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446:仲良くなりたくて

(検証自体は上手くいったのですが)

 イチャイチャする時に生まれる余剰精気でこの辺りのモンスターより質が高い魔素が作れたのですが……具体的に言うとこの辺りに居る雑魚モンスターから回収できる魔素が『F』から『D』くらいの品質だとしたら、グレースさんから回収できた魔素は『A』ランクと目に見えるレベルの違いがあるのですよね。


(だからと言って毎回グレースさんに頼る事はできませんし、不特定多数の人達に襲い掛かる訳にも…)

 今回作り出せた『A』ランクの魔素は1個だけですし、数を稼ごうと不特定多数のプレイヤーに襲い掛かっていたらP K(プレイヤーキラー)判定を受けてお尋ね者になってしまいますからね、数のモンスター産か質のプレイヤー産かという選択をしなければいけないのですが……因みにプレイヤー産の方が質が高いという結果に対して諸手を挙げて喜びそうなラディは意識が飛びかけているのかフニャフニャしたままニュルさんに運ばれており、いつもは敵対的な牡丹が同情的な顔をするくらいにはお灸を据え過ぎてしまったのかもしれません。


(幼女スライムの事も聞きそびれてしまいましたし)

 一応どうなっているかをネットで検索してみたのですが、目撃情報が1体だけだった事もありガセネタかも知れないという状況のようで……このまま身内(ラディ)を疑い続けるのもなんですからね、この件はここまでにしておきましょう。


 とにかく色々な検証とイチャイチャをしていたら時間も結構ギリギリになってしまい、私達は腰砕けになってしまったグレースさんが動けるようになってから身支度を整え町に戻る事となったのですが……。


「そういえば…何かお話があるという事でしたが?」

 バタバタしすぎて聞きそびれていたのですが、こんな所までわざわざやって来るような用事ですからね、忘れないうちにグレースさんの用件を聞いておく事にしましょう。


「それは…?っと」

 ただグレースさんは自分が言おうとしていた内容を忘れていたのか、首を傾げてから視線を彷徨わせるのですが……足腰に力が入っていなかった事もあって木の根っこに躓きかけてしまい、私は慌ててその身体を支える事になりました。


「大丈夫ですか?」


「は、はい…すみません、だ、大丈夫で()…その…」

 あまり大丈夫とは言えない様子なのですが、真っ赤になってしまったグレースさんはモゴモゴとしながら視線を彷徨わせていて、それから「このままだといつもと同じですね」というように決意を固めると大きく息を吸い込み……。


「ユ、ユリエルさんをもっと気持ちよくしてあげたくて!じゃなくて!?ああいえ、嫌という訳ではないのですが!その、ユリエルさんは何時も優しくて話も聞いてくれるのですが、その…何時もユリエルさんの方から話しかけてくれるのは嬉しいのですが!それだけだと負けてしまうんです!だ、だから…わ、わたたしの方からユリエルさんにアプローチをかけようと!」

 そしてやや支離滅裂ではあったのですが、グレースさんはありったけの思いをぶつけて来て……内容を私なりにまとめると、もっと仲良くなりたいという事で良いのでしょうか?


「それは…大歓迎ですが……よく抱きついて来たりしていましたので、割と仲が良い方だと思っていたのですが?」

 まふかさんや他のメンバーとも話すようになっていますし、勝手に仲良くなっていると思っていたのですが……。


「あ、あれは無意識で!」

 どうやらあの激しいタックルは無意識に行っていたという事実を暴露するグレースさんなのですが……そういうノリや勢いでのアタックではなくてもう少し自然に絡む事が出来ないかという事のようですね。


「そうですね、では…手を繋ぐ事から始めてみますか?」

 グレースさんが空回りするのは緊張しすぎなだけですし、まずは人に慣れるという意味合いを兼ねてボディタッチを増やしていくというのはどうでしょう?


