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424:臨機応変な追撃戦

「OooOOOOOOOxxx!!」

 『クヴェルクル山脈』から淡い光が広がるとビークリストゥ達に弱体化が入り……その力に対抗するようにミューカストレントが吠えた瞬間、黒い茨のようなパチパチした火花が辺りに散らばり地面を割りました。


 まるで『蜘蛛糸の森』にあった『歪黒樹の棘』が発していたような現象を大規模にしたような感じなのですが、ミューカストレントが……というよりこれは第二エリアのボスであるデファルセントの力なのでしょうか?何かしらの禍々しい力がミューカストレントに流れ込んでいるようで、黒くパチパチとした茨が広がると弱体化の光が微かに陰ったような気がして……。


『ユリエルちゃん!ビークリストゥが逃げるよ!』

 そんな現象に気を取られていたのですが、ナタリアさんの(P T会話)に視線を戻すとビークリストゥがフラフラと飛び上がるところで……弱体化が入ってその体を維持する事ができなくなったのか覆っていた結晶が剥がれ落ちており、辺りにキラキラとした欠片を撒き散らしていました。


「ギ、ギ…」

 ズズーンと大きめの欠片がいくつか落ちた後は素の状態のビークリストゥが姿を現して、すかさずナタリアさんが攻撃を開始したのですが……流石に単発の射撃を許すほどの弱体化は入っていないようですね、撃ち込んだ『ペネストレイト(侵徹徹甲榴弾)』を棘ミサイルで弾いてしまいました。


 ただ弾いた衝撃で少しフラついており、プライドを無理やり押し込めるように忌々し気な様子で私達の顔を見下ろしていたのですが、これ以上戦う意思がないのかフラフラとミューカストレントの……この場で最も魔力を内包している獲物が居る方向に飛び去って行きます。


(させません!…と、言いたいのですが!?)

 ビークリストゥが何を狙っているのかは自明の理(捕食するつもり)なのですが、ミューカストレントが抵抗しているのか毀棄都市の最奥からは新たなゴースト達が滲み出てきていますし、温存していたミューカスカタピラーが解き放たれていて……そんな状態で勝手に抜け出しても(追いかけても)良いのかと思い悩んだのですが、蜘蛛達をまとめ上げていたレナギリーがこちらに視線を向けながら軽く頷きました。


「コチラハ…マカセテ」

 ダークスパイダーなどの機動力重視の蜘蛛達を除けば最も移動速度が速いのが私という事になりますからね、追撃を仕掛けるのなら私が適任だとナタリアさんとヨーコさんも頷いて……。


『私達もすぐに追いつくから…足止めをお願いね!』


『そう、ねー…吸収されたら大変だし、こっちは私とナタリーでなんとかするわー』

 蜘蛛達も傷ついたレナギリー(女王蜘蛛)の防衛に残るようですし、唯一ビークリストゥを追いかける事が出来る私は……ナタリアさんとヨーコさん、そしてレナギリーが戦闘準備を開始するのを見ながら頷きました。


『わかりました、ここはお願いします!後、せめてこれを…!』

 この時点で持ち込んだアイテムの大半を消費していますし、集団戦にも使える『アイシクルコフィン(氷の魔剣)』を置いて行こうと思ったのですが……ヨーコさんにはおもいっきり手のひらをブンブンと振られてしまいます。


『き、気持ちは嬉しいんだけど…私もナタリーも片手剣は使えないから~…こっちには彼女(レナギリー)が居るから大丈夫よ~』

 との事で、なんでもヨーコさんは軽作業用の【短剣】スキルしか取得していないようで……それはナタリア(弓兵)さんも似たようなものですからね、まともに使えない2人が持っているよりビークリストゥとの決戦が控えている私が持っておくべきだと突き返されてしまい……『アイシクルコフィン(レイブンさんの魔剣)』は私が使用する事になりました。


