45:再出発
一旦休憩のためにログアウトして、色々していたら時間はお昼過ぎですね。お昼前にはフィルフェ鉱山のヒストリーが上がっており、内容はなんと言いますか……スコルさんが思いっきり目立っていましたね。まるでスコルさんが鉱山の危機を救ったと言わんばかりの内容にはちょっと頭が痛くなりましたが、スコルさんが矢面に立ってくれたと思う事にしておきましょう。皆の反応もそれほど悪くなく好意的でしたし、大丈夫そうですね。
そんな事よりも、若干見世物パンダのような扱いでしたが、私のスレが立っているのには驚きました。内容は真面目な考察からよくわからない反応までと色々あったのですが、どうも悪ふざけが過ぎて雑談掲示板から隔離され、隔離された事によって悪ふざけが進行していったという感じですね。
流石に如何わしい加工がされたSSや動画は除去されていたのですが、そのせいで逆にギリギリを攻めた隠し撮りが大量にアップされていたりと、ちょっと色々可笑しい感じになっていますね。このスレを私が通報したら大変な事になりそうですが、この手のゲームについて回る風物詩みたいな物ですし、人の噂も七十五日と諦めておきましょう。ただこのスレだけは母には決して見せられませんね。「ユリエルちゃんの魅力が全然わかっていない、駄目、撮り直し!むしろ私に撮らせて!知り合いのプロを呼んでくるから、衣装も着せたい物が多すぎて困るわ!」とか言い出しかねませんからね、かなり面倒くさい事になりそうです。誕生日の記念写真ですら数百万は平気で使いたがりますし、母が本気になったらどれだけの資金が投入されるか、ちょっと見当がつきません。
父は……眉を顰めて困っていないかは聞いてきそうですが、昔から母に「これだけの至宝を世界に広めたいと思うのは人間の欲求として当然の事よ!」と丸め込まれていましたからね、今更何か言ってくる事は無いでしょう。
とはいえ二人とも娘にSPを付けたり護身術を習わせたりするくらいの事は平気でしますし、一線を越えたら何をするかわかりませんからね、掲示板の動向については少し注意しておきましょう。
とにかく、私が色々と片付けてからはぐれの里に戻ってくると、ロックゴーレムの攻略にやって来ていた前線組は各地に散っており、元からいた生産組と、少数の腕試しに来たプレイヤー達でほどほどの賑わいに落ち着いていました。
売っている物の種類も少し多くなり、買取の値段も通常価格に戻ったようですね。残り少ないお金で食料品だけ買い込み、まずは『魔光石(中)』を売って当座の資金にしていきましょう。流石にこれを店売りするのも何なので、WMに出してみましょう。その参考価格を聞いてみようと露店のおばさんに『魔光石(中)』を見てもらったのですが、どうやらよくわからないようですね。
「ごめんなさいねーこの辺りでは見た事のない物だわ。おばさんがうんっと小さい時にこれよりもっと小さい物を見たような気がするんだけど…それでも大体数十万Fだった気がするわ」
との事です。その時は別の大陸からやって来た旅の商人に見せてもらったとの事で、詳しい事は憶えていないそうです。
「いえ、ありがとうございます」
これは第2エリアとか、別の大陸のフラグですね。まあこの辺りはまだ鉄や鋼がメインですからね、攻略を進めていけば追々わかってくるのでしょう。
どうしても調べたいのなら専門職の人に師事して教えてもらうか、図書館で調べると言うのがセオリーですが、師事するも何も本格的に生産をする気はないですし、図書館は王都などの大都市にあるようなのでまだ行けません。だからと言ってこのサイズの石をずっと持っている訳にもいきませんし、もういっその事、適当な値段をつけてWMに流してしまいましょう。
はぐれの里ではWMが使用できませんし、まずはブレイカーズギルドのあるアルバボッシュに移動します。
たぶん私と同じような事を考えたのでしょう、WMにはロックゴーレム産だと思われる小サイズの魔光石が幾つか出品されていますね。値段は一つ50万F前後と、おばさんの言っていた価格の倍ですね。ただ使い道がわからないアイテムだからか、生産勢にそこまでの資金力がないからか、数万で売りに出された物以外は売れ残っていますね。まあその辺りはそのうち適正価格に落ち着くでしょう。値段の変動を見て調整するとして、一旦ここは倍の100万Fで出品しておきます。
WMは初めて利用するのですが、まず専用のカウンターに行き、委託販売したい旨を告げ、ギルド職員にアイテムを預けるようですね。後は記入用紙に価格と出品者の名前を記入して、ギルドカードを読み取り機に通したら登録完了です。
他に出品されているアイテムはウィンドウで常時確認できるので、これを見ながら価格を決めてもいいそうです。ただWMのウィンドウに表示されるのは出品されているアイテムだけなので、未知のアイテムは参考に出来ません。私がこれから出そうとしている『魔光石(中)』はまだ出品が1つもないので参考にはできませんね。そして記入なのですが……。
「ではまずここにペン先を少しいれ、インクを付けたら次はここに……」
WMの売買用のウィンドウはオンラインショッピングのものと同じで直感的にわかるのですが、記入は紙とインクのペンとかなりアナログで、もはやアンティークの域ですね。
キーボードや脳波デジタルにも対応しているらしいのですが、折角なのでインクとペンに挑戦してみましょう。ペンには何のボタンもついておらず、これでどう書くのでしょう?首を傾げながら、ギルドの職員さんの説明に従い、記入用紙に必要な項目を記入していきます。
