474:戦力の確認とチーム分け
「貴方達、時間がありませんわよ!さっさと持ち上げて積み込みを終わらせなさい!」
「へい、すんません姉御!」
「よーし、じゃあ気合入れろー!!持ち上げるぞぉおお、せーのぉぉおお!!」
「「「「おぉぉおおおっ!!」」」」
色々とひと段落させた後、ザワ付き始めた『エルフェリア』から離れるついでに『セントラルキャンプ』まで行ってみたのですが……『ギャザニー地下水道』にあったゴブリンの集落が地上に出て来たという感じの場所になっているだけで、本当に仕様上の変化が起きたというだけの場所のようですね。
とはいえもしかしたら『蜘蛛糸の森』まで南下すれば何か変わるのかもしれませんが、流石に調査している時間が無くて……なので適当にゴブリン達を魔素に変換してから休憩とアイテムの補充をする為に『イースト港』にあるフィッチさん達の倉庫まで戻って来たのですが、スコルさんやまふかさんやグレースさんの勧誘のおかげで人が増えているようですし、ローゼンプラムさんとドゥリンさん達がお手製のクレーンを使って改良したエンジンを魔導船に積み込んでいたりとなかなか大忙しのようでした。
(何て言いますか、この短時間でローゼンプラムさんが妙に馴染んでいるのですよね)
こういうノリの良さがローゼンプラムさんの良いところなのかもしれませんが……反対に、もともと船大工チームを率いていたフィッチさんが倉庫の隅の方に追いやられてしまい、しゃがみ込んでいじけているように見えるのは気が付いていないフリをした方がいいのでしょうか?
「どうったのよ、そんな場所で縮こまっちゃって…おっさんだったら話を聞くわよ?」
「ああ、同士スコルですか…いやなに、はは…まあ、色々とありまして」
因みに大忙しな船大工さん達を見ながらまふかさんは腰に手を当てながら息を吐いていますし、グレースさんは人の多さと熱気にオロオロとしていて……そしてスコルさんはフィッチさんをからかいに……いえ、励ましに行ったようですし、今の内に私は私の用事を済ませてしまう事にしましょう。
(手の空いている人は…?)
作業の手を止める程の用事でも無いですし、手ごろな人を探そうと周りを見渡すのですが……カナエさんは周囲のノリの良さに呆れながらもやるべき仕事をこなしていますし、シグルドさんやリッテルさんは力仕事を担当していて……ティータさんやエルゼさんも種族の特性を活かしたお手伝いをしているようで……というところで、そういうノリについて行けずにフワフワと浮いていたHMさんが小首を傾げながら声をかけて来てくれました。
「お、おかえりなさい…その、大変な事になっていたみたいですが…大丈夫でしたか?」
そうして近づいて来たHMさんは奇妙な魔力を感じたのか不思議そうな顔をしたのですが……私が平常心を保っている状態だと【蝕常】の力も働いていないようですね。
(これなら何とか…でしょうか?)
これから敵地に乗り込むというタイミングで“味方にどういう影響を与えるのかがわからないスキル”を保持したままというのは厄介極まりないですからね、私が平常心を保っていたら周囲に影響を及ぼさないという推測も確かめなくてはいけなくて……。
「はい、何とか…『エルフェリア』の事は噂になっていました?」
そんな事を考えながら話を合わせていたのですが、HMさんの様子を見ている限りだと魅了の効果はさほどでもないのかもしれませんね。
「エルゼさんがそういう噂話を集めたり聞いたりするのが好きで…その、私も小耳に挟んだ程度ですが……ユリエルさんも居たのですよね?」
HMさんが言うには船大工さん達の間でも『エルフェリア』に現れた熊派の話をしていたようで、熊派の襲撃を受けて奪還されただとか謎の女性が現れただとかいう噂でザワついていたのだそうです。
「ほんっと、大変だったのよ…この子が敵にやられちゃって…」
そうして私に恩を着せておきたいまふかさんがある事ない事をHMさんに教えていたのですが……助けられたというのは事実ですからね、やや誇張しているところが気になるものの何も言わないでおきましょう。
とにかく私達は情報を共有する意味で『エルフェリア』で襲われた事やスーリアさんの能力の事を伝えておくのですが、キリアちゃん以上の強さを持っているという事に対してHMさんは眉を寄せていました。
「それは…大丈夫なのでしょうか?」
「どう、でしょう?できれば2人が合流する前に攻め込みたいのですが…」
私達はそんな話をしながら周囲の様子を窺うのですが……。
「そこ!積み込んだら固定作業!鑑定持ちの人は耐久度のチェックをしておいてください、削れてきている物は総取り換えを!」
ローゼンプラムさんやドゥリンさんは相変わらず忙しそうですし、カナエさん達もお手製の機械で耐久度の計算や測定をしているようで……今すぐ出航できるような状態ではないのですよね。
「それは…少し難しいかと?」
HMさんが困ったようにそんな事を小さく呟くのですが、魔導船の改良にはもう少しだけ時間がかかるようですし、私達は作業が終わるまでのんびりと待っている事しか出来なくて……。
「そのようですね、時間がかかりそうですし…もう少しだけ魔素を集めておきましょうか?」
スーリアさんが撤退した影響なのか『エルフェリア』のポータルが使えるようになっていましたし、もう少しだけ魔素を集めに行くのも悪くないのですが……まずはアイテムの補充に出てもらっている牡丹の帰りを待たないといけないのですよね。
「ねえ、頑張りすぎるのはいいけど…また変なのに絡まれないでよ?」
ただ私がうろつく事に対してまふかさんが否定的で……流石に行く先々でイベントがあるとは思っていないのですが、どうなのでしょうね?
