466:新戦力の加入
勧誘するにしても私達のやろうとしている事を説明しないといけませんし、ローゼンプラムさん達には一旦場所を移す事を提案したのですが……正統派美人というローゼンプラムさんと儚げ美人というHMさんと一緒ですからね、「何か面白い話でもあるのか?」という野次馬を連れてゾロゾロと連れ歩く事になってしまいましたし、適当にあしらわないといけなくなってしまったのですが……最終的には臨時PTを組んでの立ち話という形で落ち着く事になりました。
(これも魅了の力が関係しているのでしょうか?)
普通はここまでしつこく付きつきまとわれる事もないのですが……とにかく改めて私達が『ディフォーテイク大森林』に乗り込もうとしている話を聞いたローゼンプラムさん達は驚いていましたし、流石にレベルが低すぎるからという理由で辞退をしようとしていたのですが……求めているのがローゼンプラムさんの指揮能力やH Mさんとティータさんとエルゼさんの機動力ですからね、その辺りの説明をすると後方支援でよければという条件で参加してくれるようですね。
『そこまでユリエルさんが言われるのでしたら…あまり力にはなれないと思いますが、最善を尽くしますわ』
『そうだな、ここまで来たからには噂の大森林を見てみるのも悪くない…か、よろしく頼むよ』
『そうっスね~…戦わないで良いって言うのなら何とかなるんじゃないっすかー?まあ僕達も進化する事が出来たし、足手まといにはならないように頑張るっス』
との事で、イベントを楽しむ為に第二エリアにやって来たローゼンプラムさんとティータさんとエルゼさんからは前向きな言葉を聞けたのですが、引っ込み思案なH Mさんだけが一歩引いた場所で黙り込んでいて……。
(少し強引すぎたのでしょうか?)
何て事を考えていたのですが、HMさんはまるでこれからハイキングにでも行くような感じでじゃれ合っているティータさんとエルゼさんを温かな眼差しで眺めていて……そういえば女の子同士がイチャイチャしているのを見ているのが好きだと言っていましたからね、ただただ仲の良い2人を見てほっこりとしていただけなのかもしれません。
(この様子だと、大丈夫だとは思いますが…)
そもそもローゼンプラムさんに求めているのが非戦闘員を纏め上げる力ですし、幽霊のHMさんや妖精のティータさんや蜘蛛のエルゼさん達は糸の橋を架ける蜘蛛達との協力をお願いしたいので直接的な戦闘力はそれほど求めていなくて……勿論戦いたいというのなら前線に出ても良いとは思うのですが、流石に『ディフォーテイク大森林』に乗り込むにはレベルと経験値が不足しているので大変な事になってしまうと思います。
『HMさんもどうですか?勿論熊派の奇襲を受けたら前線に立つ事にもなるので絶対に安全という訳にはいきませんが』
無理やり連れて来られたというメンタルでは色々と厳しいダンジョンに挑む事になりますからね、出来たら自分の意思で参加を表明して欲しいと思って聞いてみたのですが……結局HMさんは少しだけ悩んだ後に小さく頷きました。
『え、あ…私は…は、はい、その……よろしくお願いします』
そうHMさんは頷いたのですが、ローゼンプラムさん達が乗り気なので否定的な言葉を言いづらいだけなのかもしれませんし、何か言いたげに視線を彷徨わせていたので少しだけ言葉を待ってみると……。
『その……ユリエルさんが守って…くれるのですよね?』
HMさんは口元を押さえながらおずおずと上目遣い気味に聞いて来たのですが、ここで中途半端な事を言っても心配させてしまうだけですからね、私はいかにも自信ありげにニッコリと笑って頷いておきました。
『任せてください、HMさん達には指一本触れさせませんので』
ローゼンプラムさん達が居たら大丈夫だと思いますし、後方支援要員が攻撃を受けているという事は私達の連携が破綻していたり熊派に奇襲を受けていたりする場合ですからね、そうなったらフィッチさん達の魔導船も撃沈されてしまっている可能性が高くて……そうならないように全力を尽くさせてもらう事にしましょう。
それくらいの気持ちで頷いたのですが、何故かHMさんが顔を真っ赤にしながら俯いてしまいましたし、エルゼさんが「おや~?」といった顔でニマニマとしていたのですが……よくわからない事は横に置いておくとして、とにかく今はローゼンプラムさん達が加入した事をまふかさん達に伝えておく事にしました。
『そりゃあ何かの役には立つのかもしれないけど…っていうかローゼンプラムって言うのは誰よ?全然聞いた事が無い名前だけど…本当に大丈夫なの?』
私の説明を聞いたまふかさんはそんな事を言っていたのですが……HMさんやティータさんやエルゼさんとはスライムイベントの時に一緒だった事もあって「ああ、あいつらね」みたいにあっさりとした反応だったのですが、ローゼンプラムさんだけは聞き覚えの無い名前だった事もあって「大丈夫なの?」という不安の方が先に来てしまったようですね。
『はい、レベルが低いので直接的な戦闘という点では厳しいと思いますが…非戦闘員の纏め役としては適任かと』
ここでローゼンプラムさんがモモさんだという事を伝えられたら良かったのですが、どうやら転生している事を隠しているようですし……会ったらすぐにバレてしまうような事ではあるのですが、勝手にバラしてしまうのも何か違うような気がしたので黙っておく事にしましょう。
