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459:立ち塞がる人(キリア視点)

 すり鉢状の窪地に建っている石の塔、キリア達を殺す事だけが生きがいだというような顔をした人達の騒々しい熱気を一身に浴びていると頭がクラクラとして来るのだけど……血眼になりながら「熊派が」どうのと騒いでいるお馬鹿さん達を横目に見ながらキリアは頭の上から被っている『プーカのマント』の端をギュッと握って足を速めた。


(キリアが本気を出せたら…こんな奴らごと叩きのめしているのに)

 騒がしいブタ(カイト)さん達は陽動の為に『エルフェリア』に向かってもらっているのでここに居るのは正真正銘キリアだけ、そんな状態で見つかったら嬲り殺しにあう可能性があって……勿論そう簡単にやられてあげるつもりはないし生き延びるつもりなんだけど、ドキドキと煩い心臓を鎮める為に息を吐く。


(まあいいわ、陽動に引っかかっているお馬鹿さん達を見ているのは楽しいし…それより早くターゲットを探さないと)

 慎重に行動していたので時間がかかってしまったのだけど、どうやらここは『隠者の塔』とか呼ばれているようで……馬鹿面をしている連中がキリアの事に気が付く前に用事を終える事にした方が良いみたいね。


 因みに今のところキリアの潜入に気が付いている人はいないのだけど、たまたま気づかれていないだけなんていう偶然頼りの行き当たりばったりの作戦じゃなくて『エルフェリア』にあった悪戯妖精の毛で編まれた半透明のマント(『プーカのマント』)を利用していて、このマントにはこの場所にキリアが居るという事を認識していなければ見つかりづらくなるという効果があった。


 とはいえあくまで見え方を欺瞞しているだけなので触れる事は出来るし、一度見つかると強く意識されてしまうからなのか少しの間だけ使えなくなるというデメリットがあったりとその力は完全ではないのだけど、それでもここに居るお馬鹿さん達の目を騙すくらいの事は出来るようね。


(ここにキリアがいるという事は誰も知らないし…)

 これだけ「熊派がどうの」と話し合っておきながら誰もキリアの潜入に気が付いていないのは滑稽なんだけど、まるで存在を無視されているようで無性に腹立たしくなって来てしまい……とはいえここでキリアが姿を現したらただのお馬鹿さんになってしまうのでぐっと堪えた。


 ただこうして道行く人間の話を聞いていると本当に向こうの世界の人達はお遊び感覚でキリア達の事を殺そうとしている事がわかって辛かったし、見つかる危険性を考えるとブタさん達に任せたい案件ではあったのだけど……正直に言うとブタさん達はいまいち信用できないのよね。


 というよりトカゲ(レイブン)さんは裏切るべくして裏切って今はどこにいるのかわからないし、キリアの命令に忠実なブタさんは能力不足、巨人(ギガント)さんはその体格が『プーカのマント』に合わなくて、骸骨(我謝)さんはカタカタ言うので論外となり……それ以外となると五十歩百歩で誰にも任せる事が出来ないから危険を承知でキリアが乗り込んで来ているのだけど……。


(せめてバンダナ(『プーカのバンダナ』)の方もあったら良かったのだけど…惜しい事をしたわ)

 対となる装備があれば確実に気配を消せるようになるのだけど、『エルフェリア』から運び出す途中で紛失してしまったのよね。


 それが運送の途中でブレイカー達に襲われて紛失したのか運搬を任せていた(熊派)に持ち逃げをされたのかキリア達の拠点に忍び込んだ人間がいるのか……その辺りの情報が曖昧になっているのは残った戦力を『エルフェリア』側に送り込んでいるので拠点(大森林)の情報がキリアのところまで伝わって来ていなくて、キリアの手の届かないところで着々と何かが悪い方向に進んでいるような予感があって気が滅入ってくる。


 でも神様(運営)と戦うというのはそういう事だし、それこそ在りもしないような不運が次々と襲って来るという事なのだけど、真綿で首を絞めつけられているような息苦しさと積み重なる不安が一向に拭えなくて……。


(大丈夫、()()()()()も運び出す事が出来たし…デファルセントが守ってくれているから後は鍵を手に入れるだけ)

 うつらうつらしているところが少しだけ心配なのだけど、多少は意味があるのかもしれないという事で『エルフェリア』から盗み出した柵を設置しておいたし、キリアの言う事を聞いてくれるモンスターには防衛をお願いしておいた。


 だから『エルフェリア』しか見ていないお馬鹿さん達がいきなり矛先を変えたりしなければ大丈夫だし、多少侵入されたくらいだったらデファルセントが撃退してくれる……筈だった。


(ユリエルみたいな化け物がいなければ…だけど)

 ペルギィ(毀棄都市)が陥落した事によって『エルフェリア』攻めを行っている間に港町(『イースト港』)を落とすという作戦も延期になってしまい……勿論退路を断つという事は全力で反撃を仕掛けて来るという事なんだけど、「どこからそれだけの物資を持って来ているの?」と首を傾げたくなるような神様に愛されている人達のありえない物量を何とかしないとキリア達の負けが確定しているので物流を断つのは必須事項なのよね。


 というより一番痛かったのはキリア達が頑張って排除した『精霊の幼樹』が蘇っている事なんだけど、ブタさんや骸骨さんの話だとこれにもユリエルが関わっているようで……むしろ(土地)が合っているのか昔より大きな樹が生えて来てキリア達(熊派)の勢力圏が狭くなってしまった。


(本当に、こんなにキリアが頭を悩ませているっていうのに…力でねじ伏せて来るのは反則なのよ)

 ビークリストゥを撃退したのもユリエルだし、ペルギィを落としたのもユリエルで、あまりにも理不尽過ぎるユリエルの活躍に対して腕をブンブンと振ってみたのだけど……レディーに相応しい仕草ではなかったし、感嘆していられる状況でも無かったので気づかれる前に止めておいたのだけど、これだけ邪魔をされていても「ユリエルなら仕方がない」みたいな妙な達観があって、苦笑いを浮かべたくなってしまうのがユリエルのズルいところだと思う。


(こうして予定とか色々なものをユリエルに狂わせられ続ける運命なのかしら?)