『わかりました、では道中出来るだけ削っていきますので』

 残していく皆が心配ではあるのですが、『精霊の幼樹』に抵抗するので精一杯なのかミューカストレントの攻撃が止みましたし、レナギリーが居れば押し負ける事もないでしょう。


 それにゴチャゴチャと時間を無駄にする訳にもいきませんからね、私は別行動をとっていたニュルさんと合流し、頭の上に乗っている牡丹の位置を確認してから飛び去ったビークリストゥの追撃を開始しました。


『自信満々なのは良いが…弱体化していると言ってもなかなかの大物だぞ?』

 すると『大丈夫なのか?』と淫さんが聞いて来たのですが……。


(レナギリーが追いついて来るまでの時間を稼げばいいだけですからね、それに…私達がビークリストゥを阻まないで誰が阻むというのですか?)


(ぷっ!)

 何の根拠もない(自信満々な)私の言葉に淫さんが呆れたように息を吐き、『ベローズソード』を咥えている牡丹がふんすと鼻息荒く頷くのですが……とにかくビークリストゥを追いかけ始めた私達は襲ってくるゴースト達を蹴散らし、地上を蠢いているミューカスカタピラーを出来るだけ削り(攻撃し)ながら飛び越えて行くと……まふかさん達(幼樹を植えていた)の方もひと段落したのでしょう、状況確認の通信が入ります。


『ねえ、こっちは上手くいっているけど…そっちはどう?まさかやられたって事はないわよね?』

 どうやら霧が晴れた事で長距離通話も出来るようになったようで……前回の混線の反省を生かしてまふかさんが代表して連絡を入れて来たのですが、とにかくこちらの様子を伝えながら情報のすり合わせをしておきました。


 それによるとまふかさん達は敵に見つからないようにスニーキングミッションをしていたようで、ビークリストゥがいなくなった(飛び立った)事によって引き返して来たモンスターから身を潜めたりスコルさんが上手く誘導して戦闘を避けていたのですが、途中で追従の遅れたグレースさんが見つかってしまったのだそうです。


『頑張っているのは認めるけど、いちいちオーバーリアクションなのよね…あの金髪』

 との事で、言葉とは裏腹にそれほど怒っていないまふかさんが言うには途中からは襲い掛かって来るモンスターと戦う事になったのですが、何とか最奥にある『音晶石』の鉱床に到着して『精霊樹の枝』を突き刺す事ができたようですね。


 すると周囲にある『音晶石』が激しく反応して……これはまふかさんに話を聞いただけなのでよくわからないのですが、『蜘蛛糸の森』より『音晶石』が多かった影響なのか連鎖するように唱和した力が辺りを埋め尽くし……巨大な木が生えて来たかと思うと周囲に『リュミエーギィニー(退魔の針葉樹)』が生え始め、群がって来ていたモンスター達を一掃してしまったのだそうです。


『それは…それだけ目立つ事をすれば熊派(キリアちゃん)も動くと思いますが、大丈夫なのですか?』

 デファルセント寄り(レナギリー達は除外)のモンスターには弱体化が入っているのですが、熊派(P Kプレイヤー)まで弱体化しているとは思えませんし……こうしてのんびりと会話をしている余裕があるのでしょうか?


『ん?ああ…そうか、あんたはあたしの配信を見ていなかったのよね、大丈夫よ……っていっても細かな説明をしている時間もないし、アーカイブを残しておくからちゃんと後で目を通しておくのね』

 そう言いながらもまふかさんの配信チャンネルのアドレスが送られてきたのですが、なんでも『精霊樹の枝』を植える所をライブ配信していて……勿論エッチな事が起きても良いように時間をズラして(5分遅らせて)配信していたのですが、それを見ていた人達から情報が拡散されて熊派の迎撃に動いてくれたようですね。


 なので現在『クリスタラヴァリー』の麓では『隠者の塔(熊派の拠点)』からやって来た熊派と『リヴェルフォート(プレイヤーの拠点)』からやって来たプレイヤーとの小競り合いが起きているようで……。


