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453:『ディフォーテイク大森林』の調査

 『クリスタラヴァリー』に戻るというノワールと別れて私達が向かった先は第二エリアの西側に広がる『ディフォーテイク大森林』の外れで……樹高数十メートルの巨木が生い茂っているというのは第二エリアの特徴なのかもしれませんが、この辺りはデファルセント(第二エリアのボス)が吐き出す黒い靄を浴び続けてねじ曲がっている樹木が並んでおり、そういう得体のしれない禍々しい黒い木と『歪黒樹(わいこくじゅ)の棘』と大量のモンスターが犇めいているのが『ディフォーテイク大森林』という場所だったのですが……。


(これは…どういう事なのでしょう?)

 襲い掛かって来たのはレベル30前半のパラライズビーや30後半のビックホーンビートル(巨大カブトムシ)やトレントという比較的中央から西部にかけて見かける敵ばかりで……『ディフォーテイク大森林』特有の上位種やデファルシュニー(巨大芋虫)などの固有種が見当たりませんでした。


(敵の配置が変わったのでしょうか?)

 前回来た時はもっと色々なモンスターが襲い掛かって来ていて……色々と気になる事はあるのですが、流石に本格的な調査をするには準備不足ですね。集めようと思っていた魔素も集まりましたし、戦闘経験を積むために頑張っているグレースさんの疲労や戦闘以外の理由でバテているまふかさんと一緒に進むのは難しいのかもしれません。


 因みに私達がこうして『ディフォーテイク大森林』に向かっている事は別行動をとっているナタリアさんやヨーコさんにも伝えていたのですが、これから『エルフェリア』攻略戦があるというタイミングで向かう事には呆れられてしまい……とはいえプレイヤーの殆どが『エルフェリア』に向かっている関係で大森林の調査をしている人がいませんし、わざわざこのタイミング(大穴狙い)でやって来るような人達は情報を秘匿する(独占する)傾向があるので自分達の目で確かめる必要があるのですよね。


『無理をしないでね、何かあったら私達もすぐ援護に行くから…って、そうそう、ちょっと小耳に挟んだ事でユリエルちゃんに確認しておきたい事があるんだけど…ユリエルちゃんって幼女スライムに何か指示って出しているの?』

 との事なのですが、何でもあちらこちらで幼女スライムを見たという人がいるようで……『隠者の塔』に居るナタリアさん達にはラディが悪さをしているのではないかという疑いをかけられてしまったのですが、私は何の指示も出していないので自然発生した幼女スライム達が活動しているのでしょうか?


『何も指示を出していませんが…?』

 どういう理由で発生したのかがよくわからないモンスターですからね、何かしらの条件が揃って新しく生まれたのかと思ってラディの様子を確認すると、何故か口笛を吹くような仕草で視線を逸らされてしまい……そんな会話をしながら襲い掛かるモンスターを倒していた訳なのですが、流石にこれだけ露骨な配置だと色々と気になってしまいますね。


(たまたま少ないだけ…という可能性もありますが)

 私達の前を別のP T(プレイヤー達)が進んでいるとか、リポップの偏りがあって空白地帯が生まれているという可能性もあるのですが……何となく゛これ”は違うような気がします。


「急に立ち止まったりして…どうしたのよ?」

 そうして私が周囲の様子を眺めていると、戦闘以外の理由で息の上がっているまふかさんがイライラとした様子で聞いて来たのですが……この奇妙な違和感をどういう風に説明をすればいいのでしょう?


「その…いつもならもっと多くのモンスターに襲われるような気がするのですが…」

 何度か『ディフォーテイク大森林』に来た(挑戦した)事があるのですが、その度に溢れるようなモンスターに襲われていて……なのに襲ってくるモンスターの質が低すぎますし、数も全然足りていません。だからといって『エルフェリア』の攻防戦に投入されている感じもしません(報告が無い)し……。


「ぜーひー…ど、はぁー…ど、ういう…事ですか?」

 そんな事をまふかさんと話し合っていると、巨大化させた『藤甲の盾』を杖にしながら何とか追いついて来たグレースさんが首を傾げるのですが……疲労で制御能力が落ちてきているのか魔力で成長する盾がウネウネしていて、そんな物を杖にしている方が疲れないのでしょうか?


