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431:次の行動

『『チームN Y U(3人のイニシャル)』により『クリスタラヴァリー』に封印されていたビークリストゥが討伐されました。討伐者には3ポイントのSPが進呈され『ビークリストゥの討伐者』の称号が授与されます。またアスモダイオ(魔王)スの四神(よんしん)が倒された事でブレイカー勢力への危機感を持った魔王が動き出す可能性がありますので、皆様もその動向には細心の注意を払ってください』

 ビークリストゥの首を刎ねてホログラムになった後に討伐のアナウンスが流れたのですが、どうやら封印されている裏ボスか何かかと思っていたというのは正しかったようで、何かしらのイベントスイッチ(魔王が動き始める)が入ってしまったようですね。


(早まったのでしょうか?)

 レイブンさん(熊派)が暗躍していた事を考えるとこれが正規ルートなのかイレギュラーなのかがよくわかりませんが、もしかしたら何かしらのイベントを乗り越えたり封印を解いたりするイベントが挟まれていた可能性があって……。


(勝てたのも偶然の産物でしたし)

 ミューカストレントからエネルギーを補充出来る状態であった事や、レイブンさんというやや自分の願望に正直な方を取り込んでしまったために行動が単純化されていたのがプラスに働いた形ですし、本来の実力差(レベル差)なら到底倒せる相手ではなかったのだと思います。


(ただ…いえ、今はそんな事を考えている場合では無いですね)


『だな、片方は何とか倒せたが…もう片方がかなり不味い状況だぞ』

 今は何故ビークリストゥを倒せたのかという事を考えるよりここから生還する事を考えるのが先ですし、ラストアタックの為にエネルギーを蓄え続けているミューカストレントが不味い事になっているのですが……絡まりついている幼女スライムがエネルギーを吸い続けているので何とか爆発までの時間が伸びているといった状況で、今にも爆発寸前というように光り輝き枯れ木のような幹がパンパンに膨れ上がっているので早々に決断を下さないといけないのでしょう。


(出来たら討伐した方が良いのかもしれませんが……無理そうですね)

 エネルギーの塊となっているミューカストレントに近づくだけでも苦労しそうだというのに投げナイフは品切れですし、無理やり接近戦に持ち込もうにも【ルドラの火】の触媒にしていた『魔嘯剣』や『ベローズソード』も限界が近くて……これ以上酷使すると砕けてしまうと思います。


 なので【淫気】を固めたナイフを投げつけてみたのですが、エネルギーの奔流のようなバリアに弾かれてしまい……たぶんチャージが終わるまでに総攻撃をしかけるか早々に逃げ出すかの二択を迫られていたのだと思いますが、ビークリストゥとの戦闘を繰り広げていた私達には選択する時間が残っていませんでした。


(討伐が無理なら撤退するしかないのですが…いけますか?)

 そして撤退するなら撤退するで幼女スライムはどうするのかと確認(【意思疎通】)してみたのですが、返事がありません。


 ただミューカストレントに絡まりついている幼女スライムは拒否するようにプルプルと震えていて……何かしらの(考え)があるのかもしれませんし、本人の意志を優先して私達だけでも脱出する事にしましょう。


(とはいったものの…ですね)

 一か八かの脱出を試みるにしても結晶化している体を無理やりフォローしてもらっている状態ですし、最高速度が出せないので今から逃げ出せるのかが不明なのですが……どうしようかと悩んでいるタイミングでワールドアナウンスを聞いたナタリアさんとヨーコさんから連絡が入りました。


『ユリエルちゃん、今のアナウンス……じゃなくて、通路がよくわからない結晶で塞がれているんだけど…いったいどうなっているの!?』


『そうなのよ~…いきなり植物が引いて行ったかと思ったらアナウンスが入るしー…そっちは大丈夫~?』

 事情が良くわかっていない2人から矢継ぎ早の質問が飛んでくるのですが、今はその質問に答えている時間も惜しいですね。


『すみません、説明は後で…とにかく目の前にある結晶の壁を壊す事は出来ますか?』

 ナタリアさん達も中央付近まで来ているのなら一緒に逃げ出さないと不味いですし、まずは合流しようと通路を塞いでいる結晶の壁を何とかしようと思ったのですが……。


『わかった、やってみる…けど、ん…っしょ!』


「っと」

 準備時間を空けてガガッと『ペネストレイト(侵徹徹甲榴弾)』が貫通して来るのですが、そのまま数発打ち込んで結晶の壁を崩し……たぶん私の攻撃やレナギリーの魔眼でも時間をかければ崩す事が出来たのかもしれませんが、単純な物理貫通能力(結晶破壊)という点ではナタリアさんの方に軍配が上がるのかもしれません。


