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483:『ロストギアメイル(巨人用)の破片』

「ぷっ…いッ!!」

 牡丹が拾って来た1メートル弱の湾曲した金属の板はヒュドラゾンビの電撃を弾き、質量のある氷の槍は盾を地面に突き刺し衝撃を逃がし、炎の噛みつきは顎の下から打ち上げるように弾き返して……獅子奮迅の活躍をする牡丹ではあるのですが、いくら【マジックシールド】で強化しているといっても1メートル弱の盾では完全に攻撃をいなしきる事が出来ません。


(よくわからない事ばかり…ですが!)

 なので突き抜けて来る衝撃やパタタと頬にかかる水滴に眉を顰める事になるのですが……それが辺りに充満している媚毒だったのかそれともギガントさんの撒き散らしていた精液かという問題があり……込み上げて来る吐き気と不快感を飲み込みながら息を吐き、私は情報の整理を試みる事にしました。


(まず、は…)

 牡丹が壁の中から発掘してきた金属の板は『ロストギアメイル(巨人用)の破片』といい、ヒュドラゾンビの攻撃(電撃)によって剥がれ落ちて来たギガントさんの全身鎧の一部で……より具体的に言うと手首から前腕部分を守っていた部分なのですが、牡丹が魔力を流す事によって金属部分が黒色に染まってピンク色の回路が刻まれ『歪黒樹の棘(威力の減衰)』の影響をものともしないヒュドラゾンビの攻撃を弾いていたのですが……ギガントさんが身に纏っていた時とは色が違いますし、本人の魔力光に応じて色を変える素材が使われているのかもしれません。


 そんな盾で殴りつけるとヒュドラゾンビの体がブレるレベルの威力が出ているのですが、これはもともと打撃に使うアームパーツに近い部分を使っている影響(攻撃力U P?)なのでしょうか?


 そのおかげで魔力を込めた牡丹の攻撃力が劇的に上がっており……説明では『ロストテクノロジーで作られた巨人用の鎧の一部、魔力を流す事によって強靭な防御力を発揮し、半永久的に活動する』とあるのですが、魔力による防御力UPや自己再生能力を持っている謎の金属という感じの物なのでしょう。


 因みに元の形は腕を覆うタイプの物(分離式のパイプ型)だったのですが、触手に剥ぎ取られた際に80センチ×70センチの湾曲したタワーシールド型となり……レアリティは『Unique(ユニーク)』と一品物なのですが、品質は『F』と最低ランクで……これはパーツごとに分解された廃材品質というのが関係しているのかもしれませんし、もともと古代の出土品(ロストギア)とか廃材的な意味合いがあるのかもしれません。


 そう思って見てみると表面は劣化した金属のような質感ですし……これだけ強靭な防御力も元の性能からしたらいくらか経年劣化をしているのでしょう。


(この性能なら…多少無理をしてでも拾い集めておいた方がよかったのでしょうか?)

 魔力の伝達率が良い金属で牡丹の【マジックシールド】とも相性が良いようですし、これだけ使えるのならもう少し回収しておこうかと思ったのですが……それがドロップ品を処理する一連の流れ(システム上の仕様)なのかディルフォレス(棘付きの黒い枯れ木)が回収して行ったのかはわからないのですが、牡丹が改修して来たパーツ以外は触手に取り込まれて壁の中に吸収されているので掘り返すのは難しそうですね。


(仕方がないですね、回収できなかった物の事を考えていても仕方がないですし…切り替えていきましょう)

 通過する時は通過する時で急がないといけません(穴が塞がってしまう)でしたし……というより私の場合は盾や鎧系統のスキルを持っていないので利用する事が出来ませんし、これ以上持ち歩くのも重量物となるので諦める事にしましょう。


「って、それはギガントの旦那の!?何しとんねん、ほんまに!」

 そうしてヒュドラゾンビの攻撃を弾き切った私達に対して我謝さんが憤慨していたのですが……この辺りは私の憶測になるのですが、たぶんキリアちゃんからギガントさんに鎧が譲渡される時に設定ミス(誰でも使える状態)があったのか、触手達に無理やり剥がされた事によって所有権がフリーになっていたなどの理由で牡丹が使えるようになっていたのでしょう。


この仮定(譲渡権がフリー)が正しいとすれば…)

 とはいえあくまでヒュドラゾンビの攻撃を防げるようになっただけですし、媚毒に侵されている状態が好転している訳でもありません。


 しかも体全身を使って大きく息を吐いている牡丹の魔力が心許なくなっていて……流石に巨人用のパーツを振り回すのはなかなか大変な(魔力消費が激しい)ようですね。


「これ以上の戦闘は無意味ですし、降参したらどうですか?」

 一番怖いのは私達が根負けするレベルのブレス攻撃(遠距離攻撃)が続く事ですし、あえて棒立ちになりながら「まるで利いていませんが?」といった虚勢を張って挑発してみた(攻撃を誘った)のですが……そんな私達のハッタリに見事に引っかかった我謝さんは手に持っていた杖をブンブンと振り回しました。


「は?こっちはこっちで事情があるんや、はいそうですかって引く訳にはいかんのや!」

 そうして我謝さんは死霊を操るための杖を構えながら私達に向かってくるのですが……。


(本当に…こんな簡単な挑発に引っかかるとは思っていなかったのですが)