『まあいいわ、あんたがわざわざ言ってくるって事は最低限の実力はあるのだと思うし…でも足手まといになるようだったら放り出すわよ?』
との事で、まふかさんは渋々と、グレースさんは私とまふかさんが良いのなら問題無しといった様子ですし、スコルさんも女性の参加は大歓迎という事なので早速フィッチさん達の所に案内をして……と、いいたいのですが、この時点で私達とフィッチさん達が繋がっている事がバレてしまうと面倒くさい事になりそうですし、何とかして野次馬達を振り切る必要があるのですよね。
『ゾロゾロと引き連れながら向かう訳にもいきませんし…少しだけショートカットをしますね』
途中で別行動をとる事になった牡丹は敢えて別の方向に逃げる事によって追手の大半を別の場所に引き連れて行ってくれて……合流に関しても【招集】があるので問題はないのでしょう。
『え、ええ!』
なのでしつこく付きまとって来ている人達だけを振り切る為に【魔翼】を展開するのですが……自力で壁を越えたり通り抜ける事ができたりするHMさんやティータさんやエルゼさんには何とか頑張ってもらうとして、普通の人間であるローゼンプラムさんを抱えて移動しようとしたらヒンヤリとした空気が首筋に絡みついて来て……振り向いてみると何故か自力で飛ぶ事が出来るHMさんが後ろから抱きついて来ていました。
『あ、いえ…その?』
「何か間違えましたか?」みたいにオロオロしだすHMさんなのですが……幽霊なので重さを感じませんし、浮遊速度の問題があるのかもしれないのでこのまま抱きついておいてもらいます。
『少しヒンヤリとしたので驚いただけで…しっかりと捕まっていてくださいね?』
『す、すみません…自分だとよくわからないので体温には無頓着で』
そういう訳で何故か私の頭皮の匂いを嗅ぎならがモゾモゾとしているHMさんも背負いながら魔導船を停泊させてある倉庫に向かう事になったのですが、一番しつこく追いかけて来ると思っていたバットジャークさんの姿が途中から見えなくなっていて……いったいどうしたというのでしょう?
『さあ~?もしかしたら路地裏で質の悪いスライムに絡まれているのかもしれないわねー?』
との事で、エルゼさんの上に乗ったティータさん達が追いついて来ている事を確認しながら屋根の上を飛び移っていると、潜んでいるラディがそんな事を嘯いていたのですが……もしかしてラディが何かしでかしたのでしょうか?
『うーふーふ~…私は何もしていないわよ~?相変わらずユリエルは心配性ね~…た~だ~うっかりとその辺りを徘徊しているスライムに精気を吸われちゃったのかもしれないのだけど~…本当に男の人って駄目ね~数回出しただけでも干乾びちゃってー……ユリエルはどうしたら良いと思う~?』
なんて事を言い出したのですが、ラディの言葉で何が起きたのかを理解してしまった私は目を細めたのですが……バットジャークさんの運命については心底どうでも良いですね。
(好きにしたら良いとは思いますが…ほどほどにしておいてくださいね?)
頼んでもいない事で難癖をつけられても嫌ですし……そうしてこういう追いかけっこがあったからなのか、『イースト港』の路地裏に入り込んでいる幼女スライムの事やバットジャークさんが流したであろう私が男漁りをしているという噂が立って無意味に路地裏をウロウロと徘徊する男性が増える事になるのですが……そう言うのはどうでもいい話ですし、とにかくラディの足止めと牡丹の誘導によって大きなトラブル無くフィッチさん達の倉庫に到着する事が出来ました。
「ようこそ、フィッチの工房へ…それとも邪悪なる森を焼き払う聖火を掲げし者達の集いか…なんにしても貴女方のように美しい同士が増える事は喜ばしい限りだ!」
そうしてフィッチさん達は美人さん達の参加に「ひゃっほー」と喜んでいましたし、ドゥリンさんが「うるせえぞ手前ら!手ー動かしやがれ!!」なんて怒鳴り声を上げながら手近な船大工さんをハンマーで殴りつけていたのでローゼンプラムさん達が若干引いていたのですが……。
「では何かありましたら連絡をしてくださいませ、足手まといにはならないくらいの準備はしておきますわ…でもその、本当にここの人達は大丈夫なんですか?」
妙に演劇ぶっているフィッチさんが「ラララ」と歌い出した事に対してやや素に戻ったローゼンプラムさんが疑わしそうな目をしていたのですが……演技をしているという点ではローゼンプラムさんも似たり寄ったりですからね、意外とフィッチさん達との相性が良いのかもしれません。
「はい、その…少し変わっている人達ですが悪い人達ではないので」
まふかさんとグレースさんとスコルさんが勧誘中で、常識人枠であるカナエさんとシグルドさんとリッテルさん達が買い物に出かけているとなると、残っていたのが少しだけ癖の強い人達だったという事もあってよくわからないフォローを入れなければいけなくなったのですが……とにかくお互いの自己紹介を済ました後にローゼンプラムさん達は自分達の準備を始める事となり、私達はレナギリーの居る『クリスタラヴァリー』に向かう事になりました。
※誤字報告ありがとうございます(4/1)訂正しました。