 そうして人慣れしていけば緊張する事が無くなると思いますし、落ち着いて会話をする事が出来ると思ったのですが、私の手を見ていたグレースさんはゴクリと唾を飲み込み……。


「で、では…失礼しまして」

 一度目をギュッと瞑って精神統一をしてから私の手を握るグレースさんなのですが、何故か「うへへ」と笑っていて……まあグレースさんが嬉しそうなのでこれはこれで良しという事にしておきましょう。


「こうして徐々に慣れていったら緊張する事もなくなると思いますので」

 そんな話をしながら私達は町の近くまでやって来ていたのですが、そろそろ人の目があるのでニュルさんやラディを仕舞い込んで(【招集】して)擬態(人間化)】を開始しておくのですが……グレースさんと手を繋ぎながら歩いているとなかなか目立ってしまいますね。


「そ、それは…ユリエルさんが人気者だからでは?」

 そんな視線にビクビクしながら手汗をかいているグレースさんが変な事を言うのですが、世の中には本当にオーラを放っているようなありえない人達がいますからね、私はただただ巻き込まれやすいだけの少しだけ悪目立ちしやすい普通の人間なのだと思います。


「私の場合は少しだけ目立つだけで…やはりグレースさんが可愛らしいからだと思いますよ?」


「ちち違います、それだけは絶対にありません!ユリエルさんが人気者じゃなかったら私はミジンコです!ミジンコどころか生き物でもないその辺りに転がっている石ころなんです!!」

 だから思った事を正直に言ったのですが、私の方が間違いだと言うようにグレースさんが勢いよく腕をブンブンと振り回しながら熱弁を振るっていて……あまり強く否定する事でもないので曖昧に頷いておく事にしましょう。


「ありがとうございます、ただ…グレースさんはグレースさんで沢山良いところがありますからね、ミジンコや石ころと比べる事は無いと思いますよ?」

 そんな風にやや人の目を集めながら会話を続けていたのですが、私の目的はフィッチさん達に魔素を届けて武器を回収する事ですし、グレースさんの目的は消耗品の購入をする事で……。


「そういえば、牡丹の盾も見に行きたいですね」


「ぷ?」

 いきなり話を振られた牡丹は不思議そうに見上げて来ていたのですが、いつまでもお試しの市販品という訳にはいかないですからね、時間があればW M(ワールドマーケット)を覘いてみる事にしましょう。


「あ、あの…それでしたら!私の武器もそろそろ買い替えようかと…?」

 そうして装備品繋がりでグレースさんが自分の武器の話をするのですが、流石に第二エリアの後半ともなると聖属性を秘めているだけの杖だと火力不足を実感してきているようですね。


「そうですね、ではまず…武器で攻撃をするというのを諦めてみるというのはどうでしょう?」

 グレースさんは踏み込んで接近戦を行うだけの度胸も有りますし、動体視力と瞬間的な反射神経という強みもあるのですが……流石にそろそろ殴ってどうこうなるという敵が少なくなっているような気がします。


「そ、それは…私にゲームを止めろって事ですか!?」


「そこまでは言っていませんし、楽しみ方は戦闘だけではないと思いますが…グレースさんの場合は攻撃と防御のスイッチングが苦手ですし、魔法を主体に攻撃をするとか…シールドバッシュ(盾攻撃)などの防御技術を伸ばしていった方が良いと思いまして」

 グレースさんの場合は筋力補正が無い種族(人間)という根本的な問題がありますし、複数の行動を取捨選択しながら行動するというのが致命的に苦手ですからね、出来るだけシンプルに纏めていった方が良いと思います。


「それにグレースさんの場合は『藤甲(とうこう)の盾』がありますからね、下手な武器を持つよりも今ある盾を利用する方向で考えていった方が良いと」


「それは…」

 その辺りの事情を説明すると、杖での攻撃に限界を感じていたグレースさんも頷かざるを得なかったのですが……。


「それにずっと盾で戦えと言っている訳でも無いですし、良い杖が見つかってから伸ばしていけば良いかと…とか言っている間に良い装備と巡り合う事もありますからね、あくまで一意見だという事で」

 グレースさんの伸びしろは恐ろしいくらいにありますからね、ずっと盾に専従しなければいけないという訳でも無いと思います。


「そう、ですね…いえ、ユリエルさんが言うのならきっとそうなのだと思います!」

 そうして最終的にはよくわからない理由で納得されてしまったのですが、とにかくある程度話が纏まったところでフィッチさん達の貸倉庫が見えてきたのですが……。


「良いかてめぇら!ここが正念場だからな、気ー引き締めろ!!」


「「「うっす親方!!」」」

 ある程度近づいたところでドゥリンさんと船大工さん達の野太い声が聞こえて来たのですが、どうやら話の中心に居るのはドゥリンさんのようで……倉庫の外で水平線を眺めながら黄昏ているのがフィッチさんでしょうか?


