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55:護衛と訓練

「よーし、じゃあアタシが先頭で、次がグレース、最後がユリ姉ね!」

 私達3人は改めてPTを組んで、アルバボッシュから出発しました。荒れた平原の向こうに見えるムドエスベル山脈に、ゴールであるウミル砦が微かに見えていますね。


 訓練と言う建前上……というか、実際に戦うとなると俄然やる気になるのか、桜花ちゃんが張り切っているので戦闘は全面的に任せる事にして、私は荷物持ちに専念する事にしました。残金で大きめの袋を買っておいたので積載量はいつもの3倍です。

 そしてスキル欄の説明を真剣な顔で睨みながら、呪文の手順を憶えようとしているグレースさんなのですが、直接戦うのは能力的にも性格的にも難しそうなので、スキルレベルを上げるために魔法を使ってもらう事にしました。

 私もしっかりと仕様を把握していなかったのですが、スキルレベルを上げるだけではなく、他のスキルを取得すれば使える魔法が増えるようで、【光魔法】と【魔力操作】で『ライトアロー』が使えるようになったそうです。光を操作して矢の形にする感じでしょうか?とはいえ詠唱時間は1分くらいで、その威力は弓矢の一撃と同等という、便利ではある(矢の準備がいらない)けど絶妙に使いづらいというブレイクヒーローズらしい魔法ですね。威力はあまり期待できませんが、グレースさんの特訓も兼ねていますからね、頑張ってもらいましょう。


「もー何しているのー置いてくよー!!」


「ひゃいっ!?」

「はい」

 私からすると桜花ちゃんは「元気な女の子」なのですが、グレースさんは始終その言動にビクビクしていますね。桜花ちゃんのグレースさんへのあたりは相変わらずきついのですが、私からするとコミュニケーションを取ろうという歩み寄りがみえるような気がするのですが……まあそれでも、大きな声をあげられるだけで嫌という人はいますからね、人それぞれなのかもしれません。


「大丈夫ですよ、言い方はちょっときついですが、怒っている訳ではないと思います」

 桜花ちゃんに聞こえないように私がコッソリとグレースさんに耳打ちをすると、「ふひぃっ!?」と変な声を上げながら飛び上がり、囁いた側の耳を押さえて後ずさりされました。


「それでも嫌なら言ってください。グレースさんが無理をする必要もありませんから」

 伝えたい事だけ伝えると、私も気持ちを引き締めます。こちら側はモンスターの出現も多いですからね、町から5分10分も歩けば……と、そんな事を考えているうちに、ウルフの気配がありますね。


「グレースさん、桜花ちゃんの所に」

 2人の戦う様子を後ろから確認しようと速度を緩めると、グレースさんもその歩みに合わせて減速してきたので、私はその背を押して先に行くように促します。


「は、はい」

 それで何か察したのか、グレースさんは『ライトアロー』の呪文を口の中で唱え始めます。


「もう!本当に置いてくからね!」

 少し先行する形となった桜花ちゃんは振り返り、元気よく手を振り上げていたので私も手を振り返しながら、周囲を探ります。枯草の生えた茂みはウルフが隠れるほどの背丈は無いのですが、完璧な平地という訳ではないですからね。あちこちに微かな丘や窪地、茂みの深い場所にウルフ達は潜んでいるようです。その数は2匹。まあ初戦としては手ごろな相手でしょう。ただ心配な事があるとすれば、桜花ちゃん、ウルフに気づいているのでしょうか?

