443:眷属達との連携作業
フィッチさん達に武器を修理してもらう代わりに魔素を集める事になったのですが、ノルマは最低でも30個……私達の食料にもなる事を考えたらプラスαで切りよく50個くらい集める事にしたのですが、無双する事ができないブレイクヒーローズだと50体のモンスターを倒すというのはそれなりに大変な作業になると思っていたので【擬態】を解いたのですが……。
(案外なんとかなるものですね)
まず投げナイフくらいしか武器の無い牡丹が遊撃として走り回り、ラディが【分裂】と【魅了】の力で索敵とヘイトの管理を……因みにスキルレベルが初期値の場合は分裂できる数は1体だけとなり、クールタイムは10分となります。
そしてこの時分裂させた幼女スライムにはあまりハッキリとした自我が無く、ラディの指示を淡々と聞いているような感じで……まあ自立行動が出来るような思考能力を付与するにはスキルレベルが足りていませんし、どうしても生み出すまでの時間が伸びてしまうので敢えて最低限の命令を聞く事が出来る個体を作り出しているようで、この最低限の知能を授ける場合のクールタイムや準備時間が10分となるようですね。
とはいえ最低限の指示を理解する事ができる個体が10分毎に増えていくというのはなかなか凄い事ですし、のんびりとレベリングするような狩りの場合はこれほど便利なスキルはありません。
【魅了】に関してもスキルレベルの問題で誘因効果が低いのですが、多少目立つデコイとしての役割を発揮する程度の力はありますし、待ち構えている私達の所に誘い込んだモンスターをニュルさんがペチペチと叩くというフォーメーションが出来上がっていて……ある程度強い個体だと流石に火力不足ではあるのですが、【触手】から【触腕】となった事で全体的に攻撃力が上がっていますし、【瞬動】や【パリィ】で相手の攻撃を回避しながら受け流す事でフラワーラビットやフォレストスネークなら複数匹、フォレストウルフやブッシュゴブリンでも1対1ならニュルさんだけでも対処が可能と、私達が何もしなくても魔素に変換できる素材が集まって来ていました。
(問題があるとすれば、魔素の質が悪いという事ですが)
やはり精気が溢れる強敵の方が吸い出せる魔素の質が高いような気がしますし……まあ『イースト港』の周辺には強敵と言えるような強敵が居ないので誤差の範囲ではあるのですが、楽して集めている後ろめたさも手伝い本当にこれで良いのかと首を傾げてしまいますね。
そんな事を考えながら私は私で覚えたてのスキルの利用方法などを試していたのですが、これは別にサボっているという訳ではなくて……もうほとんどレベルの上がらない私やラディ、そしてレベルの上限に引っかかっている牡丹より余裕のあるニュルさんに経験値を集めた方が良いと判断したからですね。というよりそろそろ本格的に牡丹のレベルキャップを何とかしないといけないのですが……。
(魔核の使用も視野に入れるべきでしょうか?)
一番簡単な方法が牡丹に『翠皇竜ゴルオダスの魔核』を渡す事なのですが、この方法だとあまり良くない事が起きてしまうような気がして……牡丹も禍々しいオーラを放っているゴルオダスの魔核を取り込む事を躊躇っているようですし、別の方法を考えた方が良いのかもしれません。
(牡丹が不調になってしまったら色々と……何ですか?)
なので魔核の使用方法については慎重さが必要だと思うのですが、幼女スライムの統率を執っていたラディがキラキラとした目でおねだりをするように見上げて来ていて……。
『も~…使い道に困っているのなら私が引き受けるわよ~?』
そうして強くなる事に貪欲なラディは魔核をせびってくるのですが……ボスの怨念が籠っている魔核ですからね、そう簡単に渡すわけにはいきません。
(駄目ですよ、何が起きるかわかりませんし…それより『エナジーストリング』の付け心地はどうですか?)
