494:地下水道の祭壇(後編)(グレース視点)
何だかよくわからないまま祭壇を調べに行くPTに参加していた私は幾多の困難を乗り越えながら巨大な噴水みたいになっている台座の所までやって来たのですが、なんでも元はため池の真ん中に祭壇のような物がある場所で……水が抜けた事によって噴水のように水が溢れている場所になっていますし、一段一段が大きく私の背丈の二倍くらいはありますし、まるで自分が小さな小人になって見上げているような感じがしました。
それにこれは魔力……というのでしょうか?ドロドロとした水の中には鈍く輝く光が漂いテカテカしていて、そんな景色を見ながら地下水道内に充満しているピンク色のガスを吸っていると汗が滲んで身体が火照ってフワフワしてきてしまい……。
「こりゃあ上から回って木の橋を渡るか段差を乗り越えて行くしかないが…ここまで来ると敵の数も尋常じゃ…って、大丈夫…じゃ、ないな!?」
スコルさんがちょっとした用事だと離れている間に私の近くでモンスターと戦ってくれていたのはツルリと禿げ上がった頭を輝かせている上半身裸のムキムキマッチョマンだったのですが、心配そうに上げた大声につられたのかザバッという水音がしたかと思うとデロデロとした巨大なヒトデとスライムが飛び出して来ました!
「むぅぅうう!!危ない、君はこっちだ!」
「うっし、こいつは俺に任せ…うひぃぃい!!?」
そうして襲い掛かって来たモンスターの群れに対して筋骨モリモリのマッチョマンが庇うように引っ張り寄せてくれて、私の胸をチラチラと見て来ていた人が間に入ってくれたのですが……剣を振り回しながら間に入ってくれた人がスライムとヒトデの大群に飲み込まれてヌチョヌチョと服を溶かされながら悶えていたりとなかなか大変な事になってしまいます。
「よーし、変な色目を使っていた野郎はいなくなった事だし…今の内にここから離脱するぞ!」
「了解っす!」
「え?え?」
あっさり見捨てるという発言をしたマッチョマンの言葉に周囲の人達も力強く頷いていたのですが、ソワソワとしながらジョン・ドゥさんやシノシノさんを見てみるとこちらはこちらで無言でスタスタと先を急いでいて……。
「っておい、お前ら助け…!?」
当然のように見捨てられた人が叫んでいますし、私はどうしたらいいのかとキョロキョロしてしまったのですが……周囲の人達の目が冷たくて私まで震えあがってしまいます。
「いや、だってお前…女の前だからと言って格好をつけすぎじゃないか?我ら『カイザーナックル』の掟を忘れたのか?頼れるのは一に筋肉二に筋肉、三四が飛んで五が筋肉だ!だというのに女に現を抜かすとは何事か!!」
「んなこと言ったってぇ、ぉおお!?ったぁあああ!?」
そうしてポージングを取りながら力こぶをムキンとさせたマッチョマンが叫んでいたのですが、彼と同類らしい人達がヒトデとスライムにヌチャヌチャと絡みつかれている人に対してポージングを取り続けるという謎の儀式が始まってしまい……そんなよくわからない状況に呆れたのかジョン・ドゥさんが風の魔法で味方ごと魔物を吹き飛ばしました。
「ぐ、ぁああ…痛ぇ…」
「だ、大丈夫ですか!?」
纏わりついていた魔物を吹き飛ばされた人は当然のように大ダメージを負ってしまい、私は慌てて【ヒール】を唱える事になったのですが……とにかくそんなこんなでアワアワしながら祭壇のある一番上に向かう為のルートを探す事になったのですが、私が段差を乗り越えられないかと跳びはねているとどこか呆れたようなシノシノさんが話しかけてきました。
「多分その方法だと厳しいと思うけどな~?あとMP回復にどーぞ」
「だ、大丈夫デす!そ、その…ありがとうございます!!」
シノシノさんはそんな事を言いながら奇妙な色合いのポーションを差し出して来て……私は咄嗟に手を振り「大丈夫」だという事を示すのですが、「貰い物だから~」との事で再度おすすめされてしまい……私は一度しゃがみ込んでから勢いよく立ち上がる勢いを利用しながら頭を下げて受け取る事にしました。
(一匹狼の孤高のタイプかと思いましたが…違うのでしょうか?)