「それは…大丈夫だと思いますが?」
「どの口がそんな事を言うのよ!いっつもいっつも変な事件に巻き込まれて!」
「そ、そうですよ!こ、今度はわ、わたしもご一緒しますので…!」
との事で、一通りメンバーを揃えたまふかさんとグレースさん達もついて来るという事になったのですが……。
「それは…気を付けてください…その、私も手伝えたら良いのですが」
幽霊であるHMさんは戦闘でも役立ちそうな種族特性を持っているのですが、魔力関連の攻撃は普通にダメージを受けてしまいますし、すり抜けてしまうという事はタンク役も出来ないという事で……フワフワと浮いているだけなので機動力も無いと純粋な戦闘力は高くないのですよね。
「ありがとうございます…HMさんには戦闘以外の部分で活躍してもらおうと思っていますので、それまではのんびりしていても?」
「…頑張ります」
HMさんの浮遊能力には期待していますし、そもそも能力的には斥候的な役割が適任だと思いますし……こういうのは適材適所ですからね、これが出来ないからといって自分を卑下する必要はないと思います。
なので正直に思った事を言っただけなのですが、励まされたと思ったHMさんがはにかむように笑っていて……とにかく速攻をしかけたくても魔導船は最後の仕上げの真っ最中、当初の予定より参加者が増えてしまったのでその統率に困る事となり、各自休憩をとってからの夕食以降の作戦開始となってしまいました。
『なんだか大事になっているようだけど…それくらい居ないと攻略は出来ないのかな?って事で、了か~い、じゃあ私達もそういう段取りで準備をしておくね』
そういう訳でのんびりと準備をしておく事にしたのですが、途中でナタリアさん達がログインして来たので状況を伝え……その人数の多さには驚かれたのですが、参加自体は問題ないようですね。
『そう、ね~…戦闘面では役に立てないと思うけど…足を引っ張らないように頑張るわ~』
ヨーコさんも問題がないようですし、このメンバーにスコルさんとまふかさんとグレースさんが集めて来た人達が追加される事になるのですが……私が名前を知っている人達を取り上げるとなると、まふかさん経由で参加を打診されたシノさんがいました。
「仕方なくなんだから、本当に仕方なく…本当は参加したくないんだよ?」
シノさんはもともとソロプレイヤーという事で物凄く渋られたようなのですが、配信者としては魅力的な作戦という事で参加を受諾してくれたようですね。
「キヒヒ、よろしくな…天使の姉御」
そうして何処から湧いて出て来たのかもわからないレイブンさんも……今はバットジャークさんと名乗っている元熊派の男性も参加する事になったのですが、どうやら魔導船の話を嗅ぎつけて参加を表明して来たのだそうです。
「私達の指示に従ってくれるのなら放り出すような事はしませんが……本当に良かったのですか?」
情報を隠匿しておくのにも限界がありますし、ここで放り出したら熊派に情報を流してしまう可能性がありますからね、口約束だろうと何だろうとしておいた方がマシだと思って参加を認めたのですが……そもそも戦う相手が元仲間達という事になるのですが、その辺りは大丈夫なのでしょうか?
