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496:蠢く黒水晶と覚悟

(油断していました…が、牡丹!?)

 遠距離攻撃(一撃必殺)から近距離攻撃(手数の多さ)に切り替えたデファルセントの振り回すアーティファクトに撃墜されてしまった私達は弾かれた衝撃で散り散りになりながら眼下に広がる黒水晶の上に落下していく事になったのですが、膨大な魔力が込められた『魔嘯剣』の攻撃を防いだ牡丹は意識が飛んでいるのか1人だけ遠くに飛ばされていってしまい……このまま落下したらデファルセントの餌食になってしまうのかもしれません。


『くそっ!?やってくれたものだが…任せろ!すぐに向かう!!それより自分の心配をしていろ!すぐには向かえんぞ!?』

 飛行能力の違いで地上に激突する前に何とかバランスを回復させた淫さんが低空を飛行して行くのが見えたのですが、一番遠くまで弾かれてしまった牡丹の救助に向かっているので叩き落された私とニュルさんとラディとナーちゃん(幼女スライム)は自力で何とかする必要があって……。


(それは…わかりました、お願いします!)

 淫さんが離れたのは牡丹との仲間意識もあるのだと思いますが、私が牡丹の事を助けたいと思っているからで……後は自分が居なくても短時間なら生き延びれるだろうという信頼からくる行動だと思うのですが、その信頼を裏切らない為にも気合を入れる事にしましょう。


(とは言ったものの…ですね!)

 内側(デファルセント側)から弾かれ吹き飛ばされた影響でキリアちゃんの意識ともいえるモノのとの繋がりが途絶えてしまったのですが、急速に近づいて来る地面と全身に叩きつけられている風圧に頭の奥がキューっとなってしまい……本当にどうしましょう?


(飛ぶ事が出来れば…良いのですが!?)

 『色欲の巫女』になっているおかげで【魔翼】の飛行能力が上がっているのですが、スカート翼が無ければ淫さんの最高速度でも振り切る事が出来なかった攻撃を躱すには足りなくて……そもそもデファルセントの近くで呑気に浮かんでいたら良い的になってしまいますし、だからといってこのまま黒水晶が広がっている場所(地上)に落下するというのも不味いような気がするのですが、悩んでいられる時間がありませんでした。


(見逃しても…くれないようですね!)

 自由落下をしている私達目掛けてディルフォレス(棘付きの黒い枯れ木)や根元に広がるサングデュール(茨の柵)達が殺到して来るのですが、流石に彼らの攻撃を全部回避するというのは骨が折れそうですね。


 しかも地上に近づくにつれて黒い水晶とデファルセントの放つ悪意に曝されて気持ちが悪くなってきますし、これはもしかしたら詰んでいるのかもしれないと思いながらラディやニュルさんだけでも守ろうと視線を動かすと……。


『仕方がないわね~アレ(淫さん)が戻って来る間だけ粘れたらいいのよね~?ここなら人に見られる心配もないし~少しだけ本気を出すわよ~』

 なんて【幼体化】を解除したラディが本来の姿(ファントムジェリー)……無数の核を持ち怨念のようなオーラを放つ全高20mのスライムに戻ったかと思うと、落下中の私達を取り込み着地に備えました。


(んっ…ッ、っと…ラディ!?)

 HALO降下(高高度降下低高度開傘)要領で(急減速をかけて)受け身を取ろうと思っていた私はいきなり纏わりついて来たスライムの感触に気を取られてしまったのですが、ズシーンと黒水晶の上に落下したラディは上空から被さるように伸びて来たディルフォレスの束を横に跳んで回避して……。


『息苦しいと思うけど~…それは我慢してね~?』

 水晶の上はデファルセントが吐き出す黒い靄で淀んでいますし、そういう悪意から私達を守るために完全密閉をしているのだと思いますが、そのおかげで媚毒による影響がない代わりに空気穴もありませんでした。


(それは、構いませんが…大丈夫なんですか!?)

 ポヨンと飛び上がるだけで数メートルの上下運動があるので気持ちが悪くなりますし、いくら物理耐性の高いラディといっても素体となっているのはスライムの体ですからね、メートル単位のディルフォレスによる質量攻撃はダメージを受けてしまいますし、アーティファクトによる魔法攻撃はダメージとして加算されていくのでラディのHPがガリガリと減っていってしまいます。


『どうだろ~う?思ったより痛いのかもしれないけど…逃がす気はないみたいね~』


「OOOOOOxOxxxxtxoOOx!!!」

 私とニュルさんとナーちゃんがラディに飲み込まれて守られたまま離脱を開始したのですが、逃げ出した私達に向かってデファルセントが吠えたかと思うと地面が隆起し硬質な質感を持つ水晶がグネグネと歪んだかと思うとドロリと溶けだして……ラディの巨体を捕えてしまいました。


『ごめ~ん、捕まっちゃったかも~…』

 いきなり足元が崩れて底なし沼に引きずり込まれたようなものですからね、逃げ切れなかったのは仕方がないのですが……動き出した水晶の中身はデファルセントの犠牲になった人達の意識が混然と混ざり合っているといいますか、押し寄せて来る情念に吐き気が込み上げてきて……溶けた黒水晶にズブズブと飲み込まれていっている私達は何とか脱出しようと藻掻いてみるのですが、これがなかなか難しいですね!


