505:おかえりなさい
(久しぶりにログインしたような気がしますが…時間を空けると不思議な感じがしますね)
キリアちゃんの消滅を伝えられてから落ちたので大森林にある祭壇の近くに出たのですが、数日ぶりにログインしてみたら周りは『呪芽の除草作戦』の話で盛り上がっていて……これは町エリアだろうとフィールドだろうとどこでもお構いなしにウネウネとした黒い根っこが生えて来るというイベントが開催されているからなのですが、この根っこにある程度のダメージを与えて消滅させると経験値が入るというモグラ叩きのようなイベントなのですよね。
その経験値効率が良いのでなかなか盛り上がっているのですが、所かまわず生えて来るのでなかなかスリリングな事になっているようで……たぶん倒し切れなかった根っこが第二第三のデファルセントとなり第二エリアの代理ボスになるといった経緯があるのでしょう。
(それにしても…んっ、こんなに激しかったのでしょうか?)
ボスが復活していないという事で人通りも疎らだったのですが、スキルの影響で広がる感覚に気分が上がってしまい……それだけで鳥肌が立つような気持ち良さに肌が泡立ってしまうのですが、揺れる胸に視線が集まると物理的な感覚として揉みしだかれているような感触がありますし、動いた時のドレスの締め付けや敏感な蕾を擦り上げる刺激に声が漏れてしまいそうでした。
『どうした、やけにモジモジしているが?』
「ぷー?」
(いえ…なんでもありません)
久しぶりの感触に戸惑ってしまったのですが、淫さんや牡丹からするとつい先ほど別れたばかりといった反応で……リアルに関する事柄を2人に説明をしても意味がないですし、あまりクネクネしていても余計に視線を集めてしまうだけですからね、火照った頬を押さえながら適当に誤魔化しておきましょう。
『それじゃあ~これからどうするのかしらー?』
そうしてナーちゃんに核を移し終えたラディも無事にインストールを終えたようですし、ニュルさんも元気よくウネウネと触手をうねらせていて……。
(そう…ですね)
デファルセントが復活したらボス戦に挑もうという人達で賑わうのかもしれない祭壇も、今のところは大森林のモンスターと戦ったり素材を集めようとしたりしている人達の拠点になっているだけの過疎地で……その程度の人混みでも息が上がってしまった訳なのですが、とりあえず人気の無い茂みで呼吸を整えながら考える事にしましょう。
(デファルセントとはまともに戦えませんでしたし、そのうち挑んでみたいのですが…まずは合流する必要がありますし、一旦ここから離れる事にしましょうか)
一応私達にはデファルセントの攻撃を誘導したという功績がありますし、撃破したタイミングで『ディフォーテイク大森林』の奥地に居たという事で撃破SPを貰う事が出来たのですが……まともに戦ったかと言われると全然戦えていなかったですからね、復活して再チャレンジできるようになったら改めて戦ってみようと思います。何て事を考えていると、開口一番怒鳴り声のまふかさんからの連絡が入り……。
『ちょっと、この数日間何をしていたのよ!?しかも繋ぐのなら繋ぐで挨拶の一つくらいしなさいよ!てかあのキリアっていう熊派と何かあったんでしょ?今度こそちゃんと説明してくれるのよね!?』
相変わらず元気な声を聴いているとこちらまで元気が湧いてくるような気がするのですが……このまま笑っていたら火に油を注ぐようなものですからね、笑みを引っ込めてから謝罪をする事にしましょう。
『すみません、色々とありまして…』
そしてどこから説明しよう考えていると、私のログインに気が付いたクランメンバーも続々と会話に参加して来てしまい……。
『え?ユリエっ…さん!?どうえりなさいです!よかった、何かあったかと思うと心配で心配でっ!』
『あっ、本当だ~…やっほー何か大変な事に巻き込まれていたらしいけど大丈夫~?お姉さん達が話を聞こうかー?』
『あら~ユリエルちゃんが熊派に寝返ったとかどうのとかいう噂を聞いちゃったんだけど~?何があったのかしら~?』
グレースさんとナタリアさんとヨーコさんの質問攻めを受ける事になったのですが、皆からは生半可な説明だと納得しないぞという気迫みたいなものを感じるのですよね。
『それは…まあ、色々と?』
流石にHCP社からキリアちゃんが送られて来たという事を言っても良いのかがわからなくて……というのもただの1プレイヤーと運営が懇意にしすぎているというのも不公平感が出てしまいますし、下手をすれば収賄を受けたという事になりかねないので何処まで説明するのが良いのでしょう?
