表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/527

62:サルースの館と新装備

※ここからユリエルの装備がちょっとエッチな物になりますので、そういうのが苦手な人はブラウザバックを推奨しておきます。

 正面玄関を抜けた先にあったのは、少し手狭な吹き抜けのエントランスで、正面に大きな階段があり、左右に1階と2階に続く通路が見えました。装飾品は粗方剥がされていたり、窓には木が打ちつけられていたりと、人の手が加えられていたのですが、人やモンスターはいないようですね。私は構えていた剣を下ろし、一息入れました。


 ナタリアさんがどのタイミングでログアウトしたのかわかりませんが、確かセーフティーエリア外でのログアウトの制限時間は40分だった筈です。私が心配している痛みによる強制ログアウトではなく、移動中暇だったのでトイレに行っているとか、今こうしている間にも戻ってくる可能性があるので待つという選択肢もあったのですが……。


「どうしますか?」

 ヨーコさんに相談を持ち掛けたのですが、何故かヨーコさんは異様に汗をかいており、心ここにあらずといった様子ですね。


「そ、そうねぇ…一度、いえー……」

 考えが纏まらないというように、ヨーコさんはナタリアさんを抱える手の位置を時折調整しながら、しどろもどろに言葉を紡いでいました。あまりにも挙動不審だったので、私は「どうしました?」というように軽く首を傾げてみせたのですが、気づかれませんでした。


「フンフン!」

 私達がそんなやり取りをしていると、ヒュギィさんが「こっちこっち」と言うように、ある場所を指さします。それはエントランス正面の、一番目立つ場所に飾られた女性の肖像画ですね。描かれているのは中々勇ましい感じの女性です。


 緑色の髪を纏め上げた女性の足元には一抱え程度の毛玉が描かれているのですが、小さいヒュギィさんでしょうか?それともヒュギィさんの子供や仲間なのかもしれませんが、とにかく、ヒュギィさんが伝えたいのはその毛玉の方ではなく、女性のつけているネックレスの方のようですね。


 絵画なのでハッキリと描かれている訳ではないのですが、どうやらネックレスに刻まれているマークというのが……ブレイカーズギルドのマークですね。ヒュギィさんはネックレスと私の胸元のギルドカードが似ていると言いたいようで、何度もその肖像画のネックレスと私の胸元のギルドカードを指さして手を叩いていました。

 それ(女性の身元)に関しては情報が少なすぎて推察も出来ないのですが、その肖像画とヒュギィさんやヨーコさん達を見比べていると、何か違和感を覚えます。


「もしかして…?」

 私は確認するためにMAP(地図)を開いてみると、予想通りですね。地図に表示されている建物の大きさと比べて、この部屋の奥行きが足りないような気がします。もしかしたら使用人用の通路が後ろを通っているだけとか、拍子抜けする事実が待っているだけかもしれませんが、こういうのは変に捻らず、お決まりのパターンと言うのを調べてみましょう。


「ありました…」

 本当にありました。肖像画の裏を調べると、何か文字が書かれていますね。というよりこれは……【召喚言語】ですね。書かれている文字は『かいへい』でしょうか?心の中で呟きながら軽く文字をなぞると、文字が緑色に光り輝き始めました。そしてガチャン、ゴゴゴゴと、お決まりの入り口が開いたような音が響きます。


「え、え、どうしたのぉ?」

 全く周囲に気を払っていなかったヨーコさんが慌てたようにキョロキョロ見回し、ナタリアさんを抱き寄せます。


「どこかの扉が開いたようですね……音からしたらたぶん近くに……ありました」

 言いながら音のした方向を探ってみたのですが、階段の裏に隠し扉があったようですね。薄っすらとした切れ目が入っており、指をかければ開ける事が出来そうなのですが……私は振り返り、ヨーコさんと、ログアウトしたままのナタリアさんを見ました。

 開けたらボスが出てくるという可能性もありますからね、安全策をとるべきでしょう。


「先に別の部屋を探索しましょうか」

 ナタリアさんが戻ってこなかったとしても、もう少ししたらログアウトされるはずです。危険度がわからない場所に行くのはその後(ログアウトした後)の方がいいでしょう。


「え、ええ、そうねー……」

 ヨーコさんも同意の言葉を口にしかけたところで、ガタンッ!と、もう一度何か音が鳴りました。


「あ……」

 どうやら自動進行のイベントだったようですね。隠し扉から緑色の光が溢れ始めます。


「え、え、え?」

 ヨーコさんはナタリアさんを守るように庇いながら後退し、私は剣を抜きその2人を守る位置に移動します。


 漏れた光はまるで質量をもっているようにトロリと周囲を舐めるように進み……その光を追うように、植物の根が生えてきました。

 エントランスの半分を埋める勢いの植物と、微かに香る木々の匂い。春の風。そんな温かさに包まれたかと思うと、状態異常(『低体温』『凍結』)が回復し、アナウンスが流れます。


