457:作戦完了とその結果
持久する上での懸念点であった媚毒の靄を【グリモワール】で無毒化し、自己バフによる強化を受けてからの攻撃なのですが……そもそも増加させているという活力というのはいったい何の事なのでしょう?
そんな疑問が浮かんで来たのですが、どうやらゲーム的には魔力だったり生命力だったりするエネルギーの総称だったようで……体内に蠢いている魔力が満ちるのに合わせて血管が煮え滾るように熱くなっていき、感覚の一つ一つが目覚めていくような爽快感と共に頭の中が冴えわたっていくのですが、冷え切った充足感とは反対に身体は熱を帯びて息が漏れてしまいます。
(身体と頭がフワフワして…変な感じですね)
それだけだったら良かったのですが、第二の皮膚のように定着していた『翠皇竜のドレス』が魔力のお零れにあずかろうと敏感な場所を啜り上げて来るのですが……トロリとした質感や締め付ける感触が剥き出しの快楽神経に絡みつくように責め立ててきますし、何とか踏ん張ろうと下半身に力を入れると『蒼色のサンダル』が舐めとるように蠢いてしまい、そのままよろめいてしまいました。
それくらい敏感すぎる身体はありとあらゆる刺激を受容してしまうのですが、乳首に絡みついた布地が擦れるだけでも頭の中が弾けるような気持ちよさが溢れてしまい……爽快感と快感が半分ずつというむず痒さから耐えるように奥歯を食いしばります。
(って、カウントが…これは大丈夫なのでしょうか?)
ブーストを受けた牡丹が叫んでいた理由が分かったような気がするのですが、F D Cの安全基準を超える快楽物質とか色々な物が垂れ流しになっているのか強制ログアウトまでのカウントが出て来てしまい……HCP社は先進的な技術を取り入れすぎてよくわからない事になっている時がありますからね、もしかしたら第5世代VRに向けての技術検証やらなにやらで安全基準スレスレの運用がなされているのかもしれません。
(もしかして…仕様の裏をかいてしまったのでしょうか?)
運営が想定している【グリモワール】の効果は徐々に慣れていく事を前提にしているといいますか、スキルのレベルが上がるのに合わせて何かしらの補助が入るのかも知れなくて……そういう適応が無いまま裏技的な方法で最大出力を引き出した結果が強制ログアウトなのかもしれません。
とか考えているとすぐさまセーフティーが働き落ち着いたのですが、感覚が鋭敏になり過ぎていた私は0.017秒単位まで思考が加速されていた事もあってそれなりの時間が経過したように感じてしまい……このままフルパワーを維持するのも身体の負担になるので出力を下げてもらおうと口を開きかけたのですが……。
(どうやら…そんな事を言っている場合では無いようですね)
強化を受けた私の存在がよほど脅威だと思われたからなのか、ゆっくりとした動作で頭上からサングデュールの茨が23本、左右と背後から地面を這うように伸びて来た茨が18本と合計41本の赤黒い茨が包囲するように伸びて来て……ここまで強化していると茨の動きがゆっくりしているように見えますし、肌感覚で茨の本数までわかるような気がするのですが、掠める空気の流れに身体が疼いてしまって……モジモジしてしまいますね。
(このまま…行きます!)
集中攻撃を受けている時に出力を下げたら大変な事になりそうですし、セーフティーが働きタイムリミットが伸びていますからね、下げるのは相手の攻撃が落ち着いてからという事で踏み込むのですが……サングデュールの攻撃はビークリストゥの棘ミサイルのような鋭さや力強さがなく、私は右手に『魔嘯剣』を持ったまま茨の包囲網に飛び込む事にしました。
それだけで恥ずかしい汗とか色々な物が垂れそうになってしまい、自然と口の端が上がってしまうようなムズムズとした感覚があるのですが……ジョンさんが平然と戦っているので大丈夫だろうと思って赤黒い靄の中に突入すると、纏わりつくようなゾリゾリとした感触によって敏感な所を削られているような感じがして、身体が震えてしまいます。
(ほん…とうに、これ…は!)
揺れる胸に合わせて重心がブレてしまいますし、引き上げられるIラインが割れ目を擦り上げると愛液のぬるりとした感触と共に捲り上げるような刺激がパチパチと弾け、『魔嘯剣』の吸収効果をもってしても赤黒い靄の影響を0にする事は出来なかったのですが……吸収速度よりも私の移動速度の方が速いのでしょうか?
というより、そんなこんなでよろめいてしまった私を狙い打つように赤黒い茨が近づいて来ていて……【淫気】の鞭で茨を斬り払うと千切れ飛んだ茨が未練たらしく私の方に伸びて来たのですが、今更そんな攻撃に絡め捕られたくはないのでこのまま突撃を再開しましょう。
(耐え…なければいけないのですが!)
そんなタイミングで先に進んでいるジョンさんの動きを確認してみると視線が合ったのですが……何故か気まずそうに視線を逸らされてしまいます。
それだけで何か恥ずかしい事をしているような感じで身体が火照るのですが、ジョンさんはジョンさんで余所見をしていてリズムが崩れたのか横殴りの一撃を受けていて……何とか左手に持っていた棒クナイ……でしょうか?ナイフとは違う棒状の物で直撃を防いでいたのですが、弾き飛ばされるように転がり受け身をとっていました。
そういうイージーミスはジョンさんらしくなかったのですが……そのおかげで前方が空きましたし、ギリギリまで接近してからの攻撃を叩き込む事にしましょう。
(です、が…『魔嘯剣』の範囲に入るのは無理ですね)
サングデュールを覆っている赤黒い茨を掻い潜って踏み込むというのは藪の中に突っ込むようなものですし、そんな事をすれば媚毒がたっぷりと含まれている赤黒い茨に捕らえられてしまう可能性がありました。
(こんな状態でそんな物に捕らえられたら…)
考えるだけでゾクゾクして来て大変な事になりそうなのですが、そうならない為にもある程度の距離まで近づいたところで『魔嘯剣』の柄と10メートルまで伸ばした紐状の【淫気】を結び付けて……強度の問題で紐が引き千切られたらメイン武器が飛んで行ってしまう可能性があるのですが、茨を引き千切る程度だったら【淫気】の紐が切れる事がないと思いますし、増加している今の魔力量なら『魔嘯剣』を支える事も出来ると思います。
(これ…で!)
