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5:スタート地点

※4話で説明終了と言ったな、あれは嘘だ!ゲーム内の仕様が残っていました……この辺りはおいおいアップデート予定です。

 ゆっくりと浮上するような感覚に合わせて、頭が外側に引っ張られているような、妙に重いような感覚がありました。体も背中側に引っ張られているような感じがします。もしかして接続エラーでもおきたのでしょうか?そう思い始めたところで、私は目を開けました。


 埃臭さ。木々の匂い。葉擦れの音。夕日の明るさ。


 見えてきたのは赤く染まった円形の石室です。現実の時間とリンクしていなかったので一瞬驚きましたが、ゲーム内では体感時間が4倍速されているので時間がズレているのでしょう。


 部屋の中には使われた形跡のない年季の入った家具が置かれており、壁沿いには下へと続く螺旋階段が見えました。

 部屋の形的に塔か、それに近い建物の中のようです。どうやらここが私のリスポーン地点のようでした。


 ガラスの入っていない窓からは時折気持ちのいい風が入ってきており、部屋の中の埃がキラキラと輝いていました。いつ掃除されたのでしょう?別に私は潔癖症という訳ではありませんが、身の回りの事をロボットかアンドロイドがするのが当たり前という現代人からすると、ちょっとこの埃の量が気になります。

 そういうところまで再現できていると褒めるべきか、そんなところまで再現しなくてもいいと呆れるべきかは悩むところですが、きっと考えても仕方がない事なのでしょう。HCP社の場合、吸い続けていると状態異常くらいかけてきそうなところがあるので油断できませんが……。


(それにしても…)

 頭が重いです。背中が引くつくような感覚もありました。これが接続エラーなら運営に通報するだけですが、その原因に心当たりがあるのできっとこれは仕様なのでしょう。魔人の角と腰翼。単純にそういう物がくっついているだけという訳ではなく、本当に神経が通っているような感覚があり、少し脳が混乱しています。

 私が予想をしていたよりも、人間の体にもとからない器官というのは違和感を覚えるもので、なかなかに気持ちが悪いです。


 角を触ってみると硬質な感触があり、生温かい温もりがありました。角に力が流れ込んでいる設定なのか、常に血が流れ出しているような、血が抜け続けているような感じがします。頭が冴えるような、フワフワしているような、不思議な感覚です。

 翼の方は腰の後ろ、お尻の少し上あたりに膨らんだこぶのような2つの塊があり、そこから翼が生えています。試しに少し動かそうとしてみたのですが、スキルレベルが1だとまともに動かせないのか、ピクピクと痙攣するだけで背中の筋肉が攣りそうになりました。

 肌触りとしては筋肉質な感じで、皮膜の部分も薄いという感じはせずがっしりとしています。ただ触るとくすぐったくて、背中がゾワゾワして、お腹が温かくなります。思わず声が出そうになったのであまり触るのはやめておきましょう。


 この辺りの感覚には、徐々に慣れていくしかないのでしょう。私は気持ちを切り替えて、装備の確認をする事にしました。


 着ている物は布目の粗い麻の半袖で、腰翼があるためか、ほぼ背中が開いているというデザインです。下に履いているスカートも膝上10センチのミニスカートという実用性皆無なデザインに、HCP社の趣を感じさせました。

 下着も同じ素材で作られたシンプルな物で、拘りなのか設定的な物なのか、ゴムやワイヤーといった物は使われておらず、紐でくくって固定するだけの物のようです。

 ゲームによってはこういう下着の類は脱げない設定になっているのですが……ブレイクヒーローズだと、脱ごうとしたら普通に脱げましたね。まあ別に、所詮はアバターなのですから見られても特段支障があるわけではないのですが、特に動きが良くなるとかもありませんし、私は痴女でも見せびらかす趣味があるわけでもないのでちゃんと履いておきます。


 服装に関しては特にスキルを取得していないのでいかにも初期装備といった感じなのですが、武器の方は【片手剣】を取得した影響か、ちゃんとした剣が配られていました。とはいえいきなりちゃんとした物が配られているという訳でもなく、石の剣……石剣(せっけん)という奴ですね。


「【看破】」

 試しに【看破】を使ってみると、名前はそのまま『石の剣』である事と、耐久度を示す黄色のバーが見えました。【看破】のレベルが1だとわかる事は名前と耐久度だけのようです。


 石剣を軽く振ってみると見た目より軽く、ほぼ重さを感じませんでした。材質のわりに耐久度のバーが長いような気もしますので、もしかしたら初心者用の特別仕様なのかもしれません。それでもちゃんと刃は砥がれているようなので、物を斬る事は問題なく出来そうです。腰に装着するための剣帯(けんたい)もセットでついて来ており、私としてはむしろこちらの方が嬉しい誤算だったりします。


 実は『ブレイクヒーローズ』にはアイテムボックスやインベントリといった便利な機能はありません。自分が持てる量がそのまま持てる量となり、バックパックが必須です。将来的には見た目より沢山物が入るマジックバッグみたいな物が出てくるそうなのですが、ゲーム開始時点でそんな便利な物はなく、そんな状態で剣を腰につるす事ができる、両手を空ける事が出来るのはかなりのアドバンテージとなります。

 腰翼にぶつからないように剣の位置を調整しながら、私は仕様を確かめる意味で呟きます。


「【ステータスオープン】」

 声に出してそう唱えると、縦25センチ、横は40センチ程度の半透明のウィンドウが出てきました。指先に出るとは思っていなかったので変な場所に出てしまったのですが、どうやら枠を摘めば動かせるようなので、見やすい位置に動かします。


 ブレイクヒーローズで使えるコマンドはこれだけです。自分のHPとMPと満腹度、アバターの状態が表示される画面の左右に色々な項目が表示されています。主な項目としては、『MAP』『スキル』『クエスト』『フレンド』『通知』『録画』『ログアウト』あたりでしょうか? 


