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452:出来心

 第二エリアの北方に広がる『クヴェルクル山脈(標高800mの岩山)』の山頂付近にあるすり鉢状の凹みに立っている3階建ての石の塔……『エルフェリア』奪還戦を目前とした『隠者の塔』では一度枯れた『リュミエーギィニー(魔除けの針葉樹)』が復活していたり熊派が猛攻をかけて来た時に生えた『歪黒樹(わいこくじゅ)の棘』の埋め直した跡が残っていたりと物々しい雰囲気が漂っていました。


 そんな場所には決戦を前にした人達がどことなく落ち着きのない様子で行き交い、リンネさん達やシノさんが『エルフェリア』の攻略に、カナエさん達が後方支援要員として参加していたりと知った人達がいたのですが……ラディ達が空腹の時に会いに行くと碌でも無い事になりそうですからね、その前に腹ごしらえが必要なのだと思います。


 なのでまずは食事用の魔素を集めようとフィッチさん達の下へ向かったスコルさんや情報収集も兼ねて知り合いの下へ行くというナタリアさんとヨーコさん達とは別行動をとる事になったのですが……『隠者の塔』の東側に行けば『クリスタラヴァリー』の向こう側(第二エリア北東)に住処を移したハーピー達が襲ってきますし、南に行けば『エルフェリア』から溢れて来るゴブリン達と多くのプレイヤーがいて……結局狩りのしやすさと人通りの少なさで西の大森林側で狩りをする事にしました。


「KUKEEEE!!」


「ひ、ひぃぃいいっ!?」

 とはいえ『ディフォーテイク大森林』から溢れて来るトレントなどの植物系のモンスターやデファルシュニーなどの巨大な芋虫達を相手にするというのも効率が悪いですからね、『隠者の塔』からそれ程離れていない場所で『リュミエーギィニー』をついばむシールドビークを相手にする事にしたのですが……正面から見ると体が隠れてしまうような巨大な嘴を持つ体高1メートル程度のずんぐりむっくりな鳥が急にバサリと羽を広げるとグレースさんが叫び声を上げていたりと、なかなか騒々しい事になっているのですよね。


「その行動に威嚇以上の意味はありませんので…相手の動きをよく見て、落ち着いて対処をすれば大丈夫ですから!」

 私はグレースさんに戦闘を任せてアドバイスを送るのですが、これは別に無茶ぶりをしているという訳では無くてただただグレースさんの特訓に付き合っているだけで……。


「は、はひぃいいい!了解で()!」

 そうしてグレースさんは噛み噛みながらも『エルダーリーフ』を特殊な染料で染めたラウンドシールド……『藤甲(とうこう)の盾』を構えながら必死にシールドビークの攻撃を受け流す練習をしていました。


(防御は慣れてきていますし、後は自分なりのリズムを作る事が出来たら良いのですが)

 対人戦でも無ければ過度な読み合いをする必要はないですし、グレースさんなりの戦闘スタイルを確立する事が出来たら化けるような気がするのですが……欠点としては判断の遅さと状況の把握能力の低さと動いた後に自分と相手がどういう立ち位置になるかを考えていない立ち回りの不味さに問題があるのだと思います。


 それでも直感的な反射神経や動体視力だけを考えると私やスコルさんを越えているといいますか、要所要所で良い動きをしているので伸びしろは大きいと思うのですが……攻撃に移る時のタイミングが致命的に悪いのが一番の問題なのかもしれません。


 上手く説明できないのですが、攻撃に移らなくてはいけないタイミングで「本当に攻撃しても良いのでしょうか?」みたいに思い悩んでその機会を失っているような気がすると言いますか……とはいえ魔法系統のスキルが不遇でPTプレイも色々な理由(エッチな目にあう)でしづらいブレイクヒーローズでヒーラーを選ぶくらいには博愛精神が旺盛なのがグレースさんですからね、攻撃に対する意識は徐々に訂正していく必要があるのでしょう。


「で、あたし達をこんな所に連れて来て雑魚狩りをやっている訳だけど…どれくらい集めるつもりなの?」

 そんなグレースさんの頑張りを眺めていると、隣で一緒に観戦をしていたまふかさんが声をかけて来たのですが……こちらもこちらで色々と大変なのですよね。


(『ヴィーヴルメタル(生きたニップレス)』を付けたままなのですが…大丈夫なのでしょうか?)

