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499:変貌

 キリアちゃんの発言(「殺して」)に頭の中が真っ白になってしまったのですが、よくよく見てみるとキリアちゃんの意識があるのが不思議なくらいの浸食のされかたをしていますし、このままデファルセントのエネルギー源になり続けるというのもただただ苦痛なだけで……それでも私はキリアちゃんに生きていて欲しいと思っているのですが、致命傷を与える(殺す)以外で『魔剣グーイ』を切り離す方法が思いつきませんでした。


「どう、せ…ゲームが終わる…まで、の…命、で…そのための人、形…だ、から」


「そんな、事は…ありません!」

 諦めきっているようなキリアちゃんの言葉を否定するのですが、私にはどうする事も出来なくて……これがプレイヤーであればリスポーンするだけなので即キルからのデファルセントの吸収と同化を阻止するところなのですが、イベント中(大規模レイドバトル)キリアちゃん(N P C)を殺した場合の処理はどうなるのでしょう?


 HCP社はそれほど甘い会社ではないですし、だからといって苦しんでいるキリアちゃんを放っておく事も出来なくて……すぐさま答えが出るような問題ではなかったのですが、まるで私達の決断を急かす様に黒水晶が大きく揺れました。


「ッあっ!?あぁあぁあぁあぁ!!?」

 その振動に伴い歪黒樹に囚われているキリアちゃんが甲高い悲鳴を上げるのですが、どうやら攻略チームの攻撃が激化しているようで……デファルセントの形態変化(戦闘パターンの変化)に伴い黒水晶に蓄えているエネルギーを吸収しようとしているのか禍々しい根っこがキリアちゃんの中にめり込みエネルギーを吸い上げているようですね。


「キリアちゃん!?こ、の…これ以上キリアちゃんから吸い出さないでください!!」

 私はメキメキと骨のきしむ音と共に藻掻き苦しんでいるキリアちゃんに突き刺さっているデファルセントの根っこを必死に引き抜こうとするのですが、流石に600メートル級のモンスター(デファルセント)との力比べには勝てなくて……。


「フッ、フーッ、ッ…ぁ…は、はぁ…だ、だいじょう、ぶ…キリアは、魔剣(グーイ)の…(再生力)で、死ねない、から…でも、ユリエル、なら…殺せる、と…思う…だか、ら…お願い」

 涙と涎と脂汗を滴らせているキリアちゃんは俯きながら言葉を紡ぐのですが、痙攣している小さな体には『ルミエーヌ』から流れ込む膨大な魔力が流れ込んでいるようで、それだけキリアちゃんが苦しめられているというのに私にはどうする事も出来ませんでした。


「死ねないとか…殺せるとか…簡単に言わないでください!」

 たぶんデファルセントが持っているアーティファクトを操る力を使ってキリアちゃんの中にある『魔剣グーイ(宿り木の剣)』の力を取り込み利用しているのだと思いますが、黒水晶の中に蓄えている力を吸い上げ始めたデファルセントの動きに呼応するように活性化した魔剣の力は容赦なくキリアちゃんの大事な部分(人間性)を侵食し続けており……何とかしないといけないと思いながらも思考が空転してしまいます。


「こんな……に、なる、の…だったら…ユリエル、と…」

 私には徐々にデファルセントに乗っ取られていくキリアちゃんの身体を抱きしめてあげる事しか出来なかったのですが、冷徹な部分(ゲーマー)が魔王軍の幹部(重要N P C)エリアボス(デファルセント)に飲み込まれて行くのは不味いと警鐘を鳴らしていて……。


「ぐっ、っと…キリアちゃん!」

 こうなったらキリアちゃんを引き千切る事になってもいいのでとにかく逃げ出そうと思ったのですが、私達を取り囲む黒水晶が大きく揺れて拘束が弛んだ瞬間何かにつき飛ばされるような感覚があって……たぶんキリアちゃんが残った力を絞り出して私を押し出したのだと思いますが、つき飛ばした私に向かって左手を伸ばしていたキリアちゃんに突き刺さっているデファルセントの根っこの数が増えていき……その小さな身体が群がる触手の中に飲み込まれていきます。


『おい、無事か!って…何を惚けているんだ、しっかりしろ!攻撃が来るぞ!?』

 そのまま地上に放り出された私は受け身を取る事も出来ずに泥の上に転がるのですが、体内の魔力が0に近くて……立ち上がる事も出来ずにキリアちゃんが黒水晶に覆われていくのを見守る事しか出来ませんでした。


(淫…さん?牡丹達も?)

 取り込まれている間は外部との繋がりが悪かったのですが、黒水晶から脱出した後は【意思疎通】が繋がり退避していた淫さん達が戻って来ているのがわかり……と、いうより、取り込まれている(隔離されている)間は拘束時間を短縮する為に時間の流れが弄られているのか、黒水晶の中と外では経過している時間が違っていたのかもしれません。


 とにかくドロリとした地面の上で惚けている私に対してふらつきながら飛行している淫さんが叫んでいて……最初はドロリとした泥の上にいますし、黒水晶の外側(直径1kmの小山)まで吹き飛ばされたのかと思ったのですが……そんな場所まで吹き飛ぶような力を叩きつけられていたら死んでしまいますからね、どうやら私は小山のように広がっていた黒水晶をデファルセントが吸い上げた跡といいますか、黒水晶に覆われ掘り返されていた地面が露出した場所に寝転がっているようでした。


 そしてまともに身動きを取る事が出来ない私の目の前で密度を増していく黒水晶が奇妙な塊となっていくのですが、変形が終わりきる前に振り上げられたディルフォレス(棘付きの黒い枯れ木)が頭上から襲い掛かって来て……。


「ぷっ!!」

 【招集】で移動して来た牡丹が『ロストギアメイル(巨人用)の破片()』を構えて数メートル単位の植物(一撃)を防ぐのですが、【マジックシールド】を使っても威力を殺し切れずにズリズリと後退して来て……そんな状態で私の方を心配そうに見上げて来ているのですが、確かにこのまま惚けていたら助けられるものも助けられなくなってしまいますし、キリアちゃん自身が生存を諦めているのだとしても、私がキリアちゃんの生存を諦める訳にはいきません!