『ああもう、とにかく一旦そっちに行くから…今はどこで油を売っているのよ!?』
『そ、そそれじゃあ私も!!お、お供致します!』
そんな曖昧な返事ばかりしていたらまふかさんとグレースさんが押しかけて来る事になったのですが、これから移動をしようと思っていたところなのですよね。
『今は大森林の祭壇近くですが…これから第一エリアに移動をしようと思っているのでこちらに来てもすれ違いになるかと?』
『祭壇…って、それで何で第一エリアなのよ?あっちはイベント範囲外でしょ?』
『それは…』
このままだとまふかさんに吊るし上げられかねませんし、ちゃんと説明しないと納得してくれないのでしょう。
そういう訳で大森林の祭壇から『ギャザニー地下水道』の祭壇へ、『ギャザニー地下水道』から『エルフェリア』のポータルに移動し奪還しなおした『セントラルキャンプ』から第一エリアへとポータルを乗り継ぎながら途切れ途切れにゲーム内であった事を説明する事となり……。
『だから!あんたはそうやっていっつも面白そうなイベントばっかり独り占めしようとするのよっ!ちょっと待っていなさい、すぐに…って、今はどこにいるのよ!?』
『そっ、そうですよ!言ってくれたらお手伝いしましたのに!』
『すみません、大人数で押しかけるようなものでもありませんでしたし…』
結局怒られてしまったのですが、教えたら教えたらで大変な事になっていたような気がするのですよね。
『まあまあ2人とも、ユリエルちゃんにも理由があったって事でしょ?』
そうして言い争いに発展する前にナタリアさんが仲裁に入ってくれたのですが、そんな感じで数日ぶりの会話を楽しんでいたら渡しておいたデバイス経由で連絡が入り……かなりおっかなびっくりだったので心配だったのですが、どうやら無事にログインする事ができたようですね。
(初期地点は『アルバボッシュ』…ですか)
もう少し特殊な種族を選ぶかと思ったのですが、どうやら無難な人間を選んだようで……初期地点となる『アルバボッシュ』にも到着したようなので私達もその辺りに向かう事にしましょう。
(「ユリエルのように面白おかしい種族を選ぶほど酔狂ではないわ」…という事でしょうか?)
流石に町の中に入ると面倒くさい事になるので町の外で待ち合わせする事になったのですが、現在のプレイヤー分布としては第二エリアが8割で第一エリアが2割と……第二エリアと第三エリアを結ぶ大橋を修繕する為の資材を運ぶためという名目で『ウェスト』と『イースト港』を結ぶ船便は出ていますし、イベントに参加しようという人は参加出来るようになっているのですが……「経験値が美味い」という話を聞いて挑んだプレイヤーが返り討ちにあっていたりと、低レベル帯のプレイヤーが第二エリア後半レベルの呪芽を狩るのはなかなか大変なようですね。
(たぶんそういうのを狙っているのだと思いますが)
このイベントがひと段落すると船便が縮小されて行くようなのですが、それまでは誰でも移動が可能で……なので第一エリアに居る人達はイベントに興味がないか本当に初心者といった人達ばかりなのですが、そういう初心者装備に身を包んだ人達が意気揚々と角兎やウルフ達に追い回されている姿を懐かしむように眺めながらゲームを開始した頃の自分を思い出していたのですが、本当に色々な事がありました。
色々な人に出会ったり、戦ったり、そして何よりHCP社からキリアちゃんが送られて来て……銀子さん1人だと心配だったという事もあってお手伝いロボットを購入する事自体は歓迎されたのですが、唐突にボディーだけを購入する事になったので母に根掘り葉掘り質問攻めにあってしまい……結局すべてを話して納得してもらう事にしました。
(そのおかげでスペックは十分な物を用意できましたが)
むしろ都内のマンションが購入できる額をポンと出してくれた事には驚きながらも感謝しているのですが……返し切れない負債が自分の首を絞めていっているような気がするのですよね。
(来たようですね)
そんな事を考えていると、初心者装備を身に着けている集団に混じって出て来た肩より少し伸びた若紫色の髪を揺らしている少女がキョロキョロと辺りを見回していて……ここで飛び出して行ったら色々とややこしい事になってしまいそうですからね、大人しく町から出て来るのを待つ事にしましょう。
「キリアちゃん!…で、いいのですよね?」
そうして人気のない場所まで出て来たキリアちゃんに話しかけるのですが、一瞬驚いて見せたキリアちゃんは目を細めながら可笑しそうに薄く笑いました。
「ついさっきまで顔を突き合わせていたのに…もう忘れちゃったのかしら?」
緊張感が抜けてやや柔らかく笑うようになったキリアちゃんの見た目はそのままで……たったそれだけの事が本当に奇跡の上で成り立っている尊いもののように見えてしまい、零れそうになった涙を誤魔化すために目を細めます。