 プンプンと怒った様子で引き返してくる桜花ちゃんを見ていると、ちょっとその辺りが心配になりますね。まあウルフとの距離もありますし、大丈夫だと思うのですが、初戦ですからね、ちょっとオマケをつけましょう。


「桜花ちゃん、敵です!」

 私がそう言うと、一瞬桜花ちゃんはポカンとした後、慌てて剣を抜きます。そこに、前方の茂みから飛び出してきたウルフ達がしかけてきます。


「GAWUU!!」

 まだ桜花ちゃんとグレースさんは合流出来てはおらず、距離はそれなりに離れています。そのため茂みから飛び出してきた2匹は、お互いに違うターゲットを、つまり左側のウルフAが桜花ちゃんを、右側のウルフBがグレースさんを狙うようですね。2匹はほぼ最短距離、一直線に2人に駆け寄ります。


 桜花ちゃんはその場で迎撃を選択し、グレースさんの呪文は……間に合いませんね。慣れている回復魔法ならともかく、ついさっき覚えた呪文ですからね、流石にこの短時間での習熟は難しかったようです。


 いつもは騒がしいくらいなのですが、戦闘中の桜花ちゃんは至って静かです。飛びかかってくるウルフの突進を()()回避しつつ、カウンター気味の袈裟斬りをあびせていました。力を上手く受け流せずに少しバランスを崩しかけたようなのですが、威力は問題ないですね。上手く致命傷を与えています。


(ですが……)

 私は咄嗟に右に動いて射角を確保しつつ、鉄の短剣を右手に持ちました。たぶん桜花ちゃんは無意識に、右からくるウルフの攻撃を受ける心配のない左側(安全圏)に回避したのでしょうが、グレースさんの護衛も兼ねないといけない今回の場合は悪手です。2人は完全に分断されてしまって、グレースさんが孤立しています。


「邪悪を滅す…うっひっ!?」

 呪文を唱え、射撃の構えを取る前に、ウルフがグレースさんの眼前に迫ります。呪文が中途半端な所で中断され、何とも形容しがたい光の塊が明後日の方に飛んでいきました。もちろんウルフに当たる事は無く、ダメージは0です。

 ここにきてやっと桜花ちゃんは自分の判断ミスを理解したようなのですが、今からグレースさんとの距離を詰める方法がありません。

 咄嗟に盾を構えるグレースさんなのですが、せめて目はちゃんと開けておきましょう。飛び込んでくるウルフと違う方向に向けている盾を見ながら、私は短剣を【投擲】しました。


「GUAUU!?」

 横合いからのナイフの一撃に、ウルフが跳ねます。【腰翼】を使い距離を詰め、その勢いのまま体重を乗せた蹴りをお見舞いして止めを刺しておきます。

 それにしても、機動力が上がると足技がなかなか便利ですね。スキル欄に【キック】がありましたし、取得しておいた方がいいでしょうか?まあそれは良いとして……。


「ご、ごめ…大丈夫だった?」


「だ、だいひょうぶです……」

 腰の抜けたグレースさんに慌てて桜花ちゃんが駆け寄ってきますが……初陣としてはまあまあですね。最初から上手くいくとは思っていませんでしたし、こんなものでしょう。


「………」

「………」

 ウルフに刺さった短剣を回収していると、二人は何故か恐る恐ると言う様子で私の顔を見て来たので、首を傾げます。


「どうしました?」


「あ、うん……ごめんユリ姉」


「すみません……」

 もしかして2人とも何か言われると思っていたのでしょうか?


「大丈夫ですよ、2人とも上出来だと思います。桜花ちゃんのカウンターは見事でしたし、グレースさんも初めての呪文にしては驚くほど早かったです」

 私はただ思った事を口にしただけなのですが、2人の顔色が明るくなりました。あ、でも何かちゃんと小言を言わないといけない雰囲気ですね。


「ただ桜花ちゃんは今回護衛ですからね、下がって合流するか、右側に回避して2匹とも持つべきでした。グレースさんはせめて目は開けて戦ってください」


「うぅ、はい、わかってまーす」


「はい……」

 シュンとしてしまった2人なのですが、その意識をこちらに向けるために私はポンと手を合わせます。


「ウミル砦まで先は長いですし、少しずつ詰めていきましょう」

 私がそう締めくくると、2人は何か複雑な顔をした後、お互いの顔を見合わせていました。

※ちなみに桜花ちゃんが初めてウミル砦に行ったときはシグルドさんがバッサバッサと斬り捨てて、十兵衛さんと桜花ちゃんが残りを始末してという感じで進むというイージーゲームで、メイン火力として戦うのは今回が初めてとなります。


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