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59:氷室の道とスノーベア

 裂け目の中は坑道のように整備されている訳ではないので当然灯りはなく、いくら淡く光ると言っても辺りを照らすような光量はないですからね、入り口から少し入った所で【暗視】スキルが発動し、グレーのフレームのような視界に切り替わりました。

 風がゆっくりと奥の方に向かって吹いており、周囲の気温が低い事もあってかなり寒いですね。【暗視】スキルのレベル的にまだ細かな所は見えないのですが、靴底から伝わる感触からして、どうやら凍結している場所があるようですね。


「気を付けてください、足元が凍っています」

 念のため後ろの2人に注意を促しながら改めて周囲を見回してみるのですが、何か巨大な力で山脈が裂けたと言うような奇妙な道ですね。


「平気、ユリエルちゃんはどう?大丈夫そう?」


「はい、進める所まで進んでみようと思います」


「お願いね、()()()のお守は私がするから」


「うぉぉおおおおん……ちょ、ちょっと、これ滑っ、滑る……」

 ただでさえ踏破性の悪いヨーコさんは、ランタンと謎の光に照らされた薄暗い道や、凍結した地面、更にアップダウンの激しさに苦労しているようですね。


「はいはい、こけないでよー、ヨーコがこけたら洒落にならないんだから、ほら、手を掴んで」

 じゃらじゃらとアイテムを付けているヨーコさんがこけたら確かに大惨事ですね。まあヨーコさんの面倒はナタリアさんに任せるとして、私は周囲の警戒に努めましょう。


 段差や凍結した地面は【腰翼】で越えていけるのですが、寒さで翼が凍り付きそうですね。どうしても表面積と言いますか、空気の触れる範囲が増えますからね、冷えた翼の影響で腰が冷えそうです。


 それにしても、この寒さの影響なのか、それともこの場を覆う魔力のせいなのかはわかりませんが、モンスターと遭遇しませんね。その事を不思議に思いながら奥に進むと……程なくして、少し開けた空間に出ました。

 広さは100メートル四方、一番の特徴は中央に直径30メートル程度の氷が鎮座している事ですね。

 この場所は周囲の魔力の影響を強く受けているのか全体的に淡白色に輝いており、幻想的な雰囲気なのですが……いかにもと言う感じすぎて警戒してしまいますね。ナタリアさんやヨーコさん達も同意見なのか、はしゃぐ事なくむしろ厳しい顔をして、一旦ランタンの灯りを落とします。


「どう思う?」

 とは、ナタリアさんですね。周囲を警戒しながら、武器を短剣から弓に切り替えています。


「あからさまよねぇ…」


「ですね」

 言いながら私達が視線を向けたのは、氷を挟んだ反対側、土砂崩れの後というような岩だらけの坂道がある方向です。どうやら外に繋がっているらしく、そこから光が漏れてきていました。進んだ距離を考えると、山脈の反対側に到達するには早すぎますし、山が半分ほど削り取られて開いた穴と言いますか、何か人為的な意思を感じる場所ですね。待ちに待った山脈の反対側(新M A P)なのですが、手放しに喜んでいいのかわかりません。

 この場所は円形に近い窪地で反対側には岩だらけの坂道があり、こちら側には幾つかの似たような裂け目が走っているという、なんと言いますか……手のひらのような構造をしているのですよね。まあ、その考え(ボスが待ち構えている)は一旦頭の隅に置いておき、私達は視線を交わし合います。


「この光は魔力の残滓だと思うのだけど~何の影響なのかしらねぇ」

 ヨーコさんが地面をこすり淡く輝かせていたのですが、ナタリアさんは肩をすくめます。


「その時は仲良く死に戻りましょう。私は進むに一票だけど、2人は?」


「私もそれで問題ありません」


「ま、ここまで来たら今更よねぇ」

 という事で、進むことに決定ですね。さあ進みましょうと言うところで、岩だらけの坂道の方から気配がありました。私は剣を構えて2人を守れる位置に移動します。2人も緊張感を漂わせ、めいめいの武器を構えました。


 そして坂の上から現れたのは……普通よりちょっと大きいくらいの白い熊でした。いえ、普通と言うと語弊がある大きさ(3メートルちょっと)で、何より2足歩行していたのですが、覚悟していた(ボス)と比べると遥かに小物ですね。

 脚は短くどこか愛嬌があると言えなくもないのですが、その腕は異常に発達しており、2足歩行しながらその指先は地面につくほどで、見た目はリアル寄りなので可愛くはないですね。


「ヨーコ、ユリエルちゃん、さっさと制圧するわよ!」


「はい!」

 白いですし、ノーマルベアより強く、今の私達からすれば高レベルなのでしょうが、この場所をここまで崩した魔物よりかは遥かにマシでしょう。速攻で片付けてしまいましょう。