「そうですね…たまたまなのかもしれませんが、モンスターの配置が誰かに弄られている気配があると言いますか…配置が不自然なのですよね」

 そう思ったのですが、盾の事を話題に上げても話の腰を折るだけですし……メタい言い方だとAIによる管理を受けているのでモンスターにはある程度のパターンがあり……勿論個体差はあるのですが、それでもここまで襲い掛かって来ていないというのは不自然極まりないですし、誰かしらの……たぶんキリアちゃんの指示を受けているのだと思いますが、その意図がよくわからないのでただただ不気味なのですよね。


分体を作って(【分裂】を使って)先行偵察をしてもらう事は出来ますか?」

 考えられるのは戦力の温存か反撃密度を高めた上での待ち伏せあたりなのですが……そんな場所に牡丹達を送り込むのは危険が大きすぎますからね、消耗しても問題のないラディの分体(幼女スライム)に先行してもらおうと考えたのですが、何故かラディは渋い顔をしながら腕を組んでしまいました。


「ん、んんん~…今はちょっと待って欲しいかな~?ほら~私にもいろいろ準備があるのよ~?」

 とか何とかごねているのですが、準備も何もスキルを使うだけなのですが……。


「何を言って…って、もしかして勝手に【分裂】を使っていたんですか?」

 つい先ほどナタリアさんが幼女スライムが増えていると言っていましたからね、ラディと分体は核を分けた事実上の同一個体ですし、そちらの方で【分裂】を使って私達に黙って数を増やしていたのかもしれません。


「ちょ…ちょっとよ、ちょっと~、ほーら~…やられたぶんは補充しないといけないし~深い意味はないのよ~?」

 一応私の眷属という事になっているラディの独断専行には頭が痛いのですが、クールタイム(10分)が明けていないというのなら別の方法(分体偵察以外の方法)を考えなければいけないのですよね。


(ラディのお仕置きについては後で考える事にして…魔素は十分集まりましたし、これ以上深入りする理由はないですね)

 事前にキリアちゃん(熊派)の動きを探れたら良かったのですが……思ったより面倒臭い事になっているようなのでそろそろ撤退した方が良いのかもしれません。


「仕方がありません、これ以上進むのは危険ですし…魔素も集まったのでそろそろ引き返す事にしましょう」

 無理をする場面でもないですからね、安全策(先行偵察)が使えないのなら撤退もやむなしです。


「それは良いのだけど…」


「は、はひ…ふぅぅ…助かりました~…」

 「ここまで来て引き返すの?」といった何処か釈然としない顔をしているまふかさんと、そろそろ体力と集中力の限界だったグレースさんは別々の反応をしていたのですが……引き返すのにも体力は使いますからね、ある程度余裕があるタイミングで引き返すのが得策なのでしょう。


「ほんっと、骨折り損のくたびれ儲けね…雑魚狩りだけして帰るって…来た意味はあるの?」

 ただあまり納得していないまふかさんはなかなか辛辣な事を言うのですが、目的を達成した後に素早く撤収するのは定石ですし、これくらいのんびりとした狩りが出来る日があっても良いと思います。


「今回に限っては何も起きない方が良いですし…最初から分かっていた事ですよね?」

 もともとラディ達の息抜きを兼ねた食料(魔素)集めでしたし、単純作業になる事が分かりきっていたのでスリリングさを求められても困るのですよね。


「それは、まあ…そうなんだけど…」

 そうしてぶつくさと言いながらも近くに生えていた『ローズシュタム』という……デファルセントの瘴気を浴びて変質したと言われる赤黒い茨が生えている場所をバリケード代わりにしながら小休止をする事になったのですが、疲労しているグレースさんとまふかさんには『スタミナ回復ポーション』を渡しておき、私も『MP回復ポーション』を飲んで帰りの戦闘に備えておく事にしました。