皆の話に聞き耳を立てていた感じではソロで活動している人なのですが、こんな私にも気を遣ってくれるのでどうなのかと見ていると……若干引いたような感じでビックリされてしまったのですが、どうしたのでしょう?
「えーっと、めちゃくちゃ警戒しているところ悪いし、気を遣われるのも遣うのも嫌だからぶっちゃけるけど…何でついて来たのかなーって聞こうと思って……その、このダンジョンってこういう感じでしょ?もしかしてレイプ願望があるのかなーとか?そーいうのだったら私はノーサンキューだから離れておくけどさ」
との事なのですが、調査PT内の女性が私とシノシノさんだけとなると確認だけはしておこうと言いますか、ド素人である私の手助けをした方がい良いのかな?と思う程度には人情を持ち合わせているのだそうです。
「因みに私の場合は…ほら、色々とあるんだけど…ぶっちゃけ空気が読めない方だし?ギリギリのプレイを楽しむっていうと聞こえはいいかもしれないけど…それって危険に突撃して行くっていう事でもあるからさ~1人の方が気が楽ではあるんだけど…流石に1人だとイベント攻略が難しくてね~」
なんて意外とお喋りさんだったシノシノさんが一方的に捲し立てていたのですが、キャパオーバーになっている私は目を白黒とさせながらウンウンと頷き首を傾げる事しか出来ませんでした。
「それを言うのならお前も大概だと思うが…何故参加した?」
そしてただでさえややこしい状況だというのにジョン・ドゥさんまで会話に参加来てしまい……会話の流れがよくわかっていない私は時間稼ぎにシノシノさんがくれたポーションに口をつけてみたのですが、あまりに不味さに思いっきり噴き出して咽てしまいます。
「……」
「わ、わざとじゃないよー?味は変だけどちゃんと回復するポーションだから…ね?」
「ごほっ…げほっ、す、すみま…ごほっ!」
何かシリアスな空気を漂わせていた2人のお邪魔をしてしまったような気がしたのですが、2人は顔を見合わせるように肩を竦めてあっていて……恥ずかしすぎて穴があったら入りたいですね!
「う~ん、私の場合は何故って聞かれても困るのだけど…ほら、考えてみたら地上に居てもディルフォレスやデファルセントの攻撃を受けるだけだし、捕まったらどっこいどっこいの目にあうんでしょ?それなら媚毒さえ何とかすればいい地下の方が安全かなーって…流石にイベントアイテムがあるような場所に地形破壊攻撃はこないでしょうっていうメタ読みもあったし」
なんて「媚毒については魔法でちょちょいのちょい!」みたいに指を振ってみせるシノシノさんが男女混合PTに参加しているのは地上にいた方が面倒な事になると思ったからのようで、その事を指摘されるとジョン・ドゥさんも心当たりがあるのか黙り込んでしまいます。
「まあ今頃地上は阿鼻叫喚だと思うし…おっさんだって人選くらいはしているから大丈夫だと思うわよ?っていうかジョンやマイティーだってムラムラしたからといっていきなり女の子を襲おうとは思わないでしょ?」
「スコルさん…!」
そんな重い空気に押し黙っていると、周囲の様子を見に行っていたスコルさんがトテトテと戻って来て……何故かその口にはどこかで見た事があるようなポーチを咥えていたのですが、そのポーチを拾うために出かけていたのでしょうか?
