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60:氷結の大地と雪原の魔物

「ふー…何とかなったね。おつかれー2人とも、新種だよ新種、スノーベアの素材ってまだ流通していないよね?もしかして私達が初かな?」

 ナタリアさんは最後にもう一度横たわるスノーベアに一撃入れ、完全に死んだ事を確認してからやっと緊張を緩めました。


「そうねぇ、珍しいアイテムが採れるといいのだけどーどうかしらねー?」


「もう、ヨーコは夢がないなー」

 嬉々として矢の回収と【解体】に取り掛かるナタリアさんを、ヨーコさんは心配そうに見ながら、スノーベアが急に起き上がってきてもいいように身構えています。


「手伝いますね」

 手際よく【解体】を始めるナタリアさんなのですが、流石にスノーベアは巨体ですからね、1人ではきついだろうと思い私はそう提案したのですが、ナタリアさんには「んー?」という思案顔をされました。


「こっちは私一人で大丈夫。出来たらユリエルちゃんは周囲の見回りに行ってもらえないかな?ほら、【解体】中に襲われても嫌だし、万が一に備えて、ね」

 ひょっこり現れたスノーベアと、この周囲の状況(何者かに崩された場所)を示しながらナタリアさんはそう言います。


「そうねぇ、安全を確保する方が先かもしれないわね~…それじゃあこっちの通路は私が調べさせてもらうわー」

 そう言いながら指さしたのは、私達が入って来た所以外の裂け目の通路ですね。ヨーコさんの運動神経では岩の坂を素早く上り下りできませんからね、何かあって撤退する時に足手まといにならないようにこの場に残っておくという事でしょう。結果的に、一番機動力のある私が外を見てくる(斥候に出る)のが安全だという訳ですね。


「わかりました」


「うんん、ごめんね。その代りこの熊はしっかり【解体】しておくから、ユリエルちゃんも気をつけて」


「そうねぇそれじゃあこれを渡しておくわー何かあった時に使ってね~」

 ヨーコさんから渡されたのは、スノーベア戦で使っていた赤色の小瓶ですね。あの熱ダメージを与えていた方です。


「こうやって蓋を緩めて、中に空気を入れるように振ったら10秒後に爆発するから、範囲は4メートルと言ったところかしらぁ?その範囲に居たら自分もダメージを受けちゃうから、その点だけは気を付けてねー」


「ありがとうございます」


「ふふ、いいのよーまた必要なら言ってねぇ、お安くしておくわよ~」

 セールストークなのか冗談なのかよくわからないヨーコさんの言葉とナタリアさんの笑顔に見送られながら、私は岩の坂を登ります。誰よりも早く新MAPに到達できると言う事には心躍るのですが……それにしてもちょっと、登りづらいですね。

 岩を積み上げて坂にしたという訳ではなく、壁が崩れて坂になったという感じの坂道です。ゴツゴツした岩が固定されている訳でもないので乗ったら揺れますし、周囲の気温の影響なのか霜が降りており、踏めばサクサクという音がして滑ります。


 やっとの事で坂を登りきると、不意に凍えるような風が吹き、私は一瞬目を閉じました。それから目を開けると……そこには雪景色が広がっていました。外ですね。物凄く寒いですね。吐く息が白く凍え、ほたほたと雪が降っていました。


 ゲーム的と言われればそうなのですが、山一つ越えると全く気温が違っているというのは不思議な光景ですね。目の前には雪を被った枯れた森林が広がっており、その先に見えるのはどうやら海のようですね。ムドエスベル山脈と向かい合うような形で巨大な氷山があり、私が今居るのは(山脈)(氷山)の間の窪地といった場所のようです。

 雪が分厚く降り積もり、これはちょっと移動が困難になるレベルですね。あ、軽度の『低体温』の状態異常が入りました。指が細かく震え、感覚が鈍くなったような気がします。気休め程度ですがポンチョを被り、手早く周囲を確認しようと雪原に一歩踏み出せば、確認ログが出てきました。


『『ナタリアと愉快な仲間たち』によって『氷結の大地』が発見されました。この情報を共有しますか?<YES><NO> 現在の発見者:1』

 これで<YES>を選んだらワールドアナウンスが流れそうですね。どうするかナタリアさん達と相談しようとPTチャットを開いたのですが、ナタリアさん達(PTメンバー)の方にもログは出ているようで、『あー…』という、何とも言えない反応が返ってきました。


『これはちょっと~PT名をちゃんと決めておくべきだったかもしれないわねぇ』


『それはどういう意味?良い名前だと思うな!っと、それよりどうするかだけど、私達で探索できるのなら秘密にするのもアリだと思うけど、どうかな?』


『そうですね……』

 『どうかな?』と聞かれたのですが、ダンジョン(一部分)ならまだしも、フィールド(MAP)となると3人だけで探索するのは少し難しそうですね。

 まずこの雪の深さでは移動自体が困難ですし、状態異常(『低体温』)対策をしなければまともに動けるかどうかもわかりません。ヨーコさんに全力投球してもらえばそれなりに戦えるかもしれませんが、費用がかかりそうですし、出来たらもう少しレベルを上げたり、装備を整えたり(気温や雪対策)してから来た方がいい場所だと思いますね。


