451:これからの相談とふとした疑問
ナタリアさんとヨーコさんの加入も満場一致で決まりましたし、これからの事を改めて話し合う事になったのですが……ゴールデンタイムに差し掛かれば1000人単位で動く事になる前線に対して出来る事が限られているのですよね。
(選択肢としては『エルフェリア』戦に参加をするか大穴狙いでキリアちゃんのいる『ディフォーテイク大森林』に攻め込むか…ですが)
多くのプレイヤーが参加している『エルフェリア』攻略戦となると『搾精のリリム』である私が参加するのは色々と問題がありますし、だからといって熊派の本丸でもある『ディフォーテイク大森林』に少人数で突撃するというのはただの自殺行為でしかありませんからね、私達に出来る事と言えば少人数での偵察か遊撃が関の山で……。
「どう動くも何も、とりあえず前線に行ってみないとわから…あー……行くのよね?」
そんな事を考えていると激しく動いた時に発動する【狂嵐】やダメージを受けた時に発生する『ヴィーヴルメタル』の防御フィールドで乳首が大変な事になっているまふかさんが言葉を濁しながら聞いて来たのですが……耐性スキルでギリギリのバランスを保っているの関係でなかなか悩ましい状態ではあるようですね。
「あれ~?まふまふは行っちゃうに1票?じゃあおっさんもそっちに1票を入れておこうかしら、その方が何か面白い事になりそうだし」
「うっさいわね、こっちにはこっちの事情があるのよ!」
そういう事情を察しているスコルさんがヘラヘラと舌を出しながら笑うとややムキになりながらまふかさんが言い返していたのですが……配信者としてはどんなに大変な状況だったとしても不参加という選択肢は無いのだと思います。
「そう、ね~…私の場合は前線で戦う事は出来ないけど…情報収集の為に『隠者の塔』には行っておいた方が良いと思うわ~…というよりアルディード女王が何かしているっていう話があるのだけど~?」
「みたいだけど…どうなんだろう?私も小耳に挟んだ程度だからよくわからないのよね」
そうして『リヴェルフォート』から南下して来た私とまふかさんは『隠者の塔』を経由していないのでよくわからないのですが、自作のアイテムを売っている時に聞いた事があるヨーコさんや『隠者の塔』に居る時にアルディード女王達の動きについて小耳に挟んだナタリアさんがそんな事を言うのですが……どうやら後退している熊派の動きに合わせて何かしらの作戦が実施されようとしているようですね。
(まだネットに情報が出ていないという事は本決まりではないか情報統制がされているのだと思いますが…どうしましょう?)
熊派もネットの情報に触れる事ができますからね、ファントムジェリーを討伐した時のように現地での募集が行われているのかもしれませんが……。
「そうですね、では…」
私はそれらの意見を頭の中で纏めながら1人だけ意見を出していないグレースさんの方を見てみるのですが、その視線に気づいたグレースさんが首がもげるかという勢いで頷いていて……たぶんこれは「ユリエルさんに任せます」という意思表示なのでしょう。
「情報収集の意味合いも兼ねて『隠者の塔』に行ってみましょうか、それからの行動はその時に考えるという事で」
熊派との野戦になった場合は生産職であるヨーコさんは後方でのお留守番になってしまいますし、魅了の問題で私も離脱する可能性があるのですが……行ってみないとわからない事が多すぎますからね、一旦『隠者の塔』で情報収集をしてみる事にしましょう。
「異議な~し…でもユリエルちゃんはそれでいいのかな?ほら、淫魔の力とかラディちゃんって出てきたら騒ぎにならない?」
そうして案ずるより産むが易しという事で纏まりかけたところでナタリアさんが眉を寄せてみせるのですが……。
「っていうか何か勢いで誤魔化されていたんだけど…何なのよアレは、少しくらい説明しようっていう気はないの?」
ナタリアさんの疑問にまふかさんも追従してきたのですが、流石に『イースト港』を騒がせていたファントムジェリーが小さくなっているだけですというのは不味いですし、他の人達にバレた場合に「自分は知らなかった」と押し通せるよう皆には詳細を伏せておこうと思うのですが……どういう風に説明するのが無難なのでしょう?
「ラディについては…色々とありまして」
とにかくその正体については濁す事にして、毀棄都市攻略時に『精霊の幼樹』の力で弱っている幼女スライムを保護する事になったと説明しておきましょう。
「ああ、もしかして…別行動をとった時の話かしら?」
「はい、中堀を越える時に……干からびないように水の中にいたのですが…ボス退治の時にも活躍してくれましたし、そのまま流れで」
「流れでって、それはそれで問題のような気がするけど…これはユリエルちゃんが色々と持っているって事でいいのかな?」
その辺りの事情を説明しておくと感心半分呆れが半分と言った様子で肩を竦められたのですが……本当にたまたまとしか言えない流れなのですよね。
『あらあら~うふふ~何~?私の話かしら~?』
(そうではありますが…話がややこしくなるので引っ込んでおいてくださいね?)
そうして自分の話題という事で混じりたそうにしているラディなのですが……ここで出てきたら絶対にややこしい事になりますからね、引っ込んでおいてもらう事にしましょう。
『ちぇーユリエルのケチ~…けどいいの~…今は忙しいし、こっちはこっちで勝手にやらせてもらっているから~』
(それはどういう…?)