『サルースの館の封印が解除されました。これよりサルースの館のポータルが使用できるようになります。リスポーン地点の再設定を行いますか?<YES><NO>』

 どうやらここは『サルースの館』と言うようですね。いえ、それより……私が状況を確認しようと周囲を見ていると、目の前には何かの一覧表が出てきました。と同時に、この場がセーフティーエリアになった影響か、ナタリアさんがログアウトしていきます。これで心配事の一つは無くなりましたね。ヨーコさんはいきなり腕の中から消えたナタリアさんに目を見開いたのですが、セーフティーエリアになって通常ログアウトした事に思い至ったのか、大きく息を吐いていました。


「大丈夫ですか?」

 念のため聞いてみたのですが、小さく「大丈夫」と呟き、ヨーコさんは目を閉じて、深呼吸をしました。


「ごめんなさいね~ナタリーともども足をひっぱちゃって~今度何かで()()()()()するわ~」

 何かその言葉はいつもよりキャラを作っているような、「埋め合わせ」が「口止め」という意味にも聞こえた気がするのですが、気にしないでおきましょう。


それ(足を引っ張った)を言ったら、ヒュギィさんに最初に掴まったのは私ですが……期待しています」

 好意を無下にしても何ですし、そういう事にしておいて、目の前に出て来た一覧表の方に意識を戻しましょう。


『何を求めますか?』

 そう表示されたリストに載っているのは、武器や防具やアイテムなどの一覧です。どうやら解放特典のようで、サルースさんという人の力が宿ったアイテムが一つ手に入るようですね。効果は基本的に“生命力”に影響した物が多く、色々と気になるアイテムがあるのですが、検討した結果選んだのは、やはり“防具”ですね。


 『サルースのドレス』レアリティはUnique(ユニーク)()()で、品質は『A』です。説明文には『生命力を変換する事により【修復(リペア)】が使え、過酷な環境にも耐える事が出来る』とありました。もう少し具体的に説明して欲しいというか、どれくらいのHP(生命力)を使って何を修復するのかとか、過酷な環境とはどの属性を指すのかとか色々と説明して欲しいのですが、説明文にはそう短く書かれているだけですね。しかも名称は『ドレス』となっているのですが、扱いは『防具』なのですよね。HCP社の事ですから単純な表記揺れとも思えませんが、どうなっているのでしょう?

 効果を推察すると、こんな場所(雪原の中)にありますし氷耐性はあると思うのですが、火耐性はどうでしょう?まあ最悪【ルドラの火】に対する耐性が無かったとしても自己修復してくれればいいので、もうこれに決めてしまいましょう。


 私は自分が選ぶ装備の目星をつけた辺りで、ヨーコさんは何を選ぶのかと覗いてみたのですが、少し考えるそぶりを見せた後、軽く息を吐きながら“弓”を選び、光の塊から弓を取り出していました。


「ナタリアさんの分ですか?」


「ええ~私のせいで使っていたの落としちゃったみたいだし、代わりの物くらい用意してあげようかなぁーって」

 嬉しそうに弓を掻き抱くヨーコさんは照れたような笑いながら、そう言いました。


「そうですか」

 ちなみにヨーコさんの選んだ弓というのは、曲がった蔓を本体にして、端に飛び出た瑞々しい葉、透き通るような弦という一つの植物にも見える美しい弓ですね。生命力を矢として放つ事ができるそうで、懐にも優しい(矢代が浮く)武器ですね。更に特殊な効果のある鏃を生成する事も出来るようなので、戦いの幅も増えそうです。


「ユリエルちゃんはどうするの~?」


「私は、『ドレス』にしようと思います」

 効果を推理し始めると悩みそうですし、ヨーコさんのようにサクッと選んでしまいましょう。私はリストの中から『サルースのドレス』を選びます。『これでいいですか?』という確認が出て来たので<YES>を押すると、ポーンという弦楽器のような効果音が鳴り、リストが消えました。


『『サルースのドレス』が選ばれました、取得者の【ステータス】や【スキル】の参照を開始します』

 そうアナウンスが入ったのですが、ちょっと待ってください、何か嫌な予感がします。いえ、本人の体型(ステータス)に合わせてくれるのは助かります。特に私はバランスが(背は低く胸の大きな)悪い体型をしていますし、それは良いのですけど……【スキル】?私の防具系スキルは【ランジェリー】だけなのですが、それが参照されてしまうのですか?