 そう自嘲しなければ精神の均衡が保てないような気がするのだけど、ここまで盤面をひっくり返されると立て直しが必要で、時間を稼ぎながら離反者分の戦力を取り込むか別の大陸(別のエリア)から手下達(モンスター)を集めて来る必要があって……その為にもこの潜入作戦を成功させる必要があった。


(狙いはこんな所(『隠者の塔』)まで出張って来ているエルフの女王ただ1人)

 ブタさん達が情報を集めてくれた結果、ブレイカー達の拠点を守っているのがエルフ達だという事がわかっているし、その女王を殺す事が出来れば確実に戦況を混乱させる事が出来て……しかもブレイカー達の行動は民主的な判断?というのかしら、一つずつ堅実に潰していくような動きをしているので自分達の兵站を担っている拠点が襲われているとわかったら足を止める筈だし、時間を稼いでいる間に『エルフェリア』から持ち出したアーティファクトを起動させる事が出来たらキリアの勝ち。


(その為の準備は出来ているし、後は鍵となる()()()()を手に入れるだけで…)

 少なからず今日と明日を凌ぐ事が出来たらログイン率が下がる(平日に入る)筈だし、足りないエネルギーを補うための()()()()()()()()()のでよほどのイレギュラーが無ければ長期間の持久戦に持ち込む事が出来ると思う。


 とはいえこの作戦の穴は逆切れ気味に突っ込んでくるお馬鹿さん達をどうするかという事と弱体化しているキリアがエルフの女王を倒せるかという事なんだけど、一斉に襲ってこない限りはキリア達の力でも押し返せると思うし、女王を殺すための武器を持ち込んでいるので大丈夫な筈なんだけど……そんな事を考えているキリアの前に見回りをしているアルディード(エルフの女王)がのうのうと現れて……。


(ホイホイこんな所まで出て来ているお馬鹿さん、貴女がいなくなればキリアはもっと長生きが出来るの)

 護衛は6人、石の塔の近くの大通りと言う人通りの多い場所だったのだけど、兵士達は群がって来るブレイカー達を押しとどめようとしているだけでキリアの事には気が付いていないようね。


(大丈夫、ここまで誰にも見つからなかったのだから)

 こんな所まで出て来ているお馬鹿さんという言葉はキリアにも当て嵌まるのだけど、胸部に無駄な贅肉を付けたエルフの女王がプルンプルンと胸を揺らす度に鼻の下を伸ばしているブレイカー達が嫌らしい笑みを浮かべながら口笛を吹いたり騒いだりしてくれているおかげで多少不審な動きを見せている人がいたとしても気に留める人はいないし、魔法が得意だというエルフの女王も呑気そうな顔をしながら周囲に居る有象無象に手を振っていて……心臓がドキドキする、ここまで来たら後少し、女王を殺せば戦線が停滞してキリアは長生きが出来る。


 その思いだけでマントの下に用意していた武器を握り、周囲の人ゴミに紛れて近づき……確実に殺すために身辺警護をしていた木偶の棒達(6人の近衛兵)の横を通り抜けたところで女王陛下が近づいて来るキリア(刺客)の存在に気が付いたんだけど、もう遅い。


 咄嗟に張った防御魔法くらいなら用意した武器で貫けるし、ここまで近づけば後は体当たりをするように武器を構えながら突撃をするだけで……。


「ッ!?」

 何となくこのまま上手くいく筈がないというネガティブな考えとゾワリと首筋が泡立つような感覚を信じて横に跳ぶと、ギリギリを掠めるように伸びて来た紫色の混じったピンク色の魔力がキリアの体を絡め捕ろうと蠢いて来たのだけど、身を捩って何とか回避をしながら手に持っていた武器で弾くとそれほど耐久度の高くなかった『プーカのマント』が剥がれて襤褸くずになってしまった。


「な、何事ですか!?」

 そのせいでキリアの姿が他の人にも見えるようになったし、ザワリとした喧騒に混じってエルフの女王が叫んでいるのだけど……キリアはキリアとエルフの女王の間に割り込むように飛び込んで来た人から目が離せなくなってしまう。


 それくらい目を引く可愛らしいという曲線で構成されているピンク色の髪をした死神で、真っ先に考えるべき「何でここに居るの?」という疑問すら浮かばないレベルの平然とした表情を浮かべている人で、誰もキリアの事を見つけられない状況だというのにキリアの事を追い詰めて来る(探し出してくれる)人だった。


「やっぱり、最後に立ち塞がって来るのはユリエルなのね」

 安堵にも近い感覚に意味もわからず泣きそうになってしまったのだけど、ここで死ぬ訳にはいかないキリアは武器を構えながらのぼせたような表情をしているユリエルを睨み返した。

※今日と明日を凌ぐ事が出来たら → ゲーム内は時間加速されているのでキリアちゃんの感覚だと2日となります。


※少しだけ修正しました(11/2)。

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