「助けに来たよ!って、どうしたのその姿!?と、とにかく、えー…これは…?」

 そんな感じでナタリアさん達と合流したのですが、毀棄都市最奥のドームの中では今まさに爆発しそうなミューカストレントが膨れ上がっていて……。


「ニゲタホウガ…ヨサソウダナ」

 あまり感情を見せないレナギリーは淡々と膨張しているミューカストレントを見ながらそんな事を呟くのですが、確かに今は感動の再開を味わっている場合ではないですね。


「そう、だけど~…どうしたものかしら~?」

 運動神経に自信がないヨーコさんだけは「逃げ切れるのかしら?」みたいに首を傾げていたのですが、このままミューカストレントのラストアタックに巻き込まれるのも癪ですからね、離れられるだけ離れてみる事にしましょう。


「そういう訳ですので、今はここを離脱する事を最優先にしましょう」


「わかった…けど、後でちゃんと説明してもらうからね!」


「シカタガ、ナイ」

 そうして逃げ出す事にした私達なのですが、どう考えても時間が足りなくて……レナギリーが生き残っている蜘蛛達に指示を出します。


「え、ちょっと、これ!?」

 そうしてシュルシュルと糸に括られた私達は最も速度の出るダークスパイダーに抱えられる事になったのですが、脱出優先の為に乗り心地などは考慮されていませんでした。


(これ…は!?)

 なので咄嗟に牡丹達を【招集】しておいたのですが、私達はダークスパイダー達のお腹に抱えられるように全速力で毀棄都市から脱出する事となり……そんな運ばれ方なので地面に対して水平になっていますし、体高(1.2m)の問題で地表スレスレを仰向けのまま超高速で移動するというなかなかスリリングな体験をする事となり……。


「ひっ、ぁ…ああああ!!?」

 ヨーコさん達が悲鳴を上げているのを聞きながら最奥のドーム(ダンジョン)から脱出するのですが、何とか中堀に架けた糸の橋を渡り終えようとしているタイミングで、とうとうミューカストレントが大爆発してしまいます。


「待って待って、揺れっ!?巻き込まれて…!?」

 背後から迫るエネルギーの奔流に毀棄都市に生息しているモンスター達や家屋達が消えていき……膨大な光の奔流が音すらも飲み込み地面を捲り上げながら破壊していくのですが、辺りが真っ黒な光に包まれたかと思うと肌がチリチリと焼けていきました。


『『チームNYU』により『毀棄都市ペルギィ』に巣くっていたミューカストレントが討伐されました。これにより『毀棄都市ペルギィ』周辺の勢力図が塗り替えられましたので、ブレイカーの皆様は周辺の調査をお願い致します。また初討伐者にはSP3ポイントが進呈され、『ミューカストレントの討伐者』の称号が授与されました。ミューカストレントについての情報は最寄りのブレイカーズギルドにてご確認ください』

 あまりにも強い光と爆発音に耳鳴りがするのですが、黒い光が収まり視力が回復したころには何とか毀棄都市を脱出する事が出来ていて……。


「ー、ーー…ーーー…ー、生きーる?ヨーコ?ユリエルちゃん?」


「はい…何とか」


「だ…い、じょうぶよ~…っていいたいけど、ごめん…ちょっと、無理ぃ」

 とにかく何とか毀棄都市から離れた私達は運んでくれていたダークスパイダーからヨロヨロと降り立つのですが、私達の無事を確認するとレナギリー達は「ヨウスヲミテクル」と半壊してしまった毀棄都市の様子を見に行ってしまい……私達はその偵察が終わるまでその場で休憩を取る事になりました。


(本当に…大変でした)

 気がついたら牡丹達のレベルが幾つか上がっていますし、私のレベルに至っては5レベルも上がっていて……これはレイド(集団戦)クラスのボスを単独撃破した影響なのかもしれませんし、色々と調整し直さないといけないのですが……今は2人に事情を説明しないといけないですね。


