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43:その辺りに落ちているワールドクエスト

 ヒーラーさんの治療を受けた後、私はお二人に『鉄鉱石』を探している事を伝え、スコルさんの案内で採掘場内を歩いていました。


「変わってなければいいんだけどねー、ま、その辺りはおっさんも保証は出来ませんよっていう事で」

 スコルさんが言うには採掘できる場所はその都度変わってしまうとの事でしたが、ちゃんと固定湧きの場所もあるそうで、私達が向かっているのもそんな場所の一つだそうです。

 ちなみに固定湧きの採掘ポイントは掘り返してしまっても1日もあれば復活するとの事で、掘りすぎて枯渇してしまうという事はないそうです。その辺りはいかにもゲームっぽい仕様ですね。


「へーこっちには来た事は無かったが…こうなっていたんだな」


「フ、ヒヒ…」

 それにしても何故お二人までついてきているのでしょう?特に示し合わせた訳ではないのですが、まあ私達が移動し始めたからついでにといった感じで、あまり意味はないのかもしれません。十兵衛さんは見回りのついでに、ヒーラーさんは……本当に何故でしょう?様子を窺ってみても、顔を真っ赤にして目線すら合わせてくれないので本当によくわかりません。


 とにかく、スコルさんが案内してくれたのは、入り口から考えると奥の方にある、積み上げられた石の山や、採掘した跡が沢山残る場所ですね。この辺りは良い鉱石が採れる場所なんだそうです。

 他のプレイヤーの姿はなく、先ほどのボス戦で付近のピット達もリンクしてしまった後なのか、敵の姿もありません。どれくらいの間隔でリポップ(湧く)されるのかわかりませんが、とりあえず今は安全なようですね。


「この辺りですか?」


「そそ、さっそく掘りましょ」

 スコルさんが示した壁は、言われてみればというレベルですが、少し色が変わっているような気がしますね。ここが固定の採掘ポイントなのでしょう。試しに【看破】を使ってみるとかなり広い範囲が『鉄の鉱脈』と表示されますね。どこを掘れという指示はないのですが、その辺りは専用のスキルを使わないとわからないという事でしょう。β版と(スコルさんの知識と)仕様が変わっていない事を祈りつつ、指示に従い掘り返してみましょう。


「お、ここか?」


「そうみたいです」

 後は道具と、3人の視線をどうするかという問題ですが……私が辺りを見回していると、スコルさんは尻尾をブンブンと振って、ニヤケ顔で待機しています。絶妙に私が言った距離を守りつつ、ポンチョが捲れるのを心待ちにしているといった表情ですね。


「…えーっと、そうだな、俺が掘ろうか?」

 私が辺りを見回しているのを困っていると捉えたのか、服装(ポンチョの下は半裸)について気にしてくれたのか、それとも女性、犬、女性、190センチの筋肉質な男性というメンバー比率による圧を受けたのか、十兵衛さんがそう提案してきました。


「…お願いしていいですか?」

 厚意に甘える形になりますが、背に腹は代えられないのでお願いしましょう。スコルさんが思いっきり舌打ちをしていましたが、無視します。


「と言っても、道具がな……敵が湧いてくれたら、おっ、丁度いい」

 皆を守るためにピットを倒して回っていたと言っても、その都度ツルハシやスコップを拾って回っていたわけではないので、十兵衛さんもちょうどいい道具(採掘道具)は持っていません。何かないかと辺りを見回していると、タイミングよく近くでピットが湧いたようですね。鉄鉱石の取れる壁から少し離れた場所に黒い靄が溜まった1メートルくらいの窪みがあり、そこからゆっくりとピットが這い出てくるところでした。

 敵がリポップする瞬間を初めて見たのですが、こんな風に現れるのですね。現れたピットは何かを拾うような動作をしたかと思うと、その手にはツルハシが握られていました。


「ふんっ!!」

 カラカラとツルハシを引きずり始めたピットの上半身に、十兵衛さんの剣が叩きつけられます。斬撃耐性があるので、刃の方ではなく腹の方で叩いたようですね。辺りには骨を砕くような鈍い音が響き渡り、ピットの上半身が崩れます。確かにこれなら楽に倒せそうですが、剣の耐久度の減りは早そうですね。十兵衛さんもその辺りは心得ているのか、自分が振るった剣の様子を確かめてから、ツルハシを拾いました。