『んーふーふ~…まだまだ秘密よ~』
何かラディが不穏な事を言い出したのですが……ラディばかりに構っている訳にもいきませんからね、素直に話すとも思えないので後々聞き出す事にしましょう。
「テイムが出来たのはたまたまなのですが…連れ歩いていると騒ぎになりそうですからね、状況によっては単独行動を取らせてもらっても良いですか?」
「そうね~…その方が良いのかしら~?というより私も難しそうなら後方支援に専念する事にするわ~」
クランメンバーに迷惑をかける訳にはいきませんからね、最悪の場合は別行動をとる事を伝えておくと頬に手を当てて首を傾げていたヨーコさんも別行動をとる可能性を示唆していたのですが……残念ながらヨーコさんの運動神経だと蜘蛛の巣のような防御陣地が無いと足手まといになる可能性が高いですからね、『ユリエルユニオン』唯一の生産職としては後方待機になるのも仕方がないという事なのかもしれません。
「あ、あの…じゃあ、ユリエルさんが別行動をとるのなら…わ、私もユリエルさんと一緒に行動しようと思います!」
「なんでそこでわざわざバラけようとするのよ!?っていうかそんな事を言いながらあんた達は見せ場を横取りするつもりなんでしょ?だったらあっ…あたしも一緒に行くから!」
そうしてグレースさんが私について来ると言うと何故かまふかさんまでついて来ると言い出してしまい……。
「じゃあじゃあおっさんも!」
「あんたはそっちのバカップルチームに混ざっておきなさいよ!人数的にもそれで丁度良くなるでしょ!!」
「へっへっへっ…じゃあおっさんはTカップおっぱいがプルンプルンと揺れるさまを堪能して…冗談よ、冗談…おーこわ」
下心を滲ませたスコルさんがフラフラとヨーコさん達のもとに向かおうとするとナタリアさんが笑顔の圧力をかけながら『ペネストレイト』を抜いていて……そんなやり取りに苦笑いを浮かべてしまったのですが、このタイミングで何故かフィッチさん達の船が完成している事を思い出しました。
「そういえばなのですが…スコルさんはフィッチさん達の所に行かなくてもいいのですか?魔導船の処女航海があるという話でしたが」
そんなイベントがあったら喜んで参加しそうなのですが、こんな所で私達と油を売っていても良いのでしょうか?
「え、あれ…そうなの?リヴァイアサン完成しちゃった?早くない?おっさんの予想だともうちっとだけ時間がかかると思っていたんだけど」
「どうやら予定より早く完成したようですね」
スコルさんはドゥリンさんという腕利きの鍛冶師が参加した事や燃料の問題が解決した事を知らなかったようですし、そのせいで完成時期を見誤っていたのかもしれません。
「はー…その辺りの予想を読み違えるとはおっさんの勘も鈍ったものねー……まっ、情報収集だけならおっさんが居てもあんまり変わりないだろうし…ユリちー達からしたら寂しくなるかもしれないんだけど、ちょっくら覗いて来てもいい感じかしら?」
「別に寂しくは無いですし、フィッチさん達も誰かに見せたがっていたので行って来たらどうですか?」
そうして船の完成だとわかるとウキウキした様子で別行動をする事になったスコルさんなのですが、そういう訳でスコルさんはフィッチさん達の居る『イースト港』に向かい、私達は情報収集を兼ねて『隠者の塔』に向かう事になりました。
(私の場合は町の中に入れるかどうかという問題があるのですが)
『隠者の塔』は熊派への反攻拠点という事で続々とプレイヤーや物資が集まって来ていますからね、それだけ人が多くなると魅了の力やラディやニュルさんの事が心配で……だからと言って私達の力だけで『ディフォーテイク大森林』に犇めいているモンスター達を蹴散らしながら押し進んでエリアボスを含む熊派を率いたキリアちゃん達と戦うのは無理を通り越してただの無謀ですからね、他のプレイヤーやアルディード女王の力を借りなければ肉薄する事もままならないのかもしれません。
(何とか熊派を切り崩して、それから……キリアちゃんって倒された後はどうなるのでしょう?)
プレイヤー勢力が押し返している訳ですからね、状況によってはキリアちゃんが討ち取られてしまうという可能性が当然ある訳で……その場合はどうなるのでしょう?
「ユリエルさん…どうしたんですか?」
「おろ?何か考え事?おっさんのゴワゴワの毛並みでも撫でてみる?何かいいアイデアが浮かぶかもしれないわよ?」
「ああ、いえ…すみません」
私達が倒したビークリストゥは消滅してしまいましたし、一瞬だけ浮かんだ最悪の結末を考えないようにしながらグレースさんとスコルさんに向けて曖昧な笑みを浮かべるのですが……。
「何ちんたら歩いてんのよ!ほらほら、急がないと遅れるわよ!」
そうして少し前を歩いていたまふかさん達が遅れている私達を見ながら呆れたように腰に手を当てていますし、ナタリアさんやヨーコさんも「どうしたのだろう?」とこちらを見ていて……こんな所で考え込んでいても仕方がないですからね、今は目の前の攻防戦に集中する事にしましょう。
※少しだけ修正しました(10/18)。
※誤字報告ありがとうございます(4/1)訂正しました。