そういう算段をつけながら縄鏢のように伸ばした『魔嘯剣』を頭の上で一回転、遠心力をつけた横殴りの一撃を防ごうとするように集まって来ていた赤黒い茨ごと禍々しい薔薇の花が咲いている幹に一撃を入れるのですが……活力UPと相手の魔力を吸い取り利用する【魔嘯剣】の一撃がサングデュールに当たると意外と軽い手応えと共に幹を中ほどまで切断し……そこに【ルドラの火】を込めた投げナイフを左手で投擲しました。
OOOooOOOOOttt!!
踏み込みが足らず切断する事は出来なかったのですが、へし折れる方向に【ルドラの火】をぶつけると空気が揺らすような雄叫びをあげながらサングデュールが傾いていき……媚毒の靄の中だと次々と茨が生えて来るような状態ですからね、切っ先が通過し靄が充満して来ると自己再生と茨で傷口が塞がっていきます。
(もう一発…叩き込めれば良いのですが!?)
ラディとは個別に動いている状態ですし、即応できる【淫気】は紐状に伸ばしている真っ最中、すぐさま連携を取って追撃を入れてくれるような牡丹やニュルさんはグレースさんの防衛についていますし、淫さんも動いていないので左手でもう一度ポーチから投げナイフを取り出し【ルドラの火】を付与してという過程が必要なのですが、私が動く前に赤黒い茨が反撃だというように伸びて来て……このまま離脱をするべきなのか無理やり攻撃を続行するかの二択を迫られてしまいました。
「…光の盾を我が手に、ホーリーウォール!!」
そんなタイミングでグレースさんの【ホーリーウォール】が発動したのですが、広がって来た光の壁に赤黒い茨が押し返されて媚毒の靄が吹き飛ばされていき……何の抵抗もないまま押し返されるだけのサングデュールではないですからね、数百本の赤黒い茨が押し返そうと蠢き始めると光の盾には罅が入っていき、所々が砕けて散っていきます。
ただ残った光の残滓が媚毒の靄を吹き飛ばし……靄の影響を失ったサングデュールが自身の質量に耐えきれずに傾いていったところに二発目の【ルドラの火】が命中しました。
OOOoOOOxxt!!?
今度こそ半ば千切れるように倒れたサングデュールなのですが、これで撃破した訳では無いですからね、離脱中の私に向かって罅の隙間から入り込んで来た赤黒い茨が迫り……そこにクールタイムが終わったジョンさんの風の魔法が叩き込まれます。
「はっ、大きい方はあんた達に譲るけど…あたしだってこれくらいは出来るのよ!」
そうして媚毒の靄はグレースさんが、迫る赤黒い茨はジョンさんが吹き飛ばしたタイミングで、ビチビチとはじけ飛んで行く茨の欠片の間を縫うように全力疾走して来たまふかさんが『デストロイアックス』を構えて残っていた灰色の幹を持つ枯れた大木を斬り飛ばし……。
「ねえ!これだけやったらわざわざ集まって来るのを待つ必要もないんじゃない?」
今までの鬱憤を晴らす様に反対側まで一直線に駆け抜けて行ったまふかさんが「どんなもんよ!」というような弾けるような笑顔でガッツポーズをとっていたのですが……ジョンさんが感心してみせた後に「ああやって調子に乗らなければ良いのに」みたいな残念な子を見るような顔をしていたのが印象的ですね。
とにかくこれでサングデュールを一時的に無力化する事が出来たのですが、私達の事がよほどの脅威だと見たのか赤黒い茨をウネウネと再生させながら3本目と4本目の枯れ木が生えて来ようとしていて……これで陽動の任務については完了したのでしょうか?
「そうだな……よし、撤退だ」
そう思ってジョンさんの様子を窺うと、耳を澄ませるような仕草をした後に頷いて……どうやらお仲間さん達からの連絡が入って無事を確認したようですね、作戦が上手くいったようなので私達も撤退する事にしました。
「じゃあ先頭はあたしね、遅れるんじゃないわよ!」
そうして反対側まで駆け抜けていたまふかさんが先陣を切って離脱する事となり、再生しきっていないサングデュールの隙間から私とジョンさんが抜けて行き……分身については逃げ足の遅さが問題となってきますからね、私達が離脱する時間を稼ぐ囮になってもらいましょう。
「は、え?はひっ!え、ちょっと、ニュる!?ニュルさん!?」
「ぷい、ぷ~…!」
そして状況について来れていなかったグレースさんがアワアワと視線を彷徨わせていたのですが、呆れたように息を吐きながらも牡丹とニュルさんがえっちらおっちらと運び出してくれて……最後まで残っていたラディが意味深な視線を『ディフォーテイク大森林』に向けてから離脱して来たのが少しだけ気になったのですが……問い詰めるのは落ち着いてからでも良いですし、今はこの場所から離れる事を優先する事にしました。
※少しだけ修正しました(10/29)。




