428:ビークリストゥの執念
ビークリストゥにはしてやられてしまったのですが、お互いの攻撃がぶつかり合って爆発した瞬間に私達は動き出しました。
(こんな場所でまともに戦っていられませんし…貴方の相手をしている場合では無いのですよね!)
ビークリストゥが待機をしていた時間を考えるとミューカストレントを捕食する事も出来たのかもしれませんし、敵の抵抗が薄かったのもビークリストゥが調整していた結果なのかもしれませんが、その近視眼的な思考に付け込むようにミューカストレントを先にやらせてもらう事にしましょう。
(先手必勝…です!)
すぐさま周囲に視線を走らせて……状況としてはビークリストゥとミューカストレントという2大ボスが居る直径200メートルのドーム状の空間で、野球グラウンドより一回りか二回り程度大きい場所の中央にミューカストレントが鎮座している形ですね。
何もなければこの黒く枯れた大木を皆で囲んで戦う事になるのだと思いますが、ビークリストゥがいるせいで色々とややこしい事になっていました。
とにかくこんな所ではビークリストゥの棘ミサイルを回避し続ける事が出来ませんし、『魔嘯剣』での短期決戦を仕掛けるつもりで爆発の煙に紛れてミューカストレントに向かって走り出すのですが……流石に核が壊されてしまったら終わりだという事はビークリストゥも理解しているようですね、爆煙を突き破りながら飛んできた棘ミサイルが進行方向を塞ぐように突き刺さります。
そうしてうねるように地面で弾んだ棘ミサイルが方向を変えて私の身体を貫こうとしてくるのですが……私達が戦闘を始めた事に触発されたのでしょう、辺りに充満していたエネルギーを吸い上げたミューカストレントがおどろおどろしい雄叫びを上げながらドロリとした黒い靄を辺り一面に吐き出しました。
(こんな時に…!?)
空気より重いドロリとした黒い靄が絡まりついて来るのですが、【魔水晶】と『魔嘯剣』の力で強引に無効化しながら飛来して来ている棘ミサイルを何とか横っ飛びで回避していると、靄の中からは狂化ゴーストがワラワラと現れて……本当に色々と大変な事になってきましたね。
「OoooOOOOOOxxxx!!!」
しかも狂化ゴーストもデファルセントの力を受けているのか禍々しいオーラを放っていて、引き連れている数百ものゴースト達が怨念のこもった呻き声を上げながら津波のように襲って来て……パチパチとした黒い茨のような火花が散って消滅していきました。
「OOOOOoooooxxx…」
何とか踏みとどまった狂化ゴースト達は無念そうに空を掻くのですが、どうやら『精霊の幼樹』の影響でミューカストレントから離れる事が出来ないようで……なので距離を取れば安全ではあったのですが、そう簡単な問題でも無いようですね。
『飛べ!蔦が来るぞ!!』
「ッ!?」
強引に溢れ出して来た狂化ゴースト達をあしらいながら思考を巡らせていると、地面や壁を覆っていた巨大な根っこが死角から伸びて来たかと思うと横薙ぎに振るわれて……私達は咄嗟に回避をしたのですが、戦闘に慣れていない幼女スライムが追随しそびれてしまいました。
「…!?」
そうして息を漏らすような音と鈍い衝撃音を残して幼女スライムが弾かれて行き……そのまま地面に叩きつけられてバウンドした幼女スライムが黒い靄の中に沈んでいくのですが、今はその行方を確認している余裕がありません。
(レナギリー達が到着するまでの時間を稼げばいいのですが!?)
にじり寄って来るゴースト達の相手は牡丹に任せて振り回される根っこを『アイシクルコフィン』で凍り付かせて『魔嘯剣』で斬り払うのですが、このままミューカストレントとビークリストゥを同時に相手をする訳にもいかないと立ち位置を調整しようとしたのですが……ビークリストゥはどうしても私達を逃がしたくないようですね、退路を断つように回り込んで来たかと思うと……。
「ギッ、ギッ」
どこか笑っているようなビークリストゥが私達が入って来た通路と自分が潜り抜けて来た大穴に棘ミサイルを打ち込み崩壊させてしまい、そのまま瓦礫を結晶化させて通路を塞いでしまいます。
(流石にフルパワーという訳ではないようですが…ここで決着をつけるつもりのようですね)
弱体化が入っている影響なのでしょう、巨大な結晶を作り出して塞ぐという事は無かったのですが、ズタズタになった結晶によって退路が断たれたという事には変わりがありませんでした。
『ここまで気に入られていたら女冥利につきるかもしれんが…いささかしつこすぎるな』
そして何とも言えない評価を下す淫さんなのですが、『クリスタラヴァリー』で戦った時を基準にすると棘ミサイルの射程距離は100メートル前後、ここから何処まで射程距離が短くなっているかにかかっているのですが……ミューカストレントが中央に鎮座している事を考えるとほぼ全域が射程範囲と考えた方が良いのかもしれません。
(一応天井には穴が開いてはいますが…)
ビークリストゥからしたらミューカストレントを捕食すれば勝ち確ではあるのですが、核を壊せば逆転できるかもしれないという可能性を残す事によって私達の足止めをしたいようですし……そんな執着心を見せているビークリストゥの前で逃亡しようと思っても叩き落とされるかミューカストレントが人質に取られるだけです。
