょう。本当にスカートを下ろすつもりがなかったとしても、それに似た動作が制限される感じですね。しゃがんだ時のスカートの動きも下着が見えないようにしているためどこか不自然で、足に絡みつきます。
何よりブレイクヒーローズを見慣れた目で見ると、この世界はどこかローポリに見えました。軽くていいともいえますが、たぶん作り込みが浅いのでしょう。
プレイヤーが行かない場所、見えない場所まで偏執的に作り込んでいるHCP社と比べると、AQOはある一定の所で作るのをやめて、ファンシーにしあげているような気がします。これはこれで可愛らしい気もしますし、作り込めばいいという問題でもないのですが、意図的に作り込んでいないのと、技術的な問題で作り込めなかったというのには大きな違いがあるような気がします。
例えば今立っている場所は草原なのですが、地面は作り物めいた感じに平坦です。しかもおもいっきり踏み込めば、数センチ下に鉄板でも敷き詰められているような硬い感触があるのですよね。たぶん地面の下なんていう物は作られていないのでしょう。
そもそも柔らかなデコボコ道なんて歩きづらいだけで普通は嫌厭されますからね、そういう人達を考慮してこういう平坦な作りになっているのでしょうが、正直私には物足りません。そういう細かな作り込みの積み重ねのせいで、どうしても作り物めいた印象を受けてしまうのですよね。
これが対人戦メインのFPSやアクションであれば、それこそ#に〇と×があるだけで楽しめるのですが、RPGにはある程度のグラフィックや作り込みを求めてしまうのですよね。
「…よし」
ちょっと気持ちがささくれ立っていた事もあり、考えがネガティブな方向に引っ張られていますね。あまり悪いところをあげつらうのも性格が悪いですし、気持ちを切り替えてプレイしていきましょう。
まずは動作確認とシステム回りのチェックなのですが、流石AQOⅠでこなれただけあって、UIは見やすく直感的です。システムも充実していて、セクシャルガードのレベル、痛覚設定、他にも色々と弄れるようですね。いえまあそれが普通ではあるのですが、何よりインベントリがちゃんと機能しているのが嬉しいです。
チュートリアルクエストも親切で、どこに行けばいいのか、誰に話しかければいいかが表示されているようですね。流石にここまで親切なのはチュートリアルクエストだけですが、MAP上に向かうべき場所が表示されるだけでかなり親切設計に感じます。
私はいくつかの項目を試してみてから、必要なウィンドウを表示させておきます。改めて装備を確認しようと思ったのですが、初期状態だと武器は持っていないのですよね。
持ち運ばないで良いというのは凄く楽なのですが、持ち運ぶ苦労や取捨選択を考える必要がないのはちょっと寂しいですね。
「【インベントリ】」
まだオリジナルコマンドは設定していないので、初期設定のままのコマンドを発言して、インベントリを呼び出します。出て来たウィンドウから『初心者の剣』と『初心者の木の盾』を選択します。
ちなみに着ている服は『初心者の服』なのですが、これはセクシャルガードの関係上脱げないので、ずっと着たままですね。まあ脱げないのが当たり前の事なのですが、何故かちょっと驚きますよね。
スッと出て来た剣と盾のレアリティは両方Epicで、攻撃力や防御力には期待出来ないのですが、耐久度は無限といかにも初心者装備といった物ですね。軽く振ってみた感じも悪くなく、軽くて良い感じです。
「MOFU!」
そしてそんな素振りをしていると、異様にモフモフしたホーンラビットが出てきました。何故かこういうゲームの最初の敵はホーンラビットと相場が決まっているのですが、何故でしょう?まあ大昔のゲームでいうところの、最初のザコ敵はスライムみたいな感じで、いつの間にかザコモンスターとして定着していたといった感じなのかもしれませんね。そのうち移り変わっていくのかもしれませんが、とにかく、目の前にはホーンラビットが現れています。
たぶん私がおもいっきり初心者装備をしていたからでしょう、「大丈夫かー?」と声をかけてくる男性が居たのですが、「大丈夫」だと返しておき、私はホーンラビットに向き直ります。
現れたホーンラビットは物凄くモフモフしていて、つぶらな瞳をしていて、倒してしまうのを躊躇してしまう可愛さですね。撫でようとしてみると「フー!」と毛を逆立てドスドスとその角で刺してきたのですが、痛覚設定が初期値だと1割なので痛みは殆ど無いですね。最初の敵だからというのもあると思うのですが、AIもかなり単調で、一定間隔で攻撃を繰り返すだけですね。とはいえ個別に高度なAIを仕込んでモンスターごとの個性を出すなんて事をやっている会社はまだまだ少ないですし、これが普通なのかもしれません。
攻撃を受けながらそんな事を考えていると、いつの間にかHPがかなり減っていますね。痛みがあまりないので、HPが減っている事に気づくのが遅れました。HPバーは赤色になっていたのですが、どこか痛むという事も、体調が悪くなるという事もありません。普通に動けるのでとりあえず倒してしまおうと私がホーンラビットをぺしぺしと剣で叩くと……何でしょう、この刃物で叩いているという感触は?別に斬り裂いて血が出て欲しい訳ではないのですが、何かよくわからない感触ですね。そのまま何度か叩くと、どこを叩いたからという判定もなく、ホーンラビットは倒れました。設定された急所に当たったら場合は大ダメージを与えるのでしょうが、足を斬ったからと言って足が斬りとぶという事もない感じですね。
まあAQOⅡはクラフトメインのゲームなので、戦闘は2の次3の次なのでしょう。これはこれでやり込めば楽しいのだと思いますが、私には合わないような気がするのですよね。これならいつも通りBLOでもやっておけばよかったかもしれません。
それにしても、他のゲームをやってみて感じるのは、HCP社のおかしなほどのクオリティの高さですね。確かにシステム周りは酷いのですが、というより色々とおかしいのですが、合う合わないでいうと、まだブレイクヒーローズの方が私には合っているような気がします。じゃあ何でブレイクヒーローズではなくAQOⅡをやっているのかというと……よくわかりません。ただあのまま続けていたら引き返せなくなるような気がして怖くなったのですが、離れたら離れたらで、またプレイしたくなっているのですよね。
そしてどうしても思い出すのはあの舐めるような周囲の視線や、甘く締まる感覚です。いけない事だと思いつつ、体が熱くなっていくのがわかります。私は上気する頬を押さえながら、体の奥くから滲み出てくる感覚を誤魔化すように息を吐きました。注意力が散漫になっているのが自覚出来ますね。
その後何とかチュートリアルクエストを終わらせる事は出来たのですが、一向にゲームは捗りませんでした。
※AQOⅡは、第3世代後半~第4世代前半のRPG系ならこれをプレイしておけば大丈夫と言われるくらい有名なタイトルです。長年愛されているシリーズなので所々古いところはありますが、総合的なバランスが評価されています。☆4です。
※男性の名前がわかったのはプレイヤーネームが出ているからで誤植ではないです。
※誤字報告ありがとうございます。(10/19)訂正しました。