「そうだぞ、グレースとシノは魅力的な女性だが…俺が愛するのはこの筋肉だけだからな!」
なんて私達の話を聞きつけたマイティー?さんが自分の筋肉を誇示するようにポーズを取っていたりするのですが、癖の強い人達に囲まれたジョン・ドゥさんは「勝手にしろ」と言わんばかりに溜め息を吐きました。
「おい、こっちだ!ここに窪みのような梯子があるぞ!!」
そうして私達が雑談で時間を潰していると、祭壇に向かう為の梯子を見つけた人が声を上げていたのですが……やっとの事で祭壇のある最上段に上る事が出来た私達の前に光り輝く黒い茨と石造りの台座が見えてきて……。
「上だ!」
「チッ!?」
誰かが天井を指差しながら叫び声を上げるといきなり巨大な肉塊が降って来て、魔力的なものを嗅ぎ分けているのか魔法使いのシノシノさんとその周辺にいた後衛メンバーが狙われてしまい……咄嗟にウネウネする盾を構えた私はエトワーデメーの触手を迎撃するのですが、単純な質量差でおもいっきり弾かれてシノシノさんが飲み込まれてしまいました。
「シノシノさんが!!」
「初撃を防げただけで十分よ、今は自分の事だけを考えて!ってかやっぱりボスが待ち構えていたのだけど…おっさん達は急いでいるのよね!」
そうして地面に叩きつけられそうになっていた私を受け止めてくれたスコルさんが祭壇の前に蠢いている肉の塊……エトワーデメーというモンスターらしいのですが、ピンク色のガスを撒き散らしながら無数の触手を振り回している化け物に向けて肩を竦めて見せるとジョン・ドゥさんが視線を向けて来て……2人はそれだけで通じ合ったのか弾かれるように行動を開始しました。
「ちょっと…これ、は…たはは…ピン…ん゙っ、だけど!?」
飲み込まれたシノシノさんにエトワーデメーのドロリとした無数の触手とピンク色のガスが襲い掛かるのですが、ジョン・ドゥさんが小さなナイフのような物を向けると巻き上がる風によってエトワーデメーが切り刻まれていき、その風に乗せるようにスコルさんがポーチの中身をばら撒くと金属製の杭のような物が辺りに散らばったのですが……。
「そういう訳で…手加減してあげる余裕がなくてね!」
言いながら高速移動を開始したスコルさんが全方位から『ペネストレイト』を叩き込み……どうやら地下水道側に落下していたヨーコさんの落とし物を拝借して来たみたいなのですが、貫通力の高い炸裂弾の連打に曝されたエトワーデメーに大穴が開いて大ダメージを与えていきました。
「ワオーン!!」
これでお終いだと言うようにスコルさんが遠吠えを上げた後に残っているのはジョン・ドゥさんの風の魔法によって大きく切り刻まれ大穴が開いたエトワーデメーで……そのスタイリッシュな戦闘にドキドキしてしまったのですが、「うるせえぞ、敵が寄って来るだろうが!」とか「くそぅ、俺の筋肉の見せ場が!?」みたいな怒鳴り声が周囲から上がり……ジョン・ドゥさんが勝利の余韻に浸る間もなく祭壇を調べ始めていますし、強敵だと思っていたのは私だけだったのでしょうか?
なのでどこかいたたまれない気持ちで祭壇に近づいてみると、『祭壇を確保しました』という画面が出て来て……。
「イベント補正かしら?何はともあれ簡単な事に越した事は無いけど」
「だな…とにかくこれで制圧完了だが…これは?」
近づいて来たスコルさんとマイティーさんも同じ画面を見ているのかそんな事を呟いていたのですが、とにかく無事に祭壇を確保できたようで……ジョン・ドゥさんが転送装置を動かすと光に包まれて消えて行ったのですが、助け出されたシノシノさんもブツブツとカメラに向かって文句を言いながら消えていき……それにつられるようにマイティーさん達も出て来た画面の操作を始めます。
「やれやれ、せっかちさんが多い事だこと…このまま置いて行かれても困るし、おっさん達も行こっか?操作法はわかる?」
「は、はい!たぶん?」
自信がないという事を自信満々に言うとニヤリと笑われたのですが、とにかくスコルさんが別の場所で戦っているまふまふさんやシグルドさんに連絡を入れた後に祭壇の転送装置を起動させて……私達は『ディフォーテイク大森林』の奥地にあるという祭壇まで移動する事になりました。
※誤字報告ありがとうございます(4/30)訂正しました。