「いえ、見た目や名前は変えなかったのですね」
熊派の首魁そのままという名前と見た目はゲームをプレイする上でデメリットになると思うのですが、キリアちゃん的には譲れないポイントの内の一つのようですね。
「ええ、キリアの目的は不意打ちでしか攻撃してこない女をぶちのめす事だから…あまり大きく弄るのもおかしいと思ったの」
リアルボディーを手に入れたキリアちゃんにはブレイクヒーローズ以外の世界を見せてあげたいと思って色々な事を教えてあげましたし、電脳対応の初心者向けのゲームを勧めてみたのですが……「お馬鹿さんに借りを返さないといけないから」という理由でまずはブレイクヒーローズをプレイする事になりました。
因みにキリアちゃんがブレイクヒーローズをプレー出来ているのはこのゲームが電脳化に対応しているからで……というよりむしろ競技性の高いゲームの上位陣となると電子補助されている事が前提になっていますからね、そういうプレイヤーや外部委託のデータを動かすためにこのゲームも電脳化への対応がされているのですよね。
「それで、最初は何をしたらいいのかしら…って、どうしたの?」
それでもNPCとして参加している時とプレイヤーとして参加するのはスキル構成や身体的なスペックが違いすぎますからね、その違いを確かめるようにソワソワと身体を動かしている姿が……本当に可愛すぎますね!
反射的にその小さな身体を抱きしめてしまったのですが、拘り抜いたキリアちゃんの身体はキリアちゃんそのままで……キリアちゃんから言わせると「なんでキリアの体臭なんて覚えているの?」という事になるのですが、この可愛らしい匂いは忘れようと思っても忘れられるものではありません。
「そ、そう…ですね、じゃあまずは…この辺りに居るザコ敵で動きの確認をしましょうか」
だからといってずっと抱きしめている訳にもいきませんし……サンマウンド内の常識を知っていると言ってもリアル世界の常識には疎いのがキリアちゃんですからね、水道から水を出すだけでもおっかなビックリという感じで……そんな姿が物凄く可愛かったのですよね。
「ユリエルさーん!ああ、ユリエルさんだユリエルさん!!」
なので今日はレベリングと基本的な動きの確認の後に経験値イベントに参加しようという話になっていたのですが、猛烈な勢いで突進して来たグレースさんに押し倒されてしまい……。
「確かに居たけど、なんでここに居る…って、なんでそいつが居るのよ!?」
キリアちゃんが居るという事で慌てて武器を取り出すまふかさん達の出現でワチャワチャする事になったのですが、キリアちゃんのリベンジのお手伝いやデファルセントへの再戦、その前に壊れてしまった武器の代わりになる物も探さないといけませんし、ずっと放置していたクランの拠点もなんとかしなくてはいけなくて……。
(まだまだ騒がしくなりそうですね)
屈託なく笑うキリアちゃんと警戒心を露わにしているまふかさんと抱きついて来ているグレースさんの温かさを感じながら、これが幸せなのだろうなと自然と頬が弛んでしまいました。
※Thank you for Playing!かなり奇妙な作品だったと思いますが、長らくご愛顧のほどをありがとうございました。これからの執筆活動に関しては活動報告に上げようと思いますし、第三エリアでやりたい事が出てきたら続きを書く事があるのかもしれませんが、キリアちゃんのお話にも決着がついたところで一旦締めさせて貰おうと思います。
唐突に終わったように思えるかもしれませんが、この辺りで終わらせておかないと第三エリアが900話近く、スーリアさんとの決着がつくのがさらに倍というとんでもない長さになりそうなのでご了承のほどをお願い致します。
因みにゲームの方は相変わらずユリエルを中心にワチャワチャしながら仲良く進めていきますし、リアルの方では母親への貸しを返す為に広告関連のアルバイト(アイドル業)をする事となり、その縁で大学進学を果たしたくらいから宇宙旅行や広告関連の仕事をする事になります。転機となる外宇宙探査事業が始まった辺りで受ける事になったオーディションで調査船の制御AIと妙に相性が良い(『キリア・システム』搭載船)事がわかり、調査船団の広告塔みたいな立ち位置のアイドルになりながら数々の冒険を熟し、将来的には調査船団団長になって歴史の教科書に載るような偉業を達成するという波乱万丈な人生を送る事になっています。
その傍にキリアちゃんがずっといる事は確定しているのですが、誰と結ばれたのかは敢えて伏せさせてもらいつつ清純派な見た目の割には夜の生活は派手だったという事だけは伝えておこうと思います。
※誤字報告ありがとうございます(4/30)訂正しました。