「え、えっと…わ、私は楽しかったですよ?その…何か強くなったような気がしますし!」

 『藤甲の盾』を振り回しているグレースさんはある程度動けているという実感を感じる事が出来て鼻息が荒いのですが、そんなグレースさんを見ながらまふかさんも言い返していて……。


「別にあたしも…た、楽しくなかったって言っている訳じゃないでしょ!」

 そうしてよくわからない理由で喧嘩を始めてしまった2人なのですが、そんな2人を見ながらラディがニヤニヤとしていますし、魔素をパリポリと食べている牡丹が何とも言えない顔をしていて、『ディフォーテイク大森林』に漂う魔力を取り込もうと触手を動かしているニュルさんがウネウネしていたのですが……このまま無駄に騒いでいたらモンスターが寄って来てしまいますし、程々のところで仲裁しておこうと思います。


「まあまあ2人とも、それくらいで……それより折角人目が無い場所ですし、騒げる体力があるのなら『ヴィーヴルメタル』を外しておきますか?」

 途中までまふかさんのファンと思わしきプレイヤーに付きまとわれていたのですが、第二エリアの最終ダンジョンである大森林スレスレの場所までついて来るような度胸のある人は少数ですし、執念で追いかけて来ていた人達も撒く事が出来ましたからね、このタイミングで外しておいた方が良いのかもしれません。


「そ…そうね…いえ…今はいいわ……こいつが見ていると思うと落ち着かないし」

 そうして私の提案に曖昧な笑みを浮かべたまふかさんが八つ当たり気味に呟くのですが、「こいつ」と名指しをされたグレースさんは「『ヴィーヴルメタル』って何ですか?」みたいな顔をしていて……私の口から説明するというのもなんですからね、曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す事にしましょう。


「あんたは気にしなくていいのよ!ったく、それよりサッサとポーションを飲みなさいよ、どんくさいんだから!」


「は、はひぃい!!」

 グレースさんからしたら謎は深まるばかりだと思うのですが、外せるとわかった時に残念そうな顔をしてしまったまふかさんは羞恥心で真っ赤になりながらも『ヴィーヴルメタル』の与える刺激の虜になって来ているようで……。


「慌てなくても周囲の敵は倒していますし、まふかさんのこれは照れ隠しで……グレースさん前にジャンプ!すぐにその場を離れてください!!」


「ひゃいっ!?は…え?」

 まふかさんの言動に対するフォローを入れていた私は視界の端で動いた赤黒い何かに対して警告を発するのですが……いきなり大きな声を上げられてビックリしたグレースさんは驚きながらも即座に私の指示に従ってくれたようですね、絡め捕るように伸びて来た『ローズシュタム(赤黒い茨)』をゴロゴロと回転しながら回避をすると、寝そべった姿勢のまま『藤甲の盾』で頭部を守りました。


「何よ…こいつ!?」


「ゆ、ユリエルさん…これって!?」


「くっ…!?」

 まふかさんは咄嗟に『デストロイアックス』を構え、私は【淫気】を固めて『ローズシュタム』を斬り払うのですが……斬り払った所から新たな茨が生えて来るので意味がないですね。


(こんな敵が居るとはどこにも情報が…って、もしかしてこのタイミングで新種ですか!?)

 戸惑いながらも戦闘準備を整える私達の前には毒々しい藤色(薄紫色)の葉をつけた『ローズシュタム』の塊……その茨の中心に居るのは薄汚れたような灰色の樹皮を持つ枯れた大木だったのですが、本当にどうして行く先々で厄介ごとに巻き込まれるのでしょうね!

※ユリエルが『ディフォーテイク大森林』に来た事ってありましたっけ?と思われる読者もおられるのかもしれませんが、地文で時々様子を見に行ったりはしていました。その度に大量のモンスターに襲われ撤退しています。


※少しだけ修正しました(10/21)。

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