『あたし達もこれからちょっと蹴散らして来るから…あんたもしっかりやんなさいよ』


『わかりました、こちらは何とかしますので…幼樹の事をよろしくお願いします』

 そうして簡単な情報交換の後に通信を終了し、私は呻き声を上げながら掴みかかろうとしてくるゴースト達を【淫気】で斬り裂き先を急ぎます。


『終わったか?』


(はい、向こうは順調に進んでいるようですが…こちらは簡単には終わらないようですね)

 会話を終えたタイミングで淫さんが声をかけてきたのですが、改めてビークリストゥの位置を確認すると追撃して来ている私達を警戒しているのか高々度からの侵入を試みようとしているようで……いくらスカート翼と【魔翼】があるといっても同じ高さまで登ろうとしたらそれなりに魔力を消費しますし、蜂型のモンスター(ビークリストゥ)に空中戦を挑むのは色々とリスクがありますね。


(だからといって、今更危険を冒して降りて来るとも思えませんし)

 足場にしている家屋の上に居てもミューカスカタピラーが押し寄せて来ていますし、ミューカストレントがじわりじわりと押し返すように広げている霧の中からはゴースト達が湧き出し続けており、このまま降りて来るのを待っていたら消耗していくだけで……。


(どう…しましょう?)

 だからと言って空中戦を仕掛ける訳にもいかないのですが、ビークリストゥがミューカストレントを捕食する為にはある程度の高度まで降りてこないといけなくて……こうなったらもう、ミューカストレントの近くでビークリストゥが降りて来るのを待ち構えておくべきなのかもしれません。


(問題があるとすれば…)

 『クリスタラヴァリー』のモンスターは『精霊の幼樹』の力で退けられたのですが、毀棄都市とは距離があるからなのかまだまだモンスターが残っている事で……市街地を抜けた先の中堀には大量のジェリーローパー達やアシッドジェリー達が蠢いている事でした。


 それにここまで近づくと強大な魔力がミューカストレントに流れ込んでいるのがハッキリとわかりますし、ミューカストレントの根っこに絡みついている『歪黒樹(わいこくじゅ)の棘』もパチパチと黒い火花を散らしていて……。


(この力がビークリストゥに食べられたら大変な事になってしまいますね)

 あまり無理をする場面ではないのかもしれませんが、折角ナタリアさんやヨーコさんに送り出されたというのに一太刀も浴びせないままミューカストレントが捕食されてしまったら大変な事になってしまい……もういっその事、『精霊の幼樹』に抵抗しているミューカストレントの方を攻撃してみましょうか?


(今はまともに動けないようですし、デファルセントからの流れを断つ事が出来たら…)

 そうしたら弱体化を押さえている力もなくなりビークリストゥの弱体化が進みますし、ナタリアさんとヨーコさんに襲い掛かっているモンスターが消えて無くなる可能性があります。そうなればレナギリーが追いついて来る時間も短縮されて……勿論いくら力の大部分を『精霊の幼樹』の為に使っているといっても相手はミューカストレント(毀棄都市のボス)ですからね、上手くいかない可能性もあるのですが……倒せなかったら倒せなかったらで降りて来たビークリストゥを迎撃すればいいだけです。


(タイミングが難しいですが、作戦変更ですね…このままミューカストレントに攻撃を仕掛けましょう!)

 食べるものが無くなればビークリストゥがどこかに飛び立ってしまう可能性があるのですが、すでに逃げられているようなものですからね、その辺りはミューカストレントの魔力を餌に誘き寄せる事にして……そう判断を下すと淫さんが「やれやれ」というように息を吐いたのですが、いつまでも降りてこないビークリストゥを待ち続ける訳にもいきませんからね、臨機応変に作戦を変更していく事にしましょう。

※ユリエルが受注していた『精霊の幼樹(クエスト)』がクリア扱いになっているのですが、確認している時間が無かったので端折られました。のちのち落ち着いてから気づく事になるのですが、その時改めて表記するのも蛇足かと思い欄外で伝えておく事にしました。

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