(ラディ…)

 時間をかければ脱出する事もできたのかもしれませんが、黒水晶に捕らえられているのはラディの下半身ともいえる部分で……つまり上半身側から脱出する事が可能なのですよね。ただこのまま逃げ出すだすとか細い意識しか残っていないキリアちゃんを助け出せる可能性が限りなく0に近づいてしまって……。


『ユリエルは頑固者ね~…このおっきなイソギンチャク(デファルセント)も私達を逃がすつもりは無いみたいだし~…良いんじゃないかしら~?』

 ラディが『仕方がないわね~』なんて呆れたように肩を竦めてみせるのですが、デファルセントが意地でも私達を逃さないという意思だけはハッキリとわかりますし……こうなったら私も腹を括る事にしましょう。


(わかりました、では…)


「OoxoooooOOOOOoottt!!!」

 そんな事を話し合っていると、私達が何かしようとしている事を察したデファルセントが身震いするように吠えて液状化した水晶が襲い掛かって来ましたし、出鱈目に振り回されているディルフォレス(棘付きの黒い枯れ木)サングデュール(茨の柵)が襲い掛かって来たタイミングで……牡丹の救助が終わった淫さん(ワイバーン)がスライムの津波と根っこの攻撃を躱しながら超低空飛行で突っ込んで来ました。


(ぷーぃいい!!)


『チャンスは一度きりだぞ、しっかりと手を伸ばせよ!!』

 どうやら牡丹も意識を取り戻したようで……このままギリギリの高さを航過していく淫さんの()を掴めば助かるのかもしれませんが、その場合は色々と手遅れになってしまうような気がするのですよね。


(離脱した方が良いという事はわかっているのですが…それだとキリアちゃんを助け出す事が出来ないのですよね!)

 黒水晶に近づいた事で渦巻いている悪意を感じる事ができましたし、こんな中に取り込まれているキリアちゃんを一刻も早く助け出さないといけないと改めて思いました。


 そして「どんな事があっても私だけはキリアちゃんの味方でいてあげたい」なんていう意地の問題(キリアちゃんを助ける)を抜きにしても、デファルセントからしたら魔力の中継地点(周囲から集めている)にもなっている私はよほど美味しそうなご馳走に見えるようで……ヘイトタンクになっている私が残ると淫さん達が離脱しやすくなりますし、メタ的な事を言うと死亡したら終わりの淫さん達(NPCやAI)が残るよりも私が残った方が安全(リスポーン出来る)ではあるのですよね。


 それに最前線に居るのがジョンさんやグレースさんなどの攻略チームの第一陣と私達だけですからね、それなのに私達が離脱をするという事はグレースさん達に攻撃が集中するという事ですし、橋頭堡を築こうとしている攻略チームにとってデファルセントの攻撃に晒され続けるというのは死活問題になるのでしょう。


 そういう色々な事を加味した結果、キリアちゃん云々を差し引いたとしても誰かが最前線に居る必要がありますし、そう簡単に引く訳にはいかないのですよね。


『おい、ふざけている場合じゃ!?…くそっ!?』


(ぷっい!?)

 なので救助に戻って来た淫さん達に細工を施したナーちゃんとニュルさんを託してこの場に留まる事にしたのですが、黒水晶に捕らえられているラディはともかく離脱が可能だった私が脱出して来ない事に淫さんと牡丹が叫んでいて……再度私達を拾い上げようと急旋回をうとうとした淫さんがディルフォレス(棘付きの黒い枯れ木)の攻撃とアーティファクトによる魔法攻撃の雨あられを受けて回避行動をとりながら離れて行きました。


(ここから引くつもりはありませんので…それにたぶん、相手も逃がしてくれないと思いますし)


『だからといって…まずは自分の安全を考えろ!!』

 牡丹も【招集】を使って駆け付けようとしてくれていたのですが、こちらに来てもあまり意味がないので思い留まってもらい……デファルセントを倒すだけなら攻略チームと合流するべきですし、意外と仲間思いな淫さんの場合は仕切り直しを選びたいのかもしれませんが……すべてが終わった後にデファルセントを倒しても意味がありません。


(すみません、ラディには貧乏くじを引かせてしまったみたいで…)

 この場で自害したら拠点まで戻れるのかもしれませんが、その場合は確実に救助が間に合わなくなってしまうのでリスポーンによる脱出も諦めた方が良いのでしょう。


『いいのよ~スライムは分裂して増えるものだし~…それより~…行くのね?』

 突き刺さった水晶がラディのエネルギーを吸い取っていっていますし、取り込まれている私にもデファルセントから伸びた『歪黒樹の棘』や水晶の魔の手が迫っていて……。


(はい、後の事はよろしくお願いします)

 水晶に絡め取られてしまったラディはこの場所から身動きが取れなくなってしまったのですが、核を移したナーちゃんが淫さん達と共に離脱中ですし……まあ何とかしてくれると思います。


(牡丹も…グレースさん達の事をよろしくお願いしますね!)

 攻略チームと合流した方が生存率が高くなるような気がしますし、向こう側に攻撃がいけばいくほど私達が自由に動ける事になって……手持ちの武器が根元部分しか残っていない『ベローズソード』だけという文字通りの裸一貫なのですが、このまま引き下がる訳にもいかないのでキリアちゃんだけでも救出させてもらいましょう!

※誤字報告ありがとうございます(4/30)訂正しました。

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