(その、為には…!)

 広がっていた黒水晶を集めて凝縮しだしたデファルセントは迎撃準備を進めながらデファルシュニー(巨大芋虫)を生み出していますし、黒水晶の中心に居るキリアちゃんの周辺では奇妙な硬化が始まっていて……。


『何があったのかはわからないが…すぐに次の攻撃が来るぞ!?』

 そんな場所からどうやって助け出せばいいのかというのはまだわからないのですが、私が考え込んでいる間もシノさんの魔法やナタリアさんの『ペネストレイト(侵徹徹甲榴弾)』などが飛び交い攻略チームとデファルセントの戦闘が続いていて……その隙を窺うようにフラフラと強行着陸してきた淫さんがドレスモードになって絡みついて来ました。


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、今は考え事を…んん、んんっ!?」

 私はニュルリと布地を伸ばして穴という穴を弄り回して来る淫さんに驚き……一瞬何をしているのかと訝しがったのですが、どうやら私の身体に残っているデファルセントの欠片を排除していたようですね。


(だからといって、ですが!?)

 耳の中や膣の中まで丹念に調べられてしまうのですが、散々弄り回されて感度がとんでもない事になっている私の身体は空気に触れているだけで甘いきが止まらないというのに……そんな状態で無理やりいかされながら『ミックスポーション』を飲ませてくるのはどうかと思いますね!


『別々に飲ませるのが面倒だからな!回避(飛行)もままならん状態だ、嫌だというのなら自分で飲め!』


(それ、は…そうなのですが!)

 咽て涙目になりながら何とか『ミックスポーション』を飲み干すのですが、効果はともかく味が致命的に駄目で(不味くて)……このポーションも後続する補給部隊(ヨーコさん達)から分け与えてもらったのかもしれませんが、思ったより攻略チームの進行速度が速いですね。


(体感的な差は…だいたい2倍速くらい、でしょうか?)

 ポーションが入ると少しは頭が働くようになってきたのですが、リアルの時間とゲーム内の時間を照らし合わせてみると、黒水晶に捕らわれている間は時間の加速が切れている状態(リアルと同じ)で……黒水晶の外に居た人達(牡丹達や攻略チーム)はゲーム内時間の2倍速が適応されていたという感じなのでしょう。


 その時間差のおかげでかなり近くまで攻略チームが来ているようで……シグルドさんやまふかさんのような前線組が合流してからは侵攻速度が上がっており、もう少しで黒水晶の跡地までやって来るような場所まで来ているのだそうです。


『任せていても良かったのかもしれんが…お前(『色欲の巫女』)あいつ等(攻略チーム)に見つかると面倒くさい事になりそうだからな』

 との事で、黒水晶に捕らえられていた私達を助ける為に攻略チームと別行動を取っていた淫さん達が先行して来たようで……因みに核の適応が始まりフリーズしてしまったナーちゃん(幼女スライム)も一緒に居たのですが、そちらはニュルさんが自信ありげに触手をうねらせていました。


(ありがとうございます、では…そうですね)

 血路を開いてくれたナーちゃん(核を移したラディ)の無事が確認できた事に胸をなでおろしながら、『翠皇竜のドレス』などの装備を身に着けた私は黒水晶を吸収しながら巨大な芋虫を生み出しているデファルセントを眺めるのですが、圧縮していった黒水晶の中心から巨大な蟹のようなモンスターを付けた触手が這い出して来ていて……それとも甲虫がモチーフなのでしょうか?とにかく横幅は8メートル前後、体高は4メートル弱の大小さまざまな結晶で出来た脚をもつモンスターがデファルセントから生み出されていたのですが、その甲羅の上には若紫色の髪をした幼女(キリアちゃん)の上半身だけが顔を出していて……デファルセントが振り回している鍵爪や巨大で毒々しい蕾の一つと似たような物(主要な器官)なのかもしれませんが、キリアちゃんが生体部品のように扱われている事に殺意が湧いてきますね。


こいつ(デファルセント)だけは叩きのめさないといけないのですが…)

 巨大な蟹のような結晶にはデファルセントの根っこが接続されていますし、だらりと意思のない眼差しをしているキリアちゃんの背中から伸びた無数の触手には今までデファルセントが集めていた無数のアーティファクトが揺れていたのですが……。


「その前に、キリアちゃんを助け出させてもらいます!」

 決意を言葉にしながら魔力を巡らせた私達に対して、デファルセントに飲み込まれて異形化したキリアちゃんがガサガサと多脚を蠢かせながら襲い掛かってきました。

※誤字報告ありがとうございます(4/30)訂正しました。

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いんさんが とても頼りになるな 作中カッコよさランキングでトップを争いそう
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