 『MAP』は自分が通過した場所に色を付けるタイプで、周囲の様子は黒塗りでわかりません。

 『スキル』ではポイントを振る事ができるようなのですが、新たなSPを取得していませんし、そもそもまだ何もしていないので新しく取得できるようなスキルも覚えていません。

 『クエスト』は自分が受注しているクエストが表示される所で、チュートリアルクエストなのでしょう『(New)最寄りのブレイカーズギルドでギルドカードを発行してもらおう!』というクエストが表示されていました。

 内容は『受付に話しかけてギルドカードを発行してもらう』といったシンプルなもので、開いたからと言ってマーカーが出るわけでも、MAPに表示が出るわけでもなさそうです。本当に何を受注しているのかわかる程度の物ですね。

 『フレンド』はフレンド登録した人が表示される場所で、初期数の最大は100人。もちろん今は何の表示もありません。

 『通知』は運営からの連絡があればここに表示されるもので、通報や外部ネットへの接続などもここに集約されているようです。今は『(New)ようこそブレイクヒーローズの世界へ!』といった案内メッセージだけが届いています。内容は単純な挨拶だけだったので、目を通してから閉じておきました。

 『録画』はそのままの録画機能です。配信の機能もあるそうで、試しに起動させてみると、二回りほど小さな、白色のナビィさんといった感じの物が出てきました。

 赤色になれば録画中で、白色が録画していない状態のようです。カメラ位置はかなり自由に動かせるようで、任意の動きをさせる事もできるのですが、この小さなナビィさんがやられた場合、SPが1消費されるというかなり大きなデメリットがあるそうです。

 設定的にはブレイカーを召喚した大精霊が人間に貸し与えている小精霊といった扱いで、それがやられた場合、加護の力が減ってしまうといった感じのようです。つまり危険な場所を無理やり偵察させるといった使い方は出来ないという事ですね。少なからずよほどのリターンが無ければやらない方が賢明だと思います。

 『ログアウト』はそのままです。試しに選んでみると本当にログアウトするのか確認するメッセージと、セーフティーエリア外でのログアウトは一定時間アバターが残るので危険だという注意喚起が出てきました。アバターが残る仕様は、何かあったらログアウトすればいいという不正を防止する目的なのでしょう。セーフティーエリア内ならそういう心配もないという事でしょう。

 追々アップデートで増えていくのかもしれませんが、今のところの主要機能はこれくらいのようですね。


(さて、どうしましょう?)

 チュートリアル的にはブレイカーズギルドに行くのが正解なのですが、MAPに表示されている範囲にそれらしい物はないですし、窓から外を眺めてみようにも、建物と同じくらいの高さの木々が生い茂っていてよくわかりません。

 見える範囲に他の建物はなく、どうやら今私が居るのは森の中にある遺棄された施設、もしくは廃屋の中といった感じです。

 2階には特にこれといった物はなく、1階を少し覗いた感じでは、何かしらの工房のような作りになっているのが確認できましたが、人がいるような気配はありません。


 確かに魔人がいきなり町の中に現れたのならそれはそれで問題が起きるような気がしますが、プレイヤー目線でいわせてもらうと、かなり不親切なスタートのような気がします。


 ゲーム内時間はこれから夜という時間に差し掛かっており、徐々に夕日が薄れていっています。このままでは土地勘のない夜間の森の中を探索するという事になりそうです。


(調べてみますか)

 セーフティーエリア内であれば外部ネットに繋ぐ事が出来ますし、私はスタートダッシュ組の攻略サイトや掲示板を見てみる事にしました。そして結論から先に言うと……今私のいる場所の情報はありませんでした。

 そもそもモンスターや人外組の情報がありません。書き込まれていないというよりも、人外プレイヤー自体がかなり少ないようで、種族ガチャの報告を見てみた限り、特にそれらしい書き込みがありません。それ程のレア種族を引き当てたという事は純粋に喜ぶべきことかもしれませんが……当面の間は攻略情報がないという事です。


 ちなみに普通の人間や亜人は“アルバボッシュ”という、精霊樹という大木が目印の町からスタートするようです。ギルドや各施設も揃っており、町自体も大きく、ゲームによくある始まりの町のようです。

 より亜人の血が濃い純血の亜人は“はぐれの里”という、アルバボッシュの北にある村がスタート地点になっているそうです。こちらはアルバボッシュより劣るものの、色々なお店もあり、一通りクエストを終わらせると「アルバボッシュへ旅立つのじゃ!」みたいな事を言われて始まりの町に向かうことになるそうです。


 とりあえずここにこれ以上いても仕方がありません。下の階を本格的に探索してみて、手がかりがなければ外の森に出てみましょう。

 そう行動方針を纏めたところで、微かに流れを感じました。流れ……というのはなんとも表現しづらい感覚なのですが、きっと【魔力操作】か何かが関係しているのでしょう。何かが動いているのがわかります。その流れを辿ってみると、2階の部屋の中心に、光の粒が集まり始めているのがわかりました。

※8/6 ステータス欄に満腹度が表示されている点を訂正しました。


※誤字報告ありがとうございます(1/27)訂正しました。

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