 大丈夫か大丈夫じゃないかで言うと大丈夫ではないのですが……一番敏感な部分に張り付いていた前張りは外しているとはいえ強弱がつけられた絶妙な刺激がまふかさんの両乳首を苛み息が上がっていっていますし……。


(だからと言って人通りがある場所で『ヴィーヴルメタル』を外すというのも難しいですし)

 人気が無いとはいっても人通りが0という訳ではないですからね、時折こちらを遠巻きに眺めている人達がいますし……こうなったらまふかさんが弱音を吐くまで放置をしておくか、人気のない場所に連れ込むまでは放っておいた方が良いのかもしれません。


「そうですね、回復用と途中で摘まむ用の…とりあえず10個くらいでしょうか?」

 私が明確な個数を伝えるとまふかさんがげんなりとした(「そんなに倒すの」)顔をしてしまったのですが、非常時でもないのに携行食を食べるのは勿体ないですからね、魔素を集める事が出来る時は魔素を集めておこうと思います。


(一番楽な補充方法はまふかさんやグレースさんから精気を頂く事ですが)

 私は頑張っているグレースさんやウズウズしているまふかさんを横目で確認するのですが、こんなところで手を出したら怒られるような気がして……。

 

「ね~えー…この子もユリエルの下僕なの~?人懐こい子ね~」

 そんなタイミングでノワール(ダークスパイダー)と遊んでいたラディが声をかけて来たのですが……『隠者の塔』の近くにはレナギリー達の拠点(クリスタラヴァリー)がありますからね、こうして近くに寄った時には顔を出してくれました。


「違いますよ、その子(ノワール)は一時的に借り受けていただけで…義理堅い事に時々顔を見せに来てくれているのですよね」

 この辺りだと『リュミエーギィニー』が生い茂っていますからね、小柄なラディ達なら風景に溶け込む事が出来るので比較的自由に遊ばせておく事ができて……後はレナギリー達の力を借りるような出来事が起きるのかもしれないのでノワール達とも良好な関係を築いておきたいという打算もあって一緒に遊んでいたのですが……打算と言えばラディが何か企んでいる(勝手な事をやる)ような事を言っていたのですが、その事については問いただせていないのですよね。


(私達が面倒臭い事件に巻き込まれたら自分も面倒くさいに事になるというのは理解していると思いますし、たぶん大丈夫だとは思いますが)

 そんな事を考えている私達の前では正面から突進して来たシールドビークAの攻撃を盾でいなしてやり過ごしつつ、その隙に接近戦に持ち込んで来たシールドビークBに巨大化させた『藤甲の盾』の縁の部分をぶつけてシールドバッシュに持ち込もうとしたグレースさんが力負けをして吹き飛ばされていたりしているのですが……流石にそろそろ手伝いに入るべきでしょうか?


(もう少しだけ様子をみましょうか)

 吹っ飛んでいる割にはそれほどダメージを受けていないので受け身は成功していますし、グレースさんは習うより慣れろ派だと思うのでギリギリまで手を出さないでおきましょう。


「あ、あの…お、お2人とも…そんなのんきなっ、事を言っていないで!!」

 そうして様子を見ていた私達に向けてグレースさんが抗議の声を上げると身体の疼きに耐えていたまふかさんが言い返していて……。


「うっさいわね、あんたの練習でもあるんだから文句言わずにキリキリ働きなさいよ…っていうか何で盾なのよ、そんなんじゃ倒せないでしょ!」


「そ…んな!事、を!言われっ…ましても~!」

 シールドビークの攻撃は単調ではあるものの意外と小回りが利いていますし、生半可な武器や攻撃を弾く強固な嘴を振り回されるというのは思ったより圧力になるのですよね。


「盾で戦っているのは私がそう提案したからで…現に今もシールドビーク達の猛攻を耐えれていますし」

 シールドビークはリンクモンスター(集まって来る特性)ですからね、戦っている内にもう一匹参戦して来てしまい……挟撃される形になりながらも上手くあしらえていると思います。