因みにラディと分体の見分け方は身に着けている物と表情の有無なのですが……改めて乳暖簾のように垂らしている平紐の着心地について聞いてみると、ラディは見えてはいけない所とスライムの核を隠すように巻き付けている平紐を摘まみ上げながら軽く肩を竦めてみせました。
『ん~?こっちはまあ~…ボチボチかしら~?多少マシになった程度~だと思うわ~』
そんな風に引っ張ったら可愛らしい乳首が見えてしまいそうになるのですが、スライムボディーに引っ付ける事によって見えそうで見えない状態を維持していて……。
(そうですか、まあ…相手がいる事ですからね)
因みに『エナジーストリング』に魔力を流すと鉄くらいの強度になるのですが……その程度の強度だと問答無用でへし折って来るモンスターの方が多いですからね、何かあった時の保険程度に考えておいた方がいいのかもしれません。
「KYURURU」
「っと…はい」
そんな会話をしていると、次の獲物を引き連れて来た幼女スライムが「わー」というように両手を上げながらポヨンポヨンと茂みから飛び出して来て……実質1人で迎撃をしているようなニュルさんに注意をされてしまいましたからね、私達も戦闘に集中する事にしましょう。
(やって来たのはパラライズビー…ですね)
この25センチ前後の電気を纏った巨大蜂はスタンガンのような電撃を放ち相手を麻痺状態にしていくという厄介なモンスターではあるのですが、スライムボディーを持っている牡丹と幼女スライムには効果が薄く……もう少し高い電圧をかけられるのなら動きを封じる事が出来たのかもしれませんが、筋肉を持たないスライムからすると少しだけパチッとするくらいで、比較的楽に対処する事が出来る相手でした。
そうして最終的に迎え撃つ事になっているニュルさんも【呪皮】を持っていて……目の前の獲物に集中しているパラライズビーがニュルさんの存在に気が付いた時には触手が絡みつき、自慢の電撃も大した効果を上げないまま無力化されてしまいます。
(お疲れ様です)
そうして動けなくなったパラライズビーに止めを刺して【晶析】化していくのですが、ここまで淡々としているとどうしてもサボっているような感覚に陥ってしまうのですよね。
(何かしらの方法で質を上げられたらいいのですが…まあ数は十分ですし、納品してから考えましょうか)
あまりフィッチさん達を待たせているのも何ですし、足りなければ集め直せばいいだけですからね、一度『イースト港』に戻って持っている分の魔素を納品しようと思ったのですが……そんな事を考えながら今まさに作り上げた魔素を拾い上げようとしたら、横からラディの手が伸びて来て……。
『そうね~…ユリエルの言う通り質が低いっていうのはあるのよね~』
(…そうですね)
そんな事を言いながら出来立てほやほやの魔素を口の中に放り込むラディなのですが、1つや2つくらいなら食べられても問題ないですし、変にお腹を空かして暴れられても困るので黙認しておきましょう。
『それで思ったのだけどー…ユリエルってエッチをする時に精気を吸えるのよね~?その時に固める事って出来ないのかしら~?』
(それは…どうなのでしょう?)
つまりイチャイチャした時に生み出される精気を結晶化させる事が出来ないかという事なのですが、そんな事が出来るのでしょうか?
(出来たら効率的ではあるのですが)
吸いきれなかった精気が溢れて無駄になる事が多いですし、そういう余剰エネルギーを魔素に変換する事が出来たら色々と助かるのですが、この方法には一つだけ大きな問題があって……。
『じゃあお試しという事で~…適当に人を襲ってみるー?』
(襲いません!)
ラディが口にしたのはその辺りに居るプレイヤーやNPCを無差別に襲おうという恐るべき提案だったのですが、そんな軽いノリでP Kに堕ちる訳にもいかないと思っていると……タイミング良く?グレースさんがログインして来てしまいました。
『あ、あああの…お、おはようございます!』
そうしてやる気の表れなのかクラン会話経由で元気よく挨拶をしてくるグレースさんなのですが……私の反応を見ながら何かに気付いたラディが『フフフ』と笑っていたりと、本当に碌でも無い事になりそうですね。
『おはようございます、グレースさんも準備ですか?』
だからと言って無視する訳にもいきませんからね、集合時間まではまだまだ時間が……というより、足りなければもう一度魔素を集め直そうと思っていたくらいの時間やお昼ご飯を挟むくらいの余裕がありますし、グレースさんも補充や色々な調整のために前もってログインして来たのでしょう。
『は、はい!いつも足を引っ張ってしまっているので、少しでも…と、思いまして!それで、ですが!い、今から会う事は出来ますか?』
本当にただ頑張りたいからという理由で繋いでいるグレースさんの良い所はこうして素直に頑張れるところなのですが、今日は少しだけタイミングが悪かったですね。
(断るべきなのかもしれませんが)
ニマニマと笑いながら擦り寄って来ているラディがよからぬ事を企んでいるような気がしますし、何かしらの理由をつけて断った方が良いのですが……会いたいと言っているグレースさんを拒否すると後々どうなるのかがわからなくて……。
『それは…構いませんが、今はどこに居ますか?』
折角グレースさんが勇気を出して会いたいと言ってくれた訳ですからね、なるようになれという気持ちで待ち合わせをする事となり……因みにフォローを入れてくれそうなまふかさんはブレイクヒーローズの配信ばかりする訳にもいかないのか繋いでおらず、今日はお昼ごろのログインになりそうですね。
『あ…い、いえ…め、めめめ滅相もない…わ、私の方から行きますので!』
用件は会ってから話しますという事ですし、私達は一旦『イースト港』付近の森の中で待ち合わせをする事となり……何か私の良くないところが出てしまったような気がするのですが、グレースさんがわざわざ会いに来るレベルの用事というのはいったいどういう内容なのでしょう?
※フィッチさんに頼まれたノルマは20個から30個なのですが、ユリエル的には多めに納品しようと思っているので゛最低”30個と言っています。
※少しだけ修正しました(10/4)。




