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48:グリフォン戦

※ちょっと痛い感じになるので、苦手な人はご注意ください。

 右手には投げナイフ、左手には鉄のショートソードを持ち、左半身を引いた体勢で構えます。目の前には巨大な(高さ5メートルの)グリフォン。距離は15メートルと言ったところでしょうか?【看破】は弾かれるので、高レベルは確定ですね。こちらの武器はショートソード1本と、投げナイフ3本です。周囲の状況は荒れ地で、遮蔽物らしい物はありません。ウミル砦からの援護……具体的に言うと塀の上からの弓矢の掃射などがあればかなり助かるのですが、砦の方は砦の方でモンスターの襲撃を受けているようで、こちらを援護している余裕はなさそうです。

 後は、最初の奇襲で私が吹き飛ばされたぶんグレースさんの方がグリフォンに近いのですが、震えながらもへたり込むことなく、ゆっくりと後退してくれています。出来ればこのままグレースさんが安全圏に離脱するまで待ちたかったのですが、グリフォンは今まさに飛び立とうと羽ばたき始めていますし、ウルフの増援が向かってきているのでのんびりはしていられません。仕掛けましょう。


(行きます)

 【腰翼】を使い踏み込み、グレースさんより前に出た所で投擲姿勢に入ります。初手【ルドラの火】で短期決戦に持ち込みたいのですが、確かめたい事があったのでそのまま投げナイフを投擲します。この攻撃で少しでも怯んでくれたら走り寄って斬り裂く事が出来るのですが……。


「KUUPIXUEEEEEE!!!!!」

 グリフォンが大きく翼を広げ咆哮をあげると、私が投げたナイフはその音の壁に遮られ弾かれました。音には魔力か何か乗っているのか、ピリピリと全身が痛みます。やはり遠距離攻撃への対策くらいはしていますね。こういうのがなければ弓矢の一斉掃射か何かで落ちかねませんからね、当然初手遠距離攻撃を防ぐ方法くらいは用意しているのでしょう。


 グリフォンが力強く羽ばたき、砂塵が舞い、風圧に押されます。ホバリングに移行したグリフォンを見据え、本命のショートソードの投擲準備に入ります。流石にこの音波攻撃を連射はしてこないでしょう。というよりも、もし連射出来るのだとすれば今の私達では対処できません。【ルドラの火】を纏った一撃が貫通するかどうかという問題にはなりますが、基本逃げるが勝ちと考えた方が良いですね。


(これで…)

 1メートル程浮いた敵。羽ばたきによって生まれる風圧。投げる強さを微調整しながら【ルドラの火】を発動させようとしたところで……なんとなく嫌な予感がして、グレースさんの様子を横目で確認します。


 グレースさんは見ていると可哀そうになるくらい青い顔で震えていたのですが、腰を抜かす事なくジリジリと後退してくれています。何事もなければそのまま安全圏に下がれると思ったのですが、その上空に、小さな黒い影がありました。ホークですね。どうやら猫目の男性や他のプレイヤーを襲っていたホークがグリフォンの雄叫びに反応してこちらにやって来ていたようです。


「っ!?」

 私は咄嗟に空いていた右手で投げナイフを取り出すと、そのままの流れで投げ付けます。予備動作も何もない投擲だったのですが、運よく襲撃態勢に入ろうとしていたホークの右翼の付け根に命中してくれました。


「PHUIIX!!?」


「ひゃぁあっっ!!」

 バランスを崩して墜落してくるホーク。いきなり何か降ってきたと言うように頭を抱えて怯えるグレースさん。大きな羽音。その様子を確認してから、意識をグリフォンに戻すと……いつの間にかその巨体が、目の前にありました。


 超低空飛行からの高速チャージ(体当たり)


 迫りくる圧倒的な質量に、反撃を考えている暇もありません。


「くぅっ…」

 咄嗟に剣で受け、回避を試みようとしましたが……間に合いません。中途半端に体を捻ったところに強烈な衝撃が襲い、きりもみ状態で跳ねあげられます。上半身がもっていかれたような衝撃と、浮遊感。 私はそのまま受け身を取る事も出来ずに地面に叩きつけられ、意識がパチパチと途切れかけます。


「ぅ…ぁ、ああぁぁあああっ!!!」

 回避が少しだけ間に合ってくれていた事、剣が緩衝材になってくれていた事で即死は免れたようですが、正直に言うと即死してくれていた方がよかったです。


 衝撃をモロに受ける事になった左腕が動きません。ショートソードもグリフォンの2度にわたるチャージで中程から砕け散ってしまい手元から吹き飛びました。そして何より、左腕が物凄く痛いです。もぎ取られていないだけマシなのかもしれませんが、肩が外れ、指がめちゃくちゃな方向を向き、腕に関節が一つ増えています。少し遅れて腕全体から突き刺すような、それでいて奇妙に鈍い痛みが絶えず襲いかかってきて頭がチカチカします。


「大丈夫ですかっ!!?」

 今にも泣きだしそうな顔でグレースさんが駆け寄ってこようとしたのですが、私は彼女に逃げるように伝えます。とはいえ喋ると叫び声にしかならないので、目だけで何とか示したのですが、グレースさんは何か決意したような顔で首を振ると、回復魔法を唱え始めます。


「天におわします神々の…」

 痛みで何か可笑しな回路が入ったのか、「こういう時はちゃんと喋れるんですね」なんて場違いな感想を抱きながら、私は呼吸を整えます。


 どうやら大怪我を負った時、中の人(リアルの方)がショック死しないように調整が入るようですね。徐々にですが、フィルターがかかったみたいに痛みがマシになっていきます。とはいえ左腕が動かないという事に変わりはありませんし、立ち上がる事もちょっと無理ですね。ステータスを見る事が出来たらきっと色々な状態異常がついて酷い事になっているのでしょう。