「…ここを掘ればいいんだよな?」


「お願いします」


「よし、任せろ」

 鉄鉱石の方は十兵衛さんに任せる事にして、私はピットが出て来た窪を見てみます。中にはまだ黒い靄が溜まったままなのですが、十兵衛さんはまるで見えていないかのように無視していますね。もしかして本当に見えていないのでしょうか?スコルさんも十兵衛さんの足元にじゃれつきに(邪魔しに)行っており、黒い靄を気にしている様子はありません。ただ、ヒーラーさんだけは黒い靄が見えているのか、窪みを見ながら不思議そうに首を傾げていますね。


「靄ですか?」


「ふひゃいぁっ!?ひゃ、にがです、か!?」

 確認しようとヒーラーさんに話しかけると、オーバーリアクションで驚かれました。耳を押さえてフーフーを呼吸を荒げながら後ずさりまでされました。えっと、そこまでオーバーなリアクションを取られると私も反応に困るのですが……。


「え、なになに、秘密のお話?おっさんも混ぜて混ぜてー」

 パタパタと尻尾を振ってやってくるスコルさんに肩をすくめながら、同じ事を聞いてみたのですが、どうやらスコルさんには見えていないようですね。


「うーん、おっさんには見えないけど、二人には何か見えちゃってるの?え、何、幽霊?」


「幽霊ぃっ!?」


「いえ、それはないと思いますが。何でしょう……」

 ヒーラーさんは大げさに驚いているのですが、それはいいとして、実際のところはどうなのでしょう?単純に見えている人見えていない人の属性を分けると、男か女か、スキル的に戦闘系か魔法系かでしょうか?流石に性別で攻略出来るかどうか変わるという事はないと思い……HCP社だと少し疑わしいですが、無いと信じるとすれば、魔法系統のスキルを取っているかが関係しているのかもしれませんね。【魔力視】あたりでしょうか?


 ジッと目を凝らして黒い靄を見ていると、何やらその窪みの壁面に薄く光る文字が書かれている事に気づきます。呪文か何かでしょうか?ヒーラーさんにはどう見えているのか尋ねたくて振り向いてみたのですが、思いっきり顔を背けられました。まあ、いいでしょう。とにかく、どうなっているのか調べようと手を伸ばすと、文字に触れるか触れないかと言う距離で、パキリと何かが壊れたような音がしました。

 すると窪みを覆っていた文字が消えていき、黒い靄もみるみるうちに萎むように無くなっていきました。その靄が完全に無くなった所でクエスト達成の効果音が鳴り、再度ワールドアナウンスが流れます。


『魔法陣が破壊され、フィルフェ鉱山に平和が訪れました。これにより魔物の分布が変化し、アイテムの流通や価格に変動がおきます。詳細はブレイカーズギルドの受付か、公式のヒストリーをご参照ください』

 どうやらこれでクエストクリアのようですね。そして『ヒストリーに出演しますか?<YES><NO>』という項目が出てきました。ヘルプを見る限りではワールドクエスト達成時の特典として、動画に出演するかどうかを選択出来るようですね。<YES>にすると私の姿がそのまま表示され、<NO>にすると名無しのブレイカーが達成したというような動画が作られるようです。

 アナウンスの内容的にピットの出現数は減るような感じですし、それによって不利益を被る人も出てきそうなので、安全を考えて<NO>にしておきましょう。


 よくよく考えてみると、ワールド全体に影響を及ぼすクエストがしれっと発生している事や、何の確認も取らずに達成出来てしまうのはクソゲー一歩手前のような気がしなくもないですが、HCP社のゲームバランスが崩れているのはいつもの事ですし、気にしたら負けなのでしょう。

 それにワールドアナウンスが何度も流れるというのも謎な仕様です。ロックゴーレム討伐も、ピット召喚の魔法陣も同じ場所(採掘場)にありましたし、アナウンスを纏めればいいと思うのですが、何か分けないといけない理由でもあったのでしょうか?色々な疑問が頭の中に浮かんできたのですが、とにかく私は、ワールドアナウンスに騒めく採掘場内を見回してから、こめかみに手を当てて息を吐き出しました。

※ユリエルはヒーラーさんと呼んでいますが、勿論これがキャラクター名ではありません。本人の性格的に名乗りませんでしたし、ユリエルも相手の反応を見てあえて聞きませんでした。なのであだ名みたいな感じで呼んでいると思ってくれていたら幸いです。


※誤字報告ありがとうございます(10/17)訂正しました。

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