「GUOOU!?」

 寝床に戻ってきたらいきなり襲われたというような間抜けた様相のシロクマに、ナタリアさんの先制攻撃()が命中します。


「スノーベア、レベルは24、HPより分厚い脂肪(防御力)が問題ね~見た目通り火属性が弱点よぉ」

 私の【看破】だと名前くらいしかわからないのですが、それよりスキルレベルが高いのか、それとも別の種類のスキルなのか、ヨーコさんからの情報が来ます。


「って言われてもねー」

 ナタリアさんが「火属性なんてないわよ!」と毒づいていました。私も属性攻撃は【ルドラの火】しかないのですが、このタイミング(新M A P探索前)でいきなり切るかは悩むところなのですよね。MPを回復させる手段は用意しているので使えなくはないのですが、ヨーコさんがヒラヒラと小瓶を私に見せるように振りながら魔法の詠唱に入ったのを見て、とりあえず一旦通常攻撃を仕掛ける事にしました。


「GUUUOOOOOOL!!!!」

 ナタリアさんの矢を鬱陶しそうに払いながら、苛立たし気に咆哮するスノーベアの周囲に氷の礫が生まれています。何かしらの魔法なのでしょう。発動しきる前に潰そうと私は【腰翼】を使いながら駆け出し……バランスを崩しかけます。


「っ…」

 地面が滑るのもありますが、それだけじゃなくて、何か変に勢いがついて気持ち悪いです。何とか【腰翼】で立て直しているうちにスノーベアの射程に入ってしまったらしく、振りかぶった打ち下ろしの右ストレートが飛んできました。それを何とかダッキング気味(上体を屈めながら)に搔い潜りながら、その勢いのまますれ違いざまの薙ぎ払いを入れます。スノーベアの短い叫び。相手の後ろに抜けたところで片足を軸足にして回転……しようとしたのですが、やはり変に勢いが付きますね。振り返りながら1撃入れられればいいと思ったのですが、予想以上に勢いが付き、1回転半ほど体が回り体勢が崩れます。それでも何とか2撃目をいれたのですが、これ以上攻撃するのは難しいですね。

 軸にした足先が摩擦とともに輝き、急速に凍結してくれたので滑って何とか回転できましたが、足が、足がぐねってなりそうです。摩擦係数の高い(滑らない)地面だったら危なかったです。


 これはもしかして、ある程度の勢いで踏み込むと、地面を蹴っている(【キック】している)という判定になっていませんか?そんな事があるのでしょうか?


 追撃しなければ(ヘイトを稼がなければ)と思ったのですが、ヨーコさんが投擲動作に入ったので攻撃は任せて一度離脱してしまいましょう。魔法の妨害(氷の礫は消えました)は出来たようですし、それで良しとしておきます。


「GUOXU!?」

 ヨーコさんが最初に投げたのは赤い小瓶です。【投擲】の乗った小瓶がスノーベアに命中すると高温を発して一瞬で周囲の氷が溶けました。気化され膨張した空気に押されるように、私はそのまま安全な距離まで離脱します。

 2本目の青い瓶が炸裂すると、スノーベアの周囲に氷の塊が飛び散ります。氷属性と思われるスノーベアにはあまり効果はなさそうですが、熱した後の急速冷却ですね、そこへ駄目押しのように魔法の詠唱が完了します。


「…偉大なるマナよ、ここに集いて敵を討て!ブラスト(炸裂)!!」

 スノーベアを熱で怯ませ、そのうえで急速冷却、地味に足を凍らせて逃げられないようにしているのもポイントですね。耐性やスノーベアの筋力的にその拘束は数秒もつかどうかなのですが、そこへ3連撃目の魔法で駄目押しです。単純な無属性魔法のようなのですが、スノーベアは苦し気な声をあげながらホログラムが弾け、崩れ落ちます。魔法が命中した顔の周辺はボロボロになっており、キラキラとホログラムが立ち上っています。

 流石ナタリアさんが声をかけただけはありますね。ヨーコさんは突進してくる(根性耐え)事を想定して新しい小瓶を取り出していたのですが、崩れ落ちたスノーベアにナタリアさんの攻撃が次々に命中すると、暫くしてスノーベアは動かなくなりました。

※採算度外視で戦えば普通に強いヨーコさん。魔法を使っていますが、別に魔法は得意ではありません。魔法的な付与をするのに必要なので覚えたスキルの応用みたいなものです。ちなみにちゃんと爆発するアイテムも持っていますが、その衝撃で崩落しても嫌なので熱攻撃しています。


※誤字報告ありがとうございます(1/29)訂正しました。

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