「KUPUUPXXUUUU!!!!!」

 どうやら高速チャージの後にはクールタイムでもあるのか、グリフォンは地上で翼を羽ばたかせています。今なら逃げられるかもしれませんが、詠唱に集中しているグレースさんはその事に気づいていませんね。

 できたらグレースさんには逃げて欲しいのですが、どうやったら伝わるのでしょう?パーティーチャットやフレンドからは……どうやら瀕死状態ではちょっと難しいですね。腕が動かないので操作が出来ません。視線や脳波での操作は……。


「…清らかな魂の欠片を今ここに……」

 グレースさんは本当に色々とあるのですが、ヒーラーとしての腕は確かです。詠唱速度は早く、すでに呪文の中盤あたりを過ぎていたのですが……。


「WAUFFFTU!!」

 そんなタイミングで、グリフォンに呼び寄せられていたウルフがグレースさんに襲いかかりました。出来ればこうなる前に(挟み撃ちを受ける前に)グリフォンにダメージを与えておきたかったのですが、間に合いませんでしたね。


(まあ、こうなりますよね)

 グレースさんは首元だけは杖でガードしていたのですが、飛び掛かって来たウルフは無防備な足に喰らいつき、そのまま走って来た勢いと体重を利用して引き倒します。これで終わりですね。後私はスリップダメージ(出血などのダメージ)で死ぬか、グリフォンかウルフの攻撃で死ぬか、出来れば痛覚のないまま死亡(リスポーン)したいのですが、どちらが先に来るでしょう?

 グレースさんは引き倒された衝撃で気絶でもしたのか、呻き声一つあげませんね。ああいえ、何か呻いています。


「…傷ついた、者に、慈悲の……」

 呪文詠唱が続いていました。


 ウルフに噛みつかれた部分から血の代わりのホログラムが立ち上っていますし、ウルフが再度深く噛んだ瞬間グレースさんは痙攣したようにビクンッ!となったのですが、詠唱は途絶えていません!


 私は急いで何か武器になる物がないか視線だけで探し、手から離れていたショートソードとその折れた刃先を見つけます。


「…一端を、お見せください。ヒール!!」

 グレースさんは倒れたままなのですが、ターゲッティング(魔法の指定先)はすでに終えていたのでしょう、私の上に回復の光が降り注ぎます。


 腕と、体が動きます。


「っ…」

 私は弾かれたように起き上がると、折れたショートソードとその刃先を拾い、グレースさんに駆け寄ります。


「こっのっ!!」

 グレースさんに噛みついていたウルフにまず刃先を投げつけ、怯ませたところで上顎を蹴り剥がします。衝撃を受けたウルフの顎が一瞬深く刺さり、グレースさんの体が跳ねました。その事に対して心の中で謝罪しておきますし、後でちゃんと謝罪しておきましょう。


「大丈夫ですか?」

 声をかけると、グレースさんはやり切ったという笑みを浮かべていたのですが、もう、色々と酷い顔ですね。


「自分に回復魔法をかけられますか?」

 こんな状態(瀕死)なのですが、回復アイテムがないのでグレースさん自身に頑張ってもらわないといけないのですが……首を振られます。


「ひゃっ……ったい、めちゃくちゃ、いひゃい…」

 たぶん「めちゃくちゃ痛い」ですね。ボロボロと涙を流すグレースさんにもう一度回復魔法を唱えてもらう事は無理なようです。

 それにしても、グレースさんのこのゲームにかける情熱はなんなのでしょう。同じゲーマーとして後学のためにも色々と聞きたい事があるのですが、まずはグリフォンですね。

 再度ホバリングし始めたグリフォンに、私は残っていた最後の投げナイフを投げつけます。

 

「KUUUPXUEEEEE!!!!!」

 そしてグリフォンの怪音波によって、当然のようにナイフは弾かれます。ですがそれはもう……見ました。


(4・3・2・1…今!)

 音波攻撃の終わるタイミングを見計らい【ルドラの火】を纏わせたショートソードの残りを投げつけます。MPはほぼすべて。戦闘後に動ける分だけ残した全力をグリフォンに投げつけます。


 【投擲】スキルも乗ったその一撃は、狙い過たずグリフォンの首元に吸い込まれて行きました。そしておきる、青白い爆発。


(ですが…)

 これだけ巨大なモンスターですし、この一撃で倒せるかはわかりません。なので私は【腰翼】を使い、距離を詰めます。


「はぁああああ!!」

 根元部分だけだったので少し心配しましたが、真っすぐ飛んだショートソードはちゃんとグリフォンに突き刺さっていますね。私はそれを見据え、そのまま、全力の飛び蹴りをショートソードに叩き込みます。


「KUPXEEEEeee…!!???」

 空中で更に【腰翼】を使ってバランスを取ると、体を捻らせ2度目の蹴りをショートソードに叩き込みます。2度蹴り込まれたショートソードはグリフォンの体の中に深々とめり込み、こうなるともう見えているのが柄頭だけという有様ですね。流石にこれだけ叩き込めば致命傷でしょう。グリフォンは最後の断末魔を上げると、重々しい音をたてながら地面に沈みました。

※Q:結構綺麗に曲がってたけど欠損しないの?

 A:ゲームなので刃物系の欠損攻撃でなければ意外と折れるだけで済みます。今回は体当たりだったので折れました。


※Q:回復魔法凄くない?

 A:そもそも有能そうに書かれている【ルドラの火】が魔法攻撃に近いですし、魔法自体の効果は結構高いです。ただめちゃくちゃ使いづらいものが多いです。

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