なのでビークリストゥを見据えたまま投げナイフに【ルドラの火】を込め、ノールックのままミューカストレントにナイフを投擲したのですが……ビークリストゥの棘ミサイルで迎撃されてしまいました。
(こうなったら……仕方がありません)
ビークリストゥは何が何でも私達との決着をつけたがっているようで……『アイシクルコフィン』の刀身を凍らせた氷の棒であれば結晶化される前に受け流す事が出来るようですし、レナギリー達が追いついて来るまでの時間稼ぎに徹するしかないと棘ミサイルをいなせるだけいなしていく事にしましょう。
そうして私達とビークリストゥの攻防が始まり、定期的に結晶化した氷をパージしながら棘ミサイルの乱打を防いでいくのですが、そういう無茶な使い方をしていると耐久度がガリガリと減っていき……。
「はっ、はー…」
【魔水晶】はMPの関係で使えませんし、というより黒い靄やビークリストゥのプレッシャーに対抗してもらっているので下手に解除する事が出来ません。
(これは…絵に描いたようなジリ貧ですね)
出来たら吹き飛ばされていった幼女スライムも回収して距離をとりたいところなのですが、【意思疎通】での声掛けにも応答が無くて何をしているのかがわかりません。まあステータス画面を見る限りでは死亡していないようですし、大丈夫だという事はわかっているのですが……。
「ギ、ギ、ギ」
そうして何十発もの棘ミサイルを受け流していると結晶の欠片が辺りに舞い始めて、ビークリストゥが奇妙な音をたてるように笑いました。
(何を…?)
それからブンッ!と羽音を立てたかと思うと周囲に広がっていた結晶の欠片がキラキラと輝き……それ自体に攻撃力はなかったのですが、ビークリストゥの魔力に反応した結晶がジャリジャリと吹き付けて来たかと思うと欠片が当たった場所がパキパキと固まっていってしまいます。
「くっ…」
結晶が舞っているような至近距離でしか有効ではない攻撃なのですが、距離を取ろうにも閉鎖空間では逃げ場がありません。
『どこまで抵抗できるかわからんが…少し魔力を借りるぞ!』
しかも吸う空気すら結晶化していき……喉の奥や肺が痛むようにチリチリしていくのですが、このままでは体の内側と外側から結晶漬けにされてしまうというところで、淫さんが耐性の値を上げてくれました。
(ありがと…けほ、ございます…ただ、このままだと埒が明かないですね)
多少楽になっただけで結晶化が進行していますし、MPがジワジワと減っていき……牡丹とニュルさんも結晶化が始まり身動きが取れなくなってしまいます。
「ぷ、ぷぅ~…」
しかも牡丹とニュルさんは私より体積が小さいので進行が早く、結晶化していく牡丹が苦しそうな表情を浮かべながらHPがジリジリと減っていき……このまま2人を出しているのは危険かもしれません。
(この、ままでは…)
私は【淫気】と『アイシクルコフィン』の氷を使って簡易な防壁を作り上げて結晶化に対抗しようとするのですが、単純な魔力のぶつかり合いだと結晶化の浸食の方が早くて……不幸中の幸いはミューカストレントが行動制限の影響で積極的な行動をとってこない事なのですが、私達が結晶化し始めて膝をついてしまった隙を逃すほどビークリストゥは甘くないですからね、まともに身動きが取れないところに至近距離からの全方位棘ミサイルが飛んで来ました。
「ぷっ…ぃいい!?」
乱打するようにして氷の防壁を突き破って来た棘ミサイルから身を挺して守ろうと牡丹達が前に出ようとしたのですが、半結晶状態ではまともに動く事が出来ず、このまま2人を無駄死にさせる訳にはいきません。
なのでニュルさんと共に【招集】で強制的に退避させると『アイシクルコフィン』を構えるのですが、一つ目の棘ミサイルを受け流したところでガキンッ!と嫌な音をたてて刀身が中程から折れてしまいました。
(本当に…ちゃんと整備をしておいてください!)
元から耐久度が怪しかったのですが、半分に折れてしまった刀身を氷で補いながら2発目と3発目を弾き、4発目をスカート翼をアンカーのように地面に突き刺し緊急回避をするのですが、結晶化を始めた体がキシキシと痛んで……。
(淫さん…すみません)
淫さんまで解除したら耐性がなくなり反撃もなにもあったものではありませんからね、最後までついて来てもらったのですが……どうやらここまでのようですね。
『気にするな、あいつらより死に辛いからな…そういう役回りなだけだ』
足を払うように飛んできた5発目の棘ミサイルをジャンプで躱し、【魔翼】で態勢を整えながら体を捻って6発目と7発目を回避し、そのまま8発目を『アイシクルコフィン』で弾いた衝撃を利用して9発目も回避して……10発目から13発までを【魔水晶】で相殺し、その空間的余裕に体をねじり込ませて14発目を回避したところを狙い打たれてしまったようですね、回避しそびれた15発目が『アイシクルコフィ』を持つ左手を撃ち抜き、16発目が右足を、17発目が左わき腹を突き刺しました。
※誤字報告ありがとうございます(3/28)訂正しました。