独特な匂いのするインクを少量つけて、垂れたりにじんだりしないように紙に記入……っと、力加減を間違えてガリガリと紙を削ってしまいましたね。大昔の人はこんな物を使っていたのですね、なかなか感慨深いです。と、そんな事を考えながら金額と出品者の名前を書き、ギルドカードを通したら登録完了ですね。
値段の変更や出品の取りやめなどは各地のギルドから出来るそうで、出品物が売れた場合は登録したギルドカードに自動で送金されるとの事です。少しの間WMの商品を眺めていたのですが、中サイズだからといって直ぐに売れるという事もありませんね。直ぐ売れたらそれを元手にと考えていましたが、無理そうですね。仕方がないので当面の金策を考えましょう。
今のところ一番効率がいいのはウルフですね。基本的に肉や毛皮と捨てるところがありません。ナップサックを修理するための毛皮も集めたいのですが、倒すとなると丁度いい武器がないのですよね。1匹2匹なら投げナイフや素手で何とかなりそうですが、解体用の道具も買わないと効率が悪いですし、まあ無理はしないでおきましょう。なのでまずは角兎を狙い、それから最低限の装備を整えてと段階を踏むことにします。
ああ、そういえば、SPがたまってきているのでスキルも何かしら取得しておきましょう。取得可能スキルの中で気になっているのは【鞄】【収納術】【召喚言語】の3つですね。
【鞄】は手持ちの収納アイテムの強度を高め、中の物が壊れづらくなるスキルです。これはあると便利そうですし、取得しておきましょう。
【収納術】はスキルレベルに応じて収納量を増やせるスキルなので一見便利そうなのですが……β組のナタリアさんが収納量を増やせるリュックを持っていたのですよね。意外と早くマジックバッグが流通するかもしれませんし、これに関しては一旦保留にしておきます。
【召喚言語】は……何でしょう?説明が『古代の言語、様々なモノを呼び出す言葉』となっており、よくわかりません。これは採掘場の黒い靄の所にあった文字ですよね?何か意味深なワードですし、ロックゴーレムを倒した事によってSPが3ポイントも貰えていますからね、折角ですし取得しておきましょう。
後、スキルと言えば【片手剣】がレベル3に、【飢餓耐性(微)】【見切り】【魔力視】【暗視】がレベル2になりました。どれもいきなり効果が変わるスキルではないので実感は薄いですが、レベルアップした事は素直に喜んでおきましょう。
さて、これでと言いたいところですが……【ランジェリー】もこの際取得しておきましょう。と言うのも、どうやらそこそこ有名人になりつつあるようですし、【ルドラの火】を使うたびに見えてしまうと言うのは何とかしたいですからね。加護を与えて強化すると言う意味では【服】の方でも良いのかもしれませんが、【ランジェリー】は耐性装備としてそのうち取得しないといけませんからね、先に取得しておく事にしました。
スキルを整えたら、後は手早く角兎で金策をして、必要最低限の装備を整えます。流石にこの辺りは目を閉じていても倒せますね。逃げる角兎に投げナイフを投げつければ一撃です。そんな戦い方をしていたら【投擲】スキルが取得可能になりました。
私の戦闘スタイルもある程度固まってきていますし、これも取得しておきましょう。このスキルは命中率に関しては殆ど関与しないようですが、投擲距離が延びるのは良いですね。重量物が遠くまで飛ぶようになりました。
スキルを試しながら当面のお金を稼ぎ、装備を調えます。武器は解体にも使える鉄のショートソードを購入したのですが、資金があまり潤沢ではありませんからね、品質は【E】で妥協しておきます。
まずは安いシンプルなブラを買い、服は前に着ていたのと似たようなデザインの半袖のワイシャツに、グレーのズボン、靴もそろそろ耐久度が不味くなっていたので買い替える事にして、踏破性と頑丈さのあるショートブーツを買いました。シグルドさんに倣って布を1枚購入した辺りでもうほとんどお金が無くなっていたので、最後のなけなしのFで携帯食料を3箱買っておきました。
【ランジェリー】の効果がどういう風に効いているのかわかりませんが、揺れた時の痛みが少し軽減されているような、ピッタリと張り付いているような不思議な感覚ですね。ただ痛みはマシなのですが、前より揺れるような気がしますね。これで本当に効果が上がっているのでしょうか?防御力が上がってくれているといいのですが、まあ市販品の安物ですし、特に効果は無いのかもしれませんね。とにかくこれで準備完了です。当面使わないポンチョや布はナップサックに入れておき、『魔光石(中)』が売れる事を祈りながら本格的に王都攻略に乗り出しましょう。
※ユリエル達が日常的に使っているペンは3D出力のペンで、書き味としては軽い細身のマーカーみたいな感じです。デジタル的な出力なのでインク切れは無く、色も自在に変化できます。3D投影も可能で空中にも文字が書くことが出来るという優れ物です。とかいうリアルの事情ってどこまで書けばいいのか毎回悩みます。実は超高速通信が確立していてワープが研究段階、宇宙ステーションや月面都市があって火星が開拓中とか、皆興味があるのかとても謎です。
※ちなみにユリエルの両親は父が日本人で開業弁護士。母がアメリカ人で女優をやっています。表情は父譲りと言われますが、容姿は基本母譲りなのでユリエルは物凄い美少女です。母の仕事が仕事なのでユリエルも基本的に人に見られる事にそれほど嫌悪感はありませんが、流石に羞恥心はあります。
※誤字報告ありがとうございます(1/29)訂正しました。