「ん~?元からそれ程恩があるような連中じゃねーし…まあ天使の姉御が罠に嵌められてヒイヒイ言っている姿を見たいっていうのはあるから情報を流すのは…って、冗談だよ、冗談…だからそのちびっ子いのを差し向けるのはやめてくれ」
「あ~ら~?あれだけ可愛がってあげたというのにつれないわね~」
なんて出て来たラディにトラウマでもあるのでバットジャークさんが後ずさるのですが……『イースト港』での鬼ごっこの時にはラディの足止めを受けていましたからね、2人の間には色々な事があったのかもしれません。
とにかくそういう厄介者もいる事ですし、この作戦自体は公式のイベントという訳でもないので指揮系統の確立に苦労する事になって……これがイベント中であれば人数無制限の大規模PTを組む事が出来るのですが、今は人数制限のあるPTしか組めなくて……特別なスキルが無ければ意思疎通が出来る範囲は声の届く範囲ですからね、最終的には各班のリーダーを1つのPTにまとめて全体の意思疎通を図り、戦力を均したPTを各々率いるという形で落ち着きました。
結果、魔導船に乗船して大森林に殴り込みをかけるまふかさんとシグルドさんの2チームが主力を担う事となり、これに蜘蛛の糸で出来た橋を架けるメンバーの護衛や補佐を行うスコルさんの……主力には機動力や能力の高い人を配置しているという事もありますし、スコルさんのチームは防衛戦を想定しているので盾持ちの人などのやや機動力が欠ける人達が配置される事になり、盾役兼治療担当という事でグレースさんもスコルさんのチームに参加する事になります。
そうして共同歩調をとろうにもとりづらい人外種のメンバーをエルゼさんに率いてもらい……ここにHMさんやティータさんに加わってもらいましたし、魅了の関係で別行動をとる事になった私の代わりに蜘蛛達の大半を率いてもらう事になりました。
後は魔導船に乗って直接的な支援をするナタリアさんのチームが居るのですが、こちらには船上でも即応が出来る中~遠距離タイプの弓使いなどを配置していて、本人の希望と投擲での支援という事でヨーコさんもこのチームですね。
そして大火力で対岸の制圧をおこなって貰う予定の支援チームをシノさんに率いてもらう事となり……ソロプレイヤーであるシノさんは「なんで私が指示しないといけないのさー」なんて愚痴っていたのですが、人にあれやこれやを言われるのが嫌だったというのと単純な知名度や能力の問題で……後は魔法使いが少ないというブレヒロ特有の問題も加味して「まあこの人数なら」という事でチームリーダーを引き受けてくれました。
「こっちはこっちで勝手にやらせてもらうからさー…私達の射線に入ったら容赦なく撃ち込んじゃうと思うから、そこんとこだけは気を付けてね?」
との事で……後は指揮能力は問題ないものの、流石にレベル的に前に出る事が出来ないローゼンプラムさんがやる気はあるけど実力はいまいちという人達のフォローに回ってもらい……転生して間もないバットジャークもこのチームですね。
そして作戦の要となる魔導船の指揮はカナエさんが取る事となり、その補佐にフィッチさんという配置で……何故フィッチさんが魔導船の指揮を執らないかというと単純な実務能力や指揮能力の差ではあったのですが、だからと言ってフィッチさんを作戦会議から外すというのもどうかと思いますからね、魔導船チームからはカナエさんとフィッチさんの2人がリーダー入りする事になりました。
「船の方は任せてくれたまえ、君達が無事に帰還するまで何とか持たせる事を約束しよう!」
「はいはい、頑張りましょうね…でも本当に船の方は任せてください、何とか抑えますので…ご心配なく」
そうして2人からは心強い言葉を貰えたのですが……後は蜘蛛達を率いる予定だった私もリーダーPTに入っているのですが、魅了の問題があるので単独行動になってしまい……全体の様子を窺いながらの遊撃を行うというポジションになります。
「いい?あんたは変な事をしないで適当に敵の数を減らしてくれたらいいんだから…変な事をしないでよ?」
なんてまふかさんは心配をしていたのですが、別に私もふざけている訳では無くて……何か言い返そうかと思ったのですが、妙に私への偏見があるまふかさんには何を言っても信用されないような気がしたので黙っておきましょう。
(それでは…キリアちゃんとの決着をつけに行きましょう)
これだけのメンバーで攻め込む事になったのですが、無駄に突出して袋叩きにあうというのは嫌ですからね、作戦開始と同時にスコルさんがネットに情報を拡散してくれる手筈となっていますし、まふかさんとシノさんが時間差配信をする予定で……それを見て他の人がどういう風に動いてくれるのかは未知数なのですが、とにかくこの戦力でキリアちゃん達の居る『ディフォーテイク大森林』に殴り込みをかける事になりました。
※少しややこしいのでこちらに書き出しておくのですが、リーダーPTには『まふかさん、シグルドさん、スコルさん、エルゼさん、ナタリアさん、シノさん、ローゼンプラムさん、カナエさん、フィッチさん、ユリエル』が入っています。
※誤字報告ありがとうございます(4/24)訂正しました。