「待ってくだ…ふっぅん」

 私は誰に向けてかわからない制止の言葉を言いかけたのですが、問答無用で温かい緑色の光が私の体を包みました。たぶんドレスが形成されているのだと思うのですが、肌の上を撫でられているような感覚に声が出そうでした。何とか口元を押さえて声が漏れないように耐えるのですが、体が震えます。


「だ、大丈夫~?」

 いきなり悶え始めた私を心配するようにヨーコさんが聞いてくるのですが、私は口元を押さえながらコクコクと頷いて「大丈夫」だと伝えます。


 体にぴったりと沿った光はゆっくりと落ち着いていき、強調するところは強調するように、魅せる所は魅せるように、ドレスの形を作りました。


 光の中から生まれたのは、首元に青白いバラ(【ルドラの火】)を添えた、白緑(びゃくろく)色のホルターネックのドレスでした。ただ私のスキル(【ランジェリー】)を参照したドレスの布地は極限まで薄く、透けて下の肌色が見えていますね。一応見えてはいけない場所は少し色が濃くなっているのですが形は丸わかりで、『ルドラの火』と同じ色の細い蔦が薄布を押さえるように大事な場所に絡みつき、キュッと締めつけてズレないように隠してくれてはいたのですが、逆にそのせいでどこが先端かハッキリとわかるようなデザインになっていますし、体のラインを強調していますし、締めつけられる感覚も落ち着かないのでむしろ無い方が良いまでありますね。

 そんなお邪魔な蔦は胸から視線を誘導するように降りて行き、下もしっかりと守ってくれていたのですが、こちらの食い込みもなかなかキツイですね。

 スカートは当然のようにマイクロミニで、パニエやペチコートを20枚くらい重ねたような開きかけの蕾のようなデザインをして重そうな感じなのですが、かなりフワフワした素材で作られているので足捌きの妨げにはなりません。ただその分着ているという感覚が薄くスースーしますね。1枚1枚の薄さは他の部分と同じなのでいくら重ねようと透けていて、なんとなく形が想像できてしまうという透明度というのはこれでこれで恥ずかしいです。

 背中はいっそ清々しいくらい布が無く、尾てい骨辺りまで丸出しなのですが、フワフワしたスカートのおかげでちょっとだけ誤魔化せていますね。誤魔化せていますよね?後ろ側なので流石に見えないのですが、誤魔化せているという事にしておきましょう。

 そして私が選んだのはドレス(体装備)なのですが、オマケなのか左腕には二の腕まで長さのあるロンググローブが付けられていました。デザインもドレスとお揃いで、透けた白緑色の布地に青白い蔦が絡まるというデザインですね。蔦はグローブを伝い、薬指に小さなバラの蕾がついていました。こうなると右手側も欲しいのですが、そちらは何もないですね。残念です。とにかく光が収まると、私はそんな痴女とも言えるドレスと、今まで装備していた物をごちゃごちゃと身に纏っており、唖然とその場で固まります。


「わ~~……」

 ヨーコさんが何とも言えないような表情で私を眺めてきていたのですが、もう何か、笑うなら笑うとか、もう少しちゃんと反応して欲しいですね。私は頬を押さえて、その場で蹲りました。

※細かな仕様は次回ですが、やっとユリエルの最初のメイン防具が来ました。動いたら大変な所が引っ掛かりそうですが、まあ、大丈夫でしょう、きっと。ちなみにヨーコさんが作った弓ですが、当然ヨーコさんのスキルを参照しており、『色々な効果を付与できる鏃』は専用効果となります。


※ちょっとドレスのデザインがわかりづらいと思いましたので訂正しました。薄い布地を細い蔦で上から押さえているようなデザインのドレスです。10/6。


※誤字報告ありがとうございます。(10/19)訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まだ上になにか着れそうなのが救いか……? そういう調整があるなら先に注意文がないとアレだけど、流石このゲーム会社って感じねぇ
[良い点] うっわ これ男が同じスキルだったら… うっわー [気になる点] これ服の上から重ね着できる⁇ 一応下着判定なので…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