「あの、どう…しました?」


「あ、ああ…ユリエルさ……げふんごふん、天使のお嬢さんではありませんか…それでそちらは…ご友人の方ですか……ハハハ…お恥ずかしい限りですが、気が付いたらこうなっておりまして…」

 そうして乾いた笑い声を上げるフィッチさんなのですが、何でも船大工の人達のノリの良さとドゥリンさんの勢いが良い感じに噛み合ってしまい、気が付いたらドゥリンさんを中心とした集団が出来上がってしまったのだそうです。


「それは…何と言っていいのか…」

 気が付いたら乗っ取られていた訳ですからね、何とも言えない空気になってしまったのですが……そんな空気を混ぜっ返したいのかただただ緊張しているだけなのかはわかりませんが、グレースさんはプルプルと震えながら私の後ろで反復横跳びをしていて……フィッチさんはそんなよくわからない動きをしているグレースさんを見ながら咳払いをすると、話を進める事にしたようですね。


「いえ、まあ…ドゥリンさんのおかげで完成間近ですし…これでよかったのでしょう…ええ、本当に……ああ、それで…頼んでいた物が集まったのですかな?」


「はい、これを」

 この会話を続けていても虚しいだけですからね、私達は話題を変えるつもりで魔素の納品を終わらせて……話し合いの結果『F』から『D』ランクの魔素を29個と『A』ランクの魔素を渡す事となり、代わりに修理の終わった『魔嘯剣』と『ベローズソード』を受け取りました。


「ああ、本当によく集めてくれた…これで何とか船を動かす事が出来そうだ……それもこれも天使のお嬢さんの協力があってこそだからね、どうだろう?これから完成式典が行われるのだが、その処女航海に付き合ってみるというのはどうかな?」

 途中でイチャイチャしていた事もあって納品が遅れてしまいましたからね、何かしらの小言を言われるのかと思っていたのですが……魔石を集める場合はもっと時間がかかってしまいますからね、今日中に持って来てくれただけでもかなり早いのだそうです。


「それは…すみません、私はこれからお昼ご飯ですし、グレースさんも色々と準備がありまして」


「は、はひぃ!しゅみまっ!」

 進水式自体は物凄く気になるのですが、お昼過ぎにはクランメンバーとの先約(一旦集まろう)がありますし……食事を抜いた状態で熊派との本格的な抗争に入ってしまうのも何ですからね、そろそろ休憩も取っておきたいので一旦ログアウトしておこうと思います。


「そうか、それは残念だ…とはいえ天使のお嬢さんとそのお友達だったらもう我々の同志と言っても差し支えが無いからね、気が変わったら是非参加してくれたまえ!」

 との事なのですが、燃料(魔素)が手に入ったフィッチさんはこれからリヴァイアサン(小型魔導船)の試運転をおこなうようで……グレースさんはこのまま『イースト港』で消耗品の買い込みを行うようですし、私も手早くお昼ご飯を食べて戻って来る事にしましょう。

※因みにプレイヤーから魔素が作り出せるのはバグに近い裏技で(本当ならPKしたプレイヤーからどす黒い魔素を作り出す事を想定していた)、ユリエルの場合は精気を吸う事が出来る種族だった事もあってそのルールの隙間をすり抜ける事が出来ました。


 そしてまったくもってどうでも良い魔素の品質についてですが、雑魚敵だと『E』ランク前後、中ボスクラスで『C』ランク前後、ボスクラスで『A』ランク前後となり、プレイヤーの場合は『A』ランク前後で、気持ち良かったかそうでなかったかで品質が前後するという仕様となっております。

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