 チームプレイという事でサポート役に徹していた我謝さんなのですが、性格的には突撃気質のある近接職の方ですし……いくら媚毒の影響を受けないアイアンスケルトンといっても私の魅了は魔力を経由して影響を与え、大きくなる場所の無い我謝さんは高まるだけ高まっていく感情を持て余していたようで……冷静な判断を下す事が出来なくなった結果の短慮の発露(特攻)なのかもしれません。


 要するに、もとからあった突撃気質と周囲の根っこ達が襲ってくるというイライラと魅了の力によって冷静な判断を下す事が出来なくなっていて……勿論突撃して来る我謝さんをサポートしようとヒュドラゾンビが前に出てこようとするのですが、通路で横並びになれるという事と問題なく戦闘行動がとれるというのは同義ではないですし、突っ込んでくる我謝さんが射線上に入るように動くと後衛に居るヒュドラゾンビはどうする事も出来ませんでした。


「死にさらせぇええ…ぐべぇ!!?」


「ぷ~ういッ!!」

 そうして闇の魔力を込めた杖を大上段に構えながら振り下ろそうとしている我謝さんなのですが、ロストギアの盾を構えた牡丹が後ろにいるヒュドラゾンビにぶつけるように我謝さんをかち上げ押し付けてしまい、その隙に杖の主導権を奪わせて貰う事にしましょう。


(これで、ヒュドラの操作を…!)

 我謝さんは完全にバランスを崩しているので止めを刺す事も出来たのですが、倒すとヒュドラゾンビの攻撃を防いでくれている動く骨盾(肉盾)が無くなってしまいますからね、まずはヒュドラゾンビからという事で我謝さんの持っている杖に【淫気】を絡めて(【鞭】の範囲に入れて)主導権を奪い取ろうとするのですが……流石にそう簡単に切り札(アーティファクト)を手放す事は無いようですね。


「って、ちょい!?何やってんねん!放…っ!?」

 魔力が潤沢にあれば強引に奪い取る事も出来たのかもしれませんが、立っているのもやっとという状況では力負けしてしまって……だからと言って牡丹にドスドスと体当たりをくらいながらではなかなか私を振り払えないようですし、ヒュドラゾンビに我謝さんを押し付けながらワチャワチャとしていると訳が分からなくなったヒュドラゾンビが出鱈目に攻撃を開始してしまって……。


「GYUOOoooOOOOxx!!」

 因みにこのヒュドラゾンビのレベルは生前より弱体化した状態(レベル53)なのですが、鈍重になった代わりに再生能力を得たという特殊個体で……下手に攻撃をしても撃破できるかわからないので後回しにしていたのですが、こうも暴れられると色々と厄介な事になってきますね。


「ぐ…っ!?ってーな!何しとんねん!敵はあっちやろ!?」

 しかも死霊を操る杖の奪い合いが発生してしまった事でヒュドラゾンビが滅茶苦茶に暴れ始めてしまって……それはワチャワチャと自分の邪魔をしてくる(立ち塞がる)我謝さんの排除をしたかっただけなのかもしれませんが、とにかく振り払うように弾かれた我謝さんがおもいっきり壁に叩きつけられていました。


(もう…無茶苦茶ですね!)

 曲りなりに指揮を執っていた我謝さんが魅了の力で冷静さを失っていますし、その影響を受けたヒュドラゾンビが壁に激突しながら滅茶苦茶にブレスを吐き続けているのですが……その程度の攻撃(盲目撃ち)なら牡丹の防御が間に合いますし、私達は振り回されている尻尾の届かない距離まで離れる事にします。


「くそ…なんやちゅーねん、こんな狭い所で暴れんなや!って…何しとんねん!?今はそんな冗談やってる場合やないで!?ちょ、ほんまに…っ!?」

 因みに壁に激突した我謝さんは絡みついて来ている根っこを引き千切ろうとしていたのですが、『ロストギアメイル(巨人用)の破片』を構えながら何度もぶつかって来る牡丹のせいで上手く脱出できないようですね。


「GU…RURU…」

 そうして半場自滅するように絡め取られてしまったヒュドラゾンビと一緒に飲み込まれてしまった我謝さんは蠢く木の根っこの中から顔と右腕の一部をかろうじて出しているという状態になってしまったのですが……。


「な、なあ…ユリエル()に言うのはどうかと思うんやけど…後生やと思って助けてくれへんか?」

 アイアンスケルトンという性感帯の無い魔法生物にも皮膚感覚があるようで、どこか落ち着かない様子でそんな提案をされるのですが……敵対している我謝さん(熊派)を助け出す理由がまったくないのですよね。


「すみません、私達は先を急ぎますので…そのうち誰かが通りかかると思いますし…最悪の場合は自殺をお勧めします」

 むしろ多くのプレイヤーからエネルギーを搾り取っていたのは熊派の方ですし、これも因果応報という奴なのでしょう。


「ちょ!?自殺って…堪忍してや、冗談キツイで!?」

 なんて我謝さんが騒いでいるのですが、ここは最奥に続く唯一の通路といっても良いような場所ですし、地下空洞には多くのプレイヤーが落下して来ている状態ですからね、通りがかる人も居るので発見率は高い方だと思います。


 それに闇の魔法(杖の強化等)を使っていればMPが枯渇しリスポーンする(死亡する)事になると思いますし、その辺りは我謝さんの自由意思に任せる事にしましょう。


(何とか…なりましたが)

 壁の中に埋もれてしまった我謝さん達を放って先を急ぐ事になったのですが、どうやらこの先でキリアちゃん(「大将が色々と」)が何かをしているようですし……私達はポーションを使って体調を整えた後に最奥を目指して歩みを進める事にしました。

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