「猛攻、ねぇ~……あたしには遊んでいるようにしか見えないんだけど…ああもう、じれったいわね!そこでガツンといきなさいよ、ガツンと!」

 持久戦より短期決戦の方が好みであるまふかさんはなかなかダメージを与えられないグレースさんに対してイライラとしていて……そう思うのなら手伝ってあげたら良いと思うのですが、今のまふかさんは全力を出す事が出来ないのでこうして私と一緒にグレースさんの奮戦を見守る事しかできないのですよね。


「ちょ、ひぃぃいい!!?この!このぉおお!!」


「ぷっ、ぅーい…!」

 そうして小さな翼を広げながら小回りを利かして襲ってくるシールドビークの嘴と体当たりを何とかしのいでいると、別の場所でシールドビークと戦っていた牡丹が『ベローズソード』を咥えて引き返して来て……。


(出来たら牡丹にも良い盾を持たせてあげたいのですが)

 『隠者の塔』に向かったナタリアさんとヨーコさんには良い盾が売っていたら教えて欲しいと伝えておいたのですが……決戦前という事で良い装備はあらかた売れてしまいましたし、望みは薄いのかもしれません。


(最悪の場合は魔法防御が付くシルバーシリーズにするだけでも変わるのかもしれませんが)

 【マジックシールド】があると言ってもベースとなる盾は強ければ強いほどいいですし、その辺りはW M(ワールドマーケット)を覗いた時に判断する事にしましょう。


「ぷっ!」

 とにかく戻って来た牡丹がグレースさんを追い回していたシールドビーク達に襲い掛かり……正面からは硬くても横合いからの攻撃には弱いシールドビークがあっさりと無力化されていきました。


「ぜっ、はー…はー…し、死ぬかと思いましたぁ~…」

 そうして牡丹と協力して2匹のシールドビークを倒したグレースさんがその場にへたり込んでしまったのですが……スリップダメージ(盾を持つ手が痺れた)と吹き飛ばされた時のダメージ以外はダメージらしいダメージを受けていないのでかなりの進歩を見せていますね。


「お疲れ様です…どうですか?防御に専念している方が避けやすいと思いますが」

 当面の間は私達が援護に入るまでの時間稼ぎをしてくれるだけで十分ですし、戦闘に慣れてきたら攻撃を入れるタイミングも掴めて来ると思います。


「は、はい…こ、これなら何とか出来ると…思います!」

 そうして滝のような汗を流しながらも「やりました!」という満面の笑みを浮かべているグレースさんにも少しずつ自信が生まれていて……。


(グレースさんの方は大丈夫そうですが、周囲にシールドビークが3匹だけしかいないというのが問題ですね)

 牡丹に周囲を探ってもらってもそれだけという事は本当にいないのだと思いますし、それだけ『リュミエーギィニー』の影響や人通りが関係しているのだと思うのですが……時間経過の消耗分(空腹)を考えるとこのペースで魔素を集めていくのはコスパが悪いですし、人気のない場所に行ってまふかさんの『ヴィーヴルメタル』も外さないといけなくて……。


「ひと段落したところでお2人に提案があるのですが…戦線も落ち着いているようですし、一度『ディフォーテイク大森(モンスターの多い場所)林』の様子を見に行きませんか?」

 事前の打ち合わせ通りに無力化したシールドビークに止めを刺して魔素に変えておくのですが……この辺りでシールドビークを探し求めて彷徨い歩くよりも費用対効果が高いと思いますし、熊派の本拠地がどうなっているのかも気になりますし、多少の危険ならまふかさんやグレースさんと一緒なら乗り越えられると思ったのでそんな提案をしてみる事にしました。

※ちょこちょこと修正しました(10/19)。


※誤字報告ありがとうございます(4/1)訂正しました。

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