「すみません、何か独断専行をしてしまう形になりまして」

 皆が追いついて来るまで粘るつもりだったのですが、不意打ちを許してからの混戦でそれどころでは無くなってしまいました。


「それは…私やヨーコが追いつけなかったからだし……それより中央では何があったの?」

 そうしてひと段落してから2人に何があったのかを(エッチな事を除いて)説明しておくのですが、話を聞き終えた2人は何とも言えない顔をしていて……2人ともそこそこゲームをやり込んでいますからね、毀棄都市のボスであるミューカストレントに挑んでみたかったのかもしれません。


「そう、ねー…お手柄である事は変わりはないんだけど~…」

 最終決戦に間に合わなかった2人からするといつの間にか終わっていたという感じですし……ヨーコさんはやや不完全燃焼といった感じなのですが、ナタリアさんは少しの間こめかみをグリグリと押す様な仕草をした後に、ポンと手を叩きました。


「まっ、切り替えていきましょう…ねっ?」

 私達の最終目的は『クリスタラヴァリー』にある『精霊の幼樹』を守ってレナギリー達を移住させる事ですからね、ナタリアさんは「何だか知らんがとにかくよし!」と屈託なく笑うと、その笑顔につられたようにヨーコさんも「仕方がないわね~」と表情を緩めます。


「本当にすみま…」

 そんな2人にもう一度謝罪をしておくのですが、ナタリアさんはパタパタと手を振り私の言葉を遮りました。


「ビークリストゥとは嫌っていうほど戦ったし、ユリエルちゃんのおかげでSPも沢山貰えたし、ミューカストレントと戦いたかったらリポップした時に来たらいいし…今度は置いて行かれないように私達も頑張るからって事で…この話はここでお終い!ね、それよりこれからの事なんだけど…今から熊派をぶちのめしに行くのよね?」


「そう、ねー……まふまふ達が何とかしてくれているみたいだけど~…どうなのかしら~?」

 そうしてナタリアさんが話題を変えてくれたのですが、『精霊の幼樹』を巡る戦いは続いていますからね、レナギリー達を移住させるためにも『クリスタラヴァリー』に攻め込んでいる熊派を撃退しなければいけません。


「熊派の動向まではわかりませんが、ワールドアナウンスを聞いて自軍が不利だという事は理解していると思いますので今攻め込めば引いてくれるかと」

 なので私も気持ちを切り替えて発言をするのですが、プレイヤーとレナギリーによる二正面作戦に耐えられるような戦力が送り込まれている様子はないですし、『精霊の幼樹』の弱体化があれば熊派を追い返す事も可能だと思います。


「それじゃあ…それで!ここを放置していく(探索しない)のは残念だけど、レナギリー達が戻って来たらまふまふ達の手伝いに行くっていう事で…いい?」

 毀棄都市の霧が晴れた影響でモンスターの数が激減しており、このままプレイヤーの勢力に組み込む事も出来るのかもしれませんが……いくら何でも私達だけでは確保した土地を維持する事が出来ませんからね、制圧は他のプレイヤー達が追いついて来るのを待つ必要があるのかもしれません。


「ナタリーが良いのならそれで良いわよ~」


「はい、私もそれで」

 とにかくこれからの行動を決めたのですが、懸念点としてはファントムジェリーの動向が謎のままで……一応幼女スライムはあの爆発の中でも生き延びているようなのですが、今のところ戻って来る気は無い(拒否感が伝わって来る)ようですし、いざとなったら【招集】すればいいだけなので放置して出発する事にしましょう。


(色々と気になる事はありますが…もうひと頑張りですね)

 後はヨーコ印のポーション(ミックスポーション)を飲んで体を休めておき、それからレナギリー達と移住に関する話を詰めて……私達はまふかさん達の援護に向かう事になりました。

※毀棄都市奪還成功、これで第二エリアの東半分がプレイヤーの勢力圏に組み込まれた事になります。因みにPT名の命名はナタリアさんがおこなっており、PTLもナタリアさんです。あとミューカストレントもPTの戦績になっているのはナタリアさんとヨーコさんも根っことの戦闘があったからで、もとはと言えば複数のPTが戦う事を想定しているのでその辺りの判定が緩くなっています。


※ミューカストレントの爆発までの時間がかなり長いのですが、これは幼女スライムが頑張っていたというのもありますし、プレイヤーの大半が徒歩である事を考慮した比較的余裕のある脱出時間が設定されていました。

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