『難しいと思います』

 私が正直にそう答えると、ナタリアさんは『そっか』と呟きました。それから少しの間考えるような間を挟んで……。


『…それじゃあ共有してしまいましょう。2人もそれでいい?』


『ええ、問題ないわよ~』


『私もその方が良いと思います』

 一斉に人が押し寄せたら押し寄せたらで問題が発生するかもしれませんが、3人だけで攻略するよりは良い結果になるでしょう。


『OK、それじゃあ~えい!』


『『ナタリアと愉快な仲間たち』によって『氷結の大地』が発見されました。地理情報が更新されましたので、詳細を知りたい方はブレイカーズギルドにてご確認ください』


『わわ、っとと、ちょっと待って、連絡が……』

 ワールドアナウンスが流れ、PT名がPT名ですからね、たぶん色々な所からナタリアさんに問い合わせの連絡がきたのでしょう。慌てたような声をあげています。


『私はもう少し周囲を見てきますね』

 ナタリアさんの手が止まってしまった(連絡で手一杯)ので、【解体】にはもう少し時間がかかりそうです。その間ただ待っているだけというのも暇なので、戦闘しない範囲でもう少し探りをいれておきましょう。

 PT行動中にスキルの練習をするのもどうかとは思ったのですが、今は1人ですし、【キック】の検証をしてみるのもいいかもしれませんね。


『ええ、気を付けてね~くれぐれも無茶しちゃだめよぉ』


『わかり……』

 とりあえずヨーコさんに返事を返そうとしたところで、不意に目の前の雪の塊が動き、私は言葉を切りました。いきなり伸びて来た手をバックステップで躱し……雪に足を取られてバランスを崩します。

 単純に雪に埋もれて足捌きが全然できないというのもありますが、やはり足元がフワフワしますね。【キック】の暴発でしょうけど、地面の状態(雪深い)も併せて小回りは最悪です。崩れたバランスは何とか【腰翼】で立て直しているのですが、この寒さだと翼を広げているだけでも凍えそうですね。


『どうしたのー?』

 いきなり言葉を切った私を心配するように、ヨーコさんがそう訊ねてきました。


『すみません、見つかりました』

 私は2人に連絡を入れつつ、左手に剣を持ち、右手で投げナイフを【投擲】しようとしたのですが……『低体温』の状態異常もあり、細かな動作がし辛いですね。何とかナイフを投げたのですが、その毛玉は素早くそのナイフを避けました。体の大きさに見合わず動きが素早いですね。


『すぐ行くから待っててねぇ』


『え!?ごめん、って、ごめん、ちょっと切るね、無茶しないでね!』


『はい』

 ヨーコさんの言葉と、混線しているナタリアさんの言葉になんとか返事を返しながら、私は目の前の敵に集中します。


「FUUUGGAAAA!!」

 目の前に居るのは3メートルちょっとのダルマ型の体に、巨大な腕と短い足を取り付けた全身毛むくじゃらの雪男とかそういう類のモンスターのようですね。隠密系のスキルを使っているのかその巨体の割に気配が薄く、目を離せば雪景色の中に紛れてしまいそうな感じです。


 出来れば2人が駆けつけてくるまで睨み合いを続けていたかったのですが、そうもいかないようですね。雪男はワンステップで踏み込んでくると、右ストレートを放ってきます。


「っ…」

 腕を斬る勢いで剣の刃を立てたのですが、雪男の体毛はかなり強度があるようで斬れません。力も相手の方が上のようで、金属をこすり合わせたような嫌な音をたてて雪男の拳が迫ります。それを何とか体を捻って避けつつ、もう1度投げナイフを投げたのですが、この距離からでも回避されました。

 本当に速いですね。これでは【ルドラの火】を【投擲】しても躱されるだけでしょうし、剣に乗せようにも野生の勘か何なのか、発動させようとすると腕を引っ込めるのでうまくいきません。発動に使用したMPと剣の耐久度だけが無駄に浪費されました。


 じり貧気味に次々と繰り出されるパンチを捌くのですが、細かな足捌きが出来る足元ではないですからね、このままだと押し切られる可能性があります。


(隙を作らないといけませんが)

 私はヨーコさんから渡された赤色の小瓶を取り出したのですが、雪男は私が下がった分だけ詰めてくるので、これはこれで投げるタイミングがありません。


「フン?」

 と、いきなり雪男の攻撃が止みました。毛深くてその顔はよく見えないのですが、何かキョトンとした気配を感じますね。どうやら私の胸元を凝視しているようなのですが、別に胸を見ているという訳ではなく、どうやら首から下げているギルドカードを見ているようですね。


 よくわかりませんが、私はその隙に距離を取り小瓶の蓋に指をかけたのですが……雪男は無抵抗を表すように手のひらをこちらに向けてブンブンと振ってきました。それから手を合わせて「すまん!」とでも言うように頭を下げてきます。


(えっと…?)

 そのモンスターらしくない動きに、一瞬気勢がそがれました。身構えたまま、余裕がなかったので使用していなかった【看破】を使いこの雪男を探ってみると……レベルは不明ながら『ヒュギィ』という名前である事、そしてイエローネーム(中立N P C)だという事がわかりました。

※ちゃんとこのエリアのボスは出てきていますが、流石に今の段階で戦う事はありません。というよりどうやっても勝てません。


※そして少し補足。『エリア』はだいたい大陸などの大きな括りで、『MAP』は場所の事です。アルバボッシュから東に向かった先の第2MAPが氷結の大地で、南に向かった第2MAPは王都周辺といった感じです。

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